僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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目を付けられる黒龍

職場体験初日、ギャングオルカの事務所へとやってきたリュウガは早速師から厳しい言葉を受けながらもそれを飲みこんで前へと進んでいく覚悟を決めて一時的ではあるが事務所の仲間入りを果たした。周囲のサイドキック達が本当に大丈夫なのかという不安を胸にしつつも、ギャングオルカの指示でリュウガの実力を把握する為に軽い模擬戦を行っておけという指示を受けていたので地下に設置されているトレーニングルームにて一戦を行う事になった。

 

「だぁぁっっっ!!」

「ぐっ想像以上に手強い……!!」

 

リュウガの相手を申し出たのはギャングオルカのサイドキックとしてはまだまだ若いと称されるサイドキック3年目を迎えるヒーロー、パワーコング。ギャングオルカやリュウガと同じく異形系の個性のゴリラを持つヒーローでゴリラのパワーや握力をフル活用したダイナミック且つパワフルな戦い方が光るヒーロー。だが

 

「ドラゴン・ストライクゥ!!!」

「がっぐああああ!!!!」

 

一回り巨大となった右腕の龍頭、それを焼印を押すかのような勢いで叩きつけられる。胸に歪んだ龍の頭部のような模様が一瞬だけ浮き出るとパワーコングは吹き飛ばされ壁へと叩きつけられた、余りの勢い故か壁に罅を入れながら凹ませており軽くクレーターのようになっている。

 

「ま、まだまだっ……っ!?」

「いえ、これで終わりですよ」

 

フラフラになる身体を必死に起こしながらもファイティングポーズを取ろうとしたパワーコングだが、自分の目の前へと突きつけられたドラグセイバーを見て息を詰まらせながら硬直してしまった。サイドキックとしての経験はまだまだだろうが、プロヒーローの一人として、ギャングオルカのサイドキックとして精一杯務めてきて成果もあげている筈の自分をあっさり超える程の強さを誇るリュウガに驚きしか沸かなかった。

 

「シャチョーの弟子って事は知ってたけど……まさかここまでとは、ここまで個性を鍛え上げてるなんて……凄いよ本当に」

「苦労しましたから、ええっ苦労しましたから……」

 

と一瞬で瞳が死んだように赤く輝いていた筈の瞳が沈んでいってしまった。色が落ち着いているという訳ではなく、本当に色が死んでいる。一体どんな苦労を重ねていたのだろうか、それを聞いてみたかったのだがこの瞳を見てしまったら聞いてはいけない事なのだと頭ではなく、心と魂で理解出来たのでパワーコングは追及をやめた。

 

最初こそパワーコングは龍牙の事をよくは思わなかった。幾ら弟子とはいえ自分達サイドキックと同じ立場―――までとはいかないにしてもほぼ同等に近い立場に立たせるのは流石に納得しかねたが、この実力を考えればある意味当然ともいえる。

 

「パワーコング、如何だい龍牙君の実力は」

「……ぶっちゃけ近接戦には絶対の自信があったのに、自信無くしそう」

「うわぁっ……」

 

素直に引いた。パワーコングの持ち味と言えばゴリラのパワーを生かした近接戦、相手を正面から捻じ伏せていく。それを上回るだけの力を龍牙は備えている、伊達に弟子をやってはいないという事だろう。

 

「ハッキリ言って、彼の訓練って相当過酷だったと思う。多分一日中、シャチョーと一騎打ちしてたとかだ。じゃなきゃあれだけの力は出せないし、明らかに経験が物をいう瞬間だってあった」

「格上相手に戦い続けてたって事か……それなのに彼全く慢心しない、どころか自慢の一つもあげないよね」

 

それには周囲の同僚も頷いていた。リュウガは酷く謙虚、というか自分に対する自信が全くないような節がある。誇るべき技術や恐ろしいまでの反応速度、経験でしか培えない直感的な動きまであるのにそれらを一切誇らずにストイックすぎるレベルで自分と向き合い続けている。それだけ自分に厳しいとパワーコングも思っていた、先程の瞳を見るまでは。コングは顔を青くしながら、リュウガに同情するように言う。

 

「ありゃ確実にシャチョーに自信という自信をぶっ壊されてるな……多分調子に乗る数歩前で完全に殴り付けられて泥舐めさせられてるな」

『うわぁっ……』

 

思わず、続けてサンドバックに向かいながらパンチを放っているリュウガへと向けられる視線が全て一色に染まった。少なからず新人のヒーローが陥る危機や関門と言えば増長などによる実力の見極めの失敗、自分の身丈に合ってない現場に赴いて大怪我をするなどが圧倒的に多い。だがリュウガにはそんな影すら見えない。コングの予想通りに龍牙は調子に乗る前にギャングオルカによって自信を完全に圧し折られ、現実を強制的に見せられている。

 

「それって、つまりあれだよな……お前のパンチングブラストでヴィランをやっつけるぞ!!って思った矢先にシャチョーがそれを完全に受け切った上に真正面からパンチ一撃でお前をぶっ飛ばす的な」

「なんでそこで俺を出すかなぁ!!?実際そんな例えで正解だと思うけどさぁ!!!」

 

実際そんな経験がマジであるコングにとっては辛い言葉であった。そして、同時にリュウガに向けて過去への自分へと向けるような瞳を向けながらある事を決意する。

 

「決めたわ。俺、彼が此処にいる間出来るだけフォローに入るわ。多分それが一番だろうし」

「ああっそれが一番だろうな、幾らシャチョーの決定だからって俺達には適応されてる訳じゃないし。俺達も普段の互いのフォローアップに彼を重点的に組み込む形で行こう」

 

そんな風に気付けばサイドキックメンバー内でリュウガのフォローを全力で行おうという流れになりつつあったのであった。幾ら強いと言ってもまだまだ高校生なのだから、大人である自分達が守ってあげなければいけないんだから……そんな風に誓い位あった時であった、翼を持ったサイドキックの一人がトレーニングルームへと飛び込んできた。

 

「たたたたたっ大変だぁ!!?」

「何だ凶悪事件の発生か!?」

「ある意味正解!!あの人が、あの人が戻ってきた!!?」

 

それを聞いた途端、サイドキック全員の血の気が引いた。顔にはマジで?と書いてあった。流石にリュウガも場の空気が可笑しくなっているのに気付いたのか尋ねようとするのだが、その瞬間にトレーニングルーム入り口の扉が吹き飛んで一つの影が入室してきた。

 

「此処か……オルカの弟子が居るってのは……!!」

 

そこに居たのは、爆豪以上に凶悪で狂気に染まっていると言っても過言ではないような笑みを浮かべている蛇のような舌を伸ばしている蛇革のジャケットを着た男が居た。その男は龍牙を見ると一段と嬉しそうな笑いをするとこう言った。

 

「お前か……俺のストレス解消に付き合え」




多分絶対に誰か分かる、最後の人は。

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