僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「うううっ……うぁっ……」
小さな呻き声と共に身体から力が抜けかける、それを必死に食い止めるように足に力を籠めるが身体のふらつきが止まらない。足が震え、重力が何倍にもなっているように感じてしまうほどに身体が弱っている。
「ミラーワールドでの活動時間、大体は24分ぐらいだったかな……。大分限界が伸びてるな……ははっ」
ミラーワールドでの活動は限界を超えれば超える程に自分の身体を蝕んでいく、身体や個性を鍛えれば鍛える程に限界は増してはいくがそれでも身体に掛かる負担が和らぐ事は一切無い。あくまでミラーワールドから弾き出されるタイムリミットが増えて行くだけなので、様々な意味で戦いに組み込んでいけるような便利な物ではない。裏を返せば苦しい時間だけが増すだけ。
「ぐっ……やっぱり、プロの活動ってきついなぁ……ほかのみんなも大変なのかな……」
此処まできついのが龍牙だけだろうが、実際に他の皆は龍牙よりも遥かにマシになるだろう。龍牙に課せられているのは通常のサイドキックとほぼ同じと言っても過言ではないスケジュール、守るべき生徒としてではなく共に戦う仲間として動いているのだから差があまりに大きい。それでもこれは自分を大きく成長させる事が出来るいいチャンスだと前向きに捉えながら、喉の奥に栄養ドリンクを流し込んで気合を入れると事務作業へと入る事にした。
「すいません、遅くなりました」
「いやいやいや大丈夫だよ。それにしても計算とか早いなぁ……電卓とか一切使ってないのに暗算早くない?」
「算盤使った方が流石に速いですよ?」
「何故に算盤……?」
プロヒーローの仕事は単純なヴィラン退治だけではない。ヴィラン退治に関する書類仕事、報告のレポート、各自治体た警察組織との連携、CMなどの副業を行っている場合のスケジュール管理に他事務所の連携の為に様々な仕事が待っている。その一つ一つをリュウガは頭に叩き込んでいく。
「はいっギャングオルカヒーロー事務所です。はいっではただいまお電話をお繋ぎしますので少々お待ちください……コングさん、スポンサーの水族館からです。今度のイベント出演に関する事とのことでしたので4番のに繋ぎました」
「うしっそれでOK!!それにしても随分手馴れてる感じするね。敬語も凄い丁寧だし」
「いえっ家にいた時もなんかこういう系統の電話多かったので」
自宅学習をしている時、根津目的のヒーロー関係の電話などが特に多かったので内線程度ならば慣れた物。敬語の事も言われるが、それは一重に今まで接してきた相手が基本的にほぼ全員が年上だったのが原因。加えて殆どが尊敬に値する程に素晴らしかったので敬意を払うという意味でも敬語を多用してきたのが身についている理由だ。まあ一番の理由は師に敬語を徹底されていたからなのだが……。
「全員揃っているな」
事務仕事を次々と片付けている中、主であるギャングオルカが戻ってきた。どうやらヴィラン現場の事後処理やらは終わったようだ。
「いいか、三日後に保須に向かう事が決定した」
「保須って東京のあの保須ですか」
「ああそうだ―――ヒーロー殺しを狩る」
短い言葉に集約されている決定の決意だけでサイドキックの皆は気を引き締めるのだが、その目的が更に顔に険しくしわを作らせる。リュウガもそれを聞いて目的に喉を鳴らした。ヒーロー殺し、プロヒーローのみに狙いを絞ったように連続殺人を行い続けているヴィラン。つい最近も東京の保須市においてプロヒーローを殺害し、合計で17人を殺害、22人を再起不能に陥れている。その凶悪ヴィランの確保に動き出す事をギャングオルカが宣言した。
「先日、インゲニウムから応援の要請が入った。それを正式に受理し三日後に向かう運びになった。奴も奴で深手を負ったとのことだ」
「ええっあのインゲニウムがぁ!?マジっすかシャチョー!!」
「残念ながらマジだ。だが大事には至らずに軽い入院程度で済んだそうだ」
インゲニウムといえば65人というサイドキックを雇い、それら全員の総合力で勝負する大人気ヒーロー。全員の個性を適切かつ的確に運用して大きな力にして動いてヴィランを確保するヒーローチームの一つの完成形とまで称されるの司令塔であり実力派ヒーロー。そして何より、龍牙のクラスメイトの飯田のお兄さんでもある。
「ちょうど共に行動していたビーストマンとミラー・レイディのお陰で危機を脱したとのことだ。だがインゲニウムはこれでヒーロー殺しの危険性を一気に引き上げてウチにも要請を出した来たという訳だ。俺達の役目はインゲニウム本人の穴埋めにもなるが、やる以上は全力で確保にも動く。覚悟しておけ!!」
『はい!!』
龍牙はビーストマンとミラー・レイディの名前を呼ぶときに僅かに舌打ちをしたのを見逃さなかった。インゲニウムを助けた事は評価すべきことかもしれないが、龍牙の親としては矢張りあの二人は好きになれないのが、子煩悩なギャングオルカの素直な本音なのだろう。
「にしてはなんかシャチョー、あの二人の事嫌いっぽいですよね。何か凄い忌々し気に言ってますし」
「……悪いか、個人的だがあの二人は気に食わんのだ」
「エリート思考嫌いなんでしたっけ、ああだからエンデヴァーとも仲悪いのか」
「あんの蚊取線香丸とは無関係だ!!!ああったくあいつの顔を思い出したらムカムカしてきやがった……!!俺はしばらくトレーニングルームに籠る!!誰も入ってくるな!!!」
そう告げるとギャングオルカは苛立ったように扉を叩きつけるように閉めていく。如何やらギャングオルカとエンデヴァーの相性は非常に悪いらしい。
「やれやれ……こりゃ忙しくなるかもな……リュウガ君、君は今事務所に来てるヒーローとの打ち合わせに行って来て貰えるかな。シャチョーから君にやらせろって言われててね」
「あっはい解りました……」
この後、リュウガは向かった応接室にて打ち合わせをするヒーローこと、Mt.レディと遭遇して思いっきり絡まれるのであった。自称姉の彼女はリュウガが酷く疲れている事に即座に気付いてリュウガに休みなさいと強く言いつけ、話し合いを伸ばして休息を取らせるのであった。
「因みにこれはオルカさんも了承済み、ヒーロー同士の打ち合わせが長くなるなんて何時もの事だし」
「そうなんですか……」
「(実際は龍牙を休ませるの口実でしょうけど、なんだかんだで子煩悩なんだから)さて龍牙、それじゃあお姉ちゃんの膝でお昼寝でもしましょうか!!」
「……ちゃんと仕事しに来てるんですよね……?」
「これで龍牙も休めるだろ……俺がもっと素直になれたらあいつをもっと……クソがぁぁあああ!!!!エンデヴァーくたばれぇぇえええ!!!!」
完全に八つ当たりである。