僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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父の思いに応えたい黒龍

龍牙のリュウガとしての職場体験は鮮烈且つ過激を極めていた。彼の保護者であるギャングオルカと根津が決定した彼を徹底的に鍛え上げる計画は、まだ雄英生徒として発展途上且つ未熟なリュウガをとことん苛め抜くような厳しすぎる物だった。

 

午前5時からは早朝のパトロール、軽い朝食の後に事務仕事をこなしつつも出動要請があれば直ぐに飛び出していく。リュウガの能力は現場の情報を引き出す物としては酷く上物であり、他のヒーローがヴィラン退治を行うのを極めて円滑に、確実な物にしていく。故にその能力はどんどん活用されていく、限界を迎えれば休憩を挟み再び活動をするを何度も何度も繰り返し続けていく。

 

「ぐっぁぁぁっ……!!」

「如何したリュウガ、お前が行かねば他のヒーローが確実に救出を行えんぞ。いいのか、お前が動けば確実に救える命を不確実にするのか」

「行くにっ……決まってるでしょ……目を閉じてたら、救えなくなる……!!」

 

周囲のサイドキックは見てはいられないような有様だった。地面に倒れこみ、まともに立てないような有様になっても厳しい言葉で現実を突きつけるギャングオルカとそれを受けて、身体に鞭を打って強引に身体を起こしてはリュウガとなって鏡面(ミラーワールド)へと入って情報を収集して、倒れこむようにして這い出てきては情報を伝え、限界を迎えている筈なのに立ち上がり次に備える。

 

ある時はミラーワールドから飛び出し、ヴィラン退治をやらされる。本来ならばプロ資格のないリュウガがそれを行う事は完全にアウトなのだが……共にギャングオルカが突入する事で彼が自分でヴィランを倒したという言い訳を構築しリュウガは実戦を積むという事を重ねていく。どちらにせよミラーワールドを多用するのでリュウガの体力はガリガリと削られ、疲労は積み重なっていく。しかしその程度だけではギャングオルカはリタイアを許さない。

 

「―――ねぇオルカ、本当に良いの」

「構わん、全ては龍牙の為だ」

 

ギャングオルカの事務所の専任ドクター、ヒーリングヒーロー・スィーツァ。至福の癒しという回復系の個性を持つヒーローで健康改善・疲労回復促進を齎し、対象の疲れを短時間で抜き切らせる力を持つ。但し怪我の回復などは一切しないのが弱点だが、リュウガに関しては酷く効果的で限界まで酷使した身体を1~2時間で活動可能まで回復させ、再び現場へと戻らせるというループを龍牙に施している。

 

「幾ら何でもこれは狂気に近いわよ、身体は持つだろうけどこの子の精神面が持たない」

「持つさ。こいつは俺の息子だ、龍牙は俺の予想を超え続けていく。ならば俺もそれ相応の壁を用意するだけだ」

「……アンタもアンタだけど、この子もこの子よ。如何して泣き言一つ言わないのよ……」

 

龍牙は弱音を一つも吐こうとしない、辛いという言葉すら言おうとしない。それはギャングオルカが自分の為を思って此処までの事をさせていると心から理解しているから。父さんは自分にこれだけ期待をかけてくれている、自分を信じてくれている、だったらそれに応えるのが自分だろうと龍牙は頑なに信じて前に進んでいく。

 

「リュウガ、動けます……!!」

「次の現場に行け。さっさとしろ」

「はいっ!!」

 

疲労から動けるようになったリュウガを見てスイーツァは悲しい子だと素直に思う。リュウガにとってこの職場体験は楽しくはないし辛い事でしかない、でもそれに向き合い続けている。ギャングオルカはきっとプロの厳しさを1週間の間に叩き込むだろう。最早職場体験で感じる筈の現場の空気をではなく、現場に関わる当事者としての感覚を覚えさせる。もう―――プロヒーローと何ら変わらない所にリュウガは立ってしまっている。

 

「オルカ、アンタの事だから分かってると思うけど一番つらいのはアンタだろ。アタシに言ってたもんね、自慢の息子だって。だからなんだろ、敢えてプロの厳しさを思い知らせてる。ヒーローが人の命を救う瞬間と救えなくなるかもしれない瞬間を何度も何度も」

「……」

 

ヒーローになれば嫌になるほど思い知るだろう、もっと力があれば、あの時頑張っていれば……そんな場面に何度もぶつかる事になる。ギャングオルカが行っているのはその寸前、自分が動けば確実に救える、救えないのラインでの活動。如何に個性が強かろうが身体が強靭だろうが、結局最後に物を言うのは精神力。それを鍛える為にギャングオルカは龍牙を現場に連れて行くのだ。

 

「俺は不器用な男だ、息子にこんなエールしか送れん。将来の為に……あいつが夢に見るヒーローに成れる為の手伝いしか出来ないんだ……」

 

酷く不器用で不格好な愛情、彼としても息子にこんなことをするのは不本意だろう。子煩悩で本当は息子を大手を振って褒めてあげたいと心から願う男なのに、敢えて冷たく厳しく息子に接している。龍牙が必ず乗り越えると信じながら未来に進むだけの力を付けさせてあげる為に……。

 

「それなら偶にでもいいから褒めてやりな、それだけでもきっとあの子は涙を流して喜ぶよ」

「……出来ればそうしている……だから、あいつが乗り切ったら一緒に飯を食いながら褒めてやりたいと思ってる……親子として」

 

そんな風に言葉を漏らすギャングオルカの背中は父親のそれと全く同じだった。そんな姿を見てスイーツァは呟いた。

 

「なんで男ってこうも面倒くさいんだろうねぇ……」




「それに……いざ褒めようとすると、嫌われたり恨まれていないか不安でつい……」
「お前は子供かぁぁぁあああああ!!!!!」

次回、保須市へ!!

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