僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
東京・保須市。ギャングオルカはインゲニウムからの応援要請を受けて、合流場所へと足を踏み入れていた。自身が選りすぐった精鋭、その中には王蛇の姿もあるのだがギャングオルカの指示さえあれば大人しくしているし戦力としてはこの上ない程に頼もしい男、故にメンバーに加えたのだろう。そしてその中にリュウガの姿もあった。リュウガを連れて行くのは多くのメンバーが反対の意見を出すが、ギャングオルカは全く譲らない上にリュウガも志願したので連れていく事になった。
「龍牙君!!君も来たのか!!」
「飯田、いやえっと……インゲニウム・アクセルだったか?」
「ああっそうだ。気軽にアクセルで構わないさ」
インゲニウム事務所での打ち合わせの最中、そこにあったのはクラスメイトの飯田の姿がそこにあった。彼が最も尊敬し目標としているヒーローであるのが自身の兄であるインゲニウム。当然の帰結として兄の所に職場体験にやってきたとの事。
「リュウガ君、グループチャットにも全く反応を示さないから少し心配していたんだぞ」
「えっチャット?」
そう言われてリュウガはスマホを確認してみた。するとチャット通知が溜まっている事に漸く気付いた。皆のそれぞれの職場体験の事やら色んな事が書いてあった。が、自分が全く返信しない事がある種の話題になっていた。特に葉隠さんからのメッセージが一番多く、心配を掛けてしまったのか罪悪感を覚える龍牙であった。
「……色々と大変でさ、スマホ見てる暇なんてなかったんだ」
「矢張りヒーローランキング10位以内に入るギャングオルカの事務所はそこまで凄まじいという事か……それなのにリュウガ君は大丈夫そうとは流石だな!俺からも弁明の手伝いはさせてもらうよ」
ハッキリ言ってリュウガの場合は大変という言葉だけでは収められない。肉体的な疲労はスイーツァの個性で無くなるが精神的な疲労は全く取れないのでそれはどんどん蓄積されていき眠るときは、ベッドに座り込むとそのまま熟睡してしまうのである。故にスマホなんて見ている暇なんてない。
「所でアクセル、インゲニウムは大丈夫なのか」
「ああ、怪我はそこまで深くはないみたいで直ぐに退院出来るみたいなんだ。今は検査入院だ」
「それでもインゲニウムを倒すなんて相当やばいなヒーロー殺し……保須市も相当ピリピリしてる」
リュウガが保須市に入った感想で真っ先に上がってくるのは既に多くのヒーローが現地入りしている事、そしてそれらのヒーロー全てが強張った表情を浮かべながらピリピリしている空気。ヒーローによる完全警戒態勢が敷かれている保須市、それだけヒーロー殺しに対する意識が高いという事。
「しかし矢張りビーストマンとミラー・レイディは凄いヒーローだった!!夫婦という事もあるのだろうがとんでもないコンビネーションだったらしい!!」
「……その場にいたのか?」
「いや、その後にお二人とパトロールをしたときに二人のヴィラン退治を見る事が出来たんだ」
ビーストマンは自らの名が示すようにその身を複数の獣に変化させながらヴィランを誘導しながら追い込んでいき、最後の突破口にはミラー・レイディが待機していた。ヴィランはそこを突破する為に渾身の一撃を放つのだがミラー・レイディはその攻撃を反射させてヴィランの顎へと叩き込んで意識を失わせて確保した。その一連の流れは前もってそうするように指示されていた番組内の殺陣のような美しさ、洗練さにアクセルは言葉を失ったという。
「流石はトップヒーローと言われるだけあると思ったな、俺も何時かその域に行けるかと思ったほどだ」
「……そうか」
「どうかしたかリュウガ君、気分でも悪いのか?」
「……いや、なんでもない」
思う事なんて特にはない。ただ、ヒーローとしての実力は矢張りお墨付きなのだなと思っただけの話である―――親としてのレベルは最低だとギャングオルカが言っていたのに。
「リュウガ、アクセル。これからの保須市での活動内容を決める、こっちへ」
そう言われてそちらへと向かう。そしてそこで決められた内容は徹底したチームでの行動であった。ヒーロー殺しは通常のヴィランと明確に違う点が存在している、それはヒーローを標的に据えている点。今までを含めてヒーロー殺しは一般人に害意を見せた事が無く、自らが向ける対象をヒーローのみに定めている。それこそがヒーロー殺しと言わしめる点であるのだが……故にヒーロー達はそれを確保する為に自らを餌にした作戦を取らざるを得なくなっていた。
「被害を最小限にする為に単独での活動を徹底的に避けろ、今回のインゲニウムの負傷も裏路地に入り込んだヴィラン確保の為に単独行動をしてしまったからだ。故にチーム編成を徹底する、いいか決して油断をするな!!」
『はい!!!』
ヒーロー殺し確保に向けて大きく動き出していくヒーロー達、大きなうねりとなって保須を包み込んで一丸となってヒーロー殺しを襲うだろう。だがこの保須に迫るのはヒーロー殺しだけではない、もっと深い影のような物が迫っている事を誰も理解していなかった。
「黒き龍、そろそろ君の力を見せて貰おうかな―――ねぇ、鏡 龍牙君」