狩人は目を覚ました。視線の先は古ぼけた木目の天井。
これで何回目の目覚めなのだろうかと、彼は重い身体を置き上げた。
しかし、彼は自分が目覚めた場所について酷く違和感を覚える。
あの治療室とは違う、様式の部屋。ヤーナムでは息がつまる程に漂っていた血の臭いとは違い、清々しい匂い。
そして何よりも、四角の紙が張り巡らせされていた扉から、差し込む光。
明らかにヤーナムの地ではない事に狩人は気付く。だが、狩人は目的である青ざめた血を未だに手に入れていない。
介錯を受け、夜明けを迎えたとしても獣狩りの夜は始まり、介錯を否定したとしても月からやって来る上位者に抱擁をうけ、自分自身が狩人の夢の主となる。
彼はその繰り返しをただ辿る事しかしていない。
前の獣狩りの夜で、数々の夜とは別の行為をしたかといえば、狩人は身に覚えが全く無かった。
獣狩りの武器も無く、本来着ている狩装束も今は身に付けておらず、代わりに布一切れに腰に太い紐のような物を巻かれていた。その格好はまるで患者の様であった。
狩人は頭を抱え込む。狂気そのものと呼ばれたヤーナムの地で、彼は獣狩りを繰り返してきたが、今の直面している事態は予想を遥かに上回っていた。
頭が狂ったのではないかと、自身を疑い始めた狩人。それならばと、鎮静剤を取り出そうとしたが、今は布切れ一枚のみ。
ポケットの中に大量に詰め込んだ鎮静剤は、狩装束と同じく消失不明となっている。
本来、未知の領域で武器も装備と揃っていない状態で踏み込むのは、無謀で憐れな獣同然であると、狩人は慎重に行動してきた。
しかし、このまま立ち竦んではそれ以上の愚鈍であり、蛮行を喫する他に選択肢はなかった。
そう考えた狩人は、紙で張り巡らされた扉の間を縫う様に通り、外へと身を出した。
彼の肌を炙るかの様に包む光。介錯を受けた時の夜明けを思い出させる朝である。久しく光を浴びていなかった狩人にとって、日光は苛烈に眩く差し込んでいるようにみえた。
そして彼の眼前には緑黄の庭が広がっており、酷く陰鬱であったヤーナムとは全くの地であると、確信を得た。
とはいえ、狩人は自身が悪夢から解放されたとは信じる事はない。
遭遇してきた、度重なる上位者達。それらは悪夢として時空間をも生み出す程の存在。
今まで違う光景ではあるが、今いる土地も上位者の作った存在であると疑わずにはいられなかった。
「あら、もう立っていられるなんて凄いわ」
そう疑い始めた瞬間、横から女性の声が聞こえた。
反射的にその声の主へと振り向く狩人。そこには、青と赤の衣服を身につけた女性が立っていた。
顔立ちの整った、銀髪の女性。絶世の美女だと、誰もが思うだろう。
しかし狩人は彼女を見た瞬間、本能的に確信する。
こいつは人間ではない、と。