ばうえもんのネタ供養 作:ばうえもん
何故かソノラマ文庫を読んでいた
来訪者、二人
風が吹いた
この街特有の妖気混じりのそれとは違う渇いた風、業風や魔風とは違う 光を孕んだ風が吹いた―
――ターイラー――
嘗て旅人らが訪れた国にもこのような風が吹いていた
郷愁に近い思いを抱いた。自分も旅は嫌いではない、街を離れて気の向くままに何処かへ―
被りを振って思い直す。今この街に何かが起きようとしている。だから古い記憶に気を取られている暇などなさそうだと……
そして若干の申し訳なさと供に思い浮かべるのは白い少女 彼らの力不足故に未来へと送りだした魔女の魂、古代の女王の運命に囚われる必要はなくなった彼女は今を生きるべきだと――思ってしまった
だからそんな僅かな罪悪感が十六夜京也の意識を熱砂の風から逸らした――ウォウアリフ――彼は風が孕む人ならざるモノの声を
その音の羅列を――イェーター――まるで、神語のようだと考えた時には全てが遅かったのだ――
異界に封じられし邪神が
神が光あれと命じるが如く、乾いた風に命じた――
来訪者、二人 ―裡宮巴比倫―
時間は一月程遡る。
都心のビジネス街、路地裏からふらりと現れた揃いのGジャン姿の二人組、些か場違いな格好の双子と思われる彼らは何やら感慨深げに辺りを見渡す。
「久し振りの現代文明だな」
「そうか? 現代って言うにはなんか古臭いというか…ああ、誰もスマホ見てないな。よく見りゃ車角ばってるし、なんか昔の特撮とかで見た昭和臭い?」
「言われてみればガキの頃を思い出すな。ところでスマホってなんだよ。」
「えっ?」
「「えっ?」ってなんだよ」
「いや子供の頃って何年前だと……まさか昭和生まれなんか!?」
「えっ? じゃぁお前はまさか平成ベイビーか!?」
「平成8年だけど」
「おまっ、連載の折り返しとっくに過ぎてる頃じゃねぇか!! マジかよ」
双子と思われた少年達は何やら噛み合わない会話をしながら目に付いた公園へと足を進める
雑談を続けながらもさり気なく公園に設置されたゴミ箱から雑誌や新聞を手に入れた彼らは情報収集を始めた
「ふ~ん、世界線にも時代のズレとか有るんだな。それはそうと今は2000年過ぎてるようだぞ」
数週間後、新宿のブラックマーケットにて武器を購入する彼らの姿があった。
冷やかしで訪れたマーケットだったが、想像以上な品揃えにこの国の未来を案じつつも使えそうな武器を物色する。
二人の内若干大人びた方は手慣れた様子で銃器を物色して、その様子にもう一人の表情に幼さが残るほうが遠い目をする。どうやら自分と変わらない年齢なのに銃器を扱った事が有る相棒の物騒さに呆れているようだ。
「既に21世紀初頭なのに街並みは昭和後期でスマホとやらどころか携帯電話もない世界。
そのくせサイボーグやらレーザーやら一昔前のSFに登場しそうな兵器が存在していて当然コンピューターやエネルギー関連もそれらで使用する為に相応の小型化がされている。加えて悪魔や妖怪や死霊が存在していてそれらに対してなのか魔術師や霊能者や超能力者も存在している。なんなんだこの世界の歪さは」
「裏市場で手に入る武器とか見た限りじゃ明らかに俺が居た令和よりも科学技術は進んでいるのに生活関連の技術レベルが低い、なんかラノベか漫画で出てきそうな昭和100年とか言いそうな世界観だな」
「なんだよ昭和100年って。言い得て妙だが……」
「まあ実際のところは俺が居た時代がその手前辺りなんだけどとてもじゃないが全身義体のサイボーグとか人間と区別がつかないアンドロイドとか実現しそうになかったな。あとこの世界はエネルギー関連の技術レベルが特に異常。なんだよサイボーグの動力が核融合炉って。この気象爆弾ってなんだ? いったい街の何処で使う気だよ」
「とはいえだ、ハンドガンサイズのレーザーとかブラスターとかこの手の武器ってなんだかんだで燃えないか?」
「俺は普通に大型拳銃の方が燃えるな。っと、
「連中の目的ってやっぱり噂の"神"なんだろうな」
「"神"ねぇ、どうするつもりだ?」
「そうだな、ソイツが何かしたってよりは周りが騒いでいるって状況ってのもあるけど…その面子が嫌過ぎるよな。正直こういう国やら宗教やら入り乱れた事態は人間の方が怖くて介入したくない」
やたらと実感が籠った相棒の言葉に何かを感じるのか、もう一人の男は手短に結論だけを返した
「んじゃ、欲をかかずに件の魔導師から魔導書を取り返したら速攻退散するんだな」
「そうだ、この底知れない街に長居したくはない。まったくこの街の連中はどういう神経してやがんだ? 住めば都で済ませられるレベルじゃねーぞ」
そうしてマーケットで幾つかの武器と噂話を仕入れた彼らは情報を求めて街を彷徨う、今まで渡ってきた世界と勝手が違うのかお得意の魔術や霊的探索がこの街では上手く使えないのだ。
もっとも彼らの目的である魔導書が存在していた世界、彼らの臨時の雇い主?である龍神が住まう迷宮内でも自ら歩いて地図を埋める必要があった。そう容易く世界のルールの裏をかけるものではないのだ。
街を彷徨い歩いた成果として――もっとも薄手の文庫一冊分程度のトラブルと引き換えにだが――魔導士らしき人間の目撃情報を得た。なおソノラマ文庫では大体中盤といったところであろうか?
樽の様なと言ったら樽に失礼な太目の情報屋から得た情報によると件の魔導士の消息は
日中を探索に費やした彼らは夜の新宿中央公園に近づくような愚を犯さず――区外から訪れた彼らが余程危なっかしく見えたのか情報屋を含むその場に居た人間達は口を酸っぱくして止めた――新宿中央公園付近では比較的に安全と紹介された宿を取る事にした。
「げぇ、メシ付きって軍用レーションじゃねーか。元の世界の自衛隊のミリメシなら美味いらしいけど……粘土食ってるみてぇ、コッチ方面は全然発展してないんだな…」
「…ストックからなんか出すか」
ホテルと名乗ってはいてもベッドが有るだけで碌な施設も無いところではあるが、この生き馬の目を抜くような街で区外の人間が比較的と頭に付くが安全に泊まれるという点では優良店である。
少なくとも情報屋の――人柄は無視すれば――情報は信じられると理解している二人は不平を零しつつもそのホテルを拠点として周囲の探索の準備に取り掛かった。
「それにしても、アイツなんで中東から態々日本に来たんだろうか? 逃走先に新宿ってのはポピュラーらしいけど場当たり過ぎるな」
「……新宿はどうかと思うが日本は有りかもしれんぞ」
「まあこの世界でもよその国よか脇が甘いみたいだしな」
「ちょっと違うな、これは受け売りなんだが日本は神話の終着点、神々の最終処分場らしい」
「なんだそりゃ?」
「陰陽師ならシルクロード経由で宗教を含めて色々と入って来てるのは解るよな? そんで神様がそっち経由で流れついた結果や仏様なんかになっているのも知っているだろ」
「そういえば日本の仏教系神魔族はそういうの多いな。だが別に日本に限った話でないだろう?」
「まあ聞け、世界中の神話との日本の民話なんかの類似点をまとめたオカルト系のライターが八百万の神々、地方で祭られている土地神なんかの元は渡来神じゃないかと考えたそうだ」
「シルクロードの終着点は神話の終着点でもあるわけか…なるほどな、それで神々の最終処分場なわけか。確かに日本は民話なんかも含めればキャパだけは有るな」
「島国の割に北や南からの移住ルートとかあるし、以前から外部から人が入ってきた形跡があるしな」
「つまり日本には古い神の残滓が形を変えて残っていると考える人間もいるって事だな。何を呼び出したいのか知らんが当てがあっての事だと思っていたんだが…」
「…なんか日本に入ってからの動きがおかしいな。東北を目指していたのに突然目的地を新宿に変更した形跡が有る」
「召喚の書と新宿と神様ねぇ、因果関係が無いとも言い切れんのがなぁ…単純に魔力の補充とかならいいんだけど」
そうして彼らは何処かに潜んでいると思われる魔導士に気付かれないように人目を忍んで新宿中央公園へ侵入して……早々に引き返す破目に陥った。
二人の内一人は能力はあれどこういった霊的方面では全くの素人であった事に加えて、もう一人の方も元の世界で体験してきた霊障とは性質も方向性も全く違った為に、その経験が役に立つどころか寧ろ判断を誤る原因になったのだ。
神すらも屠る二人組は魔導書を碌に扱えない魔導士の事を軽く見ていた。だがこの世界では、ましてやこの魔界都市においては彼らの方が物を知らない異邦人なのだ。
この街を犯すのならば心せよ
善も悪も、人も人以外も受け入れる寛容な街なれど、魔界都市を侮る者は――たとえ"神"であれ――手痛い報復を受ける事になるのだから
ソノラマといいつつ秋田書店時空です