創界神を得た心結はレミリアとバトル。二人はまた再戦を誓ったのだった。
よく晴れた日の事だ。神社で他愛のない話をしている二人の少女がいた。もう少しすればお調子者の魔法使いも合流する予定である。
「それからのあいつらときたらほんと…。大変だったのよ」
霊夢の話す内容の多くはチルノと妖夢という少女達と魔理沙の話大部分を占めている。
「とても、仲が良いんですね。その三人のお話してるとき少し楽しそうですよ、霊夢さん」
「べ、別に特別仲が良いって訳じゃ…。チルノは誰にでも大体あんな感じだし妖夢も……」
照れくさそうにしている霊夢を心結はにこやかにみつめている。胸に秘める暖かさを感じながら心結はこれからの自分について考える。
私も、友達できると良いな。せめてこっちでは最後まで幸せでいたい。
「そ、そんなことより魔理沙遅いわねぇ。また寝坊したのかしらっ」
明らかに話題を反らした霊夢には朗報か悲報か、待ち人ではない二人組がふわふわと階段を上がってくる。
「れ~む~、元気かぁ?」
「って、チルノ。あんたルーミア達は?」
「あ、ルーミアちゃんたちはお店の準備を手伝ってて…」
「みすちーのとこは今日混むらしいぞ!」
「それは何より、そしてこのままの流れで紹介するわね。心結よ」
「あ、えっと…幕引 心結です。えーと、チルノちゃんと…」
「だいちゃんよ。皆そう呼んでるわ」
「改めてチルノちゃんとだいちゃん、よろしくね」
そう笑顔で手を差し出した。本来であれば快くその手を取るだろう。そう、本来であればだ。
「近づかないでっ!」
必死な表情で、それでいてやや怯えたようにチルノは叫んだ。勿論他の誰にもなぜなのかはわからない。ただチルノだけがそう叫んだのだ。
「ちょ 、チルノ?どうしたのよ急に」
「そうだよチルノちゃん。どうしたの?」
困惑と心配が混ざったように問いかける二人。その間で何が起きているのか全くわからない心結が立ち尽くす。
「と、とにかく…近づかないで。アタイ、あんたの事嫌い…」
そう言い残してチルノは大急ぎで去っていった。それはまるで何かから逃げるかのように。
「す、すみません。普段はあんなんじゃないんですけど…と、とにかく私も失礼しますっ」
「………まぁ、悪いやつじゃないのよ。柄にもなく人見知りとかかしらね……ほんと、ごめん」
なんとも言えないこの気持ちをどう表して、何にぶつければ良いのか、その疑問に答えてくれる者はいない。心結の表情を見て霊夢は心を締め付けられるような気さえした。
「だ、大丈夫ですよ。誰だってそういうときありますから」
それは霊夢に向けた言葉なのか、それともチルノに向けた言葉なのか、はたまた自分への言葉なのか。自分でも心の中で反響し、反射し合う大丈夫という言葉を心結は口にした。
この世界であれば、きっとまじないも意味があるものになるだろうとある種の願いなのかもしれない。
何も言えない空気の中、それを壊すのはいつも彼女だ。良い意味で空気の読まない彼女の存在に救われた者は少なくは無い。
「ようお前ら。待ったか?」
「…………はぁ、待ったか?じゃないわよ。待ったに決まってんでしょ」
そんな言葉も魔理沙は笑って誤魔化すのだ。暗い空気をその誤魔化しが払ってくれる。
「そうですよ。結構待ちましたからね?」
「わりぃわりぃ。今度なんかしてやるから」
「コイツのなんか、は当てにしない方が良いわよ」
そんなやり取りに思わず笑みが溢れる。この気持ちはなんだったか、記憶と心の奥底に埋められた感情を心結はまだ思い出せずにいた。
「それじゃあ、行きましょうか。流石に待たせ過ぎも悪いし」
「ですね。行きましょう」
三人がなぜ集まったかというと、霊夢の元に届いた誘いだ。
「今度の大会で使うスタジアムのテストの見学と協力なんて…霊夢さんってやっぱり凄い人なんですね」
「そりゃあ、博麗の巫女っつたら幻想郷では知らないやつはいないからな」
やや照れくさそうな霊夢をからかいながら進んで行くと、小さな兎耳の少女と大きな傘の少女。そしてカメラ片手に手を振る少女が見えた。
「あれ、迎えに行こうと思ってたのに」
「魔理沙が間に合ってる事にびっくりだよ」
「あ、あなたが先日、幻想郷に来たという心結さんですね?以後よろしくお願いします。早速なんですが…」
止まりそうにないカメラの少女を心結を除く四人が一斉に止めにはいる。
「こら、そうやってすぐ取材しようとする。せめて今は我慢して」
「そもそも、私たち自己紹介してないからね?一方的に知ってるだけだから…」
明らかに幼い見た目の兎耳の少女になだめられたカメラの少女は笑って誤魔化しながらも心結に改めて身体を向ける。
「これは失礼。私、文々。新聞 の射命丸 文と申します、以後お見知りおきを」
「私は 多々良 小傘だよ、よろしくね」
「私は 因幡 てゐ。よろしく」
三人と握手を交わし少し会話をすると小傘が本題を切り出す。
「それで、今日招待したのはここにいるメンバーは全員?」
「そう、ね。阿求も誘ったんだっけ?」
「はい。でも用事があるから店もその時間はお店も閉めるって」
「へぇ、じゃあ行こうか」
てゐは、にやつき顔のままそう言うと三人を先導し始めた。それに続いて何故か吹き出して過呼吸気味の小傘と至って普通の文が三人の前を行く。
「あの、お三方の名前はわかりましたけどその、どういった人達なんですか?」
「あー、あいつらはあれよ、三賢者って呼ばれてるバトラーよ」
「名ばかりの賢者だけどね?」
小傘が振り返りながら補足を入れる。名ばかりという点について残りの二人は訂正をする素振りをみせない。
「三賢者…ですか?」
「おうよ、バトラーの中でも特別強い三人、それが三賢者だ」
何故か得意気な魔理沙は前方を歩く三人に指を指しながらそう言うが、等の本人達は無反応、もしくは否定を貫く。
「だから名ばかりだって。私達はたまたま大流行する前からバトスピをやっていて、たまたまその時強かった三人ってだけ。里の人の中には神のように崇める人もいるけどそんなんじゃないよ?」
「強いのは事実だろ?」
「どうだろうね?殿堂入り扱いだから図る方法が無いよね」
悪巧みをする子供のような表情をしながらてゐが振り返る。
しばらく歩くと、人里からやや離れた開けた場所に出る。その先の気持ち程度舗装された道の先に目当てのものは存在した。
「えへへ、びっくりした?ここが!幻想郷が誇るバトルスタジアムだよ!」
すごい、という言葉の他に出てくるのだろうか。少なくとも心結は他にこの気持ちを表せる言葉を知らない。
「うんうん、ごちそうさま。良い驚きだよ」
その後も入り口前でしばらく話していると、スタジアム内から出てきた呆れ顔の阿求がぼやく。
「いつまで入り口前で突っ立てるんですか!そろそろ来るかなぁって中で待機してた私の気持ち考えてくださいよ!」
「あー、ごめんごめん。じゃあ入りましょうか」
中に入っていく霊夢達に続き心結も入ろうとしたとき、小傘がそっと心結の耳元でこう呟いた。
「ごちそうさま。その気持ち、大切にしてね」
それだけ言うと小傘は中に入っていってしまった。今の心結にはこの言葉の意味はわからないが、嫌な感じはしない。何か、大切なものにすら感じられた。
「さて心結さん。こちらでの生活…もといバトスピはどうですか?」
「それについては阿求さんにお世話になってますから、少しは慣れてきました」
「凄いのよ?この前なんて創界神も降りてきてね」
自分の事かのように話す霊夢と、その言葉に驚きを隠せないその他。当の本人はこの状況をよく理解していない様子だ。
「はぁ!?お前まじかよ!」
「え、えっとー…はい。それともう一枚なんか在りますけど……どうしたんですか?皆してそんな驚いて」
「ごめんちょっと詳しく。理解が追い付かない」
心結はあの日の朝の事、レミリアの元に行ったときの事を全員に説明した。それについて信じられないという素振りを見せていた者も実物のカードを見ると信じるしかなかった。
「なるほど…なるほどなるほど!良いですね」
興奮した様子の文が心結の肩を掴み、まっすぐと瞳を見ながら告げたそれはこの場にいるほぼ全ての意見そのものだろう。
「記者として、なにより大会運営メンバーとして、幕引 心結さん。あなたの大会エントリーを強く望みます」
「え…って、えぇ!?私ですか?」
他に誰がいるのか。そういった視線を向けられていることに疑問を抱かずにはいられなかった。
「だ、だって私全然強くないし、大会なんてそんな…」
「強い人しかバトスピをやったら駄目なんて決まりある?無いんだなぁ、これが」
「てゐちゃんの言う通りだよ。それに、最高の先生がいるじゃない?」
そう言った小傘の視点は完全に一人の少女に向けられていた。それに気付いた少女はやや困惑した様子で再度確認する。
「え…私ですか?いやまぁ、やりますけど…」
「さっすがあっきゅん。わちきは信じていたぞぉ」
ただし、やるからには徹底的に鍛え上げる。それが阿求が心結に提示した条件だ。心結がこれを了承した自分を呪いたくなる事を今はまだ知らない。
「それではエントリー手続きは私がやっておくとして、本題に入りますか」
「バトルフィールドのリニューアルに伴い、その試運転!今回はそれの見学と協力をしてもらう予定だった訳だけども」
「悪いけど実はまだメンテナンスが終わってなくてね。できる事とできない事の説明もめんどくさいし私と小傘でやらせてもらうよ」
「おいおい…まだ終わってないのかよ。というか、終わってないのにテストするのか?」
「作業途中の細かなテストは大切ですよ。全て終わってから大きな不具合が見つかっても遅いんです。今日はその細かな作業の中でも特に色々と試す日なだけです」
実際、作業に大きな遅れがあるという訳ではない。かなり詰めた日程を組んでいる都合上、現場で動く河童達は大忙しだ。場合によっては大会の日程を遅らせる事も視野に入れたいわゆる無茶ぶりを、河童達は見事にこなしている。これには現場監督の河童も、どや顔を隠す様子が無い程だ。
「そしてここがバトルフィールド。当日では事前にくじで決められた二人が実況卓としてここに呼ばれてバトルするんだよ」
「実況…卓、ですか」
「はい。私とてゐさんか小傘さんのどちらか、もしくは両方で実況、解説をしながら客席の皆さんに見てもらう場所です」
「まだ見せてないけどここを出た場所に普通に机でやるスペースもあるから回転率も良いんだよ」
「それじゃあ、私たちは客席まで行きましょうか」
文に連れられてバトルをしない他のメンバーは客席に座る。今から何が起こるかわからない心結はなぜここまで大きなセットが準備されているのか不思議でたまらない様子だ。
「あぁ、そう言えばバトルフィールドは初めてですっけ。凄いですよ?スピリット達が実際にここに出てくるんですから」
「スピリット達が実際に?」
「えぇ。まぁ見ればわかります」
そんなギャラリーはお構い無しに二人の世界に入り込もうとしている者達がいた。
「どうせなら公式戦が良かったんだけどね」
「まぁ、仕方ないんじゃない?」
そうやって小悪魔的な笑みを浮かべながら、てゐは答える。つい先ほどまで見せていた落ち着いた雰囲気とは違って今はどこか掴みがたいものを心結は感じた。
「それじゃあ、スタートステップ」
その一言でバトルが幕を開けた。再度確認しておくがこれは本番でトラブルが起きない為のテストである。
「ツクヨミの陰陽神殿を配置してターンエンド」
L0 R0 H4 T4
「それじゃあ、創界神クリシュナを配置かな」
甲竜戦艦エンタープラスイズ クリシュナーガ・アルターリース アルテミックシールド
「アルテミックシールドは手札に加えて、クリシュナの月冠神殿を配置してターンエンド」
L5 R0 H4 T5
「ネクサススタート…か。スタートステップ、コアステップ、リフレッシュステップ………あれ、リフレッシュステップ!」
「どうかしたの?」
「コアがトラッシュから戻ってこないみたい。手でやれば使えるけど一昨日までなんともなかったしトラブルかなぁ」
本来、コアの移動やスピリットの回復に伴うカードの回転というのは自動で行われるように設定されている。例外としてアタック宣言だけは自分で横向きにすることもできるが、基本プレイヤーは盤面に触れることはない。にも関わらずコアが戻らないというのは明らかなシステムエラーだろう。
「文ちゃーーん、にとり呼んでおいてー!トラブルかもーー」
「もうにとりさん居ますけどね?」
「動作確認に作った責任者いなかったら凄い事だからね?」
「あれ、いつの間に…。まぁ良いやすぐ終わらせるね」
しかしバトルは続けるらしい。彼女なりのポリシーかなにかなのか、バトラーなら全員のその道を選ぶのか。
「創界神ツクヨミを配置するよ」
十式戦鬼・闇弁慶 おんみょ~フーリン とおせんぼウォール
「続けて十式戦鬼・死鬼若丸を召喚、召喚時効果でライフをトラッシュに置いておんみょ~フーリンをトラッシュから召喚。連鎖を発揮してトラッシュからライフにコアを置くよ」
「相変わらず止まらないねぇ、そのデッキ…」
「まね。おんみょ~フーリンの召喚時効果でデッキを3枚オープン」
座敷ガール 月魄鬼神スメラギンガ ツクヨミの陰陽神殿
「スメラギンガを手札に加えるね」
「クリシュナの月冠神殿の効果で1枚ドローするよ」
「鎧魂を2体召喚、鎧魂でアタック!」
「ライフかな」
「お、今日は攻め込むな小傘のやつ」
いつもを知っている魔理沙が言うのだからそうなのだろう。無論、心結にそれを図る手立てはない。
「アタックした鎧魂を消滅させて、妖戒帝エンオウを召喚。エンオウでアタックするよ。天界放発揮してブロックできなくする」
「ライフで受けるよ…」
「おんみょ~フーリンでアタック」
「フラッシュタイミング、アルテミックシールド」
「あ…忘れてた」
「とりあえずライフかな」
「むう、ターンエンド」
L5 R0 H2 T1
「いやいやいや、忘れてたって」
「アホなのかあいつは…」
文字通り絶句して見せているのはにとりと魔理沙だ。仮にもトッププレイヤーと呼ばれる三賢者の一角がそんな初歩的なミスをするのか。当然と言えば当然の言い分だ。
「ドン引きされてるみたいだけど?」
「まぁそんな日もあるよね」
「そ、スタートステップ」
悪戯っ子のような微笑みを浮かべる二人だったがそれは突如として終わりを迎える。
「それじゃあ、神撃甲龍ジャガンナートを召喚。そして白魔神を直接合体、効果で陰陽神殿をデッキの一番下に送るよ」
「げ、始まった…」
「まだまだこんな物じゃ終わらないよ?Lv2に上げてアタック、界放を使ってLv3に。そのままエンオウ、牛若丸、おんみょ~フーリンには帰ってもらうかな」
三賢者が一人因幡てゐ、彼女のバトルの持ち味はこの戦い方そのものにある。本人の悪戯っ子のような性格や気性の荒らさを表したような猛攻、それでいて白属性特有の守りとのバランスが取れている点が彼女をここまで引き上げた要因となる。
「ジャガンナートの効果はまだ終らないからね?クリシュナにボイドからコアを置く。そして、クリシュナの神技を発動、ジャガンナートを回復させる」
「ジャガンナートの効果で増えた分と白魔神と合体した分。合計で4つシンボルがあるスピリットが回復までしたのか…」
これには外野も冷や汗をかく程だ。実在化したジャガンナートの迫力は凄まじく、対峙していなくとも恐怖の対象としては充分であった。
「さぁ、このアタックは?」
「仕方ない、ライフで受けるよ」
ジャガンナートは容赦なく子傘のライフを抉り取る。その一撃に子傘は思わず苦悶の表情を浮かべる。
「最後!ジャガンナート再びアタックッ!」
「ライフで…受けるっ」
「あー、まだ痛いんだけど…」
「仕方ない。で、どうだった?これが今後戦うかもしれない舞台だよ」
「私が…あそこで…」
先程のバトルを見せられて今後自分が戦うとなったとき、何を最初に想像するだろうか。多くの者は先程の子傘と未来の自分を重ねるだろう。そして恐怖を覚えるだろう。しかし心結は違った。
「私も、私もはやくあそこで戦いたい。楽しみです」
「あれ、そこは普通怖がるとこなんだけどな…」
どうしてだろうか、心結に恐怖は無かった。それよりも目の前で繰り広げられた戦いに胸が踊るような、そんな感覚を得ていた。自分の相棒とでも呼ぶべきスピリット達が躍動する、そんな姿を心結は本気で楽しみにしている。
無論痛みに対する恐怖が全くないという訳ではないだろう。単純な足し引きの話だ。恐怖より楽しみが勝ったというだけ。これを一人は戦闘狂と言うだろうか。これを一人は変わってると言うだろうか。しかしそんな事は関係ない。
ついに始まる最強を決める祭典
かなたへの旅路は始まったばかりだろう
のぼる気持ちを抑え星々は大地へと終わりを迎え行く
間語りにはできすぎたそれは
のぞんだ結末を運ぶ
幸あらん事を。これは君にとって最高の
せかいのげんそうなのだから