――静寂。
まるで、裁判所のように周囲に人が取り囲み、魔法陣に立たされる彼を眺める中。一つの声が、静寂を破る。
「――では、盾の勇者に対する罪状を告げる」
途端、何処からともなく聞こえてくる野次。
それらはすべて、盾の勇者、岩谷尚文に向けられた者だった。
『やはり、盾が召喚されることなど間違っておったのだ』『なぜ王国は盾などを...』『ふ、所詮奴等が信仰する盾などこんな者なのだ』『漸く忌々しい盾が歴史から潰えるのか...』『盾の末路を眺めれるとは、実に滑稽な事だな』『......にしても、罪状がな、アレだ』
「次期女王、マイン・スフィアに対する性行為の強要、王国の信頼を著しく害したなどの余罪も以て......」
勿論、岩谷尚文はそのような行為をしていないのだが。
だが世界、時代での勝者は権力者である。
この国では、剣、弓、槍の勇者を神とする三勇教を国教としている為、国民には広く三勇教が信仰されている。
その為、盾が下醜と視られる風習がごく普通。当たり前のように広まっているのだ。
そして、彼は盾の勇者としてこの世界に召喚されたただのオタク気質を持つ学生。
「――性転換の刑に処す。」
マイン、と呼ばれた少女が台に上がり、盾の勇者への証言を上げる。民衆から聴こえてくる声は、盾の勇者を処刑にしてしまえ、と行った声や罪状が生温いという意見など実に様々。
その声に答えるかのように偽りの王、オルトクレイは声を上げた。
「本来なら極刑を与えるべきではあるが...」
民衆の声が静まるのを待ち、そして言葉を続ける。
「このご沙汰は我が娘、マインの別格の温情によるものだ。決してワシが決めた物では無い」
――完全に填められたようだ。
......地雷と言う名の裏切りに。
『さすが次期王女様だ!』『次期王女?メルティ=メルマロクが継承権一位じゃ...?』『この慈悲によって継承権が上がったらしいぞ?』『いや、にしても...』『やめとけ、国から粛清される...大人しく喜べば良いんだよ、俺達は、ほら。』
おー!っと、民衆から声が上がる中、盾の勇者は絶望する。この国に、世界に。
周りを取り囲む人々に、そしてまるで他人事のように安全な場所から自身の事を眺め、面白がる勇者達に。
『あっははは、はははは!見ろ、尚文、性転換の刑罰だってよ、アイツが女だぜ?女!』
槍の勇者は、面白可笑しく尚文を眺め笑い倒す。
『元康さん、面白いのは分かりますが......余り笑わないであげましょうよ...』
弓の勇者は、外面では中立を装い、内面では尚文を見て醜く笑っている。
『いやー、これをどうやって笑わずにいられると?』
『......俺達も、いずれ尚文のようになるかもしれないぞ?ここは異世界だ。言っている事は分かるな?』
剣の勇者は保身ばかりに目が行き、尚文の事などに目を向けない。
『ん?お前まだ冤罪がどうとか言っているのか?マインがあんなに泣いていたのにか?』
『確率の話だ。中学数学で習っただろそれくらい?勉強をサボっていた訳でもないだろうに』
そんな自己中心的な、欠陥だらけの勇者達に。
尚文は絶望した。
『お、そろそろみたいだぜ?......って、え?』
ピカッと魔法陣が発光し、ジワジワと尚文の体力が削られる。身体中が痺れ、傷みが体を襲う。
「――っ!!」
痛みから声を上げ、転げ回ろうとするがそれも三勇教に阻まれる。
尚文はただ、声を上げる事しか出来ない。
『......!おい、マイン!?』
槍の勇者が声を上げ、マインに問いただす。
だが、それも薄い言葉に言いくるめられてしまう。
「不手際があったようですわ、どうやら盾の防御力が高く、体力を削らないと呪いをかける事が出来ないと教皇様がおっしゃって...」
瞬間、周囲を光が包んだ。黒い塊が尚文を包み、形を変えてゆく。まるで、身体を書き換えるように。
「あぅ......あ、がぁ...」
尚文の意識が暗転する。
「やっ、やりました!成功です!」
何処からともなくそう声が聞こえた後、魔法陣の光が消え、中から意識がない状態で尚文が表れた。
その姿は少し前のごく普通な青年とは大きく違い、遠目で眺めても分かる程美しい外見の少女だった。
......勇者たちは知らない。
この刑罰が、本来在るべき世界を変えてしまった事を。
この選択が、大きな戦乱を招いてしまう事を。