2095:逢魔再臨 作:常磐ソウゴ推進派Quartzer
三度目の高校生活は友人に恵まれ、順風満帆のように思えた。
しかし、一科生と二科生のいざこざに巻き込まれ、そこへ生徒会長や風紀委員会まで現れた。
まるで事件を引き寄せているのかと思うほどだが、それとは別にまた新たな騒動が起こり始める。
様々な事件に巻き込まれる我が魔王の未来はどうなる?
「私は風紀委員の渡辺摩利。さっきまで起こってた争いについて話がある」
渡辺摩利と名乗った女子生徒は既に起動式を展開している。ここで抵抗すれば実力行使で連れていくということだろう。
摩利の雰囲気に飲まれた一年生は蛇に睨まれた蛙の如く硬直している。そんな一年が大半の中、達也が摩利の前へ躍り出る。
「すみません、悪ふざけが過ぎました」
「悪ふざけだと?」
「ええ、森崎一門の『クイックドロウ』は有名ですから、後学の為にと見せてもらったんです。ですが、彼があまりにも真に迫っていたものでつい手が出てしまったんです」
エリカと森崎に視線を巡らすと摩利は達也の言い訳に冷笑を浮かべてる。
「では、そこの男子生徒がもう一人の男子生徒に行った件とそちらの女子生徒が攻撃魔法を発動しようとした件はどうなんだ?」
「女子生徒の方は攻撃魔法と言っても目眩まし程度の閃光魔法。咄嗟の争いに反応して発動してしまったのでしょう。流石は一科生、条件反射で起動プロセスを実行するとは」
「ほう…君は展開された起動式が読み取れるようだな」
「実技は苦手ですが、分析は得意なので」
達也は事も無げに言っているが最低でも三万字にもなる起動式を読み取るというのは常人では不可能と言ってもいい。
そんな達也を摩利は値踏みするように見詰めた後、ウォズの方を向く。
「それで君はどうなんだ?そこの一科生を組伏せていたが」
「ソウゴ君にCADが向けられたから無意識の内に」
「まるでボディーガードのようだな?」
「そんな大したものではありません」
ウォズは摩利の問い詰めるような目線を涼しげに受け流している。ウォズの飄々とした態度にこれ以上は聞き出せないと思ったのか会話を打ち切った。
「摩利もそれくらいでいいんじゃない?達也君、本当に見学だったのよね?」
達也の名前呼びに深雪はムッとするが真由美の出した助け船を無碍に出来ない。達也が静かに頷くと真由美は『貸し1つ』とでも言いたげな笑みを浮かべる。
「生徒同士で教え合うことが禁止されている訳ではありませんが、魔法の行使には細かい規則があります。これについては一学期の授業で教わる範囲ですので、それまでは魔法を行う自主学習は控えた方がいいでしょう」
「会長もこう仰られるので不問としますが、今後はこのような事が起きないように努めるように」
そう言って去ろうとする摩利と真由美に呉越同舟ながら皆が姿勢を正して頭を下げる。しかし、摩利が途中で歩みを止め、背を向けたまま問いかける。
「そういえば、君たち二人の名前は?」
「E組の司波達也です」
「A組のウォズです」
「……覚えておこう」
二人の名前を聞き終えると摩利もその場から居なくなった。その場を支配していた重苦しい空気が失くなると一同は深く息をした。
その後、森崎駿という一科生と達也のやり取りが合ったが一科生達もこれ以上は深雪に付きまとうのは止めて解散した。
「お兄様、そろそろ帰りませんか?」
「ああ、ソウゴたちもいいか?」
「俺は大丈夫だよ。帰るよウォズ」
「その前に彼女達が話したいそうだよ」
「ウォズの友達?」
「同じクラスメイトではあるね」
ウォズの隣に居るのは二人の女子生徒。その内の一人は達也が展開された起動式を読み取った女子生徒だった。
「あ、あの!先程はありがとうございました!森崎君はああ言ってましたけど大事にならなったのはお兄さんのおかげです」
先程まで居た一科生とは真逆の態度に二科生の皆は呆然とした。達也も予想外だったようで、少し戸惑ったような素振りを見せた後に会話を続けた。
「どういたしたして。でも、お兄さんは止めてくれ。これでも同じ一年生なんだから」
「では、何てお呼びすれば?」
「達也でいいから」
「分かりました。それで……その……私たちも駅までご一緒しても宜しいですか?」
恐る恐る同行を提案した女子生徒。達也達も特に邪険にする理由もないので彼女達と一緒に駅へ向かうこととなった。
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駅までの帰り道は少し混沌としていた。主に一科生、二科生、ソウゴ達の3グループから女子達が集結して、ソウゴ達男子生徒の前を歩きながら楽しそうに話している。
「じゃあ、深雪さんのCADの調整は達也さんがなさってるのですね」
「ええ、お兄様に任せるのが一番安心ですから」
「へぇー!達也君『も』CADの調整が出来るんだね」
「ツクヨミさんも誰かにCADの調整を?」
「昨日が初めてだったんだけどね?ソウゴ君に調整して貰ったの!そしたら、いつもより調子が良かったんだ」
「ソウゴ、お前も魔工技師を目指してるのか?」
ツクヨミの発言に興味を持った達也がソウゴにそう質問した。
「いや、CADの調整は興味本意だよ?『ウチ時計屋なんだけど』、昔から時計以外の修理を頼む人が来るんだよ。だから、いつかCADを修理してって来る人を警戒して先に学んだわけ」
「………それ、断ればよくないか?」
「前店主からこんな感じだからもう伝統なんだよ」
「CADといえばエリカやソウゴにウォズは珍しいタイプのを持ってるな」
「なになに、私のホウキ*1も調整してくれるの?」
「流石にそんな特殊な形状の物を調整する自信はないよ」
エリカが取り出したのは先程の言い争いで森崎のCADを弾き飛ばした警棒。それをCADだと認識してなかった面々は驚きの表情をする。
「ソウゴのは時計型の特化型でウォズは汎用型か?」
ソウゴの腕には金と黒の腕時計。ウォズには半世紀程前によく使われていた複数のアプリが入っているタイプの腕時計がある。
「よく分かるね。自分は補助機みたいな扱い方だけどね」
「それらのメンテナンスはソウゴがしてるのか?それらって半世紀以上前の初期型CADに近いんじゃないか?」
「まあね、こんな骨董品に片足突っ込んでる物を見てくれる人は殆んどいないから」
それからは達也とソウゴのCADの談義が始まり、皆もそれに興味があったのか目的地に辿り着くまで二人の会話が続いた。
「それじゃあ、自分達は用事があるから」
「ああ、また明日」
司波兄妹と二科生組は電車で一科生の女子生徒、光井ほのかと北山雫は自家用車で帰っていった。
ソウゴ達は帰る前に今日の夕飯の買い出しなどの為に彼らとは別に帰ることとした。
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「今日はシチュー!」
「作り置きが出来るし、明日の朝もこれでいいからね」
「ちなみに我が魔王に負担を掛けないために食事当番などの家事は交代制だ」
「私、あんまり料理できないよ?」
「ツクヨミには俺が教えるよ」
「ソウゴ君が教えてくれるの?やった!」
大量の食材や日用品を買い足した為、大荷物になってしまい電車よりも車の方が良いとの事でターミナルで車を待っていた。
『きゃあー!!』
「!今の声は?!」
突如、三人の耳に女性の甲高い悲鳴声が聞こえた。周囲の人達もその悲鳴が聞こえたようでざわついている。
「ウォズ、ツクヨミを頼んだ」
「了解した」
「ソウゴも気を付けてね?」
「ああ」
悲鳴の上がった場所へ向かうと先日のアナザー・ビルドが女性へフルボトルを向けてフルボトルへ変換していた。
「ちっ!遅かったか!」
既にアナザー・ビルドは別の人物に標的を定め始めている。野次馬が増えればそれだけアナザー・ビルドの被害者が出やすくなる。
「変身!」
『はぁ!!』
『…!?』
『早速だけど場所を移させて貰う!』
アナザー・ビルドの背後に灰色のオーロラのような物が出現する。それはディケイドであった門矢士がよく使用していたものと一緒である。
ジオウはジカンギレードでアナザー・ビルドをオーロラへ斬り飛ばし、自分もその後に続く。
オーロラを通るとそこは廃工場で周りには人影はなく、ここなら野次馬が集まる事はないだろう。
『何故、私の邪魔をする。これはこの街の為に必要な事だ』
『アンタ、自我を失ってないのか?』
『先日の話か…あの少女にはすまないことをした。あれが初めての変身でな、暴走についてもあの時に知った。止めてくれたお前にも礼を言う』
『……なんで、アンタみたいな人がその力を必要とする』
『この街に蔓延る奴らを駆逐するため』
『その力は誰から受け取った?』
『白いスーツのセールスマンだ。詳しくは私も知らんが
先日の一件とは違って落ち着いた言動からは理性を失ってないない変身者の人間性が垣間見えた。アナザー・ウィザードのようなジオウに対する害意はほぼ感じない。
『やっぱり、その力は使わせない。それ以上はアンタの身体が危険だからな!』
『優しいな……だが、私は身体が崩壊しようとこの街から奴らを駆逐する為にこの力を手放すわけにはいかんのだ!』
アナザー・ビルドのベルトからプランナーが延びるとドリル状の剣『ドリルクラッシャー』が形成された。
『何でそこまでしてその力に固執する。暴走するのはアンタも望んでないはずだ!』
『私には力が無い!奴らを止めるには力が必要なんだ!』
工場内には金属同士の衝突する音が響く。ジオウもドリルクラッシャーにジカンギレードで対抗する。
しかし、常回転するドリルクラッシャーに攻撃を上手く逸らされ、アナザー・ビルドへ攻撃が届いていない。
『強いな、これでも剣術には自信があったのだが…』
『(…暴走状態とは別で厄介だ。さっきから攻撃を見極められてる。しかも、攻撃を止めれば的確にそこを突いてくるからビルドアーマーに変身できないな…)』
『グッ………こ、これ以上は暴走の可能性がある。それに私は君と戦いたくない。なら、戦闘は無意味だ』
アナザー・ビルドは二つのフルボトルを取り出すとベルトに取り付けた。
ベルトのレバーを回して回転させると工場が揺れ始め、天井から色々なものが落下してくる。長らく放置されていた工場はギシギシと音を立てる。
『はぁぁぁぁ!!』
『系統魔法のフルボトル!工場ごと押し潰すつもりか!?』
『ジオウ……気を付けろ、この街は既に悪に汚染されている…』
『待て!………消えた、逃げられたか』
追おうとするが二人の間に瓦礫が落ち、それを避けるために下がるとアナザー・ビルドの姿はもう無い。工場の倒壊は始まっている為、それ以上の追跡を止めた。
『アナザー・ビルドは何と戦っている?……いや、それよりも今はここを離れないと』
遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。恐らく、先程の工場が倒壊した音で通報が入ったのだろう。
ウォッチを放り、変形したライドストライカーに跨がると足早に現場を去った。後には残ったのは跡形もなく崩れた廃工場。その日の夕方にはニュースで倒壊事故として報道されるのだった。
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『本日のニュースです。近頃、魔法師が行方不明になる事件が多発しています。魔法師の皆さんはお出掛けの際は一人で出歩かず、多人数での行動を心掛け』
「騒ぎが大きくなりつつある。それにアナザーライダーも活動を開始したか。……被験体にネビュラ・ガスを注入しろ」
「んーー!!」
「さぁ…お楽しみはこれからだ…」