一夏ちゃん視点
少し不測のトラブルはあったが私は今、とても幸せを感じている。束さんとハタキさんの協力で薫君と納涼祭を堪能出来ているからだ
正直、だいぶ良くはなったとはいえ私のトラウマが完全に消えた訳ではないので、あのチンピラの出現は度し難い事ではあったが、私を背に庇い守ってくれる薫君の姿は、とても格好良くて惚れ直してしまうぐらいの威力は軽く有った
あぁ、私は幸せだ。 こんな私を大切にしてくれる人が側にいてくれるのだから
さてさて、幸せを噛み締めつつ考える。 そう、そろそろ次の段階に進んでも良くない?って
だって、薫君とお付き合いを始めて約2か月が経過したし、私の両親にも薫君の両親にも挨拶したんだし? もう少し先の段階に進んでも良いと思うんだ
確かに良くなってきているとは言え、私のトラウマは完治してはいない。そもそもトラウマが完治するかは分からないけど、まぁ良くなっている、間違いなく
うんまぁ、恋のABC的なアレで言うなら、いきなりCは無理でも せめてAには到達したい
だってトラウマが有って中途半端な存在とは私は現役女子高生、人並みに興味はあるし、色々な感情とか煩悩も持っている
かと言って誰かに相談できないって言うか気不味くてしたくない
特に姉さんと束さんは論外、何しでかすか分かった物じゃないからね、うん
「大丈夫? 一夏さん」
「うん、大丈夫。ありがとう」
煩悩を練りに練っていたら薫君が心配して声を掛けてくれたので何事も無かった様にジークさんの仕事ぶりに困惑したフリをして返事をする
そういえば束さん大丈夫かな? 神事前に神酒を
本人曰く『酔うのも早いけど、醒めるのも早いから大丈夫! 』とか言っていたけど、どこまで信用できるやら
と、そこまで考えて神楽舞の事を思い出し
「あ、薫君。 神楽舞を見に行こう? 今年しか見れない今年だけの神楽舞なんだ」
「特別演目みたいな感じなのかな? 分かった、行こう」
私の提案に薫君は頷き、ニコリと笑む。私は彼と腕を組み、神楽舞のやるヤグラへと移動する
神楽舞は毎年納涼祭の時に奉納される、私は物心ついた時から毎年欠かさずに それを見てきた、箒が舞える様になるまでは束さんが花形で神楽舞を奉納していたのを覚えている
そして今日、束さんは花形を箒に譲り自分は脇へ移ると教えてくれた
人混みを乗り越えて漸くヤグラへと辿り着くと、何とか間に合った様で緊張した面持ちの箒と久しぶりに真面目な表情の束さんが巫女装束で裾から出て来た所だった
「あ、ギリギリ間に合ったみたい」
「あれは・・・篠ノ之さんと篠ノ之博士? 」
薫君は少し意外そうな表情をしているのはなんでだろう? とか考えていると音楽が流れ始めシャンシャンと音楽に合わせて神楽鈴を鳴らし2人は舞う
「流石は束さん、寸分のズレ無く箒の動きに合わせてる」
「そうなんだ」
束は世間一般には科学者や発明家、つまりインドアで頭脳労働専門の運動能力は並みか並み以下なイメージに思われがちだけど、実際は違う
姉さんとガチな殴り合いの喧嘩をして対等に渡り合えるぐらい運動能力は高い
中身入り未開封の缶ビールを握り潰せるのは、そうそう居ないと思うけど姉さんと束さんは潰せるんだよなぁ
そんなこんなで2人の神楽舞を目に焼き付ける事が出来て良かったな、と思っていると
「凄かったね、毎度やってるの? 」
「そうだね、去年は箒の従姉妹の子とかがやってたよ? 」
薫君が尋ねてきたので軽く説明をして、薫君の手を引きアル場所へ誘う
本来は立ち入り禁止の場所なんだけど、土地の所有者であるハタキさんに許可を貰っているので大丈夫だし、誰の邪魔も入らない穴場だ
篠ノ之家 家屋の有る居住区の門を抜け建物沿いに敷地を回り裏手の小道を進むと東家へ辿り着く
「・・・凄い」
「凄いでしょ? 此処から見える風景は絶景なんだ」
昼間の風景も絶景なんだけど、夜景は もっと絶景で是非 薫君に見せたかったんだよね
「あ、薫君。あっち見えるのがIS学園の光だよ」
「へぇ、結構見えるもんなんだね」
私が指差した先を薫君は言い微笑んで
「 一夏さん、俺はIS学園に入学して良かったって思う」
「うん」
薫君は少し真剣な表情になり言う
「最初は、なんで俺が? って思ったし、大変な事も有ったし、有るけれど。俺は君と出会う事が出来た、IS学園に入学していなければ俺は君に出会う事が出来なかったと思う、だから俺はIS学園に入学して良かったって思う」
「うん、私も君に会えて良かった。ありがとう薫君」
と私が薫君へ言うと、彼は私を優しく抱きしめる
あぁ、そんな事されたら私の方が我慢出来ないよ薫君!! とは言うわけにもいかないが、雰囲気は最高な訳で、ね?
身体が離れ見つめ合い、自然と互いの顔が近くなり唇が触れ合った瞬間、夜空に花が咲き明るく彩り、私達を照らす
あぁ、私は幸せだ、こんなに素晴らしい恋人を持って幸せだ
まだこれ以上の事は出来ないけれど、いつかはきっと大丈夫になる筈だ
そんな願いを抱きつつ私は薫君に寄り添い夜空を彩る花火をながめる
お待たせしました
多分、次から2学期にはいります。多分