クラス代表を決する為の模擬戦が終わり1人、更衣室のシャワーを浴び私は思いにふける
模擬戦で負けた、それも徹底的に、だ
負けた事に言い訳など出来ない、模擬戦で負けたと言う事実は変わらないのだから
負けた理由、それは単に私が彼を・・・八月一日 薫を見下し、素人だからと碌に情報を収集しなかったのが原因
それに彼には優秀な参謀の様な人が居たのだろう、で無ければブルーティアーズの武装情報や特性を理解し、長所を潰しに来れるとは思えない
アンチレーザースモークと言う高価で使い所がピンポイントな代物を大量に用意し、使い方を教える事の出来る人物が
「・・・八月一日 薫 」
絶え間なく流れる お湯を見つめながら私は彼の名を呟く
今は亡き父と違い、自分の意思と決意を秘める眼をした男性
父は母に頭が上がらない人だった、婿養子 故に母を立てていたのかも知れないが、それを差し引いても父は頼りなかった
いつも母の顔色を伺ってばかりいた父を見て、私は父を見下す様になっていった、ISが世に出てからは特に
だから私は世の男性が全て父と同じと考えていたし、これまで出会った男性は皆 そう だった
しかし、例外も存在する と今日知ることが出来た。彼のお陰で自分の未熟さを自覚出来たのだから感謝しなければならない
決して夫婦仲が良くなかった様に見えた両親が旅行に行き事故死してしまってから今日まで遺産を目当てにすり寄ってきた
いつの間にか見えなくなっていたモノが彼に敗れた事で再び見える様になった気がしている
「貴方には、もっともっと強くなって貰わねば」
蛇口を捻りお湯を止め呟く、彼には悪いが彼には私の好敵手になってもらうこにしよう
ゆくゆくはモンドグロッソで対戦するのも良いかも知れない
そんな事を考えながらシャワー室から出て身支度を整えて更衣室を出ると外は既に茜色に染まっていたので、だいぶ長い時間シャワーを浴びていた様だ
それから寮へ向かって歩いていると、噴水の淵に金色に光るナニカを置き、カメラで撮影しているクラスメイトを発見してしまう
初代世界最強のIS乗り ブリュンヒルデ 織斑 千冬の実妹、織斑 一夏、普段は大人しく温和な雰囲気を纏っているが、怒ると男性の様な口調になる人
その彼女が何故か金色に輝く人型のナニカを弄っては撮影し、弄っては撮影しを繰り返している
流石に無視して通りすぎる訳にもいかないので
「御機嫌よう織斑さん、何をしているのですか? 」
努めて笑顔で彼女に尋ねると
「あ、オルコットさん こんばんは? 次のガンプラのフォトコンテストに出す写真を撮ってたんだ」
彼女は黄金に輝く人型のナニカに劣らない輝く笑顔で言う、眩しい
しっかりとしていて大人しいイメージだった彼女が無邪気に話す姿は、とても眩しく感じる、私が何処かに置き去りにしてしまったモノの様な気がして直視しづらい
「そうですか、ガンプラ・・・か」
私は黄金のガンプラに眼を落とし見て呟くと
「模擬戦、お疲れ様。オルコットさんは色々と背負ってる顔をしてるね? 」
彼女は手袋をした手で黄金のガンプラのポーズ調整をしながら私に言う、その言葉を聞いて、この人は何なんだ? と思う
1週間足らずでしかも数回会話した程度で、私が何かを背負っている事を見抜かれた、その事に驚愕してしまい言葉が出ずにいると
「ガンプラとか作ってみない? 私が持ち込んだキットが まだ結構な数あるから、分けられるし」
彼女はポーズ調整を終え、カメラのシャッターを切りながら言う
私は彼女にも失礼な物言いをした筈なのに、彼女は気にする様子も無く私を誘ってくれる、その懐の深さに感謝する
「・・・そう、ですわね。ありがとうございます織斑さん、これは何と言う名前なのですか? 」
今まで利用価値で選んで来た友人、だが私は初めて損得関係無しに この人と友達になりたい と思えた、だから その一歩として彼女が好きなモノの事を知ろうと黄金のガンプラの事を尋ねる
「これは百式って言うんだ、ちゃんと鏡面仕上げにする為に加工もしたんだよ? 」
にっこにこ して百式の事を喋り始める彼女を見ていて私に欠けていたモノが満たされて行く様な感覚を覚える
もう7割ぐらい彼女の説明が分からないが、彼女が笑顔なら良しとしよう
とりあえず私もガンプラを始めてみよう、息抜きも必要だ
少し短いですが、お許しを
ようこそ沼へ 、 歓迎しよう セシリア・オルコット