一夏ちゃんは戦わない   作:銭湯妖精 島風

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見守る兎

 

 

薄暗い部屋の中、空間に投影された表示枠(サインフレーム)に映る映像を見ながら薄紫色の髪をした美女は人を堕落させそうなソファに座り

 

「今日も いーちゃん は大丈夫そうだね、良きかな良きかな」

 

彼女は安堵した様に呟き、微笑む

 

「束様、一夏の周囲100m範囲に危険因子は確認出来ません」

 

彼女の背後に控えた赤毛で長身の美青年が複数展開された表示枠を見ながら束と呼ばれた美女へ告げる

 

「そっか、ありがとうジー君」

 

「いえ、これが与えられた任務ですから」

 

束の言葉に短く事務的に答える ジー君と呼ばれた青年は姿勢正しく表示枠のチェックを続ける

 

「君は実に真面目だなぁ〜、そこは君の良い所であり、悪い所だね?」

 

にっこにこにー と笑む束に言われたジークフリート(ジー君)は表情を崩さずに

 

「そうなのですか?」

 

と束へ聞き返す

 

「そうだよ〜」

 

束の言葉に少し不服そうな表情になったジークフリートを知ってか知らずか束は表示枠に映る一夏へ再び意識を戻し

 

 

「さてさて、いーちゃん の目的地は・・・あぁ、庵さんの所か。なるほどなるほど」

 

束は一夏の目的地に気付き呟く、彼女もまた一夏と同類のビルダーであり、織部模型店の店主、庵を一夏と同じく師としている

 

彼女が本気を出せば原作を忠実に再現したモビルスーツそのものを創り出すのは造作も無い事だろう、しかし彼女は創り出す事をしない。その理由は純粋に兵器を作る気が彼女に無いからだ

 

代わりに世界が歪む原因になったISを生み出す訳だが、彼女は宇宙開発の為の翼を作っただけで他意はなかった。ただ天才故に技術が何十年単位で先んじてしまっただけなのだから

 

 

「庵さんの所なら安心だね、箒ちゃんは・・・校外試合中っと」

 

空間投影された表示枠が増え、束の溺愛する愛妹(ほうき)の姿が映り、束は妹の成長を感じ嬉しそうにしている

 

「強くなったね箒ちゃん、このまま行けば私の絶頂期は終え、箒ちゃんの絶頂期が重なって良い試合が出来るかも、楽しみだなぁ」

 

同じ剣術を受け継いでいる姉として、妹の最期の壁となりたいと願う姉心を彼女は抱き、成長した妹に負ける事を望む

 

天才故に、天災故に、負けを知る事を彼女は願う

 

 

「いーちゃん も 箒ちゃんも元気な様で良かった」

 

束は優しい眼差しを表示枠に映る2人に向けて呟き

 

「あぁ、そう言えば・・・いーちゃん と件の彼に手を出そうとした生ゴミはどうなったかな? 」

 

先程までの優しい笑みは消え失せ、笑みは浮かべているが そこには殺気が満ちている

 

「例の輩でしたら、現在始末の為に下準備をしています。束様立案の例の作戦です」

 

ジークフリートは束の殺気に気を止める事なく質問に答える

 

「そうだ、そうだったね? 生ゴミとは言え足が付くと面倒だし、バレたら いーちゃん や 箒ちゃんに嫌われちゃうからね、気をつけて始末しなきゃ」

 

束はソファから立ち上がり、芝居掛かった仕草でジークフリートへ言う

 

 

「全てはお御心のままに」

 

ジークフリートは束を真っ直ぐに見て言う

 

「ふふふ、スケープゴートは? 」

 

束は嬉しそうに笑みジークフリートへ尋ねる

 

「全5機製作中の内3機が完成、いつでも投入出来ます」

 

表示枠の情報を見てジークフリートは答える

 

「なるほど、間に合いそうだね? 」

 

「はい、ファフナーもアインからエルフまで調整が完了しています」

 

 

ジークフリートの言葉を聞き、束は上機嫌になり

 

「そっか、なら近い内に演習しようか、君もぶっつけ本番は嫌でしょ? 」

 

クスクスと笑み束はジークフリートへ尋ねる

 

「万全を期すなら演習は必須かと考えます」

 

そんな事務的な答えを返すジークフリートへ笑みを浮かべ

 

「ん〜やっぱ、ジー君は最高だね! いつになったら束さんの嫁になってくれるんだい? 」

 

「お戯れを、俺程度が束様の伴侶になるなど烏滸がましいにも程が有ります」

 

束は全身を使いジークフリートへ愛を表現するがジークフリートは表情を変えずに束へ言う

 

「もー、ジー君は自己評価が低いよー? ジー君はイケメンで仕事も出来るし、ガンプラ作りも上手いし、料理と掃除も出来る、完璧な男じゃないか! 」

 

束はジークフリートに注意する様に、言い聞かせる様に言う

 

「お言葉ですが束様、貴女も出来るではありませんか、故に凄い長所ではないと考えますが? 」

 

ジークフリートは表情を変えずに真顔で束に言う

 

「いやいやいや、普通じゃないからね? 立派に長所だよ、それに私は片付けは苦手だし、色々とやらかしてるから碌な死に方しないと思うよ? 」

 

そんなよく分からない問答が2時間程続き、銀髪の美少女(クロエ)が部屋へ入ってきて

 

「束様、お兄様、夕食が出来ました・・・何をされているのですか? 」

 

2人の問答を見て困惑するのは仕方ない事だ

 

結局、クロエが束の味方をした事で一応の収束を迎えたのだった

 

 





ちょっと挟みたくなったので、入れてみました


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