一夏ちゃんは戦わない   作:銭湯妖精 島風

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涙と最初の授業

 

 

 

意を決して箒の席へ歩む事 数歩、私をジッと見ている彼女の正面に立ち何とも言えない緊張感を味わいながら口を開く

 

「久しぶり箒、此処だと落ち着かないから移動しない?」

 

内心、心臓がバクバクしているが彼女には悟られない様に勤めて言うと

 

「・・・仕方ないな、屋上に行こう。彼処なら邪魔も入るまい」

 

と鋭い気配を纏ったまま提案し、席を立って歩んでいく

 

とりあえず無言で箒の後に続き、お互い無言のまま屋上に辿りついて

 

 

「え、えーっと・・・改めて、久しぶり箒」

 

久しぶりに会う幼馴染(ほうき)のオーラに少し圧倒されかけるが、勤めて笑顔で彼女へ言うと

 

「・・・貴様、本当に一夏なのか? 本当に私の幼馴染の織斑 一夏なのか? 」

 

箒の纏うオーラが人を2〜3人斬った事のある武士様なモノに変わり少し怖いが我慢して

 

「そうだよ? 今詳しくは話す時間が無いから省くけど、私は正真正銘 織斑 一夏だよ。あ、そうだ私と箒しか知らない秘密の話を・・・」

 

念の為に私達2人しか知らない秘密の話を箒に耳打ちすると、オーラは消え失せ、箒は目に涙を浮かべる

 

「それを知っているのならば、お前は幼馴染の一夏だ・・・うぅ・・・一夏・・・なんで」

 

そう呟き箒はポロポロと涙を流し始めてしまい私は、どうしたものかと慌ててポケットからハンカチを取り出して彼女の涙を拭くと

 

「お前は変わらず優しいな一夏」

 

安心した様な表情で私を見て言う箒に

 

「目の前で幼馴染が泣いてるんだから、当たり前じゃないかな? 」

 

 

と思っている事を、そのまま伝えると箒はクスリと笑い

 

「そうだな、お前は そういう奴だ。いつ お前が(そう)なったかは私には分からないが、自分が大変だろうに 他人(わたし)に優しくしてくれる・・・本当に お前って奴は 」

 

そう箒は嬉しそうに、ほんの少し呆れた様に言う

 

「それ、褒めてる? 」

 

私は少し茶化す様に言い肩を竦める

 

「あぁ、褒めているとも」

 

箒は笑んで言い頷く、やはり箒は笑顔の方が似合う

 

確かに箒は、ラスト侍みたいな剣術少女で口下手で感情表現が苦手で他人とのコミュニケーションが苦手だが、根は良い娘だ

 

昔はよく衝突もしたが、今では良い思い出だと思う

 

と少し思い出に浸っていると予鈴が鳴ったので

 

「あ、予鈴だ。戻ろうか箒」

 

「そうだな、ありがとう一夏」

 

「どういたしたして? 」

 

なんかスッキリした表情の箒に突然お礼を言われ不思議な気持ちになって変な返答をして教室に戻る

 

とりあえず箒からピリピリと言うかトゲトゲしたオーラが消えたから多分、クラスメイトも話しかけやすくなった筈だし少しは友達も出来るかな?

 

まぁ私は箒の事を心配していられる程 余裕は無いけどね、うん

 

それから教室に戻って授業を受ける

 

1時間目の授業の内容は、ISの基礎中の基礎 ISの成り立ちや開発者の事を習う

 

ISの開発者の名は篠ノ之 束、箒の実姉であり私の姉 千冬の親友であり、私の恩人

 

心身共に満身創痍の私を姉がドイツで教官をしている1年もの間、面倒を見てくれた私にとって2人目の姉の様な存在だ

 

決して無理に連れ出そうとせず、女の身体に戸惑う私を優しく女のイロハ、言葉遣いや立ち振る舞いを教えてくれ、彼女が気晴らしになるかもと、教えてくれた整備技術は私の目標となり道標になり私に夢を与えてくれた、感謝してもし足りない

 

さて、そんなISの基礎の基礎を学ぶ最初の授業だがIS学園を受験するにあたって知っていて当たり前の知識、つまり復習に近い内容な訳だが、私の隣に座る彼は仕切りに首を傾げては両隣(私と箒)を見て更に首を傾げる、その様子を見て少し疑問に思いつつ ある事に気がつく。彼の机の上には必読の参考書が無い

 

参考書は専門用語の辞書の様な意味もある、というかペラ紙の厚さが5㎝を超える参考書に記載されている全ての専門用語を高々三か月程度で丸暗記なんて普通の人間には、ほぼ不可能だ

 

出来たら苦労しないし、知識だけならIS学園に通わなくても良いんじゃ? ってレベルになると思う

 

まぁそれは置いておいて、まさか初日から忘れ物をしたのか? と思っていると、彼の異変に気が付いた山田先生が彼へ

 

「八月一日 君、何か分からない所がありましたか? 何でも聞いてください 」

 

なんか教師らしく見える山田先生の言葉に彼は恐る恐ると言った表情をして

 

「・・・全部分かりません」

 

「 えぇ!? ぜ、全部ですか? 」

 

その言葉を聞き山田先生は見るからに取り乱して、姉は目付きが鋭くなり黒板の端の待機位置からツカツカと彼の方へ歩み寄り

 

「 八月一日、必読の参考書は読んだか? 」

 

姉は何故か私の机の前で止まり彼に問いかける

 

「必読の参考書、ですか? 」

 

彼は姉の問いに首を傾げて記憶を探る素ぶりをする

 

「すみません、どんなヤツですか? つい1週間前まで検査とか実験とかで よく分からない施設に居て制服とか教科書類も昨日貰ったので 」

 

と彼は困った様な表情で言う、彼の言葉が真実なら必読の参考書を読む時間なんて無かっただろうし、なんだか不憫に思える

 

そんなわけで姉の顔を見ると恐らく私と同じ様に察した表情をしていて、私の参考書を掴み彼へ見せ

 

「これだ、見覚えはあるか? 」

 

「・・・あ、あぁ それ辞書じゃ無かったんですね。すみません、色々と いっぱいいっぱいで読んでません」

 

と彼の言葉を聞き姉は軽く頭が痛そうにしながら参考書を私の机に置き

 

「いや、事情は分かった。八月一日、1週間で必要最低限の事を覚えよう。放課後に補習だ 」

 

「え? あ、はい」

 

正直、必要最低限でも1週間で覚えられるのか? って思うが、覚えないと授業はチンプンカンプンだろうからやらなきゃいけない

 

 

頑張れ八月一日 君、私は君を影ながら応援しているよ、ごめんね? 私は男性が苦手なんだ

 

かと言って、元男子だから女子と普通に話せる訳でも無いけどね?

 

 

 







漸く仕事が落ち着いて執筆時間がガッツリ作れました


ウチの一夏ちゃん、如何ですか?


もしかしたら、オリ男性搭乗者くん の名前を変更するかも知れません、ご容赦下さい


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