小さな角   作:エゥエゥ

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勢いあまってリメイクしました。今度は詰まらないようにしたいです。


オラリオ初日

  

 エイリルは今朝から、この世界で唯一ダンジョンがあるという迷宮都市オラリオで生計を立てていくことにしました。

 生計を立てる、といってもエイリルは成人もしていない子供です。そんな子供に職を任す仕事は限りなく少なくて、あったとしても後ろ暗いものばかりでした。しかしエイリルにはそんな仕事に興味はありません。

 オラリオでお金を稼ぐといったらもちろん、ダンジョンに挑む冒険者です。

 

 冒険者は神から【神の恩恵(ファルナ)】と呼ばれる特別な力を受け、その神の眷属となって、その神のファミリアに入る。その冒険者は只人以上の力を振るい、ダンジョンを探索する。

 冒険者とはそういうもので、そこに老も若いも大した違いになりません。

 

 もちろんファミリアに絶対入れるかなんて分かりません。しかもエイリルは少女のような容姿をした小さな少年です。ただでさえ冒険者は力が重要なのに、そんな子供を好んでファミリアに入れる神、あるいはそのファミリアの団長は少ないでしょう。

 

 しかし、エイリルだって何もしなかった訳ではありません。

 自分の住む村から、とある冒険者の商団に雇われる形で同行してこのオラリオまで来たのです。その間にエイリルはその商団から様々な冒険者としての技術を教わりました。武器だって小さい体ながら満足に振るって、体力だって人一倍多いことを自負しています。

 

 商団との旅で見た目だけで判断されぬように鍛えてきたのです。もし仮にそれで駄目だったらエイリルには、最終手段だってありました。

 それはその商団の所属するファミリアに入れてもらうことです。しかし悪魔で最終手段、『どこにも入れなかったらうちの所にこい』旅の道中で度々言われた言葉です。まだどこのファミリアにも行っていないので、意識する必要のない最終手段でしたが。

 

 「大丈夫です。優秀を求める大規模ファミリアや精鋭が欲しい小規模ファミリアならいざ知らず、比較的余裕のある中規模ファミリアなら問題ない筈です……!」

 

 エイリルは誰にでも言うのでなく、自分自身に向かってそう鼓舞しました。実はその心には今、自分に対する自信と他人の評価の不安が同居していたのです。

 "今まで自分はしっかりと努力してきた" "他人にはそれは分からない" "大丈夫、分かってくれる人はいます" "当然、分からないほうが多い"

 そんな風に肯定する自分と否定する自分に挟まれて苛まれた末に考え抜いた案が、余裕の多そうな中規模のファミリアに入れてもらうことでした。

 

 実際に入れてもらえるかは定かとして、【冒険者ギルド】という冒険者稼業と隣り合わせの組織に赴いて直接そこの役員に聞いた限りでは、エイリルの考えた案はおよそ悪くない物でした。

 聞いた話では【ミアハ・ファミリア】という神々の中でもお人好しと呼ばれる部類の神が主神の中規模ファミリアが順風満帆であり、尚且つ主神であるミアハは日頃から道行く冒険者にポーションと呼ばれる即効回復薬を配るほどにお人好しらしいという話です。

 

 それを聞いたエイリルはすぐさま自分の足で【ミアハ・ファミリア】の本拠(ホーム)に向かいました。これで入れてもらえたのなら御の字で徹頭徹尾に頼み込んでもダメなら、それでファミリアの入団について少しは勝手が分かって為になります。 

 

 そうして道を歩いていると、長くて深く青い後ろ髪を一房にして背中に流した長身の男が、中に液体が入った試験管を片手に如何にも冒険者という風貌の女性と話していました。

 男は女性の手を両手で握り何かを話していました。傍から見れば男が熱心に女性を口説いているように見えましたが、女性は男が持っていた試験管を受け取り去っていきました。女は赤い表情のまま何度も男の方を振り返ります。そんな女を男は見えなくなるまで手振って見送りました。

 

 冒険者の女が受け取った薬は十中八九、ポーションでしょう。冒険者が必要な薬と言えば間違いなくそれです。

 見ていた限りでは男と女の間には金銭的なやりとりは見えず、そうなると安価ではないポーションをタダで譲った事になります。そんなお人好しはそうそういないでしょう。そうなると男――男神の名前は予想通りならミアハになります。

 しかしそれは仮称、ただの予測です。本人に確認するまでは間違いかもわかりません。

 

 「ふむ、先ほどから視線を送る少女…いや少年か。そこで立ち止まってどうしたのだ?」

 

 少しばかり立ち止まって黙考していると、仮称ミアハが声柔らかに話しかけてきました。その眼差しは何処か慈愛を抱えており、エイリルの子供ながらの鋭さはこの神から立ち昇る"優しさ"とでも言うべきものを感じ取っていました。

 エイリルの中で仮称ミアハが推定ミアハに変わります。しかしそれでも推定です。本人の口から直接聞くまでは疑惑は解かれません。故にエイリルはすぐさま目の前の神に名前を聞きました。

 

 「私の名前を聞いてどうするか知らぬが、私の名前はミアハという」

 

 真摯に答えるミアハの言葉を聞いて、本当は自分の名前も言うのが礼儀というものなのですが、エイリルは緊張していたせいか、それよりも先に本来の目的が口を先走ってしまいました。

 

 「あ、あなたのファミリアに、私も入れて下さい!!」

 

 やってしまった。そんなやるせない気持ちが胸の内を閉めました。ミアハを見かけた少し前までは気さくな会話で好感を得ようと浅ましくも考えていたのですが、現実はそれ程までも毛先程も上手くいかなかったです。胸の中の不安が少しばかり大きくるのを、真っ白な頭の中で感じました。

 

 「おお、新規加入希望者だったか。大いに歓迎だとも、そうとなればさっそくファミリアに向かおう。着いてくるといい」

 「はい?」

 「さあこっちだ。なに、焦らずともゆっくりと足を進めればいいさ。その足は小さくとも、いずずれは私を追い越してくれるとも」

 

 そう言ってミアハは自身のファミリアの本拠(ホーム)に向かって歩き出しました。エイリルは確かな足取りでその背中を追いましたが、心の中では困惑と喜びと疑問と、とにかく沢山の感情がぶつかりあって理解が追い付いていませんでした。そういう事もあって道すがらのミアハの質問に、どうしても適当に返す事になってしまいました。

 

 それから、ファミリアの本拠(ホーム)【青の薬舗】にたどり着いて、これから仲間になる団員たちに質問攻めにされて、そしてその日のうちに歓迎会を開かれました。そしてミアハはエイリルの背中に【神の恩恵(ファルナ)】に刻みました。そうしてエイリルは名実ともに【ミアハ・ファミリア】の団員です。

 

 神ミアハ導かれてから一息つく間もなく夜になり、自身にあてがわれた一室で同室の仲間に歓迎会の二次会をされながら、エイリルは未だに混沌とする胸の内を感じながら呟きました。

 

 「もう少し、運命的な感じだと思っていました」

 

 "何が?"と尋ねる同室のメリーに"何でもありません"と誤魔化しながらエイリルは明日の予定を考えます。そこには胸の中で同居する不安も自信も、誰も口を挟みませんでした。

 

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