小さな角   作:エゥエゥ

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オリジナル設定が多々あります。これからも増えてくかもしれません。
書いていたら今回は五千字まで書き伸びてしまいました。


オラリオ三日目 第一級武具店

 オラリオの中心に聳え立つ五十階建ての塔の名はバベル。二十階までは公共施設や換金所、各ファミリアの商業施設が軒を構え、三十階の大広間が、月に一度に行われる神会の会場となっています。さらに二十階の上からはオラリオでも有数のファミリアの神々が住み着いている、オラリオでも屈指の(ヴァリス)が動く場所でもあります。

 

 エイリルたち――メアリー、ジョン、コトネ、オトネの――五人は十九階のヘファイストス・ファミリアの本店とも言うべき、第一級冒険者の武器を主に取り扱う『エリクトニオス』に訪れていました。

 もちろんエイリルたちは第一級冒険者ではないため、売り物である素晴らし武器の数々を見ている事しか出来ないのですが、そこはオラリオで一と二を争う鍛冶ファミリア。如何に下級冒険者とはいえ余程の無作法を仕出かさない限り無下に扱う事はしません。 

 

 「以前に一度だけ見かけた物より……凄いですね」

 

 エイリルが透き通った巨大なガラス板の向こうに飾られた短剣を眺めて、息を吐くような気持ちで言います。ただ美しい短剣を見ているだけなのですが、実際に試さずとも良く切れるだろうという気迫を見せるその短剣は、称賛の言葉しか言いようがありません。

 そんな褒めたたえられる国の宝物庫にあって可笑しくない武器が百以上もこの場にあるのですから、それがただの偶然で作り出された物やどこそこから盗んできた物とは、間違っても疑う事は出来ないでしょう。この場にある武器の数々は確かな実力を持って作り出された物なのです。

 

 「な! な! スゲェだろ、ここの武器たちは!」

 

 抑えた声で、しかし強かな勢いを併せ持った声で栗毛の尻尾を躍らせながらジョンが言いました。その声はエイリルにも"この素晴らしさが理解できるだろ"と期待の籠ったものでした。同じ感覚を持つ人間は多いことに困った事は少ないのです。

 

 「はい、確かに凄いですね。ただ眺めるだけで理解できる"切れる"という感覚は心に透き通ったものを与えてくれます。あの武器は素晴らしい、この武器も劣らず素晴らしい……あまり言葉で表現できないのが、少しだけ残念に思うほどに素晴らしく感じます」

 

 エイリルもジョンの感性が理解できるのか、思いの丈を出来るだけ言葉にして皆に伝えました。その気持ちはジョン以外には上手く理解できないようでしたが、エイリルには気恥ずかしさより爽やかな気持ちの方が大きかったので後悔はありません。

 

 「うん、男の世界? って言うのかこういうのは……」

 「あはは、確かに凄いってのは感じるんだけど私たちには、ああいう風に熱くなれないね」

 「そのうち言いたいことが理解できるんじゃないかな、二人のこと」

 

 メアリーが苦笑しながら言って、コトネが同意を示しました。オトネは思ったことを纏めて簡潔に言います。

 確かにジョンが似たような感性を持つ相手を求める気持ちがエイリルにも少しだけ理解できるような気がしました。

 

 「途方もな金額ですが…それさえ用意すれば芸術品と言っても遜色ない武器を買えるんですね」

 「うーん……別にそういう訳でもないよ?」

 

 エイリルが言った言葉をコトネが否定しました。ヘファイストス・ファミリアの刻印が施された武器は、製作者が購入者を選ぶことが出来るのです。例えば、提示された金額の倍以上の金額を用意していても製作者である鍛冶師が気に入らなければ跳ね除けることが出来ます。

 事実、異国の貴族が度々現れては逸品の武器の数々を大金に任せて買い漁ろうとしますが、そう言った手合いは製作者の鍛冶師が購入することを拒否します。職人である鍛冶師にとって自慢の子供と言える武器が、正しく扱われる方が好ましいのです。

 

 「次行こうよ、次。私は『魔剣』が見たい!」

 

 オトネが姉のコトネの手を引っ張りながら言いました。

 

 「まあ、確かにそうだな。魔剣はな、素材の金属の色が主体になるんじゃなくて鍛冶師の魔力の色とかが剣に独特な色を与えるんだぜ」

 

 ジョンの視点の違う説明を聞きながら、エイリルは先を歩くジョンとオトネとコトネの三人について行きました。

 『魔剣』とは強力な魔法が込められた武器で、その威力は岩を溶かし、木々を灰に変えるほどに強力な物です。エイリルもその力を実際に見た事があるので、その期待が大きいものです。

 

 「魔剣は相変わらず綺麗だよな……」

 

 ジョンが堪えたものを吐き出すようにしみじみとして呟きました。彼にとって魔剣とは先ほどの逸品たちより素晴らしいもののようで、目をまんまると見開いて眺めていました。

 

 ――魔剣は数回しか使えない。それは魔剣を扱う上での常識です。強力の魔法に剣自体が耐えきれない……あるいは魔法の代償に剣が壊れる。真偽は定かではないですが、ただ一つ分かる常識としては魔剣は一度の魔法で劣化ないし壊れる儚きものという事です。

 

 そのことについてジョンは悲しそうに思いのままを語ります。

 

 「もったいないよなぁ、魔剣。ただでさえ普通の剣では持ちえない魅力があるのに、使えば簡単に壊れてしまう。ただ武器を作っただけじゃない、魔剣特有の"色"があるのに壊れるんじゃ手に入れてもおちおち使えねえんだ」

 「けど、魔剣ってそういうものじゃない? 強力な魔法は放つ、数回限りの『魔道具(マジックアイテム)』。確かに剣だけど、それじゃあ命を預けることは出来ないよ」

 「そうだけどよ、メリー。そうじゃないんだ。確かにそれで壊れちまったら命を預けられないけどさ、それでも魔剣は強力な"武器"だ。壊れる壊れないの前提じゃないんだよ」

 「確かに強力だよね。昔の魔剣に森を焼き払う程の効果をたった一振りで起こしたって聞いた事があるし、そうじゃなくても窮地を抜け出す逆転の一手として欲しいよね」

 「オトネの言う通りだけどよ……その逆転の一手が何度も使えないのがもったいないんだよ。数を揃えたらいいとかそういう話じゃなくてさ」

 

 そうジョン、メアリー、コトネの三人が思い思いに話し合っている時に、オトネがエイリルに三人と同じような話題で会話を振りました。

 

 「確かにもったいないよね、魔剣の話。一回じゃなくて無限に使えたらいいのに…そしたら凄く便利だと思わない? 壊れない魔剣だったら誰もが欲しがるよ」

 「本当にそうですね。魔法を解放したら壊れる……あ、魔法の込められた槍なら知っていますよ。炎を放つとか派手ではありませんが、通常の武器にはない力がある槍です」

 

 そう言って思い出すのは小人族(パルゥム)の友人が持っていた二本の槍。商団ではその恩恵に与ることは殆どありませんでしたが、確かに特別な槍でした。

 興味が湧いたオトネが詳細についてエイリルの言葉を待ちます。

 

 「赤い槍と黄色い槍の二本で、魔法を打ち破る力と傷の治癒を阻害する力のある槍です。なんでも千年も前の『フィオナ騎士団』が実際に使っていた武器だそうです。私たちの知る魔剣とは違いますが、魔法が込められたという点では同じでしょう」

 

 その話を聞いて、オトネは素直に呪いみたいだと思いました。

 

 「魔法……って言うより呪いみたいな力だね」

 「ええ受ける側からしたら呪いと何ら違いがないでしょうね」

 

 そうお互いに言っていると――不意に、赤毛の若いヒューマンに声を掛けられました。

 

 「なぁ、巻き角の嬢ちゃん。その話もう少しだけ詳しく教えてくれねえか?」

 

 どうやらそのヒューマンはエイリルたちの会話を聞いていたようです。

 ジョンはその男がエイリルに話しかけたのに気付いて、次に男から匂う香り気づくと愚痴にも近い会話を終わらせて男に質問をしました。

 

 「あんた鍛冶師だな? それも一日の半分を工房で過ごすような鍛冶師だ。少しだけだけど、煤の匂いがするからな、どうだあたりだろう」

 

 ジョンは鼻を鳴らして得意げに言いました。彼には鍛冶師だからどうか、とかの理由は特に無く、ただただそのことに気がついたから男の問いました。

 

 「おう! そのとうりだぜ! 俺の名前はヴェルフ、まだ無名の鍛冶師だ。ちょっと巻き角の嬢ちゃんの話す槍について気になってな、聞かせてくれるか?」

 

 そう言って若い男――ヴェルフは魔槍について聞きます。エイリルには話を出し渋る理由がありません。なので知っていることを全てヴェルフに話しました。

 

 「槍の名前は、赤い槍が『ゲイ・ジャルグ』。黄色い方が『ゲイ・ボー』二つとも赤い槍と黄色い槍という意味です。ゲイ・ジャルグは魔法を打ち払う力があってゲイ・ボーのは治癒を阻害する力があります。

 二つとも千年前に実在した小人族(パルゥム)の騎士団『フィオナ騎士団』の勇士が実際に使った槍だそうで、フィオナ騎士団の話にも登場したりもします。今も私の友人が持っている筈ですよ。彼が手放す訳もありませんし」

 「英雄章に登場する伝説の武器か……ちなみにその友人はどこに? オラリオに居るのだったらぜひ実物を拝みたいんだが」

 

 ヴェルフは食い下がるように聞きました。彼にとって魔法の込められたその魔槍は、彼の夢で目標である物を造る上で見るべきものだと思いました。

 もちろん話が嘘でもある可能性がありましたが、ヴェルフの目にはエイリルが嘘を平気で言うようには見えませんでした。故あって人一倍に他人の感情に敏感なヴェルフはその感覚を信頼しています。

 

 「いるはずですよ、一緒にオラリオに来ましたから。ただ今は連絡を取り合っていないんですよね…。"お互いダンジョンに潜っていればそのうち会うはず"って言ってそれきりです」

 「そうか……なら、会ったときにでも聞いておいてくれなか? それを教えてくれれば自力で何とかなるからよ」

 「かまいませんよ、それくらいなら。別に悪意がるようには見えませんしね」

 

 エイリルはヴェルフの頼みごとをあっさりと承諾し、他に何か聞きたいことがあるか、と聞きました。特に考えるそぶりも見せずに間髪入れずに承諾したエイリルに、その場で会話を黙って聞いていた四人は少しだけ呆れてしまいましたが、美徳でもあるそれについてとやかく言うのは今は控えました。

 

 「ああ、何なら他にも魔剣魔槍と呼ばれる類の武器について心当たりはないか?」

 「他の武器ですか……それなら私より神様たちの方が詳しいと思いますよ? なんせそれを扱った英雄を実際に見ているはずですし、なんなら与えたりもしていますから」

 「なるほど……悪いな嬢ちゃん。折角の買い物なのに割り込んじまってな、このお礼は必ずするるからな! ありがとよ!」

 

 そういってヴェルフは走り去って行ってしまいました。恐らくですが彼は主神に英雄ぼ武器について聞きに行ったのでしょう。どうやってまた会うのかすら話題に出すことなく愚直なまで真っ直ぐなその姿にエイリルはちょっとした憧憬を胸に抱きました。

 エイリルにはああいう風に生きられません。自分の為に行動していても、必ずと言って言い程に誰かの為に行動してしまうのです。だから何だという話ですが、エイリルは自分に無いものを持つ人間によく、憧憬を抱きます。今回も同じことでした。

 

 「そろそろ飯にしないか? 豊饒の女主人は早くいかないと席がなくなっちまうからな」

 

 ジョンがヴェルフが見えなくなったのを皮切りに、提案しました。事実、豊饒の女主人は冒険者に人気の店で、早い、安い、美味い、と評判の高い店です。客の大半は冒険者で皆が朝のダンジョン探索でお腹を空かしているので量も多く、人気にならない要素のない冒険者にとってもありがたい店でした。

 エイリルは実際に行ったことはありませんでしたが、皆に合わせて賛成しました。

 

 「しっかし"ヴェルフ"か……」

 「? それがどうしたんですか?」

 「いや、ただ同じ名前の鍛冶師に憶えがあってな」

 

 ジョンの言葉にメアリーが思っていたことを付け足します。

 

 「『魔剣貴族』、だったかな?」

 「それってあれ? 生まれつき魔剣が打てる一族」

 「オトネ姉さん。その一族は、もう魔剣が打てなくなって零落したって聞いたけど?」

 

 『魔剣貴族』。それは魔剣を打って貴族まで大成した一族です。彼らは生まれつき魔剣が打て、その威力はかつて海を焼いたと言われていました。しかし現在は魔剣を打つ力はなく、零落するだけの貴族です。

 

 「魔剣鍛冶師『ヴェルフ・クロッゾ』。零落した魔剣貴族のなかで唯一魔剣を打てる存在だ。赤毛の若い男で、少し前に家を捨ててオラリオに来たそうだけど、只の偶然かなぁやっぱ」

 

 五人はヴェルフがただ同じ名前だと一先ずの結論をつけてから、そこから先を追及する事を止めました。知っていても得するような事でもありませんし、ヴェルフにとっても容易く聞かれたい話題でもないと思っての事でした。

 

 五人は一級鍛冶師店『エリクトニオス』を後にしました。向かう先は昼食を取るために豊饒の女主人です。そこでしばしの休憩を取ることにしました。

 

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