小さな角   作:エゥエゥ

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 ほぼ妄想で書き連ねました。オリジナル要素が多々あると思います。


幕間 魔剣鍛冶師ヴェルフ・クロッゾ

 

 ヴェルフが初めて魔剣を打ったのは五歳の頃のでした。

 魔剣貴族とも呼ばれるクロッゾの家系はそれくらいのときに子供に鍛冶を行わせます。しかし生まれつき魔剣を打てる彼らの血筋は妖精より与えられたもの、過去の一度、クロッゾの魔剣がエルフの森を焼いたことが妖精の怒りを買い、現在では魔剣を打てる者は存在しませんでした。

 だからヴェルフの打つ剣は何の力もない普通の剣。今までの伝統を続けているだけ、なんら意味の含まない儀式で終わる筈でした。

 

 ――奇跡が起きた。

 

 ヴェルフの父親は震える手で、愛しい子供を抱き上げるように、そっと"それ"を持ち上げました。

 ヴェルフの打ち上げた"それ"は魔剣でした。零落しようとも魔剣貴族。父親は一目でヴェルフの打つ上げた短剣が魔剣であることに気づきました。

 父親は幼いヴェルフを連れて邸宅の庭へ進み、邪魔な岩に向けて魔剣を振りました。その姿は家族の全員が見ていて、鈍らの魔剣が岩を打ち砕くのをしかと見届けました。

 

 そこからが運命の分岐点でした。ヴェルフが魔剣を打てることは瞬く間にクロッゾの全員に知れ渡り、妖精がクロッゾの人間を許したと思い鍜治場に籠りましたが魔剣を打てるのは"ヴェルフ・クロッゾ"ただ一人でした。

 ヴェルフは奇跡の子と褒め称えられましたが、一族は全員が魔剣が生み出す膨大な利益に目を奪われていたことは、幼いヴェルフの目にもありありと伝わっていました。

 あんなに無償の愛情を注いでくれた親が、兄弟が、魔剣を対価に愛情を注ぐようになったのです。それはヴェルフにとて堪らく嫌な―――

 

 ――魔剣が、打ちたい。

 

 そんな気持ちは些事にも等しい。家族は魔剣が生み出す利益に心奪われた。それと同じようにヴェルフは魔剣そのものに心奪われていました。

 最初の魔剣は岩を打ち砕いた。ヴェルフ自身には到底出来ないような、それどころか一端の兵士ですら出来ない事を魔剣はやって見せました。ヴェルフの魔剣が、です。

 

 ヴェルフはそれから工房に籠った。ひたすらに魔剣を打って、ヴェルフの才は魔剣の威力と質をめきめきと上げていきました。八歳になるころには月に五十以上の魔剣を打ち、その利益でクロッゾの家は再び名を上げていきました。ヴェルフにはどうでもいいことです。

 

 そうして魔剣を打つ機械となったヴェルフですが、その時に打った最高の出来の魔剣を試して、どうしようもない不快感がヴェルフの心を満たしました。

 

 ――なんだこれは!

 

 ヴェルフはヴェルフの魔剣が一度の使用に耐えられない事に不満を持ち始めたのです。己の最高傑作が無残に壊れる姿にヴェルフは激情に駆られました。一人の鍛冶師としてのプライドが簡単に壊れる自身の魔剣を許せなかった。

 すぐさま工房に戻り、新しく十や二十の仕様に耐える魔剣を作りました。既に二百以上の魔剣を打つヴェルフです。威力を抑えればそのくらいの事は出来る理解がありました。

 

 ――違う、違う、違う違う違う!

 

 しかしそうして出来上がったのはヴェルフが満足できるものではありませんでした。ひたすらに、その魔剣が壊れるまで使い暴れまわりました。

 ヴェルフの魔剣は一度の百の敵を焼き払う。それはヴェルフの自信でした。しかしその自信は今や理想に取り憑かれ失われてしまいました。

 

 壊れぬ魔剣が打ちたい。魔剣に対する情熱は全てそれに変換されました。ヴェルフは自身の"ヴェルフの魔剣"の為に、それ以外を一切合切を焼き払ってでも壊れぬ魔剣が打ちたくなりました。自身の工夫が徒労に終われば終わるほど思いは強くなります。

 

 十の頃には、それまで月に五十は作っていた魔剣は十も作らなくなっていました。今まで無作為に作っていた魔剣を抑え始めたヴェルフに、贅沢に心潤していた家族や親族は魔剣の催促を始めます。ヴェルフが魔剣を作らなければ、贅沢が出来ないからです。

 ヴェルフにはそれが邪魔で邪魔で仕方がありません。いつしか、そんな愚かな家族の為に魔剣を打つのが嫌になりました。魔剣を打たぬヴェルフに業を煮やした家族あるいは親族が詰め寄りますが、ヴェルフはどこ吹く風のようにしか相手をしません。

 

 ――なぜ魔剣を打たない! 私たちがどんなに頑張ろうが打てない魔剣を!

 

 詰め寄る家族あるいは親族の誰かが、そう叫びました。それは連鎖するように広がり、嫉妬の嵐がヴェルフを襲いました。ヴェルフとて、皆がその感情を抱いていた事に気づいていました。

 ヴェルフは魔剣にしか興味がありませんでしたが、その耳や目は鍛冶師として僅かな変化を見逃さないように優れた力がありました。人より無表情な鋼の顔を覗くのです。それより変化の多い人の顔なんて薄紙に等しく、簡単に見破れるものでした。

 

 ヴェルフにとって家とは工房で魔剣を打てる場所の事です。その家が家としての機能を果たし難くなったのなら新しい家を建てる必要がありました。つまりは家出です。

 ヴェルフが打ちたいのは"クロッゾの魔剣"ではなく、壊れない"ヴェルフの魔剣"です。ヴェルフの魔剣を造る上でクッロゾという家名は要らぬ縛りをヴェルフに課してしまい、邪魔でしかありません。

 

 そうと決まれば家出です。十歳でヴェルフは生まれた家であるクロッゾを捨てて、故郷であるラキア王国を捨てました。

 しかしヴェルフが打つ魔剣は貴族クロッゾには重要な利益であり、ラキア王国には重大な戦略兵器です。わざわざヴェルフを国外に逃亡させる筈ではありません。ヴェルフが向かうとするなら、ラキア王国が攻めあぐねてる迷宮都市オラリオです。

 事実、ヴェルフの向かう先はオラリオでした。しかしヴェルフは愚直にオラリオを目指して捕まるほど馬鹿ではありません。いくつも町を経由して、時間が稼いで自分の身体が成長するまで待つつもりでした。十歳のヴェルフが十五歳になれば見分けは簡単に気づくはずがありません。

 

 しかし五年の月日を費やすその計画は突如として終わりを迎えました。長くを工房で過ごしたせいか、年の割に成長が遅れていたヴェルフの身体が一息に成長したのです。十歳から十七歳ごろの身体まで、その変化は神が、妖精がヴェルフを祝福しているようにしか思えませんでした。

 

 それからラキア王国の検問を何の咎めもなく通り抜け、ヴェルフはヘファイストス・ファミリアに入りました。別にそこに入った理由はありませんでしたが、あえて言うならヘファイストス・ファミリアが大手のファミリアだからでしょうか。

 当然ながらヴェルフはそこでも魔剣を打ちました。しかし売ることはしませんでした。主神と団長がヴェルフの意思を尊重したのです。そもそもヴェルフの作った魔剣を売るほどファミリアは金銭に困っていませんので、売る必要が無かったというのが正しいでしょう。

 しかしながら下級冒険者でありながら魔剣を打つヴェルフの噂はファミリア内で有名でした。噂の内容は大抵、嫉妬のようなものでしたが。

 

 そんな事とは無関係にヴェルフは悩みました。ヴェルフは自身に限界を感じていたのです。冒険者としての格を上げればヴェルフの悩みも解決するでしょうが、それをするにはヴェルフ自身の力が弱く、命が幾つあっても足りません。

 壊れない魔剣を造るには、今のヴェルフには不可能。冷徹なその判断は、ヴェルフ自身が下したものです。ファミリア内の優れた鍛冶師の技術を見た上での判断でした。明らかに今のヴェルフには持てる手段と発想が足りなかった。

 

 ――今は自分の腕を磨くしかないか……。

 

 そんな折に興味深い話を聞きました。バベルの十九階。ヘファイストス・ファミリアの直営店でも出来事。

 二人のヒューマンと三人の獣人の少年少女の話で、店の武器を検分していたヴェルフは彼らが話していた――特にジョンと言う栗毛の猫人(キャットピープル)が話していた魔剣についての共感できる話を横から聞いていました。

 素直に横から聞いていたのは悪いと思いましたが、そういう素人が話す突拍子もない話が新たな着想を与えてくれるかもしれないとあっては聞かない手はありません。

 そうしていると、巻き角の少女が興味深い言葉を口にしました。

 

 ――あ、魔法の込められた槍なら知っていますよ。

 

 魔法の込められた槍。込められた魔法は、魔法を打ち破り治癒を妨害する。聞いた限りでは魔法を放つ魔剣ではなく、魔法を宿した武器。だが魔剣とは決定的に違って壊れない。

 "これだ!"鍛冶師として直感が叫びました。なんとかして、その魔槍を直接見なければならない。ヴェルフはそう思い、気がついていたら声を掛けていました。

 

 そうして聞かされたのは槍がフィアナ騎士団が実際に使っていた槍だということ。千年も前の槍が今も実在する事に驚きはしても、それ以上に一鍛冶師として好奇心が膨れ上がりました。

 そして槍の持ち主の所属ファミリアを後で教えてもらう事を約束した後、ヴェルフは他にも同じような武器について聞きました。昔の名のある武器から新たな着想を得よう、そういった発想からの質問です。

 

 ――それなら私より神様たちの方が詳しいと思いますよ?

 

 これもまたヴェルフにとって発想から抜け落ちていたものです。確かに自らの主神であるヘファイストスは鍛冶の女神だ。

 

 ――なんせそれを扱った英雄を実際に見ているはずですし、

 

 確かにそういった英雄の話は多い。まさにファミリアの団長が言う"目から鱗"とはこのことだろう。ヴェルフはそう思い、次の言葉を待ちました。

 

 ――なんなら与えたりもしていますから。

 

 全くもってその通りでした。鍛冶の女神であるヘファイストスなら、実際に作ったりもしたことだろう。自分の主神からその手の発想を得ることを嫌がった自分が少しだけ馬鹿らしく思える。

 

 ヴェルフは巻き角の少女にお礼を言って主神の元に向かいました。今すぐにでも主神から話を聞きたかったからです。ヴェルフは角の少女と次に会うを方法を考えることなく進む足を速めました。それほどまでに鍛冶女神ヘファイストスの話は有意義なものになるだろうと確信してしていたからです。

 

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