それとも、シンシンシンフォギア?
恋文です。第6話、お楽しみください。
「櫛原って、唱子の苗字……だよな?」
扉を開け、至る所が焼けた家に入る。
ここに来たのは純粋な興味だった。
────あの日、路地裏に倒れていた少女。
何処の物とも知れない、裾や袖がボロボロの黒いセーラー服に身を包み、靴底の磨り減ったローファーを履いていて……何より、持ち物が不自然な程少なかった。
新よりは勿論歳下──後に13歳と分かった時にはちょっとビックリした──なのだが、その年頃の女子……と言えば、アクセサリーやらに手を出してオシャレをする年頃だと思っていたのだが、アクセサリーとしてはカットされたクリスタルが特徴的なペンダントのみ。
雨の降る中、異様な程に冷たくなっていた少女を、新はいつしか助けていた。
「そして、唱子の制服から月浦村に辿り着いて……この事件を知った」
新聞にも少ししか取り上げられない、奇妙な事件。
村の人物がほぼ全員殺害され、1つの家は焼けていたという事件だ、という話を、菊次さんから聞いていた。
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「菊次さん、これは?」
「今度、俺が取材しようと思ってた事件なんだがな……そうだ、新……お前も来るか? 前々から気になってんだろ、あの新人の子のこと」
「……はい。その事件がきっかけなんじゃないか、って思ってます」
「次の定休日、空いてるなら俺の事務所に来い。車は出してやる」
「……ありがとうございます」
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「その答えは、きっと……ここにある」
そう言って、目の前の扉のノブに手をかける。
扉は意外とすんなり開き、新を出迎えたのは……機械群だった。
電源は未だに点いていて、1部は使えないものの、修理をすればかなり使えるだろう……そう思わせるマシン。
見れば、大型モニタの下には1本のケーブルが伸びている。
「……この中に、何か……」
そう呟いた時、画面にはこう表示された。
「……Connect the cable to your computer……ケーブルを貴方のパソコンへ接続してください……か」
新は指示された通り、持ち込んだラップトップを巨大な機械と接続する。
そして……データが表示されると、まず最初に現れたのは……
「……これ、村の門に刻まれてた……」
2本のシダレザクラの枝が、互いに絡み合う紋章。
それが何故、この機械群のデータとして入っているのだろうか。
新は静かにデータの画面をスクロールさせると、興味を引かれるデータが存在することに気づく。
「……なんだ、これ……」
そう、タイトルに示された物は……
嘗ての月浦村で信仰されていた、人の身に宿る神。
人の想いを受ける杯。
その在り方の、資料だった。
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曰く、想い神とは、
村の名にもある通り、信仰の対象となっていた月浦家の人間だ。
その血を引く者は、身体の何処かに家紋を象った紋章が現れる。
しかしその信仰は、今から300年前に途絶え、喪われている。
精々が、この村の御伽噺程度の物。
そう言って、私もこの事には触れなかった…………ある日、私の娘の唱子を風呂に入れるまでは。
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「……これをデータに残したのは、唱子の家族……?」
新は思わず、スクロールする手が早まる。
ラップトップに映る画面が、目まぐるしく変わっていく。
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唱子の背中、右肩の辺りに現れていたのは、月浦家の伝説の中にしか有り得なかった筈の、シダレザクラの紋章。
私は櫛原家の家系図を全て洗った。
祖父や曾祖父の代だけではなく、もっと昔、もっと遠くへ………
そして、見つけてしまった。
大元を辿れば私にも続く家系……丁度、300年前の世代に……“月浦”の名があった。
純粋な月浦の血筋が途絶えた時期……そして、信仰が喪われた時期と合致する。
同時に、これは避けられない運命だと、感じていた。
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「唱子が、いつも俺たちと居ようとしないのは……これがあるから、なのか?」
新がマウスを握る手にはいつの間にか軋む音がする程に力が入っていた。
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それ以降、私は唱子に構う裏で、想い神の伝承を可能な限り掻き集めた。
そして、分かってしまった。
想い神の任から解放される事は、今ではもう出来ない、と。
どこにも、想い神からの解放をするための儀式なり方法なりが載った本や資料は無かった。
その事に気付いた時、既に唱子は小学校へと上がっていた。
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「……」
絶句する、とはこういうことなのだろうか。
一介の高校生が関わるべき事では無い。
ただ……
「……なんで、唱子は……何も言わないんだよ!」
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遂に、と言ってしまっては行儀が悪いし、唱子にも失礼だとは分かっているが……所謂、“いじめ”が始まった。
子供と言うのは妙に鋭いところがあり、唱子の異常性にも直ぐ気付いたものだ。
それを、唱子は6年も堪えたんだ。私は……父親として、力には何もなれない事を、痛感させられた。
小学校卒業の時に、全て唱子から聞かされた。
靴を隠された事。
学校の池に落とされた事。
ズタズタにノートや教科書、果ては下着すら引き裂かれた事。
盗まれた下着が、汚されて返ってきた事。
泣きながら話す唱子の背中を、私は摩る事しか出来なかった。
そして、今。
このデータを閲覧している君には、私の事がどう見えただろうか?
薄情者の父親として見えている事だろう。
事実、私は唱子の体質の研究にのめり込むばかり、唱子の要望もほぼ聞くことは出来なかった。
燃える家の中でこのデータに最後の更新をしているが、じきにこの部屋にも煙が回って来るだろう。
閲覧後、唱子に持たせた私の形見と、対として運用する物を君に差し上げよう。
そして、唱子の“剣”のデータも。
君がそれをどう扱うか、それは君に任せよう。
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カシュッ。
小気味いい音を立てて、マシン下部のハッチが開く。
「……ペンダント……なのか?」
先端だけを取り外せば、剣にもなりそうな槍。
それが、蒼いクリスタルの中心部に納められた飾りを持つペンダントだった。
「……唱子……」
唱子が何故、此処を去ったのか。
それは、未だ分からない。
ただ、もし唱子があの事件を起こしたのなら……
「俺は、唱子を……然るべき所に出さなくちゃいけない。けど……そうしたら……クソっ……」
壁に拳を打ち付けながら、新は声を絞り出す。
「…………唱子を、信じるしか……無い、のか?」
一人の人間としては、『どんな理由があっても、人を殺すのは間違ってる』と、言うことができる。
でも、尾山新個人としては……そう言うことは、出来ない。
家の外には、いつの間にか暗雲が立ち込めていた。
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「ふー、ただいま〜!」
「……ただいま」
「おかえり、ナナミ、唱子ちゃん。あ、これを新の部屋に置いといてくれよ」
「私はこれをショーコちゃんの部屋に運んじゃうから、ショーコちゃん、行ってきてくれる?」
「はい」
そう言って、私は段ボールを持ち上げる。
何を買ったんだろう。
開けるのは憚られるので、速やかに運んでしまう事にする。
「……失礼、します」
主の居ない、尾山新の部屋。
綺麗に片付けられていたが、その中に、あってはならない物を見つけた。
それを見て、私は思わず、荷物を取り落としてしまう。
「……うそ、これっ、て……」
写真に写っていたのは……
幼い頃の、
楽しんでいただけましたでしょうか?
それでは、次回をお楽しみに。