前置きは不要でしょうから、始めてしまいましょう。
お楽しみください。
「ただいま」
「おう、おかえり。新、唱子ちゃんが部屋に色々運んでくれたから行ってやんな」
「分かった」
月浦村から戻った俺は、シエスタの裏手にある居住スペースにある、俺の部屋に戻る。
「……ん?」
本来、この時間にこの部屋に居ないはずなのだが、彼女はそこにいた。
「……唱子?」
「……私の事、全部知ってたんですか」
「……ここに唱子が来てからだけどな」
荷物を机に置き、唱子に向き直る。
「最初にその事件を知ったのは、菊次さん……たまに店に来るだろ? あの人が話してるのを聞いたんだ」
「……いつ?」
「唱子が店の手伝いを始める前。村の資料に書いてあった制服と、唱子の制服が同じだった」
机の引き出しから取り出されるホチキス止めの紙。
確かに、唱子の着ていた制服と同じ、月浦第一中学の物だった。
「……それでな、その中に気になる記述があった」
「……まさか」
「そう。唱子……お前の体質だ」
ラップトップに転送したデータを表示する。
唱子の目は、少し開かれた。
「……
「ああ。月浦村の伝承に残っていた……想いを受ける者の事だ」
「……巫山戯てるんですか?」
「巫山戯てない! ……これは、お前の親父さんが遺してた資料なんだ」
「……お父さんが?」
「ああ」
唱子が少し俯く。そして顔を上げて、新の方に向き直る。
「……新さんは、私が……あの村の人達を殺したの、どう思いますか?」
「……っ」
新の息が詰まる。
しかし、唱子の体質を考えれば、隠せるはずも無い。
「……正直、どんな理由があっても、人を殺すのは間違ってる。そう思ってるのは、分かるだろ?」
「………………………はい」
「でも、俺は信じたくない」
「……え?」
おもむろに立ち上がり、唱子に近づく。
「ちょっと、新さん!?」
「……人を殺した? 特殊な体質? そんなの唱子には何の関係もないだろ!」
「……えっ……?」
新は、唱子の背中に腕を回し、抱き寄せる。
唱子の顔は紅潮し、動きは止まってしまう。
「……約束する。唱子、お前がどんな存在だっていい………」
「……」
「……守らせてくれないか? お前と違って無力な俺に、櫛原唱子という1人の人間を」
新が唱子に問いかけると、唱子は俯きながら答える。
「……良いですよ」
「……本当か?」
「なら、1つ頼まれてください……」
「……おう」
「……私を、貴方の物にしてくれるなら……守られます。それに……」
唱子も新の腰に手を回し、唱子からも抱き締める。
「……受け入れてくれたの、新さんが初めてですから」
紅潮した顔で笑みを作り、新に笑いかけた。
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「菊次さん」
「……おう、緒川の」
「頼んでいた物、調べはつきましたか?」
緒川慎次は、菊次と呼ばれる人物に接触していた。
「……ああ。あの嬢ちゃんで間違いない……彼奴が、“月浦村惨殺事件”の、犯人だ」
「しかし、相変わらず早いですね。流石……風鳴家お抱えの諜報部隊……『韋駄天』の、隊長です」
「言うようになったな、ボウズ……お前も似たようなモンだろが」
「はは、僕も貴方に追いつくんですよ」
「……へっ、若くて良いな、お前さんは」
菊次は懐から煙草を1本取り出すと、ライターで火をつける。
「では、僕はそろそろ」
「おう。弦十郎の野郎に宜しくな」
煙を吐き出しながら、菊次は夜空に浮かぶ月を見る。
「……『呪詛』を感じるな……櫛原唱子も、これを受けた被害者のひとりって訳だ……なぁ?」
携帯用灰皿に灰を落とし、そのまま火を消すと、緒川とは反対の方向へ歩みを進める。
「さて、お前はどうやって動く? ……尾山、新」
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「ありがとうございました」
「またお越しくださいね。お待ちしております」
唱子とナナミが昼時のレジの応対を終えると、一旦店は休みに入る。
「……んでさ、ショーコちゃん」
「はい、何ですか?」
「昨日、新の部屋で何してたの〜?」
「えっ!?」
唱子はスカートを翻しながらナナミの方を向くと、距離を詰めて問い詰める。
「なんで、なんで知ってるんですか!? どこまで聞いたんですか!?」
「そりゃあ、新が男らしい事を言うところからよ。しっかし、ショーコちゃんも青春してるね〜……」
ナナミは唱子の耳元に寄り、聞いてもいない事を喋っていく。
「新は優良物件だよ? まだまだ高校生だけど、責任感は強いし、何より……あんなこと言われたんでしょ? 応えなくちゃ」
「……でも、私、分からなくて」
「いいのよ、分からなくて。人の恋なんて、分からないことだらけよ?」
「……恋……?」
「だって、ショーコちゃん……気づいてないかもしれないけど、新の事を話す時、最初からどこか……ね」
唱子は、その言葉に耳を傾け続ける。
自らに刻み込むように。
「……ま、決めるのはショーコちゃんよ。伝えるのか、封じるのか……貴女にしか決められない感情だからね」
「……はい」
「よーし! 休憩終わってからの準備と、お昼ご飯にしよーう!」
「あっ、今行きます!」
日常は、確かにそこに溶けていた。
そういえば、今回の執筆期間中に、見よう見ようと思っていた、リリカルなのはを見たんですよ。
食指が伸びず、これまでは見ていなかったんですがね。
……取り敢えず、私が好きなのはシャマルです。
関係ありませんね。次回もお楽しみに。