B級パニック映画系主人公アトラさん   作:ちゅーに菌

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 あそぼ。リースXPと申します。別名は姉を名乗る不審者で匿名投稿もしております。

 前後編といいましたね。あれは嘘です(懺悔)。






大蜘蛛の四次試験 中

 

 

 

 

 

「アトラ……俺を鍛えてくれないかな?」

 

 四次試験四日目の早朝。獲ってきた雌鹿に歯を立てようとしていたアトラはゴンにそう言われ、食事の手を止めると共に目を丸くする。

 

 しかし、ゴンの目は真剣そのものであり、真っ直ぐな瞳と目線を合わせていると、本気で言っていることがアトラに伝わった。

 

《えっと、それは修行とかそういう意味かしら?》

 

「ああ! お願いアトラ!」

 

(弱ったわねぇ……)

 

 そんなことを考えつつ、真顔のまま頬を掻くアトラ。内心で大きな溜め息を吐く。

 

(正直、私。修行とか生きてこの方、全くしたことないのよ……生命力は感覚で使えるし、戦闘技能なんて、暗黒大陸で他者を陥れながら生きていれば嫌でも身に付くんだもの。それに虫の鍛練方法は未だしも、猿に近い哺乳類の鍛練方法なんてわかるわけないし、興味があるわけもないし……)

 

 それも当然の話。野生動物に人間が修行を付けて欲しいと頼み込むのもおかしな話であろう。そもそも自然界に明確な師弟関係など、あるわけもなく、アトラは師や弟子についての認識もほとんどない。

 

 そのため、いつもであれば、クモワシの時のようにオーラだけ開花させて、それで終わりにするところであったが、今回はそうはいかなかった。

 

(それにどうもこの世界って不思議なのよねぇ。動植物は全て生命力を使えないのかと思えば、人間は時々、使えている者も見掛けるし……ひょっとして生命力を使うのにも資格とかいる感じなのかしら? それだったら尚更教えられないじゃない……)

 

 ちなみにアトラは、興味がないことにはとことん無頓着なタイプである。そのため、食べた脳髄から知識を引き出せる能力を十全に使っているとは言い難いが、ある意味能力とのバランスが取れているのかもしれない。

 

(けれど……求められたモノを、信奉者どころか、友人に与えられるのに与えなかったとなれば、神と呼ばれた者として、関係性を持った者として名折れだわ)

 

《いいけど……私がアナタに教えられることは多くはないことは理解してね?》

 

「ありがとうアトラ! うん、アトラが俺よりもずっとずっと強いってことは、なんとなくわかってるから少しでも嬉しいよ!」

 

(………………なんか、いい具合に勘違いしてくれたわね。本当に教えられることそんなにないのに)

 

 無論、高い実力に加え、見栄や面子も重んじるアトラはその勘違いを訂正しなかった。

 

 誰が言ったか、系統別性格特性の操作系は理屈屋・マイペース。どちらともアトラに当てはまる気がしないでもないが、あくまでも目安である。

 

《とりあえず――》

 

(ふふふ、けれど"修行"っていうものについては、なんとなく密猟者の知識から仕入れていたから何とかなるわね)

 

 そんなことを思いつつ、アトラは糸を出し。みるみるうちに知識にあった物を作り始め、はや回し映像を見ているように出来上がっていく。

 

 ちなみにアトラの知識を引き出せる能力は一見、かなり便利に思えるのだが、十の知識から十を引き出せる能力とは言い難い。というのも――。

 

「アトラ、なに編んでるの?」

 

《まずは修行には"道着"が必要らしいわ!》

 

 知識の解釈は自身の頭で行うため、このように妙な受け取り方や変換がされてしまうことが多々あったりする。

 

 結局のところ、頭の善し悪しとは関係無く、元々アトラはどこか抜けているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ッ!」

 

 受験者番号301番ギタラクルこと、イルミ=ゾルディックは一切速度を緩めることなく、逃げるように森の中を移動し続けていた。

 

 というよりも昨日の昼間からイルミは襲撃者――ティンダロスの猟犬から逃げ続けている。

 

 猟犬は如何なる念能力を用いてか、今この瞬間も視線を向け続けていた。殺意はあるが、それ以上に好奇と明らかな嬉々とした感情を孕んだその視線は、殺し屋でも、戦争屋でもなく、ヒソカのような死を美徳とする異常者のそれである。

 

「くっ……」

 

 全く休むことなく動き続けていたため、木の上の辛うじて人ひとりが立てる枝の細さの場所に止まり、イルミはほんの少しだけ呼吸を整えた。

 

 するとイルミの乗る木の枝の幹と、枝の間の僅かな場所から立ち上る青黒い煙と、その中で妖しげに輝く瞳を目にし、次の瞬間には再び森の中を駆けずり回るように移動を始める。

 

「クッソ……! どうしてこんなッ!?」

 

 シャチという動物がいる。それは生き物でも珍しく快楽的に他の生物を殺害する生き物である。遊びでアザラシを尻尾で吹き飛ばし、海中から空中へ打ち上げるなど最たる例だろう。シャチに追われて、野生のアザラシが人間の船に上がることがたまにあるが、それはそれほどまでにアザラシが切迫しているということに他ならない。

 

 そして、シャチの残虐性が最も現れるのは、シャチの群れがクジラの親子を見つけたときと言える。シャチの群れはクジラの子を殺すために何をするか?

 

 正解は子が泳げなくなるまで、数日から数週もの間、ひたすら親子を追い続け、子を衰弱死させるのである。そして、死んだ子を食らうのかと思えば、少し齧る程度で居なくなる。当然、端から親のクジラを狙っていないため、子を殺すとすぐにその場から去るのだ。

 

 食糧目的以外で他者を殺すのは決して人間の特権ではない。イルミを追う猟犬はある意味、シャチのような生き物に極めて近い生まれながらの残忍さを持っているのかもしれない。そのため、猟犬に数日、数週どころではないほど追われかねないことは、イルミ自身痛いほど理解していた。

 

 だからといって、あの犬のような何かと直接殺り合う? オーラ量はどんなに低く見積もろうとも自身の数倍。見ての通りの異常極まりない追跡かつ探索能力を持ち、性格はシリアルキラーのそれでしかない。直接戦ったところで、イルミでは勝ち目が薄く、向こうをより喜ばせる結果にしかならないだろう。希代の暗殺一家の暗殺者の経験に加えて、ヒソカとの関係や対応が、こんな役の立ち方をするとは飛んだ皮肉である。

 

 また、イルミは心こそ折れてはいないが、初見時に覚えた恐怖感も未だ継続しており、どう見ても猟犬はそれを愉しんでいる様子に見える。

 

「ふざけんな……こんなの割に合わな過ぎるッ!?」

 

 そして、イルミは現在進行形で、ハンター試験に参加したことを全力で後悔していた。

 

 

 

 

 

 ちなみに全く同じ頃。ティンダロスの猟犬の主であるアトラが何をしているかと言えば、ゴンに着せる道着の帯の色について悩んでいたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉ!」

 

(面白いわねぇ……)

 

『ピ?』

 

 ゴンに黒檀色の帯の道着を着せて、形はなんとなく整った頃。とりあえず、何をしてもいいので、自身の頭に乗っているカワセミに触れてみろという指示を出し、それに従って彼はアトラに飛び掛かり続けている。

 

 しかし、アトラは不自然なまでに、頭のカワセミに振動を与えずに動きつつ、片手のみでゴンをいなし、防ぎ、弾き、投げる。そして、明らかな隙を見つけては眉間にデコピンを放っていた。

 

「いったー!?」

 

《隙だらけよ》

 

『ピピー!』

 

 既に50発以上、眉間にデコピンを当てられたゴンの眉間は、アトラの感覚的には羽毛で撫でるよりも加減しているとはいえ、赤くなり、少し皮が剥け始めていた。

 

《もう、いいんじゃないかしら? 額が真っ赤よ?》

 

「ううん、全然! まだまだ行くよアトラ!」

 

《そ、そう……》

 

 それとなく静止を促したアトラだったが、真剣でありつつもどこか楽しそうに続けたがる様子のゴンに押され、取り組みが再開する。

 

 

◇◇◇

 

 

『カー!』

 

 その後、更に4時間ほど攻防が続き、陽が傾く時間になったが、相変わらず、アトラには指一本マトモに触れることはなく、いつの間にか、カワセミからカラスに頭にいる鳥が変わっている。

 

 ついに疲労で動けなくなったのか、ゴンは緑の地面に大の字になり、少し悔しそうでいて、晴れやかにも見える表情をしていた。額から若干血を流していなければ、年相応の微笑ましい光景にも見えただろう。

 

「くぅぅぅ……! 全ッッ然触れないなぁ!」

 

《触らせないようにしているもの。当たり前よ》

 

(………………いいわね。疲れつつも嬉しげで、微塵も私の気が変わるか、加減を間違えて殺すことを考えてすらいないその顔。愚かだけれど、本当に楽しそう。ふふふ、弱くとも、何も知らずとも、私も少しだけここに生まれたかったわ…………なんてね)

 

 優しげな色を浮かべ、望郷を抱くようにどこか遠くを見つめるアトラは、一瞬だけ考えた下らない世迷い言を切って捨て、あらかじめゴンの夕食用として、森中に張っていた蜘蛛の巣に獲物が掛かっていることに意識を向ける。

 

(………………そう言えば何か忘れているような気がするわね。なんだったかしら?)

 

 しかし、忘れるようなことなので、大したことではないだろうと結論付け。仕掛けた蜘蛛の巣を確認したところ、アトラはまず人間が掛かっているところへ向かう。そこは動物が身を隠すにはうってつけの場所だった。

 

「うぅ……ぐっ……あ、アンタは!?」

 

《既に色々試しただろうけど、アナタではどうやっても私の糸は切れないし、焼けないわ。持ってるプレートを全部くれれば助けてあげるわよ? また、来年頑張りなさいな》

 

 念能力者ですら立ち止まってよほど(ギョウ)を凝らさなければ視認することも叶わないほど細く、透明にさえ思える蜘蛛の巣のひとつに引っ掛かっていたのは、受験番号53番――ポックルという頭にターバンを巻いて、弓を持った男である。

 

(とりあえず、もう3枚ゲットね。チョロいもんだわ)

 

 蜘蛛の糸から円を広げ、他の蜘蛛の巣にプレートを持つ受験者がもうひとり。そして、鹿が2頭、猪が1頭、26体の小動物と無数の虫が引っ掛かっていることを確認し、もう試験が終わってしまったことの張り合いのなさに落胆するアトラなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ……くそッ……!?」

 

 四次試験六日の昼時。三日三晩、不眠不休で行動し続けることを強いられているイルミにも限界が来ていた。念能力者としてはトップクラスの身体能力を持つばかりに、下手な拷問よりも凄惨な目に遭っている様は皮肉でしかない。

 

 疲労とそれによる精神的な鈍麻で判断力が鈍り、いっそ無謀でも交戦してしまおうかとも考え始めているが、それもまた猟犬の狙いであることも明白である。

 

 しかし、その時間は唐突に終わりを告げた。

 

 

『――――――!』

 

 

 突如として、猟犬は異空間からの追跡を止め、イルミの進行方向で実体化する。そして、およそ生物のものとは思えない咆哮を上げたことでイルミは足を止め、遂に獲りに来たことを感じ、冷や汗を流す。

 

 それもまた当然と言えただろう。イルミがこの猟犬に襲われた理由も大方想像はつく。

 

 四次試験中のタイミングであり、猟犬自体の凡そ人間の念能力者と比べた馬鹿げたオーラから、十中八九あの406番――アトラという猟犬すら霞むオーラを持つ魔獣が、放ったものであろう。

 

 正直、イルミとしては弟のキルアを彼女から即刻引き剥がしたかったが、絶望などというレベルではないオーラの差により、手が出せなかった。下手に刺激して、自身やキルアだけでなく、ゾルディック家をパドキア共和国ごと潰されても何もおかしくはない異次元の怪物のためである。

 

 しかし、それでも弟への偏愛から、たまに殺気を漏らすぐらいはやってしまっていたので、その報復という線が最も濃厚ではないかと考えていた。あの怪物クラスが、自身がターゲットならば、それこそ、いつでもプレートを奪うことなど容易であり、仮に寄越せと言われたならイルミは、コンマ数秒で自身のプレートを投げ渡す想定もしていた。

 

 要は猟犬のクライアントが飽きたか、後1日で四次試験が終了するために仕留めて来いという指示が下ったか、日数を逆算して自主的に行ったのではないかとイルミは判断する。どれにしても腹が立つほど、理性的な獣だということは間違いない。

 

「………………」

 

 猟犬が本気で殺しに来るのならば既に避けようがないことを嫌というほど味わっていたイルミは、無言で針を構え、顕在オーラを跳ね上げる。

 

 イルミとしても闇雲に逃げていた訳ではない。少しでも勝率を上げるため、相手の出方や癖、念能力などを観察していた。

 

 しかし、得られたのは、"鋭い角度が付いた物体ならばほとんど制限なく出現可能"なのではないかという、ある意味でナニカに匹敵しかねないふざけた念能力を持っているという仮説だった。身に付けている物や、生物自体の角度から出てこないのは、単に猟犬の傲りか、念能力に制約があるのかは不明であるが、最早イルミにとってはどちらでも大差はない。

 

『――――』

 

 そして、遂に後脚で地面を蹴った猟犬は正面からイルミに飛び掛かる。その動作は世界最高クラスの暗殺者であるイルミからしても、不自然な程に無音であり、自然界の中で自然を超越した暗殺技能が見て取れた。

 

 それに合わせるようにイルミは回避行動を取りつつ、片手で投げられるだけの針を放つ。イルミの能力は操作系らしく、刺されば実質必殺であるため、当たれば御の字、空間に逃げられればそれもまたよしという考えだった。

 

 しかし、猟犬はどちらの行動も取らず、突撃を止めて、途中で急停止すると共に、背中の触手を鞭の雨のように薙ぎ、飛んできた全ての針を折り砕いた。バラバラになった針は針としての機能は最早有してはいないだろう。

 

(…………コイツ、念能力者の戦闘を理解してやがる)

 

 投擲された針に何らかの念が掛かっているかもしれない。あるいは周囲に拡げることで発動する能力ということもあり得る。なにより、避けるだけでは拾われて再利用される可能性があるため、壊せるならば全て壊しておく。凡そ念能力者同士の戦い方としては、一般的なことであるが、それを猟犬のような何かが行っていることが少なからず衝撃であった。

 

「ぐっ……!?」

 

『――――――』

 

 針は刺すもの。ならば刺すことで何らかの能力が起動することは道理。そのためか、猟犬は攻めつつも非常に保守的である。

 

 触手とその駆体で同時に攻撃することはせず、触手数本で攻撃するか、足の爪で攻撃するか、百合のような口から伸ばす舌で攻撃するか、尻尾で打ち払うかの四パターンを状況に合わせて使う。

 

 かと言えば、たまに少し欲張った攻撃も行い、イルミがカウンターとして攻撃を加えるが、当たる寸前で転移能力を使って避けられる。当たりそうで届かない状況が、少なからずイルミを焦らせる要因になっていた。

 

 それが15分程続き、攻防と言えるような様相を呈す。

 

 しかし、それが断じて攻防などではないことは、イルミ自身が最も理解していた。

 

(後、何本だ……?)

 

 イルミを殺すことではなく、明らかに猟犬が針を狙っているため、面白いような勢いで彼の針が消費されていくのである。

 

 既にイルミの針は残り20本を下回っており、それもまた彼に焦燥を募らせる。この期に及んで猟犬は、針をすれすれで躱すスリルを味わいつつ、相手の心を削ることで遊んでいるのだ。

 

(……? 尻尾はどこだ……?)

 

 そして、焦り、疲労、未だある恐怖などが重なり、イルミに決定的な見落としを生んだ。

 

 いつの間にか、猟犬の攻撃パターンから尾撃が消え、それどころか尻尾そのものが、付け根から見当たらなかったのである。

 

(まさか――!)

 

 それに思い当たったときには既に遅く、猟犬のぎらつきつつも暗く光を呑むような目が輝き、歓喜に歪んだような気がした。

 

「がッ……!?」

 

 その直後、イルミの真下から尻尾だけか出現し、腹を打った。猟犬の目を見た瞬間から身構えてはいたため、辛うじて(ケン)による防御が間に合いはしたが、尻尾には平常時のイルミを容易く殺せる程度にはオーラが込められていたため、彼の体は激しく吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

(コイツ……! 体のパーツだけ転移させることもできたのか!?)

 

 あくまでも猟犬は全身を消してからの奇襲しかして来ず、今の今までその技を使ってくることがなかったため、イルミは自然と、そのような攻撃は不可能なものだと考えていた。

 

 それもまたどこまでも凄惨で理性的な猟犬の計画の内なのだろう。まさか、明らかに人間ではない生物が、人間の念能力者のように技術的な手の内を隠して戦闘に挑んでいると考えられる者はほとんどこの世界には居ないであろう。

 

「はー……はー……!」

 

『………………――』

 

 イルミが転移させた尾撃を最小限の被害に留めたためか、猟犬は行動を止めて、驚いたように文字通り、舌を巻いて見せている。この期に及んで、まだ遊び半分と言える様子であるが、それがまた猟犬の底の知れなさを感じさせた。

 

(マズいな……分離攻撃ができるということは――)

 

 猟犬を見据えながら息を整えていたイルミだったが、それ以上の思考は、起こった現象によって塗り潰される。

 

 何故なら猟犬の背骨を沿うように生えている多数の触手が一斉に消失し、イルミのいる四方八方の地面から触手が生えて襲い掛かってきたのである。

 

(――応用が利き過ぎる!?)

 

 全距離(オールレンジ)攻撃。文字通り、近距離から遠距離まで全ての攻撃をこなすことが可能な上、不得意レンジの存在しない、対戦者からすれば悪魔でしかない念能力であった。

 

 咄嗟に針と体捌きで避けたイルミであったが、それでも避けきれなかった触手のうちの一本だけが脇腹を貫通する。

 

 攻撃が終わり、煙のように消えた全ての触手は、猟犬の背中が煙に包まれた次の瞬間には、牙が並び立つように並び直していた。

 

『――――――!』

 

 そして、舌舐めずりをするように百合の蕾のような口から舌を伸ばして自身の口の周りを舐めると、猟犬は尻尾と背中の触手全てを消す。更にその状態で、舌を伸ばしながら地を踏みしめてイルミに突撃した。

 

(死ぬ――)

 

 イルミは周囲の地面から生える触手の先端と、尻尾を含めずに3mほどの体躯を持つ猟犬を正面から見据え、酷く時の流れが遅く感じる。

 

 これはどうやってももう避けようがないと、自身の人生の呆気なさと、あまりにも唐突な終止符に内心で溜め息を漏らしながら、眼前に迫る猟犬の大顎を見ていた。

 

 そして、猟犬の舌がイルミに届く瞬間――。

 

 

 

 

 突如、猟犬は急停止し、その場で横に激しく回転すると自身の首筋を目掛けて"飛来してきた数枚のトランプ"のうち半分を避け、もう半分を爪で引き裂くことで迎撃した。

 

 そして、イルミを攻撃する筈だった触手と、猟犬自身を消し、イルミと襲撃者から距離を取った位置に出現すると、猟犬はトランプが飛んできた方向を見据える。

 

 

 

「タイミングは完璧だったのに今のを避けるとは……大したものだ♧ 僕だったら当たってるよ♢ それとイルミ♠ 僕も混ぜてくれないかい?」

 

 

 

 猟犬の視線の先の森から出て来たのは、奇術師の装いをした男――ヒソカ=モロウであり、何故かイルミが知る3倍以上の顕在オーラを(まと)っていた。

 

 

 

 

 






これをあらゆる方法を用いてでもマーシャルキックで倒したりする探索者ってなんなんですか(唖然)




ーティンダロスの猟犬を呼び出したときー


『………………』

 猟犬は狛犬のような姿勢で、行儀よくアトラの隣で座っていた。

「わぁ……すっげー……図鑑でも見たことない動物だ!」

《つるっとしてて可愛いでしょう? 尻尾触ると嫌がるから注意ね》

「何かできるの!?」

《もちろん! 一通り、芸は仕込んでるもの》

 そう書くと、アトラは両手を使うため、ホワイトボードを置いて、少し屈むと掌を猟犬の前に差し出した。

《お手》

『――!』

 すると猟犬は声を上げて前足を乗せる。

《おかわり》

『――――!』

 犬のように逆の前足を乗せる。

《角》

『――――!!』

 猟犬は一瞬で消え、指で示した木の根本から生えるように姿を現した。

《スゴいでしょ? えっへん》

「おー?」

(なんか本当に犬みたいだなぁ……)





~QAコーナー~

Q:なんでヒソカのオーラ量が激増してるの?

A:手術糸には自然に溶けて体に吸収されるようなモノもあるそうですね。





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