バレンタインにこっそりこちらを更新すればきっとバレませんね……(イソイソ)
《お邪魔するわよー》
「あっ、アトラ!」
「うえっ……ピンピンしてやが――ぐえ!?」
ルルハリルの幸せのためにイルミを人生の墓場に叩き込み終えたアトラは、シルバから既にゴンとキルアが、試しの門の外にあるミケの掃除夫を務める使用人の屋敷にいることを聞いてそこに向かった。
すると嬉しげな様子のゴンと、対照的に眉を潜めた様子のキルアが対称的であり、キルアに対してアトラの音を置き去りにするデコピンが炸裂したが、挨拶のようなものであろう。
ゴン、キルア、レオリオ、クラピカの4名のうち、レオリオとクラピカは身体を鍛えていたようで、それを中断してアトラの周りに集まる。
「無事だったんだな! いや、俺が心配するのもお門違いか」
《ウフフ、気遣いだけで嬉しいわ》
(皆歩く音が不自然に重くなったわね。重りを付けてのトレーニングってところかしら?)
レオリオの気遣いに喜びつつも、小さな地面の軋みや大気の震えの変化からそのように感じるアトラ。それ以前にまだ動きもぎこちないため一目瞭然であろう。
「ルルハリルはどこに?」
《寿退社》
「そうか、コトブキ……ん?」
理解ができない様子で首を傾げるクラピカに対し、アトラは"ゾルディック家に譲ったわ"と嘘は吐いてない書き込みを行い、それに今度はクラピカも納得していた。
どうやらアトラにとってルルハリルは、やはりペットという扱いであり、良い取り引きになったのであろうと考え、それ以上の言及は誰もしないようである。
当事者の一人となるキルアを除いて。
「いやいやいやいや、家になに寄越してんの? 嫌がらせかよ?」
《キルア……立派なお姉ちゃんが出来てよかったわね……》
「いや、意味わかんねーよ」
尚、事の真相にキルアが気づくのはまだ少し先になってからの事である。
そして、話題は近況の報告になり、屋敷にいるゾルディック家のミケの掃除夫であるゼブロとシークアントから話を聞くと、どうやら彼らはアトラを待っているうちに、自力で試しの門を開けれるぐらいの力が欲しいとのことで、全身に重りやギプスを纏って、全ての物が重いこの屋敷で過ごしているとのこと。
《ゴンの腕を折っちゃったから少し時間掛かるわね……》
申し訳なさげにアトラは眉を潜めつつ、少なくとも1ヶ月は滞在することになると当たりを付け、その間にどうしたもかと思案する。
『あっ』
そして、何かを思い出したかのように懐をまさぐり、最新機種かつ最高性能であり常人ならばまず高過ぎて手を出さないような携帯電話を取り出した。
《そうだ。シルバから携帯貰ったからメアドと電話番号交換しましょ? 無いならとりあえず紙に書いて渡しとくわね》
「親父ィ!? 自由過ぎるだろお前……!!」
とりあえず、アトラは自身の携帯電話を持っていないゴン以外の3人と、何故かゼブロとも連絡先を交換する。
その直後、この部屋の扉が開き、チィトカアと全く同じような容姿をした黒髪の女性――シキミが前脚でドアノブの回して入室して来た。
「キルア様方どうもー。お昼をお持ちしましたよー」
見ればシキミは両手と腹部の背にお盆を乗せており、そこにはまだ湯気の立つ洋食が並んでいる。また、どうやら数的に使用人の分も含まれているらしい。
「あれ? おばあちゃんなんでいるの?
《あら、シキミちゃんこんにちは。隠す方がマナーらしいからそうしたまでよ》
「へー、そうなんだぁ。それより君たち訓練の成果はどうよ? キルア様もこれを機に4の扉開けられるようになったらどうですか?」
「軽く言ってくれんなぁ……オイ」
「腕を治したら俺も直ぐに頑張るよシキミさん!」
「うーん、いい子ねぇ。その調子で頑張るんだぞぅ?」
(似てんなぁ……)
(似通っているな……)
二人の人外の女性は面識があるどころか親類のようでそんな会話をする中、クラピカとレオリオは容姿もさることながら妙にフランクな性格が似通っていると内心で感心していた。
ちなみにシキミは試しの門を
久し振りにハンター試験を受けた仲間たちが一堂に会した場は、特に問題という問題もなく、いつも通り歳の離れた友人らの集まりのそれであった。
◆◇◆◇◆◇
(さてさて……)
ゴンらと合流した翌日の昼間。
アトラはパドキア共和国の首都にひとりで来ていた。建ち並ぶビル街はどこの国でもそう変わらず、都会の喧騒があるだけであった。
「くるっぽー」
《うんちはしないでね》
「くるっぽー」
そして、既に都会の鳩が頭に乗っており、それを特に気にした様子もなくアトラは顎に手を当てて考え込む。
彼女がここにいる理由は、ゴンらが試しの門を開ける身体作りをする間はとても暇なためである。
(手っ取り早くお金稼がなきゃね。お金はあったらあるだけいいもの)
それは"旅費"の資金稼ぎであった。金があるに越したことはないということは、数多の文明共通らしい。
そうは言っているが、くじら島でアトラは密漁者から剥いだ金品やクルーザーなどをチィトカア経由で売却することで、人間基準でのちょっとした財産ならば持っている。
しかし、本人的には旅行程度の期間でも数千年滞在するならばあまりにも心許ないことは、彼女自身が一番よく理解しているのだ。無論、売却すれば数回人生を遊んで暮らせるというハンター資格の売値も彼女からすれば小銭であるため、彼女の財布の底は果てしなく深い。
(それにしても不思議だわぁ……)
また、アトラは別のことを染々と考える。
今の彼女は、少し前と違って自然に纏うオーラを"隠"で全て隠しているため、回りの念能力者からは一切オーラを放出していない絶状態のように見えるであろう。
というのもそもそもアトラがオーラをいつもあからさまに誰でもわかるレベルで垂れ流していた最大の理由は、暗黒大陸にて周囲に対して遥かに強大な存在だということをアピールして無駄な争いを避けるためなのだ。
暗黒大陸では、アトラクラスの怪物に喧嘩を好きで売るような動植物は基本的に存在せず、平和とは全くそれで良いのであった。
そのため、それをこちらの世界でも特に理由なく実践していたに過ぎなかったのだが、それをゾルディック家にいた時に茶飲み仲間となっていたキルアの祖父のゼノ・ゾルディックに話したところ――。
『いや、出しとく方が問題じゃろうて普通』
『デジマ!?』
という気付きがあったため、基本的にオーラを徹底的に隠しておくことにしたのだ。どうやら人間という生き物は強いとわかりきった者が近くにいる方が問題になるとのことで、アトラは激しいカルチャーショックを受けたのであった。
(本当へんないきものねぇ……)
実に不思議な生き物だとアトラが思い耽る程度には、この世界の常識は暗黒大陸の非常識らしい。
ちなみに隠すことだけに集中しているアトラの"隠"は篦棒な操作技能によって、"凝"を目にしてようとネテロクラスの念能力者でなければ、可視することも困難なレベルで隠蔽されているため、これから彼女は"面白い世間知らずな蜘蛛姉さん"ぐらいに他者からは見られるであろう。
そこまで考えて思考を旅費に戻す。
ハッキリ言ってアトラの想定している旅費は人間とはスケールが違うため、人間で換算すれば個人が数千年間遊んで暮らせる程度の金額であり、それは大国の国家予算にも匹敵するレベルかそれ以上なのは言うまでもない。
彼女自身、旅行でまで節制したいと思う性格ではなく、むしろ豪遊したい質であり、ゴンらに良いものを買ってあげたいといった見栄を兼ねた歳上のお姉さん気質の面倒見の良さも合わさり、無意識に普段よりも若干高めに設定しているため、始末に負えないであろう。
『~♪』
そして、今のように旅行先で困った時のために彼女が作った念能力こそ――"
要するにチィトカアやアトラク=ナクアについて人類が危惧するような懸念は特になく、元々チィトカアとはただのトラベルガイドのようなものなのだ。無駄に応用が利いてしまっている点だけがネックではあるが。
シルバから貰った携帯電話にさも当たり前のように最初から入っている適当なチィトカアにアトラは電話を掛けた。
『はーい! アトラ様ぁ!
『チィトカア、割りのいいバイトある?』
『はい、わかりました。どのような職種や金額のモノをお探しで?』
ちなみにチィトカアがあまり高職に就かない理由は、旅先でアトラが高職に就くことがまずないからであり、常にアトラが仮に就いた場合のサンプルパターンを収集しているのである。
『なんでもいいけど、今は次の移動まで時間が1ヶ月ぐらいしかないだろうから、一仕事長くても移動時間を含めて2~3日で終わって、一回で……20~30億ジェニーぐらいは貰える仕事かしら? ……エッチなお仕事はダメよ?』
『わぁ、人間の子供だってもう少し現実的なこと言いますよ?』
『うるさいわね。それを押し通すために造ったあなたたちでしょうが』
『いつも思うんですが、我々から直接旅費を献上させれば良いのでは? それならポンと一括で終わりますよ?』
『それを言っちゃあおしまいよ。そんなの風情がないったらありゃしないわ。旅は一期一会、風来坊、フーテンと決まっているの』
ちなみに彼女の妙な旅に対する姿勢は、その昔にとある文明で"トラサン"なる通称で呼ばれていた映画シリーズを観たことが切っ掛けらしい。実に感化されやすく、無駄にめんどくさい、お婆ちゃんな蜘蛛である。
『なら……えーとですね――』
少し考え込んだ末に、アトラの要望に沿ったら中でも特に彼女向きであろうそれを提示した。
『"
◇◆◇◆◇◆
陰獣――。
世界の6大陸10地区を縄張りにしている巨大裏組織"マフィアン・コミュニティー"の首領10人で構成された集団"十老頭"直属の実行部隊である。
コミュニティーを構成する各マフィアのトップが選出した組織最強の10人の武闘派で構成された戦闘集団であり、全員が何らかの念能力者であると共に、動物の名前がコードネームになっている。
つまりは陰獣こそが、現在に置いてのマフィア社会最強の殺し屋であった。
《よろしくお願いするわね》
『かー!』
「はい、それではアトラ様の陰獣採用面接をお願いしますね? いやー、最高に幸運ですよ! 十老頭のカマソッソさん!」
突然、パドキア共和国に本拠地を構える十老頭のひとり――カマソッソに対して、秘書であるチィトカアがアポなしで、頭に何故かカラスを乗せているそれを連れて来たかと思えば、そんな宣言が行われた。
(またですか……)
このような事を持ち掛けてきたのは初だが、チィトカアがいつも突拍子もない行動をするのは慣れているため、適当に流しておこうと思った十老頭のカマソッソであったが、連れてきた人物を眺めて思わず息を呑む。
黒い真珠のように艶があり、足元につくのではないかという長さの黒檀色の長髪。人間の肌色からは明らかに掛け離れた新雪のような真っ白い肌。神話のエルフのように長く尖った耳と、どこか虫の触角を思わせる長めでハッキリとした睫毛。そして、白目が黒く黒目が赤い、明らかに人間のそれではない瞳。
また、さながら闇のように深い黒をしたウェディングドレスのような服装をしており、最も特徴的なのはバニエ部分が古い貴族の服装のように膨らんでいる上に、丈が地面につくほど長く、脚どころか靴の有無すら一切見えないことだろう。
総合的に見ると、およそヒトと言える姿をした魔獣の女性がそこにおり、何よりもその美貌に目を奪われたのだ。
(陰獣と言いましたね……秘書でも遊女でもなく……)
十老頭の中では比較的若いカマソッソは、
そんな存在から見たアトラという魔獣は、一言で言えば余りにも異様である。
まず、生物とは思えないほど呼吸などに伴う体幹の自然なブレが一切ない。そして、その身から必要最低限のオーラすら出ていない状態であり、ただの馬鹿でなければ、よほどの強者の余裕があることは明白であろう。
そのため、キチンと陰獣としての責務を果たせるかどうかだけが一先ずは気掛かりであった。
「ええ、それはもう! アトラ様は、契約は絶対に守り、また殺してでも守らせることに定評のある真性の悪魔のような方ですから!」
《あたぼうよ》
ろくでもない人間性のようにしか聞こえないが、何故かアトラは胸を張っている。
まあ、そもそも陰獣に求められることは人間性等ではなく、純粋な力と必要最低限度の社会的帰属のみ。少なくとも後者は既に満たしているであろう。
「ええ、強さの心配をしているのならご心配なく。そのようなことは有り得ませんが、仮に私が何体束になってアトラ様に襲い掛かろうとも瞬殺です!」
《おう、掛かって来いや》
チィトカア目掛けて風を切ってシャドーボクシングを始めるアトラ。
それにカマソッソは目を見開いて驚く。というのもチィトカアが陰獣と同格かそれ以上に強力な念能力者であることは、念能力者ならば誰の目にも明らかであるからだ。
実際、カマソッソが抱える現在の陰獣の前任者に当たる陰獣は性格に難があり、この秘書のチィトカアに襲い掛かった事があった。カマソッソの目の前で行われた事であり、それ以降の選出に関わる程度には衝撃的な事件でもある。
しかし、今こうして愉しげに笑みを浮かべているチィトカアは、その陰獣を数秒で血祭りに上げてしまったのだ。
彼女は"私はマフィアに所属している以上、念能力の多くが戦闘向きのチィトカアなのでこれぐらい当然ですよー!"等と何処吹く風であり、特に関係性が変化した訳ではない。つまりは彼女にとって
とはいえ、このチィトカアを含むチィトカアは、カマソッソどころかマフィアの誰とも秘書など事務仕事以外では契約しておらず、無理強いすると組単位で姿を消すため、チィトカアの陰獣と言うものは存在しない。そもそも世界的に見ても有事の際以外で戦うチィトカアは、ハンター協会の一部のチィトカアや、ゾルディック家のモノぐらいのものである。
そのため、十老頭は歯痒い思いをしていたが、そんなチィトカアが連れて来た陰獣候補であり、カマソッソが無下に出来よう筈もなかった。
《ところで》
そんな中、アトラがボードに文字を書き、首を傾げながらそれをカマソッソに見せる。
《陰獣って何する仕事なの?》
問題は当の本人が何も理解していない事であり、カマソッソはどう丸め込むべきか頭をフル回転させるのであった。
◆◇◆◇◆◇
《よろぴくねー》
「ああ……。ケヒヒ……十老頭は陰獣に華を添えようってか」
《華だなんてもうっ! お世辞が上手いわねー!》
翌々日後、郊外の荒れ地にて、カマソッソとチィトカアを立会人として、現在の陰獣とアトラが対峙していた。
アトラに対するのは、カマソッソが抱えている陰獣であり、赤茶けた肌をしてブーメランパンツのみを履いた大柄な男――
蚯蚓は依然としてオーラを出していないように見える彼女に対して、皮肉を込めたつもりであったが、言葉通りの意味で受け取っているらしく、ホワイトボードにそんな事を書きながら、少し嬉しげに頬を染めて照れるばかりだ。
陰獣である以上は、頂点として常に陰獣の座を狙う者からの下剋上を受けており、このような状況は別段珍しくはないため、蚯蚓が怒るような素振りもない。そもそも彼はチィトカアを襲った後に抜擢された陰獣のため、陰獣の中でも取り分け組織に忠実な陰獣である。
ただ、直属の十老頭からの直接の立ち合いのため、彼の真剣さがそのまま、蚯蚓というよりも蛸のような目から漏れ、薄ら寒い殺気を孕むオーラとなり、見ているカマソッソも背筋が竦む程であった。
《カーマちゃん、試合はどちらかが死んだ方が負けらしいけど……別に"まいった"と言わせればそれでいいのよね?》
「言うねぇ……」
この余りにも相手を下に見た尊大な発言には、蚯蚓も思わず怒気を幾らか孕ませる。
ちなみにカマソッソなのでカーマちゃんらしい。伸ばし棒はいったい何処から来たと言うのか。
ちなみにアトラに陰獣の仕事をカマソッソが伝える前に、チィトカアが勝手にそのまま"殺し屋ですよ"と伝えたところ、どういうわけか"天職じゃない!"と非常に好意的な反応を示していた。
《じゃあ、始めね。それじゃあ、一発好きに攻撃していいわよ? それまでこっちからは動かないから……嘘は吐かないわ》
そして、アトラは戦闘開始を告げつつ、不遜なまでに蚯蚓を下に見ている発言をしながらコロコロと笑みを浮かべてその場で止まる。
「――――!」
無論、その隙は余りにも致命的であり、即座に蚯蚓はアトラの懐まで入ると、顔面目掛けて"硬"で硬めた拳を突き放つ。
しかし、彼女の頬に当たると同時に蚯蚓は激しい違和感に気づく。
(妙に柔らけぇ!?)
『それはそうよ。私のこの身体は最高級の糸で出来ているもの。硬さ、柔らかさ、触れ心地から性質まで変幻自在。ああ、一発は一発よ?』
(――――!?)
そして、思ったことに対し、アトラは蚯蚓の頭に直接言葉を送ると言う余りに異様な形で返答し、それはカマソッソにも聞こえていた。
しかし、歴戦の猛者である蚯蚓は底知れない何かを感じつつも、アトラの片腕を己の利き腕で取り、そのまま地中に潜ろうと試みる。
蚯蚓の能力は、地中を自由に己の身体で掘り進む事が出来るだけでなく、地上の数倍の力を出すことが可能と言うもの。そして、現在地は蚯蚓にとっては地の利しかない比較的柔らかな土壌であり、一度引き込めてしまえば彼のマウントポジションであった。
(…………?)
だが、勢いよく腕を引き、半身を地中に埋めたところで妙な引っ掛かりを感じ、両手でアトラを掴みながら更に潜ろうとする。
しかし、それ以上アトラが体勢を崩すことは一切なく、蚯蚓は下半身を土に埋めたまま、子供が親の手を引くように彼女の腕を掴むばかりであった。
「な……!?」
半身とは言え、地中にいるため、既に蚯蚓の念能力は発動条件を満たしている。
それから導き出される純粋な答えは、アトラが全力の蚯蚓に片腕のみの力で勝っていると言うことだった。
『うふ……ふふふ……うふふふふ! いいわねぇ……念能力って本当に。時々、こういう型にハマらない面白い子がいるから大好きよ?』
そして、そんな言葉をまた蚯蚓の頭に送ったアトラは、力任せに蚯蚓を地中から引き抜き、片足を空いた腕で押さえる。
それに対し、反射的に蚯蚓はアトラの頭に"硬"を纏わせた蹴りを放つが、側頭部に当たった瞬間、ピタリと衝撃が止まると共に元から一部だったかのようにくっついてしまう。
「ぐぅ……テメェ!? 離れ――」
『言ったでしょう? 私の糸は"性質"まで変幻自在。アナタは自分でベタベタのハエ取りテープに触れて、勝手に絡まる蚯蚓そのもの』
"私の意思以外では、切断でもしなきゃ離れないわよ? まあ、
それから何かが裂ける異音と共に彼女の背中から、黒檀色の大木の幹ようで、毛の生えた巨大な蜘蛛の脚が一本生え、槍よりも鋭利な尖端が蚯蚓に突き付けられる。
そして、これまで一切オーラを出して無かったと思われていた彼女のオーラが突如、出現した。
「は……?」
それは蚯蚓自身の全てのオーラを数百、数千倍しようとも決して届くとは思えないほど先の見えない莫大なオーラだった。
まるで生きた山のようで、光の柱のようでもあるそれは、大樹のように落ち着いたオーラをしていると共に、底のない深淵のある筈のない遥か底から覗かれているような生物としての原初の恐怖を呼び覚ます。
何より、アトラの闇色の赤い瞳が、暗く冷たくただ広くあるだけのここではない何処かに放り出されたかのような酷く寂しい悲しさが心を押し流した。
戦うなどと思っていた自身が最も烏滸がましいと思うと共に、蚯蚓は生きてこの方、一度足りともすがる事もなかった名前も知らぬ"神"という形の何かへ無意識に命を乞う。まるで、それが当然の自然の摂理のように違和感なく、真摯な祈りは捧げられる。
そして、それを受け取るのは、触れることで直に心を覗いているアトラク=ナクアという暗黒大陸の"神"であり、蚯蚓の畏怖に染まり、自然と祈りを行った彼を少し高揚して眺めた。
『私ね――』
既に放心状態の蚯蚓に、アトラはこれ以上ないほどの笑みを浮かべつつ、口に人間のそれではない牙を覗かせながら舌なめずりを行う。
『蚯蚓って食感がいいから、故郷では結構好きで食べるんだけど……アナタも美味しそうね?』
"まいった……"確かに蚯蚓はそう心の中で呟き、それを聞き届けたアトラは、彼の拘束を解くと、そっと地面に置く。
気付けば蚯蚓は、無言で膝を折ると手を合わせ、密かに震えながら彼女へ祈りを捧げるばかりであった。
その一部始終、歴代最強の陰獣――"蜘蛛"が誕生した光景を目にしたカマソッソは、後にその体験をこう語る。
"私のような者ですら生まれて初めて神を信じた"――と。
~キャラクター紹介~
陰獣 蜘蛛
暗黒大陸の邪神にして、ゴンのやさしいお姉さんかつ、陰獣最強のアルバイト。
暗黒大陸を含む世界の何処にいようともチィトカアで即座に探し出し、直々に出向いて抹殺してくれる最凶最悪の殺し屋。十老頭お抱えではあるが、アルバイトで歩合制のため、基本設定料金はひとりにつき、ポッキリ50億ジェニー(要相談、チップ含まず)と伝説の暗殺家よりも割高。しかし、V5の国家元首であろうが、十老頭であろうが、幻影旅団であろうが、キメラアントの王であろうが、チィトカアだろうが、一度契約を結んだのならば必ず殺害してくれるため、信頼性はピカイチ。暗黒大陸垂涎の素晴らしいサービス。
※尚、彼女が気に入っている特定の人間は契約段階で絶対に殺害を受託しない模様。また、契約は絶対であり、万が一契約内容に虚偽があった場合、契約に基づいて契約者を殺すシステムとなっている。割りと金にがめつい。
カマソッソ
名前持ちの十老頭が一人も存在しないため登場したオリキャラ。パドキア共和国を含む地区を統括している十老頭であり、十老頭の中では比較的若く、生え抜きの実力派。グリードアイランド編でゲンスルー組に始末されたレイザーイベント初参加者程度の能力はある。
尚、アトラク=ナクアを陰獣に持てた最高に幸運な"女性"。
蚯蚓
死亡フラグを回避して大切な何かを失うと共に信仰を知った元陰獣。尚、アトラの希望で彼女の部下として再雇用される。
~QAコーナー~
Q:なんで蚯蚓?
A:携帯電話持ってたから(メアド交換)
Q:この後、蚯蚓どうなるの?
A:この世界で、寿退社したルルハリエルの代わりになります(ペット枠)
Q:ナニカちゃんにアトラの殺害を依頼するとどうなるの?
A:ビックリして目を見開いて、ちょっと固まった後、じわっと涙を浮かべながら首をブンブンと横に振ります(それはわたしの力を大きく超えている)