読者様方が忘れた頃にふらりと現れる依存衝動みたいな投稿者です(害悪投稿者)
《ただいまー!》
ゴンらが一ヶ月と少し経ち、レオリオでも試しの門の扉を開けられるようになった頃。機を計らったかのようにアトラが彼らの元に戻って来た。
実際、暫く顔は合わせておらずともレオリオやクラピカの携帯電話でやり取りはしていたため、彼らが鍛練を終えるタイミングで戻って来たのだろう。
《見て見て! 私、この一ヶ月でね!》
そんなアトラは、自信満々な様子で腰に手を当て、高らかに小さく鼻を鳴らしたしたり顔になると手に握っていたそれを掲げる。
《自動車免許を取得して来たのよ!》
アトラの手に掲げられた免許証の傍らには、"MT"と大きく文字が浮かんでいる。どうやらその上何故かマニュアル免許を取得して来たらしい。
それを見せられたゴンらは一様に狐に摘ままれたような表情を浮かべつつ、真っ先に半眼になったキルアが頭の後ろ手に腕を組みつつ溜め息混じりに呟いた。
「そんだけかよ……」
《は?》
「ちょ……おま!?」
スッと擬音が付きそうな様変わりようで真顔になったアトラは、どこから仕入れたのか、"戦車もオシャカにする"という触れ込みで有名な"スーパーバズーカ砲"を取り出す。
流れるような動作でスカートから取り出されたスーパーバズーカ砲は、照準をキルアへと向けて片手に構える。
明らかにそちらの方が遥かに自動車免許よりも凄いモノであり、キルアも当てられさえすれば、当たり前だが即死は免れない上、現在地のミケの掃除夫の屋敷を容易に木っ端微塵にしかねない武器なため、流石の彼も狼狽えていた。
《まあ、そんなことより自動車免許とハンターライセンスがあれば、どこの国でも自由に運転出来るんですって。便利ねぇ》
「へー、そうなんだ」
しかし、撃つ気は更々ないようでキルアの反応を見た後、静かにスカートへスーパーバズーカを収納する。
当然のように質量を無視しているが、スカートから4m超えの犬のような何かを出したり、そもそも人型の見た目に10m超えの蜘蛛が圧縮されている事を既に知っている彼らからすれば、最早突っ込むような事でもないであろう。
《ところで、アナタたちはこの後、どうするのかしら?》
すると居住まいを正して少し真剣な様子になったアトラはそう聞く。彼女なりに全員での旅はここで終わったことを察していると見える。
また、次にまみえるのはヨークシンであることは彼女も理解していた。
「ああ、俺は医者になるために医大を受けなきゃならねぇからな」
《そうね。なら最寄りのチィトカアが居たら気軽に声を掛けると良いわ。何かしら協力してくれるように言っておくわね》
「お、おう……恩に着るぜ」
真っ先にそう言ったレオリオは、下手をするとハンター資格よりも貴重な特権を得たことに困惑する様子をしつつ、それを甘んじて受ける。
「私は……」
次に口を開いたクラピカはアトラを見つつ何か迷うように口ごもる。それに対して、答えを待たずに彼女は先に文字を書いた。
《私は消えないし逃げない。何よりいつでも会えるわ。なんならアナタが寿命で死んだ後も暫くは旅をしていますもの。他にやることがあるならそちらを優先なさいな。でもそうねぇ――》
するとアトラはメモを1枚切り取り、指で何かを描くようになぞる。そして、それをクラピカに手渡した。
「これは?」
《とりあえず、それが何か分かるようになったらメールか電話掛けて来ても良いわよ? アナタの好きにして》
それだけ書くと、アトラは何か思い出したように"あっ!"と大袈裟に書く。
《それより、なんでアトラちゃん糸ぐるみ作った時は無反応だったのに、私の姿を見た時はぶん殴って来たのよ?》
前脚を上げて威嚇するデフォルメされた蜘蛛絵に"しゃー!"と擬音を付けたものを添えつつ、アトラは今更ながらそんなことを書く。また、頬を膨らませてプリプリと怒っている様子でもある。
「……ああ……悪かった。だが、もう大丈夫だ」
そう言うとクラピカは、非常に澄んだ瞳で全く悪気なくさも当たり前のように言い放った。クラピカはクラピカで歯に衣着せぬ物言いは長所であり、短所でもある。また、ゴンの仲間たちの中で一番マジギレし易い点も短所だ。
「翌々考えたが、アトラは最早蜘蛛と言うよりも怪獣だろう」
《……………………うーん、ちょっとギルティ。ていっ》
「いうっ!?」
アトラ的にギリギリアウトだったらしく、キルアに与えるそれとは比べ物にならない程弱いデコピンがクラピカの額に放たれた。
女心と秋の空。
雌の雄に対する愛情は、暗黒大陸の秋の空模様のように変わりやすく、どちらもたまに死角から命を狙ってくるというアトラナート族の諺である。
その後、ククルーマウンテンを離れ、空港に戻った彼らは、9月1日からヨークシンシティで行われるグランドオークションでの再会を約束し、それぞれの道を歩み出すのであった。
◆◇◆◇◆◇
《はえー……》
アトラはその雄々しいまでに聳え立つ槍や柱のような建造物を真下から眺め、語彙力を喪失していた。
場所はパドキア共和国と同じ大陸の東にあり、地上251階、高さ991m、世界第4位の高さを誇るタワー状の建物――"天空闘技場"である。
その実態は1日平均4000人の腕自慢が世界中から集まる格闘技場で、通称"野蛮人の聖地"。観客動員数は年間10億を超える超大型遊戯施設とのこと。
ゴンを墓場まで見守る予定のアトラは、当然ゴンと行動を共にするキルアと共に行動し、キルアの発案で、まず
「おい、置いてくぞアトラ」
《ああん》
慌てているような文字を書きつつ、特にそんな素振りはなくアトラは、キルアとゴンの元へ戻る。
キルア曰く、天空闘技場のシステムは、1階から199階層までは、1対1形式の闘いに勝っていく度に上の階に進めると共にファイトマネーが貰えるらしい。また、ファイトマネーは1階では勝敗に関わらず缶ジュース1本分の152ジェニー、50階で約5万、100階で約100万、150階を超えると1000万を超すとのこと。
とは言えアトラに言わせれば、それで最終的に手に入るであろう億単位のファイトマネーは小遣い程度であり、既に十老頭から多数の依頼をこなして貯金を始めているアトラは、微笑ましい面持ちで二人を眺めていた。とは言え、普通に自身も参加する気でいるため、結局二人と大差はない。
「凄い列だね……」
《皆暇なのねぇ》
早速受け付けの列に並んだ彼らであるが、受付の列はテーマパークの人気アトラクションのような長蛇の列のため、長時間暇である。1日平均4000人が利用すると言われているのは伊達ではないらしい。
そんな折――。
「おいでませアトラ様!」
さも当たり前のようにまたチィトカアが生えて来た。
髪色が薄めの橙色な事程度が特筆すべき事で、無論これまでゴンらが見たモノとは別個体である。また、今回は天空闘技場の奇抜で何処と無くパンキッシュな制服を着た従業員チィトカアらしい。
「相変わらず、金太郎飴みてーな奴らだよなぁ……」
「えっ? そうかな? キルアん家に居たチィトカアさんとか、ハンター試験でのチィトカアさんとは全然違うと思うけど……」
《ん? あら、前に会ったわね。
「さっすが赤ちゃんが産まれてもお祝いくれなかったアトラ様と、そのご友人! キルア様は10ポイント先取されてチェンジでーす!」
「ええ……」
しかし、キルアの感性とゴンとアトラの感性はどうやら悲しいまでに異なっているらしい。まあ、羨みたいとすら思えない程どうでも良く、意味の理解すらしたくない事のため、キルアは眉毛をひくつかせるばかりである。
「まあ、そんなことはどうでもいいですが、ここ天空闘技場の説明――はキルア様がしてしまわれたようなので、エントリーシートでも書いていてください」
そう言うとチィトカアは、何処からともなく用紙の挟まったバインダー3つと、ペンを3つ取り出し、2人と1匹に差し出してくる。
「待ち時間の暇潰しにでもどうぞ」
《はーん》
そうらしいため、チィトカアが持って来たエントリーシートの記入は先に出来るので記入することにした。参加条件は特に無いらしいため、戸籍のない者にも優しく、"野蛮人の聖地"足る由縁でもあるのだろう。
「あっ、アトラ様のお名前私が書いておきますね!」
《なんでやねん》
アトラのツッコミを余所に、エントリーシートを引ったくったチィトカアはさらさらとペンを走らせる。そして、直ぐにアトラの手元に戻した。
名前:
↓
名前:ハツネ=ヒラサカ
《いや、誰よ……?》
「前に話してたお姉様です」
《本当に誰なのよソイツは!?》
「ミルキ様のような人種ならば知っておられるかも知れません」
「なんでそこで豚くんが出て来んの?」
それからチィトカアを問い詰めるアトラであったが、のらりくらりと要領の得ない発言をするばかりであった。
生年月日:
↓
生年月日:乙女の秘密
闘技場経験の有無:
↓
闘技場経験の有無:なし
《つーん……》
「ゴン様。アトラ様がそっぽを向いて口を利いてくれなくなってしまわれました。どう致しましょう?」
「素直に謝ったらいいと思うよ?」
「前向きに検討したいと思います。ほら、早くエントリーシートを書いてください。大人気ないですよアトラ様」
《つーん……》
「ホント、チィトカアはどいつもこいつも変わんねぇなぁ……」
《なんでこんな奴ら造ったのよ私は……》
後悔先に立たず。
暗黒大陸で知り合いが死んでしまうと寂しいが、後悔出来るということはまだ自分が生きているので、もう少し頑張ってみようというアトラナート族の諺である。つまり今とは何も関係ない。
格闘技経験(年数):
↓
格闘技経験(年数):100000000年
「アトラってさ?」
《なにかしら?》
「前に何千万歳って言ってたよね?」
《確かに言ったわね》
「経験に1億年って書いてるよね?」
《ええ、書いているわね》
「何でなのかなって思って。長生きしてるのはそれだけで凄いと思うからさ」
《……………………いいゴン? 女っていう生き物はね。誕生日に歳を数えなければ永久に歳を取らないの。不死身なのよ?》
「バッカじゃね――」
「いやいや、そもそもゼロの桁が少な――」
神速のデコピンがキルアとチィトカアの眉間を直撃したのは言うまでもない。
格闘スキル:
↓
格闘スキル:糸
「糸って格闘なのか?」
《人間で言えば体毛みたいなものだから格闘でしょう。キルアも爪伸ばして殺るじゃない?》
「なんか一緒にされんの癪なんだが……?」
《ストリングプレイスパイダーベイビー!》
「…………うわぁ」
キルアがそう呟いた理由は、引くほどのスピードで何処からともなく取り出したヨーヨーをして来たからではなく、自身の好きなものを意味のわからない
職業:
↓
職業:橋梁業 陰獣
「アトラ? かげ……けもの……? それって何?」
《定員制で歩合が良い上に拘束期間も短いアルバイトよ》
「あー……ああ、まあそんなところだぜ」
「キルア様って強かなのか、世渡り上手なのか良くわかりませんよね」
「ええ!? 俺にも教えてよ!」
わいわいぎゃいぎゃいと子供のようなやり取りを、子供二人と大人二匹はしつつ、エントリーシートが全て埋まるまでそうしていた。
◇◇◇
「はい、確かに預かりましたよ!」
遂に並んでいた列で先頭となり、受付まで来ると、さも当然のように受付内に入って行ったチィトカアはエントリーシートを受ける。
そんなこんなで滞りなく彼らは天空闘技場の受付にエントリーシートを提出した。
そして、天空闘技場での試金石でもある最初の試合を受けるまでの待機時間にアトラがふと言葉を発する。
『あっ……!』
「うお!? 突然なんだよ!?」
「どうしたのアトラ?」
アトラはぷるぷると小刻みに震えつつ、顔を真っ青にしていた。
これほどまでに彼女が窮地に追い込まれたような顔をしている姿を見掛けるのは、ゴンとキルアにとって、
そして、震える手でホワイトボードに文字を書くと、少し泣いたように目の端に液体を浮かべながらそれを二人に向けた。
《名前……書き直さないで提出しちゃったわ……》
ちなみに、これが後に前人未踏のバトルオリンピア10連破を成し遂げ、尚も更新を続ける生きた伝説として幾重にも語り継がれていく天空闘技場闘士――"ハツネ=ヒラサカ"が誕生した瞬間なのであった。
◆◇◆◇◆◇
『ハツネ=ヒラサカ様――ハツネ=ヒラサカ様――39番リングへお越し下さい』
《この
奇しくも明後日の方向かつ次元の彼方へ思考のバネが飛んでおり、彼女が諦めと憎悪と幾ばくかの愛情を抱くチィトカアの妄言が真実になってしまったため、アトラは大変ご機嫌斜めだった。
今の彼女はちょっぴり暗黒大陸でイケイケだった頃の自分に戻っているかも知れないが、彼女が加減無しに少しでも暴れば、天空闘技場は彼女の言う通りにポッキリと折れてしまう事であろう。
「おう、さっさと行って来いよハツネ」
「止めなよキルア……」
《 ( `д´) 》
エントリーシートをアトラが最後に出した兼ね合いか、先に最初の試合を終えているゴンとキルアは、初のファイトマネーで買った缶ジュースを飲みつつそんな会話をしていた。
まあ、まだアトラは"ぷんすこ"等と擬音を付けて顔文字を書いているため、天空闘技場が槍投げからのアルゼンチンバックブリーカーを決められるような事態にはならないと思われる。
そんなこんなであるが、アトラはリングに足を運んだ。
そこは大きなリング内に簡易的な幾つもの小さなリングが設置された構造をしており、その中で39番のリングを見付けた彼女は立ち位置に付く。
「へへっ……なんだこんな嬢ちゃんが相手か。悪いが楽に勝たせて貰うぜ!」
《いやん! お世辞が上手いわぁ!》
「お、おおう……?」
巷の荒くれ者と言った風貌の男に"嬢ちゃん"と言われた事で、アトラのご機嫌ゲージは瞬時に最大まで回復し切り、胸の前で両手を構えて嬉しげに首をブンブンと振るう。
暗黒大陸では畏怖と絶望と邪悪の象徴足る彼女には、悲しいまでに褒め言葉に対する耐性が無かったのだ。
「――おらぁ!」
その直後、レフリーが開始の合図を出した事で、男がアトラに襲い掛かる。既に開かれた男の手が彼女の眼前に来ているが、彼女はそのままの様子だ。
むしろ、見目麗しい容姿の女性魔獣なアトラに男の気が引けており、若干手加減しているようにも見えた。実際、打撃ではなく組伏せる気らしく、彼女の腕目掛けて手を伸ばしていた。
《あ、それはそれこれはこれ》
ただ、世辞などで腕が鈍るようならば、邪神等と言われてはいないため、アトラのコンディションに全く問題はない。
「――え?」
アトラの腕に触れた――その直後、男の視界は真っ逆さまに反転する。そして、気付いた頃には彼女の足元に転がっており、レフリーもこの光景には目を丸くしている。
そして、立ち上がろうとする男の脇にしゃがみこんで少し構えを取り、二本だけ指を使ったアトラは、彼の片腕を後ろ手に捻り上げた。
「いでで!? 痛い痛い痛い!? 止めアァァアァァ――!?」
《後、12秒で折れるわよ?》
「ヒィ!? 俺の負け! 負けだぁ!?」
《はい、お利口さんね》
相手がリタイアしたため、レフリーが判定を下すまでもなくアトラの勝利である。彼女は男から手を離すと"お疲れ様"とだけホワイトボードに書いた。
まあ、天空闘技場に挑む武術の心得のある者程度では、倍率10000倍というハンター試験に到達出来た人間にすら足元にも及ばないことは明白なため、それ以前の問題ではあろう。
「今のは……オチマ連邦の軍隊格闘技か? いや、ジャポンの合気道にも似ていたような?」
《なにかしらそれ?》
関心を見せるレフリーにアトラは小首を傾げる。
と言うのも彼女が用いた人間の技のような何かは武術でもなんでもないのだ。何せ単純に人型の生き物同士が戦うと想定した場合に、最も最小限の力と動作で相手に最大のダメージを与えつつ、拘束したに過ぎない。
人間の肉体を解剖学的に理解することで最大の痛みを与え、運動学的に最小限で重心を崩し、その力さえも相手の力を利用する。それはまるで効率や護身を突き詰めた人間の武術に極限まで近かった。
そして、ほぼ無意識のうちで瞬時にやってのける。それはある種の極地であると共に、世の武術家どころか、鍛練や修行という行為そのものを激しく踏み躙るものであろう。人類最強の念能力者ですら純粋な接近戦に持ち込まれればまず勝てまい。
アトラク=ナクアという神性はそう言った生まれながらの理不尽だった。と言うよりもそのレベルでなければ、到底暗黒大陸で台頭しようなど出来る筈もなかったのだ。
「
《 ( ´∀`) 》
無論、アトラはそんなことをレフリーに説明するどころか考えている筈もなく、それよりもゴンらと同じ50階層に行けた事に喜び、嬉しげな面持ちで彼らと合流するのであった。
~QAコーナー~
Q:おい、陰獣のこと伝え無いのかよ?
A:アトラさんにとって大切なことの比重
自動車免許 > 陰獣
Q:お前、あの重量でどうやって車運転してんだ?
A:車を全部オーラで覆う(本末転倒)
Q:なんでバトルオリンピアに参加してんの?
A:馬鹿と煙は高いところへ上る(屋上ハウス目当て)
Q:彼女の次の目標は?
A:船舶免許