奥沢美咲とイチャイチャするだけのss 作:キモオタク
「今日、家に来て」
その幼馴染の一言は、さも当たり前かのように唐突だった。
〇
──あいつと別の中学になってから、話すことが無くなった。
高校一年の夏休みも終わり、だんだんと周囲が新しい環境に溶け込んできた頃。自分の机から揺れ動く積乱雲を見て、
"あいつ"というのは当真の幼馴染である、奥沢美咲のことだ。
お互いが小学生の時は、あまり二人が周りに執着しない性格だったのもあり、仲の良い関係を築けていた。
──それはそれはもう、濃く。
一緒に風呂に入ったことは、数えきれないくらいにはある。
それは小学生ゆえの無垢な感情から発生した行為ではなく、二人して明らかな特別な感情を持った上で、それが特別なことだと理解した上で、そんな日常を過ごしていた。
自分たちの親が「お互いまだ小学生だから」といった楽観的な理由で見過ごしてくれることも、精神的成熟の早かった二人にはわかっていた。
知識が無かったこともあり、お互いの局部を触れ合うような──つまりは、ペッティングをすることなどは無かった訳だが。
それでもやはり、想いを寄せる異性のありのままの姿を見られるというのは、小学生の当真からしても相当な刺激だった。
こんな関係は、小学三年まで続いた。
さすがに親が警戒心を二人に抱き始めたのだ。口出しされるギリギリ手前で、この年齢だからこそ許される行為はストップした。
さて、次は何をするか。
既に十歳近くなれば、周囲が異性に対しての恋愛的な話を持ち出してくる。
そして、ずっと一緒にいるような男女は冷やかしの対象となり、時にはいじめに発展することもある。
「おはよう」という挨拶を交わすことすら、周囲にとやかく言われかねない悪しき風潮だ。
周りの子供たちにそういった心理が芽生えてくるのを見越して、二人はパッタリと関わることをやめた。幸いクラスが違ったこともあり、関係を断つことは容易だった。
親も親で、心も体も成長してくる年齢の二人が裸を見せあっていたことを危惧していたので、特に美咲の母親は、当真が家に来なくなったことをむしろ喜んでいた。
誰もいない神社でそれを美咲本人から聞かされた当真は、何も言えなくなってしまった自分の口に美咲からキスをされ、落ち込んだ感情、美咲とあまり話せなくなったフラストレーションなど全てを忘れて美咲との結婚を神に祈ったそうだ。
神も呆れるほどの単純な男である。
しかし、二人が中学生になってから関係は急変した。
今までは、関係を断ったとは言えど学校で当真は美咲の姿を見ることができたし、かの神社のように二人が会える場所は間違いなくあった。
けれど、美咲が
──それも、相当に厳しいと噂される中高一貫校だった。
例えば学業に相当重きを置いているだとか、男と関わることが言葉を強くすれば禁忌だとか。
とは言っても、所詮噂は噂である。
美咲の通おうとしているその花咲川女子学園は、一般的な家庭の女子生徒も広く受け入れている、言わば庶民的な高校だ。いくらそんな噂があるとは言え、関係が切れるようなことは絶対に無いだろう──。
そんな甘い考えで、連絡先の交換もないまま美咲を送り出してしまったのが、当真の最大の誤算だった。
そして今。高校一年、九月。
当真はこの四年もの間、美咲と一言も会話を出来ずにいた。
しかし実は、美咲の連絡先自体は一年前に手に入れることができていた。中学三年の時に「A小学校六年グル!」などというふざけた名前のグループに招待されたのだ。
その中に「奥沢 美咲」という羊毛フェルトをアイコンにしたユーザーがいた。当真は迷わず、友だち登録をした。
けれど、そこからの一歩はどうしても踏み出せなかった。美咲のタイムラインに何も投稿されていなかったのもあり、まさか向こうは友だち登録をしていないんじゃないか、と焦ったのも一因としてある。
無理もない。小学生の時にあんな濃密な関係で過ごしていたのだ。相手に何も感じなくなってしまえばしまうほど、記憶の中にあるそれは黒歴史として心を突き刺す刃となる。
もちろん当真は、美咲のことがずっと好きでいた。
昔の彼女のまだ成長していない胸などを思い出しては、予定調和のように興奮のあまり勃起している。
ただ、それだけなのだ。当真の息子は泣いていた。
さらりと、スマホの画面をなぞる。
トーク画面に有りはするものの、何も会話のなされていない「奥沢 美咲」の文字がある。
もはや何度目かもわからないが、その文字を押す。チャット画面が開く。
書きかけのメッセージが、画面の下に残っている。
それを消して、また新しい文面を考える。
──どうせ、送れやしないというのに。
そしてスマホの画面を消して、机にうなだれた。
その時だった。ピコンという音とともに、当真のスマホにメッセージか届いた。
「えっ」と思わず、当真は声を出す。それは紛れもなく、「奥沢 美咲」からのメッセージだったからだ。
『今日、家に来て』
「?」
あまりにもその一言は唐突だった。
まるで長年付き合った男女のやり取りのようで、当真の頭には無限の疑問符が駆け巡る。
さらに立て続けにメッセージが届いた。
『え、既読早い』
「??」
さらに多くの疑問符が、当真の頭に浮かび上がった。
──なんでこんなに、平然としてるんだ?
こんな思いが、頭に過ぎる。
けれどそんなことを訊くのは野暮というものである。そもそもそんな考えは、美咲と四年ぶりに会話ができるという事実を前に一瞬で消え去った。
その後当真は、五分程自分の中で嬉しさを消化していた。しかし、飲み込んでも飲み込んでも溢れ出る美咲への自分の愛情を抑えることは到底できそうもなく、ニヤけ──いや、満面の笑みを自分でも気持ち悪いと思いながら浮かべて、それでも平静を装って当真はメッセージを返した。
『わかった』と。
既読は、一瞬で付いた。
〇
七年ぶりの美咲の家。
奥沢家の二台の車は両方とも車庫には無く、美咲の両親、そしておそらくは美咲の弟と妹も外出しているようだった。
美咲の母親にはできるだけ会いたくなかった当真は、幾分か安堵してインターホンを押す。
「はい。……ああ、当真。今開けるね」
久しぶりに聞いた、美咲の声。それは数年前と比べると少し落ち着いたものとなっていて、それだけで当真は自分の心が痺れていくのを感じた。
そのまま胸を高鳴らせて、美咲との再会をまだかまだかと待ち続ける。
バタバタと、玄関に美咲が来た音が聞こえた。
──ああ、もう彼女まで秒読みだ。
三、二、一、────ガチャリ。
「……久しぶりだね、当真」
ふわっと、どこか懐かしいような、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
それは間違いなく、当真が大好きだった美咲の匂いだった。
目を見開く。
肩先で切り揃えられた黒髪が、丸く大きな目とラインのはっきりした鼻によく似合っている。
背丈は当真のちょうど十センチほど低く、どこかダウナーな雰囲気とパーカー姿は、昔と変わっていなかった。
すごく、いや相変わらず綺麗な人だと、五感全てが教えてくれる。
「……うん、久しぶり。美咲」
緊張して話せなかったらどうしよう、だとかそういった不安は、美咲を目の当たりにすることで完全に無くなってしまった。
そこに立っていたのは紛れもなくかつて当真が好きだった美咲本人で、自分の恋心が冷めるどころか大きく燃え上がっているのを、当真は強く、強く感じた。
「立ち話もなんだし上がってよ」
「ああ、お邪魔します」
──本当は、ずっと立ち話をしていても良かったんだけど。
そんな思いを胸に、当真は奥沢家の玄関を跨いだ。
〇
「お茶でいい? お茶しかないけど」
「なんでもいいよ。ありがとう」
そう言って出されたのはいくらか温めのお茶で、肌寒くなってきたこの季節によく調和していた。
「おいしい」
「……ただのお茶だよ? 大袈裟だなあ」
微笑みながら言葉を返し、美咲は当真の座る三人がけのソファで、当真の隣に腰を下ろした。そのまま美咲も、お茶を飲む。
「わ。ほんとだ、おいしい」
「だろ」
そしてまた、当真はお茶を飲んだ。
美咲に聞こえてしまうくらいに高鳴っている心臓を抑えるように、飲み続けた。そんな当真を横目に、美咲は口を開く。
「本当に、久しぶりだね。会えて嬉しい」
「……もう、四年間も会ってなかったんだなあ」
当たり障りのない返事を、当真は返す。
「そうだね」
「そうだなあ」
「うん」
少し、どよんと曇った空気が、二人の間を流れていく。
──美咲は「会えて嬉しい」と言った。そして、家に誘ってくれた。
そこから当真は、なんとなくではあるものの、美咲が自分に昔のように接してみようとしてくれていることがわかっていた。
けれど思い出が、どうしても踏み出す一歩の邪魔をした。
四年間も会話をしていなかった美咲に対する不安感も、まだ拭えないままでいた。
そんな当真を、美咲は眺める。
自分より少し高い身長、短めに切り揃えられた、少し癖ある黒髪。
昔からよく食べよく遊ぶ元気な子供だったからか、体つきは逞しいものとなっていた。
とは言っても、美咲は当真以外の年頃の男を見る経験がこれまで無かったため、彼女の主観ではあるのだが。
それでも美咲の目には、
空気が重くなっているのを肌で感じ、美咲は次の一手を繰り出す。
「一年前くらいかな、友だち登録してくれたのって。あの時あたし、すっごい嬉しかったんだ。あれは、どうして?」
「美咲がいたから衝動的に……かな。けど、何も反応が無かったし、タイムラインとか見えなかったから、友だち登録してくれてないんじゃないかって、もしかして美咲は俺のこと嫌いになったんじゃないかって、一年間ずっと落ちこんでたんだ」
当真の口からは、不思議と流れるように本音が出ていった。
けれどそれを恥ずかしくは思いながらも、当真はそれを止めたいとは思わなかった。美咲には自分の全てを話したいと感じていた。
当真の言葉を受けて、美咲が笑う。
少し、悲しそうな笑いだった。
「ふふっ、なにそれ。ほら、あたし、何も投稿してないんだよ。当真も友だちリストにいるよ」
眼にいくらかの涙を浮かべて、美咲は自分のスマホを見せた。
──しまった。そう当真が思うのは、あまりにも遅く。「嫌いになったんじゃないか」と言うのは明らかに悪手だったのだ。そんな相手を、家に呼ぶ筈が無いのだから。
ただ当真は、「ごめん」と返すことしかできなかった。
「……じゃあ、もっと早く話しかけてれば良かったな」
「……ううん。当真からのメッセージを一年間も待ってたあたしも大バカなんだ」
けど、と美咲は続ける。
あたしにこんなことを言う資格は無いけど、とも前置きをした。
「あたし、今もあなたのことが好きだよ」
──そして、溜まったものが決壊したように、美咲の目から大粒の涙が溢れ出た。
今すぐにでも当真を抱き締めたいと思いながらも、当真の答えを聞くまではそんなことはできないと、必死に理性で自分の両腕を抑えつけているようだった。
そんな美咲の姿を見て、当真はゴクリと唾を飲み込む。
頬に汗がたらりと流れる。
手に持ったコップが、焼けているかのように熱い。
心臓が高鳴る。
足元が涙で、濡れていた。
「美咲」
────気付いた時には、彼女の身体を抱き締めていた。
力を少しでも加えれば、跡形も無く崩れそうなその身体を。
それでも力を緩めることなどできそうもなく、ただひたすらに美咲を抱く。
「俺も好きだった。ずっと。この十六年間ずっとだ」
「うん……当真、当真!」
心を縛る鎖が溶けていく。
ブレーキが無くなっていくのを、軽くなった身体で感じる。
その中で二人は、互いを壊してしまうほどに互いの身体を締め付ける。
もう離したくないと願いながら。
君は自分のものだからと、強く、強く。
足元は既に、洪水のようだった。
〇
「今日、当真を呼んだのはさ」
しばらく経って涙が落ち着いた美咲は、当真の胸から顔を離さないまま、声を出した。
「あたしが当真のこと好き過ぎて限界だったっていうのと──」
──恥ずかしげもなく、よくこんな台詞が言えるなあ。
自分の身体が熱くなっていくのを感じて、うっすらと当真は思う。
「あ。抱く力が強くなったね。大好き」
──なんて狡い女だろうか。好きになるなという方が無理だ。魅力がありすぎる。
雰囲気に飲まれそうになりながら、それでも理性の一片を保って思考する。
「そう。っていうのとね。……明後日まで、家族がいないんだ。あたしたち二人きり……だよ、当真」
そう言ってようやく、美咲は当真の胸から顔を離した。
少し笑みを浮かべていて余裕そうにも見えるが、その実美咲の顔はリンゴのように紅く染まっていて。
「……二人きり?」
「そう、二人きり」
ああ、心臓が煩い。頭がクラクラと酔っている。美咲の吐息が、甘ったるい。
何を言おうとしているのかが、手に取るようにわかってしまう。
「ねえ、返事は?」
「返事……」
「その。だから、さ。あたしとセッ………………クス、したいの、したくないの」
言い慣れていない言葉なのだろう。
大分溜めを作ってから、やっとの思いでというように、さらに顔を赤くして美咲は言う。
夕焼けは既に落ちている。
カチカチと、時計の秒針が動く音だけが部屋に響く。
ライトも無い薄暗い部屋、ソファの上で、肌を触れ合う男女が二人。
「……したい」
──当真がそう言うのと同時に、美咲は荒い呼吸のままパーカーのファスナーを開けた。
その時、当真はだらりと額に汗が浮かぶのを感じた。
そのパーカーの下には、下着一枚しか無かったからだ。
薄暗くてよく見えないが、色はおそらく、黒。
その曲線をゆっくりとなぞって、それがレースだとわかった。
「今日のために買ったんだ。かわいいでしょ」
「いや、えぇ……?」
もし自分が誘いを断ったら?
自分じゃない誰かが入ってきたら?
そんな思いが、頭を巡る。
けれど、すぐに結果オーライなのだとも思った。
現に自分は、こんなにも興奮しているのだから。
だからこそ美咲の気持ちに応えなければと、再び当真は美咲を抱き寄せて、その唇にキスをした。
しかしここでも美咲が一枚上手であった。
「るっっ!?」
美咲の舌が、当真の中に入りこんできたのだ。
歯並びのラインを表と裏となぞられて、ゆっくりと口の形を確認させられる。えも言えぬ快感が、当真の脳を襲う。まるで脳の快感を司る部分を、直接愛撫されているかのような。
行く宛てを無くした当真の舌は、容赦なく美咲に蹂躙されていった。
無限のように感じられた短い時間で、二人の舌先は分厚い唾液を重く引きながら、離れていく。
「ファーストキスはバードっていうけど、もうそれは何回もしたからね」
──勝てない。絶対に。
その文字だけが、当真の脳を埋めつくした。
身体が押し倒される。自分より小さなその身体に、どうしようもなく強く押し倒される。何も抵抗できやしない。
長い夜が、始まろうとしていた。
なんだこれ(呆れ)
続きはないです。