小野寺可愛いよね、あれ? 別のアニメ
夏目も可愛いです。その可愛さゆえかちょっと長く…
本業を、忘れてた。
いや、本職は忘れてない。
やってないけど。
「どうしよっかなぁ」
「なにがや」
「あ、大友センセ」
奕杜が職員室の自分の席でギコギコと椅子を揺らしていると、向かいの席に座っていた大友が話しかけてきた。
「いやね、もっと生徒と円滑に、自然に仲良くなれればなぁとか思っちゃったり」
「そら出来んことも無いけど…何故に今更?」
「本来のお仕事のほうも、いよいよやらなくちゃなぁとか思ったりしてェ」
くい、と奕杜は背後の窓ガラスの方向を指差す。大友は不思議そうに首を傾げては席を立ち、片足義足で杖をコツンコツンと叩きながら歩み寄っては眼下の景色を見下ろす。
そこには、塾生達の登校風景が広がっていた。何ら味気の無い、普通の景色だ。
「これが、なんやねん?」
「ストーカーっていうの? アレ」
「……あぁ、なるほどなぁ」
背後の景色を見ているわけでもないのに指摘した僕の言葉に、大友は得心がいったとでも言う様に頷いた。
大友の視線の先には、高校生男子にしてはえらく華奢な体つきの、艶ある髪の長い生徒が登校している。
その、背後。
まるでストーキングよろしく、何人かのスーツ服の男達が彼の後姿を目で追っていた。もちろん、ストーカーされている本人も気付かない訳ではないようだ。だが、直接的に手を出してこないからか特にこれといった抵抗も見せず、むしろ気丈に振舞って堂々と登校しているように見える。
「なんなんです? アレ」
「夜光信者やな。ったく、塾生ゆうてるんにイジるのはよしてくれへんかなぁ」
「あぁ…アレが例の」
そこから先は続かなかった。それが大友には
奕杜は変わらず椅子を揺らしては、普段何の悩みも無いような曇りない顔を珍しく歪ませて唸っている。
「うぅ~ん、どーしよっかなぁー。お話したいなぁー」
「言うときますけど、夜光信者にはあんま関わらへん方がええで。こっちの話なんて聞く耳持たへんし」
「いや、そっちじゃなくて」
「……土御門君の方か?」
「正解」
有り余る袖を頭上でゆらゆらと揺らしながら、奕杜は肯定を露にした。不自然なほどに跳ねる新緑色の髪がアンテナのように震える。
「いやね? 僕授業出てないでしょ? でも悩み抱えてそうな生徒いるでしょ? そういうのってカウンセリングとか、せっかく担任なんだし話を聞くだけでも結構違うと思うんだよねうんそうそう。でもさ、そういうのって学食堂とか他の一般人がいるところではなかなか本音で話しずらいじゃない? 所謂思春期特有の意地みたいなさぁ。だからお話はしてみたいんだけどタイミングが掴めないっていうか、場の空気の問題っていうの? 如何わしいこと考えてなんてこれっぽっちも考えてないんだけど、二人っきり水入らずで話せるようなオヌヌメの場所って無いかなぁと大友センセに聞いてみたり」
「わかった、わかったからオチツケって」
ここに来て漸く、大友は自分がくだらない奕杜の策略に片足突っ込んでしまったと自覚した。だが話に巻き込まれてしまった以上引き返すのは困難だ。
この、お人好し。
否、これも呪術の一つか。
もし無自覚にやっているのだとしたら、奕杜の人を巻き込む才は果てしなくたいしたものだ。ちゃんとした結果を生んでしまっている。
だがそこで大友は考える。入学式からざっと一月と半分。
唯、一人を除いて。
「……なんちゅーか」
「え?」
「不器用なやっちゃな、奕杜君も」
「なにそれ失礼」
お前が言うな。
つまりはそう言うことだろう。
いくら十天君という優れた式を十も従わせているとは言っても、所詮は人であることには変わりない。そう考えれば、いくら仙道とは言えども人間の根本的な悩みやどうにもならないということが分かる。大友はそこに、奕杜の人間らしい一面を垣間見たような気がした。
別段、人間扱いをしていなかったわけではない。
ただ、己が携わる陰陽師の総本山、しかも本場の中国の道教界のトップ3に君臨する内の一人とのなれば話が違う。道教界の道士ですら並々ならぬ存在――仙道であるのに、そのトップともなれば自然と一線を引いてしまう。
なぜならば、彼らは長寿だから。
未だに奕杜本人から聞いたことはないが、本場中国の道教界に携わる道士の大半は4000年以上も前から存在した不死の者達であると。
無論、大友もそれを鵜呑みにしたわけではない。日本にも、特殊な事例であり尚且つ成功例を未だに見たことは無いが輪廻転生の術が無いわけではないのだ。
学生時代の同僚が熱心に調べていたからよく覚えている。土御門家に伝わる呪術『泰山府君祭』。
時は安部晴明が存命していた時代にまで遡り、死者を蘇らせる陰陽師の最大秘術のことである。それは土御門家が代々受け継いできた門外不出の秘術であり、同時に土御門夜光が死んだ原因とも言われている。
信じたわけではない。
だが、日本より先駆けて何千年も受け継がれている道教界ならば、既に不老不死の法を会得しているのではないか。
大友は、既にその話を聞いた時点で呪に掛かっていたのだと自覚した。
甲種言霊のようなものではない。人間の根源にある欲望を、畏れを、それら全てを鷲掴みにするような力が奕杜にはあった。現代人には無いような容姿が、魅力が、霊気が。人間離れした奕杜には、己達とは遥か遠くにいる存在であることを大友は悟っていた。
「……アホらし」
思わず肩を揺らし溜息をついた。
しかしどうだ。蓋を開けてみれば奕杜は見た目の年齢相応の子供らしさも見せる。最初に会った時に己の隠行を見破られてから只者ではないとは踏んでいたが、それはそれ、これはこれである。
なるほどなるほど、これはアホらしい。一本取られたとしか言いようが無い。正確には自滅に近いものではあったが。
「あ、いま呆れたね。はぁ~こんなにも生徒のことを考えているというのに大友センセはなんて」
「ええで。話し合いの席、ウチが設けたる」
「いやぁ話せばわかるじゃないの大友センセ。そこに痺れる憧れるゥ」
「……そろそろ一発殴っても許されるんやないかと思うんやけど」
「ぼっ、ぼうりょくはんたいっ。ありがとう、そしてありがとうございまーす」
感謝の欠片もないような平伏ではあったが、まあいいだろうと大友は乾いた空気を吐き出した。
※ ※ ※
何気ない喫茶店。
だがそこは元十二神将である大友陣が呪捜部部長たる天海大善ら幹部と密会していた場所であった。しがない塾講師となって以来、大友が利用客として訪れなくなり喫茶店は半ば無人状態だ。店は二人が用意した人造式の戦闘能力を持たない式が経営しており、基本的に来客があるまでは掃除と管理のみに徹している。
店の周囲に術者にばれぬよう、そして聞こえぬよう幾重にも張り巡らされた術式が敷かれており、機密を扱うにはもってこいの場所であった。加えて、利用者も限定される。
誘いに乗って連れて来られた土御門夏目には、それが痛いほどよくわかった。
「(っ……なんて、場所だ)」
陰陽騒乱。人外魔境。魑魅魍魎。
風水要素、呪的、環境的、それら全てにおいて、陰――つまり、よくないモノを呼び寄せるには適した最悪の魔窟であると、夏目は肌で感じ取った。
入った瞬間まで、わからなかった。
だがそれは裏を返せば、入らなければ何一つ分からない隠密性を内包していたに過ぎない。
箱は、開けなければ中身が分かることはない。
だから、それが魍魎の箱であろうとも、開けて見なければわからない。
長年陰陽師としての世界に入っていた夏目には、陰陽師にもそういった裏の顔や機密性を重視した施設が必要であることを知っている。文書で伝えるよりも、本人同士の向かい合いの方が機密漏洩を防ぐにはもってこいであるからだ。当然、立ち会った当事者本人達に外部から呪術を受けている可能性も昨今考慮しなければならないが、それは相手が手錬であればあるほど、向かい合えば自ずと察知できる。否、気付かなければ魂を抜き取られるやもしれぬ世界なのだ。
「土御門君?」
「ぇ…あ、はいっ」
思考の海から浮上する。
目の前には、ボクを魔窟へと誘った張本人たる少年が不思議そうな、少し心配したような表情を浮かべてこちらを覗き込んでいた。
「大丈夫? 顔色悪いけど」
「…はい、大丈夫、です」
正直、あまり気分は優れない。
だが誘ってきた中国からの新人講師――姜 奕杜は何食わぬ顔で店内をずんずんと進んでいった。鈍感なのか、耐性が強いのか。
恐らく後者のように思える。並みの術者でなければ数分と持たぬだろう。
そもそも。
「(……一体、彼の目的は何なのか…?)」
席についた夏目は改めて今日誘われたことについて考える。
一番最悪なのは、彼が夜光信者であることだ。
もしそうであればこの最悪な施設に誘い込まれたことにも説明がつく。北辰王の生まれ変わりたるボクを拉致監禁し崇めた称えることも、彼らの選択肢にはあるだろうことが予測出来る。
だが。
恐らくだが。
ボクは、そうでないと、初めて面向かったときにわかっていたから、ここまで着いて来たのではないだろうか?
「さて、じゃあ改めまして」
「…はい」
「初めまして、土御門夏目君。中国陰陽学の講師の姜 奕杜です。名前は知ってるよね? 何度か講義は受けた筈だし、キミは毎回来てくれてるし積極的に参加してくれている」
「…正直、先生の授業は興味深いです」
「ほぅ」
関心したような、ほっとしたような安堵の息を漏らした。同時にそれはよかったと頷き、指同士を絡ませるように組み両肘をテーブルに突く。
「よければ、具体的にどんなところが、教えてもらえるかな」
「……先生の授業に登場した『妖』や『妖怪』のことです。日本では霊災発生に伴い霊気が瘴気になるのはご存知ですよね。各段階にその被害深度は別れていますが、深度が進むごとに現象として現れる瘴気は徐々に形を成し、実体化します。ここ日本、東京では特にそれが鵺として形に現われますが――」
「そうだね、中国ではそれくらいが割と日常茶飯事かな。常に霊気と瘴気は移り変わるし霊災は発生する。その際中国で現われるものは僕等仙道の間では妖怪、または妖とも呼んでる。それがここ日本では、鵺なんかが当てはまるという話だね」
「はい」
返事をし、一旦会話が途切れる。
ふむ、と手の甲に顎を乗せて笑みを浮かべながら覗く眼差しは、何かを探っているように見えた。
「ここは講義でも話したと思うけど、妖怪やその発展系である妖怪仙人が発見されたのは中国でもまだ治める大国すらなかった4000年以上前もの話だ。講義で読んで来るように言った『商周演義』にもあったけど、僕等仙道が本格的に人間界に加担し始めたのは商周易姓革命時代、ちょうど殷王朝が周王朝に変わる時代なんだよね」
「はい、殷王朝にいた狐狸精が妲己に成り代わり、暴政を奮い始めた紂王を討つ話ですね。仙人界で三百六十五位の神を封じる儀、封神の執行者として命じられた後の周国丞相である姜 子牙、彼の話がクローズアップされてました」
「よく読んでるね。えらいえらい」
そう言って、姜先生は朗らかに笑って見せた。見ていて和める、気持ち悪くない笑みだった。
姜先生が差し出されたコーヒーを口元に持っていくのを見て、ボクはハッとして倣うようにコーヒーで喉を潤す。
「――僕が、何の目的で自分を誘ったのか、聞きたいんでしょ」
「……いえ」
聞きたかった、訳ではない。
でも、聞きたくなかった、訳でもない。
さっきまでのように、授業外でも姜先生の話をするのが楽しかった。一年の座学で習う内容は殆ど家で学んでいたから、大抵の講義内容は復習の復習でしかない。
だから、家では習わなかった中国陰陽学に関しては全てが新しい発見の連続だった。陰陽師に関してはそれだけでも学ぶことは膨大な量だ。だから中国の陰陽学に関して言えば、いままで注目されることは無く、そこまで掘り下げて学ぶ内容だとは認識していなかった。
今年に入り、陰陽庁内で陰陽塾のカリキュラムの見直しが行われ、試験的に中国陰陽学の導入が行われた。つまり、今年の新入生は中国陰陽学のテストプレイヤーというわけである。
「別にそんな緊張しなくてもいいのに。まったく大友先生はなんでこんなところを紹介したのかなぁ…余計話しにくくなっちゃうじゃん。いや、誰も近寄れないって点じゃいいけど…」
「大友先生?」
「うん、ちょっと夏目君とは二人で話したかったから、いい場所無い? って頼んでね」
大友先生の名前が出てくるのは意外だった。
だがそれは同時に納得でもある。なぜならば大友先生と姜先生の入塾は同じだからだ。もしかすると、同期に講師となったからか親しみやすかったのかもしれない。
それより、
「話…ですか。ボクとしては、姜先生が話そうと思わなければ、ボクも聞く気は無かったです」
「なんか後出しジャンケン喰らったみたいな答え方だなぁ。いや何、ちょっと早い家庭訪問みたいなものだよ」
「家庭訪問?」
「最近になって、ストーカー増えたでしょ」
なぜ、それを。
いや、何でそれを、姜先生の口から出るのか、分からなかった。
中学で一度理科実験の時に触れた、液体窒素のような冷奴さを感じる。
「夜光信者っていうんだっけ? 大友先生から聞いたよ。なんでも夏目君を土御門夜光とか、北辰王の転生体とか言って崇め称えるとか…変な連中だよね」
「………った…」
「……え?」
「……きたく…った…」
「…え、あの」
「聞きたく、無かった! あなたの口から! その言葉が!」
慟哭。
何故か分からない。
ただ、言い表しようもない寒気と苦しみが、呼吸を狂わせる。
まるで呪いにでも掛かったような痛みだ。
「…先生は…先生は…ちょっと変な先生だけど…塾の誰より、他の誰よりもちゃんとッボクを見てくれていた!! だからっ…!!」
思わず、衝動的に、手に取っていたコーヒーを投げてしまう。
嗚呼、それでも姜先生は軽く避けるのが歪んだ視界に見えた。分かっている、物に当たったのは姜先生への怒りであるし、姜先生に当たらなくてほっとしたのは心から姜先生を恨めないからだ。
「先生にはっ、そのことを言われたくなかった!!」
そう、言われたくなかった。
生徒は勿論、塾講師の人たちも、態度は普通であれど何処か接し方に一線を引いていると、分かっていた。彼らは既にボクが夜光の生まれ変わり――かもしれない、という知識が必ずと言っていいほどある。当然だ、夜光は日本の陰陽組織の根幹に根付く存在である。
だから、日本の陰陽事情を知らない姜先生には、好感が持てた。
最初の授業もそう、奇抜な格好な上に奇妙な授業ではあったけど、物怖じどころか好戦的な態度で指名してきた。
だからか、彼の授業は楽しかったし、充実していた。
いつしか、ボクの心の拠り所に、していた、のか?
「……落ち着いた?」
姜先生は、変わらない態勢でボクを見上げていた。感情の波の余波で暴発した呪術で周囲のテーブルは吹き飛び、めちゃくちゃになってしまっている。顔にはいくつもの傷が見えた。多分、割れた木片が飛んだのかもしれない。
我に返って思わず手を伸ばしそうになるけど、傷つけたボクにその権利は無い。
行き場の無い手が、宙で彷徨う。
「はい捕まえたー」
「…えっ…」
その手を、握られた。
いつの間にか立ち上がっていた姜先生は、伸ばそうとしていたボクの手を両手でしっかり捕まえていた。子供っぽい笑みを浮かべる姜先生が目の前にあった。
「えっとね、ゴメン。ちょっと夏目君を傷つけること言うよ」
「…な、なんですか」
「僕は前から知ってたよ。夏目君が土御門夜光の転生体であるって噂」
な、に?
頭を、杵で叩かれたような衝撃が襲った。
※ ※ ※
「あぁもう…君が傲慢で偏屈な奴だったらと何度思ったことか。そんなんだったら、遠慮なく喧嘩とか出来たし恨めたし憎めたのになぁ」
部屋を清掃してなんとか二人座れる無事な椅子を並べ、ボクらは再び向き直った。その前で、姜先生は居住まい悪そうに頭を掻いている。
「僕はね、〝太上老君〟でもなかったしごーろごーろごーろごーろ寝てた時が一番幸せだったんだよ。でも本人には言うな、って話である命令が下されてさぁ」
「それ、本人ってボクですよね。言っちゃダメなんじゃないですか?」
「土御門夜光の転生体をつれて来いって」
「(言っちゃった!)」
言っちゃった!
言っちゃったよこの人!
「言ってよかったんですか…って、え? 連れて来い?」
「うん。連れて来い」
それは、どういう意味だろう?
「ちょっと授業先取りした話になるよ? 中国道教界の一つに神界ってでけぇマンションみたいなのがあってね…中に機関車トー□がいてだな…」
「スミマセン最初からつっこみたいところがあるんですが」
「まぁ細かいところはおいといて、簡単に言うと日本初の転生体に仙道目指してもらおうかなって話」
「仙道? 姜先生みたいな?」
「まっさかぁ、僕をみならっちゃダメだよ、怠けるのは僕だけでいいから」
なんだか姜先生の真髄を垣間見たような気がする。
「僕に怠けられるのは、僕だけだ」
「どこぞの青いバスケットボールマンの台詞パクるの止めてください」
「ゴメン」
あぁ…元からこういう人なんだ。なんとなく、姜先生の人物像を理解した。
「真面目な話に戻るよ。これオフレコなんだけど、僕等仙道の大半は4000年も前から生きてるんだよ」
「……姜先生も?」
「いや、僕はどうなんだかよく分からない。上が勝手に決め付けてるけど。あと奕杜でいいよ、今はオフなんだから」
曰く、余所余所しいらしい。腹を割って話し合うんだから、先生先生言うの止めてくれと言われてしまった。
姜先生の…いや、奕杜の講師然とした像がガラガラと崩れていく。だけど、不思議とそのことに不快感を抱くことはなかった。
「順を追って説明するよ? 中国にいる仙道の仙人サイドは老若男女問わず過半数は4000年前から生きてる仙人ばかりだ」
「つまり…不老不死ってこと?」
「厳密には違う。仙人が不老不死って思われがちだけど実際には少しずつ老けてくだけだし肉体の寿命も終われば死ぬ。だけど、人間から道士になる過程で魂魄の状態が変質してるんだよ」
「魂魄……確か、中国で定義されてる万人に宿る魂のことだって説明してたよね。呪術を行使する源とも」
「そうそう。その魂魄なんだけど……僕等道士の段階で、肉体よりも魂を生かそうとする作用が生まれるんだよね。そして魂はより頑丈になり本人の自我が永遠に残る。ホラ、『商周演義』にもあったでしょ? 退治された妖怪達は皆魂魄になって封神台に飛ばされるってやつ」
「あぁアレ……え? もしかしてアレ事実だったの!?」
「多少小説風に脚色してあるけどだいだいあってる。書いた人が一般人だったから表現できる範囲は限られてたけど」
あの『平家物語』よりもカオスな話が現実だったという真実に、ボクは驚きを隠せなかった。
「道士は功績や生きた年月で仙人になるって授業で説明したよね? 大抵仙人なんて呼ばれるのは平均で500から1000年くらい。で、仙人たちは死んで神界って所に行って魂を休める」
「…魂を休めるって、どういう意味?」
「次に転生できる肉体が出来るまで待ってるんだ。そもそも封神台を母体にして作られた超高級マンションが神界ってトコなんだけど、肉体が崩壊した魂を休める場所でもある。暇潰しに最新のゲームが揃ってるし水泳からゴルフまで様々なレジャー施設も用意されてる」
「なにそれ行ってみたい」
「やっぱりね」
「え?」
刃物の切り口のような言葉が飛んだ気がした。奕杜は納得したように頷いている。
「魂はイコール記憶の蓄積体なんだ。つまりいくら肉体が滅び魂になったところで記憶は消えないし当然神界にいた時の記憶もある。そこで話の本題に戻るけど、神界の管理人、封神台の帳簿役こと元三大導師のくそじじい元始天尊は四半世紀前に封神フィールドの範囲を一気に広めて、日本もその範囲内にしたんだよね」
「奕杜がその元始天尊って人を嫌ってるのはなんとなくわかったけど…えっと、封神フィールド?」
「道士達が死んで、彷徨う魂魄体を導く範囲だよ。その範囲内で死ねば、力ある者は神界に行く。ただ、日本の道士…陰陽師達は魂の記憶保持が難しくてね、入ったところで生前の記憶が無いから普通の輪廻転生に終わるから仙人にはなれないんだよねぇ。それで、くそじじいがやってる帳簿なんだけど、基本神界に入った人たちの名前を記していくシステムになってる。それが半世紀前に、誤記が発生した」
「誤記?」
「名前が書かれた帳簿は古臭いことになんと今も竹間。それを蓬莱島にいる楊戩達がデータに纏めるんだけど……その過程で、歯抜けした箇所があった。それが、土御門夜光だったってわけ」
「……え? どういうこと?」
封神される範囲が広がって、日本もその圏内に含まれたのは分かる。
つまり日本も陰陽師が死ねば神界に行くのも分かる。
それで、当然土御門夜光が行ったのも分かる。
だが、名が書かれた竹間が消えているのは?
「原則として、神界に入った者のリストは全部こっちで保管される。でもそれは同時に再び生まれた時に当然監視の目を光らせてるということ。多分夜光はそれを半々に知ってたんじゃないかな、神界のシステムを」
「…確かに…夜光は中国から密輸入される陰陽大全を読み込んでいたと記録にはあるけど…」
「書物で書かれる程度の内容じゃないと思うけど。兎に角、魂魄になった夜光は神界へ飛ばされた。多分、彼もまだ一度目の転生だから生前の記憶も未だにはっきりはしてなかったんだと思う。元始天尊に言われるままに名前を書かれ、神界へ入った。でもしばらくして記憶が戻り、己が神界へ来たことを悟られぬよう名前が書かれた竹間を盗み出して転生した――というのが、楊戩達上層部の考え」
「…だから、ボクを連れて行くのか」
「それはわからない」
「え?」
困った困ったいうように奕杜は首を捻りながら欠伸を漏らした。あ、眠くなってる。
いや、ここで寝ちゃダメでしょ!?
「ふぁあ……ええとね、夜光が竹間を盗むって話はしたよね」
「うん…名前を書いて、しばらくして思い出して神界を抜けたって」
「基本的に自力で神界を抜けたら現世に戻って転生する一方通行なんだよ。だからその時点で記憶が戻ってるってことは神界の様子も知ってる筈」
「うん…あ、」
「気付いたみたいだね。多分無意識に言ったんだろうけど、さっきの僕の問いかけに夏目君は「行ってみたい」っていったでしょ? つまり知らないということ」
そうだ。
つまり、あの時の奕杜の態度はそういうことだったということなんだ。
だから、ボクは夜光の転生体ではない…?
「その点に関してはまだ断言出来ない」
「どうして?」
「聞いたところによると夜光って相当ヤバイ奴だよ、神界に入ってすぐ脱走とかおかしいでしょ。しかもご丁寧に名前を書かれた竹間まで盗んで…もうこの時点でキチガイっぽい」
「そこまで言う…?」
ヤバイ、おかしいは分からないでも無いとして、キチガイは言いすぎじゃないか。
かといって、夜光を擁護するつもりなんて全く無いけど!
「まぁ、確定するまで気長に探していけばいいって。仙人の生きる時間に比べれば十年探して見つからなくても怒られないからダイジョーブダイジョーブ」
「そんなものなの…?」
「だって書類のミス発覚してから50年は経ってるんだよ? そりゃ時効でしょ時効」
奕杜は立ち上がると眠気を覚ますようにグーンと腕を伸ばして伸びをした。体が柔軟なのか、多少体を動かしたところで骨が鳴ったり軋んだ音はしなかった。寝てる人は結構柔軟だと聞いてたけどここまでとは…。
「……ねぇ、奕杜」
「んん?」
「……なんで、こんな話をボクにしたの?」
一番気がかりなのは、それだ。
本人は別段話しても問題無いような認識だけど、話を聞くにこの件は本人はおろか誰にも内密にしておくべき内容だったのではないだろうか。
だが、そんなボクの考えも奕杜は笑いながら答えた。
「いやいやいや、当事者に説明しないでどーするの。言わなきゃダメでしょ」
「逆に伏せる内容でもあったんじゃない?」
嘘では、ない。
言霊に掛かっていたとしたら大変だろうが、奕杜にはそんな腹芸が出来そうもない人柄のように思える。
それに、ボクを夜光の転生体だと聞いていてもあんな図太い態度が取れるのだ。少なくとも悪い人には見えない。
「ダメだったらダメだったで謝っとくよ。別に言ったことを秘密にしてればいいんだしね。あ、夏目君もオフレコだから誰にも言わないでくれよ?」
「『人の口に戸は立てられぬ』って知ってる?」
「大丈夫だ、問題ない」
「いや多分大問題だよ!?」
「この台詞言ってみたかっただけ」
「うわぁ…」
ドヤ顔で言ってるところがムカつく。
「まぁ…講師任されちゃったしね。塾生は元より大事にするよ。夏目君一人くらいヨユーヨユー」
「それでイーブンってこと? 釣り合うかなぁ」
「言っておくけど一応僕偉いんだからな! 全然実感無い偉さだけど!」
「本人目の前にしてるとホントそうだよね…フフフフフフフ」
「笑わないであげたげてよぉ!」
早々にフラグ回収
意外と速い段階でバラしましたね。奕杜の悪い癖です
感想も結構質問とか入ってきたので近々返信します
一応クロスですが、流石に4000年前と違うのでだいぶ封神サイドのレベルを下げたり上げたりしています。そしてレイヴンズサイドも上げたり上げたりしています
因みに夏目はヒロインにはなりません! え? だって春虎とお似合いでs(特に意味の無い暴力)
※投稿して少し後、訂正入れました(本人が「それもそうか」と納得したので)