ホントは一話で済ませたかったからお蔵入りというか投稿したくは無かったんだけど、致し方ない
鈴鹿嬢もいいけどやっぱり京子ちゃんが一番です(意味不)
わからない。
初めて出会う、感情の名は。
物事には段階というものがある。
たとえば建物三階に行きたいとしよう。その場合どうすればいいか。
至極単純明快、普通のことである。階段を使い二階を経由して三階へ辿り着くか、エレベーターを使えばいい。
中にはひとっ飛びして無理やり三階へ到着するという方法もあるようだが、この際省いておく。
何にせよ、一つの物事をこなすには決められた道筋があり、段階があり、過程が存在する。
誰でも最初の一歩は怖い。初めてならば尚更のことだ。
だが、最初の一歩はおろか向かう先の正体すら明らかになっていない五里霧中状態は、恐怖どころか忌避対象でしかなかった。
※ ※ ※
「あ、姜先生…」
「はいなんですか…あ―――っすみませんね少し次の授業の準備が」
「えっ、ちょ」
………
「あのー、姜先生?」
「眠いだるい…金光聖母、よろ」
「さて何かな倉橋京子よ」
………
「……姜、先生…」
「ZZZZZZZZ……」
「悪ぃな、いま姜先生はご就寝なンだよ」
………
「……お婆ちゃん」
「ここは塾内ですよ、倉橋さん」
いつしか奕杜が訪れた塾長室。そこには美しいはずの栗色の髪をテーブルにぶちまけて突っ伏している倉橋京子が項垂れていた。普段輝いている筈のキリッとした瞳は無残にも崩れ、具合からしてかなりのテンションの低さが伺える。
愛しの孫娘の痴態を目の当たりにした美代は苦笑いした。
「どうしたんですか? 貴女らしくもない、何か問題が?」
「問題っていうか…姜先生が」
「姜先生が?」
「……無視するんです」
首を90°回転させて覗く京子の顔は今にも誰かを呪いそうな程に悲愴だった。祖母である美代でも過去見ない落ち込みように軽くドン引きである。
「無視? それは講師としてあるまじきことですね」
「いえ…ちゃんと代理の…式? が質問には答えてくれるし対応も雑談もしてくれるんです。でも…」
「姜先生本人は、全く応じてくれないと」
「………」
その無言は肯定だった。
ふむ、と美代は腕を組み思案する。
まず、奕杜が京子を無視――もしくは避けている理由。これは、星読み以前にも最初の講義に参加していた美代もなんとなくではあるが察しているので問題ない。ただ、どうしてその感情がこういう結果に結びつくのかが未だに分からない。
そして京子がここまで落ち込む理由。単純に講師が避けているにしても、講義の分からないことへの疑問や質疑応答に関しては式が請け負っているとのこと。となると、京子がここまで落ち込んでいるのは奕杜自身に無視されているということ。つまり――
「倉橋さ…いえ、京子ちゃん」
「はい…え? 何?」
「今、好きな人はいますか?」
ガバッと顔が上がった。端正な顔はいつの間にか悲愴の青白い色から羞恥の赤に染まっていた。すごい分かりやすい。
「ななななな何いきなり何言ってるのよお婆ちゃん!? べべべべべ別に夏っ、なななな夏っ夏目くんのことがすすすすす好きだなんて一言も言ってないわよ!?」
「(あれ?)」
おかしい。見立てではここで奕杜の名が出るかと踏んでいた。
「おや? では姜先生のことは?」
「え?」
赤面から血の気がすうっと引き、普段の色に戻った。京子は美代の質問の意図が読めず目を丸くしている。
今度は美代の顔が青くなってきた。
「……京子ちゃん、姜先生は最初から無視してたんですか?」
「違うわ、確か……先週辺りからだったかしら? 土日挟んで月曜日に会った時に気まずい顔してて…」
「その前の週に、何か言われたりは?」
「そうねぇ……あっ、そういえばもし土日空いてたら付き合ってもらえないかとか…何とか言ってたような…」
「先週の土日は…あ」
先週の土日は、倉橋家の総会が執り行われていたため京子も本家に戻っていた。無論、相も変わらず美代の息子であり同時に京子の父親である倉橋源司は来なかったが。総会と言っても大したことは無い、親戚一同が集まって飲み明かすというだけの日だ。
それが、奕杜が誘った日と重なった。
「そういうことですか……」
得心いった。最早呆れしか無い。
確かに落ち度は奕杜自身にもあるが、それに気付かない京子も京子である。
簡潔に述べれば、奕杜は京子に好意を寄せているらしく休日に何処か出かけないかと誘ったのだが、京子は見事フッてしまったので玉砕されたと思い、今に至る。
まず奕杜がどう京子に惚れたのかは置いておくとして、恐らく一世一代であろう告白にも近い誘いをバッサリと斬られて内心ショックだったに違いない。そして、誘い断られた京子と顔を合わせるのが気まずくなって避けているのだ。なんというか、見た目相応の態度だ。子供っぽい。
そして、京子は奕杜の好意に全く気付いていない。いや、これは奕杜以前に土御門夏目という本命が弊害となっているからである。
星読みに長けている美代でも、誰が誰と結ばれるかなんて野暮な読みはしない。
だが現段階で、奕杜の好意は京子へと繋がりそうにないし、京子の好意は夏目へ繋がる気配も無い。奕杜と夏目の間にうっすらと
水面に、一石投じでもしない限り。
「わかりました、とりあえず京子ちゃんは教室に戻ってください」
「…はぁい……」
普段の落ち込み具合よりも数割増しで肩を下げたまま、京子は塾長室から退室した。憂愁漂う背中も、本人の気難しい性格からして教室に戻る頃には何事も無かったかのように振舞っているのだと思うと、美代は溜息をつかずにはいられなかった。
「どうしたものかしらねぇ……」
膝で丸くなる猫の背中を撫でながら、美代はふとデスクの端に積まれたファイルを手に取った。それは、事前に奕杜が提出した当塾での学習指導案件カリキュラムである。この一年の三学年の『中国陰陽学』に関する各講義でのテーマが事細かく明細されている。
GWが過ぎ、前期の講義も半分を過ぎいよいよ本格的な呪術知識へと入ってくる。そこで美代は、本日行われる講義内容に目を通した。
「これは……妙案かもしれませんね」
※ ※ ※
絶望した。死のう。
ごめんなさい嘘です死にません。つーか死ねません。僕仙人だからね、普通の方法じゃ死なない。これジョーシキ。
まぁ仙桃で湧かせた底無し酒風呂地獄に突き落とされたらアル中で死ぬ自信はある。以前ダサいメット仙人が妖怪仙人相手に仕掛けてドボドボ嵌ったと思ったら魂魄になって飛んでいったし。上に上がろうと必死にもがいてたけど、底が無いし酒は水よりもモノが浮き難い(んだっけ?)らしいからどんどん沈んで行ったのを覚えてる。最初は悲鳴や罵詈雑言だったけど、途中から歓喜と放蕩でべろんべろんになった挙句真っ赤っ赤になってアル中になって死んだ。
アワレ、ヨウカイセンニン=サン!!
閑話休題。アレ? 使い方これで合ってるっけ?
うんたぶんだいたいあってる。なら問題ないか。
「そいじゃ、これより講義の一環として式神対決を行います」
陰陽塾地下深く。
『スラ○ダンク』のOPに出てたような証明付きの広大なアリーナと客席となんだかよく分からない呪的文字が刻まれた壁が一面にびっしりと、そりゃびっしりと立ってるその真ん中で。
僕と。
少し距離を置いて大友先生と。
更に距離を置いて――詳しく言えば、初講義でお母さん並の特大級であろうおっぱいに惹かれてしまっただなんて口が裂けても言えないので、目を凝らしてよくよく見れば魂魄が綺麗で魅了されそうだけど結局は目を凝らさなければ見えないのでやっぱりおっぱいに目が行くけど失礼だから他の部分を指摘したいんだけどしかしながらおっぱいが魅力で綺麗でおっぱいおっぱいだから告白してみたけど見事フられて顔合わせるのが気まずい倉橋京子さんが僕の目線の先に立っている。うわ、目が合った気まずいちょっと恥ずかしいいやかなり恥ずかしい。でも男として講師としてそこは素面で。
で。
「……何で大友センセがいるのさ」
「一応僕結構優秀な――いや超優秀な祓魔官やったんで、多少の式神戦なら僕がいれば大事にはならんで抑えられるっちゅうことや」
「………」
何コレ。どういう状況なの。
「んお? 塾長から聞いて無かったんかい? 今日の『中国陰陽学』の日本と中国の式神のカンケイの講義は、塾長の粋な計らいで奕杜君が式神戦を披露してくれるんや。いやぁー丁度僕も暇だんたんでよかったわぁー」
「き、聞いてねー」
聞いてない。
聞いてないマジで聞いてない。
ていうか塾長の粋な計らいとか何だよ!? 謀略だよ謀略! 計られたんじゃなくて謀られた!
そして、これから測られる。
何を? それは多分実力。
「いやー、奕杜君は確かに使役式を
「うっわ超ウザいわぁ…後で体育館の裏で待ってなよフルボッコにしてやんよ」
「その前に講義やらな」
くい、と親指で京子さんを指す。
話の流れ的に、塾長もいよいよ堪忍袋の尾が切れたのか僕の実践的実力を測ってきてるらしい。そして京子さんがいるのは(おそらく)当塾でも一年生で満足に式神を、それも護法式を扱えるのが彼女だけだったらしい。
しまった…なんて人の恋に落ちてしまったんだ僕は。
これはおっぱいのせいだな、うん。
「え、えぇ~っと…きょ、クラハシさんは、いいんですか?」
「(発音がぶれてる…)な、なにが、かしら?」
「式神勝負…式神戦? の相手…」
「ちょっと、顔こっち向けてもらわないと聞きにくいんですけど…別に、私はいいわよ。久々に白桜と黒楓の調整もしたいし、なにより…」
視界の端で、獰猛な肉食獣よろしく笑みを浮かべる京子さんが見えた。うわ、惚れ直す。
「先生相手なら、全力で行ったって問題ないわよね! この際だから、散々無視された鬱憤晴らさせてもらおうじゃないの!」
言い切るなり、京子さんの両サイドから黒い式神と白い式神が現れた。
ざっと目算身長は2m。
獲物は黒が薙刀、白が日本刀を携えてる。近接戦闘系。
既に二体とも臨戦態勢を取っており、京子さんも二歩ほど後ろに下がり僕を見つめている。わぁ見られちゃってるよ僕! 恥ずかしいなぁ! この調子ならコサックダンスでも踊れるかも! いや、それは疲れるか。
「大友センセー」
「なんや奕杜君」
「勝敗基準は?」
「どちらかの式神が戦闘続行不可能と判断したら、僕が割って入って止める。止められた方が負けや」
「ははぁ」
なるほどなるほど。つまり眠気も吹っ飛ぶこの状況が終わるのは僕か京子さんの式がボロボロになったら試合終了ということか。
ところで、一つ気になることが。
「僕ってどの式神を使えばいいんですかー?」
「基本なんでもええよ」
ほう…。
なんでもと言ったな?
なんでもと言ったな!?
言ったな!?
そして僕はそれを聞いちゃったな!?
「たーだーしー、講義にもならんよーなんは却下やで」
Oh……ナンデモとは嘘だった。
しかし――それだと、どうするか。確か本日の二・三年の講義担当は……誰だっけ。寝ぼけてたから覚えてない。
「私が行こう。今日はもうアガリだから問題ない」
「お、キミ行く? ははは、いやぁ悪いね」
聞きなれた声に思わず顔が綻ぶ。
基本的に僕の独白も会話の一部だから十天君の元にも届く。でも、一応講師をやってくれている以上、余程の事でもない限りどうでもいい内容は講義中はオフにしているので聞こえない。
つまり、いまこの段階で聞こえているということは既に担当の講義は終えているということ。
ちなみに基本的に通神に関しては声に出さなくても意思疎通は可能だけど、僕の場合は頭がごっちゃになるから送神時は声出しにしている。だから周りから見れば独り言言ってるイタイ子に見えるわけだ。うわ、気付きたくなかった!
「今王天君とモンハンして時間潰してたけどそっちの方が面白そうだ」
「助かるよ。じゃあ式神対決なんだけど、崑崙山式でおもてなしといこうか」
「個人的には金鰲島式が良かったが…まぁ対式戦となれば仕方ないね」
「それじゃ」
「ああ」
「「