鬼の居る世界で 【雲柱】八雲結   作:sirius

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第10話 腕鬼

 

 

 基本的に鬼の強さは人を喰った数だ。

 

 沢山食べる程力は増し、肉体を変化させ妖しき術を使う者も出てくると言う。

 

 初めて出会った鬼でさえ、この様な醜悪な見た目はしていなかった。

 

 「戦いの経験が増えればお主でもその鬼が何人喰ったのか分かる様になるだろう。」

 

 鱗滝さんの言葉が頭を過る。

 

 「…その姿。貴方今までに何人喰って来たの?」

 

 喉から出た声は私でも驚く程冷たいものだった。

 

 「ヒヒッ…。ガキ共五十人は喰ったなぁ。」

 

 五十人。ギリリ、と刀を握る手に力が入る。

 

 (…結。気をつけろ、少なくても今までの闘った鬼の中ではこの鬼は最強だ。)

 

 分かってる。でも聞かなきゃいけない事があるから。

 

 「貴方この狐の面に見覚えがあるの?」

 

 この鬼は此処にいる他の鬼と一線を画している。

 本来この選別で闘う鬼達は人を一人か二人喰らった者しか居ないと言う。

 

 だが此処で喰ったのならば話は変わる。恐らくこの選別を担当する鬼殺隊はこの鬼の存在を知らない。この選別試験が行われる度に少しずつこの鬼は力を着けていったのだろう。

 

 「鱗滝の弟子だろ。お前を殺せば十四人目だ。」

 

 「そう…。」

 

 疑問が確信に変わる。鱗滝さんの名前が出てくる事は意外だったが最早どうでも良い事だ。

 

 彼と真菰の存在がどういうものであったかも今なら分かる。

 

 最早言葉は必要無い。兄姉弟子十三人を殺めた事、鱗滝さんを悲しませた事、許しはしない。培った力で目の前の鬼を屠るのみ。

 

 誰をどう喰った等抜かしている鬼は隙だらけだった。

 

 接近して型を放つ。

 

 全集中!

 

 《水の呼吸 肆ノ型 打ち潮》

 

 鬼の身体に纏わり付く様に伸びていたその全ての腕を斬り捨てる。

 

 「ッッ!? ク、クソガァァ!!」

 

 弱点である首が露出する。再生までの時間は与えない。

 

 《水の呼吸 壱ノ型 水面斬り》

 

 「ッッッッ!!」

 

 刀を振るう瞬間、横から気配を感じ、頭を下げる。狐の面を削られながらも私は辛うじて飛び退いた。

 

 其処には見知らぬ第三の鬼の姿。

 

 「…鬼が群れるなんて聞いて無い。」

 

 気が付けば周囲の木々の合間に鬼は複数人居て、攻撃の機会を伺っている。

 

 「基本はな。初日からお前の動向は見させて貰った、確かに強さは対したもんだがそれだけだ。お前が希血である事を言ったらコイツらは喜んで話に乗ったぜ。そこのやつは右手、そいつは左足を喰う手筈になってる。これも確実にお前を喰らう為だ。」

 

 鬼達はにやけた笑いを浮かべ近づいてくる。

 

 心は冷静に、呼吸を乱さないように…。

 

 目の前の鬼に対する怒りを、この状況に対する恐怖を抑える。

 

 「何人居ようが関係無いよ。貴方を許しはしない、貴方達も見つけたからには斬らせて貰う。」

 

 確かにこの複数の鬼達は脅威だがそれぞれが別の個だ。連携が有るわけでは無い、腕の鬼に注意を向けながら確固撃破が最も効率が良い。

 

 《水の呼吸 参ノ型 流流舞い》

 

 素早い足運びで回避と攻撃の両立が出来る参の型で次々と近場の鬼を斬り伏せてゆく。

 

 腕の鬼は此方に腕を伸ばしてくるが木々の合間に入り込み、そのリーチを生かせない間合いを取り続ける。

 

 「ッッチ。お前ら向こうへ行ったぞ!」

 

 木々を巧みに使い、鬼の数を確実に減らしていく。

 それぞれが単独で攻めてくる為、それほど厄介では無い。

 

 力は強いがそれだけだ、掴ませず、頸若しくは四肢を斬り捨てて行き、鬼の数は腕鬼以外二人となった。

 

 「もらった!!」と腕鬼が叫ぶ。

 

 此方に気取られない様に地面を進めて来たらしく。複数の腕が

地面から伸びる。瞬間に数本を斬るが残った一本の腕に脚を掴まれる。力は強いがへし折られる程では無い、この程度なら私は耐えられる。

 

 隙を見た二匹の鬼が同時に攻めてくる。

 

 問題は無い、むしろ今こそが好機だ。

 

 あの腕鬼は腕を伸ばす範囲に限界があり、今までに見た所。地面に伸ばした物で出し切っている、距離もあり今は完全に油断している。

 

 腕を戻す前に素早く懐に入り、頸を断てぱ良いだけ。

 その為の方法はある。

 

 「任せたよ!」

 「おう!」

 

 《雷の呼吸 弐ノ型 稲魂》

 

 既に入れ代わっていた自分は五連の斬撃により、二匹の鬼の頸と脚を掴む腕を斬り捨てた。

 

 「馬鹿なッ!その技、鱗滝の弟子では無いのか!?」

 

 当然使う型が変わった事に驚く腕鬼。

 その位置は既にこの型の間合いに入っている。

 

 《雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃》

 

 霹靂一閃の踏み込みは轟音と共に周囲の空気を震わせ、辺りの木々に茂る葉が一斉に落葉する。

 

 落ちる葉を顔に浴びながら腕鬼は自分の頸が断たれた事に遅れて気付いた様だった。

 

 首を失った身体はその部分から炭とも灰とも言えない物となり、ボロボロと崩れ、やがて完全に消滅する。

 

 首の部分は目だけ此方に向けながらも口が斬られた様で話す事が出来ないでいた。

 

 「お前の事は許さない、だが死後は別だ。有るべき場所に行き生まれ変われ。これは見てきた自分が言うんだ、保障する。だから今度は正しく人として生きてくれ。」

 

 腕鬼は静かに目を閉じ、その瞳は身体が消えるまで再び開くことは無かった。

 

 (…なんとか勝った。これで良かった筈だ。)

 

 他の鱗滝さんの弟子達もこれで救われる。後の魂は鱗滝さんの元へ戻るのだろう。自分も少し間違えれば彼等と共にあった。

 

 パキリ、と音がして刀を見ると手元からひび割れ刀身が地面へと落下した。

 

 (…危なかったね。)

 

 (全くだな。)

 

 冷や汗が額を伝う。後僅かでも戦いが長引いていたら、敵が堅かったら、自分の腕が悪かったら…。

 

 結果は逆だったかも知れない。

 

 鱗滝さんの刀にお礼を言いながら刀身を拾い、柄と共に鞘に入れ、布で巻きつける。

 

 東の空は僅かに白み始め、七日目の朝を迎えようとしていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 「おかえりなさいませ。」

 

 「おめでとうございます。ご無事で何よりです。」

 

 試験当初に居た二人の少女が俺を迎える。相変わらずこの二人からは感情が見えず気味が悪い。

 

 周囲を見渡すと俺以外に十数人の人が待機していた。

 その多くの者は服が汚れ、身体の一部を怪我し、立っているのもやっとの様子。

 

 俺も例外では無い。一週間という期間は精神を磨り減らすのには十分な時間であり、日が出る日中ですら鬼が周囲に居る緊張感で満足な睡眠を取る事が出来なかった。

 

 一週間で鬼と遭遇したのは三回。初めの二回は長い死闘の末倒す事が出来たが最後の一回で本来俺は死んでいる筈だった。

 

 刀を手放し、鬼の爪が喉元に届く瞬間一人の少女が俺を救ってくれたのだ。その動きは淀みなく、同じ選別試験を受ける者とは思えない程力量が隔絶していた。

 

 あの藍色の着物着た彼女はどうなっただろうか?

 

 あの腕だ、鬼にやられるとは思えない。だが周囲を見渡しても彼女は居ない。

 

 近くに居た同じ背格好の男に聞いてみる。

 すると驚くべき事に彼も彼女に助けられたらしい。

 

 「もしかして藍色の着物の女か?」

 

 どうやら俺達の話を聞いていたらしい一人の男。

 その言葉を聞いた全員が注目する。

 

 その瞬間誰もが同じ事を考えていることを俺は全員の表情から理解してしまった。

 

 (助けられたのは俺だけじゃ無い…?)

 

 誰かが言った。

 

 本来この試験はこんな人数が生き残れるものでは無い。

 此処に居ない数人は彼女に辞退を進められ試験を諦めた者であり、実際に死んだ者は片手で数える程度と言うこと。

 

 話を聞きながら俺は頭痛にも似たようなものを感じた。

 

 そんな事が可能なのか?夜の山で視界さえ覚束ないのに一人所か十数人の者を助けながら鬼を刈るなんて…。

 

 (そんなの人間じゃない…)

 

 藤の花の柵が開き、一人また帰って来る。

 その者を最後に柵には鍵が掛けられた。つまりこの一人が最終選別最後の生き残りであるということを意味している。

 

 日陰から現れたのは一人の少女。

 

 「…うっ。」

 

 それを見た誰かが僅かに呻く。だがその一人だけでは無い、多くの者がその姿を見て、動揺を隠せないでいた。

 

 二人の少女に迎えられた彼女は身体の至る所に返り血を纏っている。見ている限り彼女に怪我らしい怪我は無い。つまりあれは全身が鬼の返り血であると言うことだ。

 

 事実今この時にも朝日に晒され少しずつ血は消えていく。どす黒くなっていた着物はまたたく間に鮮やかな藍色を映した。

 

 彼女が歩いて来ると既に居る者達は彼女から避ける様に周囲に散って行く。

 

 彼女も原因が自分にあるのは分かっているらしく。気恥ずかしそうに「…あー。」と声をあげた。

 

 「それではお話をさせて頂きます。」

 

 二人の少女の話が始まった。

 

 これから鬼殺隊士としての隊服を支給する為に体の寸法を測り、その後階級を刻むらしい。

 

 階級は十段階あり上から甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸と続く。

 

 「今現在皆様は一番下の癸でございます。ですが八雲結様。」

 

 「私?」と首を傾げたのは件の彼女だった。

 

 「八雲様はこの選別試験において四十二体の鬼を討伐致しました。これは今までの試験では例がありません。今回の件に関してお館様より特例が下り、八雲様には己の階級が与えられます。」

 

 「…嘘だろ。」「四十二…。」「信じられない。」

 

 その桁違いの数に辺りがざわつくが二人の少女が一度手を叩くと水を打ったように静まりかえる。

 

 彼女はよく分かない様子で礼をしていた。

 

 刀は今日原材料となる玉鋼を選び、刀が出来るまでは十日から十五日程度の日数を要するとのこと。

 

 「それでは今から鎹鴉をつけさせて頂きます。 」

 

 俺達の上空を多くの鴉が舞いながら近付いてくる。中でも一際大きな鴉が一番に彼女の肩にちょん、と乗る。

 

 少女の肩に鴉を乗っける図は思う所があるが。肩の鴉を撫で、微笑む彼女は不思議と絵になっていた。

 

 「鎹鴉は主に連絡用の鴉でございます。」

 

 「次に刀を造る鋼を選んで下さいませ。鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼は御自分で選ぶのです。」

 

 人数が多いだけに机には大小様々な鋼が置かれている。

 そして誰もが彼女に一番を譲っていた。

 

 彼女は周りに頭を下げながら鋼に近付くと、閃いた様に二人にこそこそと何かを話す。

 

 「ええ、よろしいですよ。」

 

 それから彼女は真剣な面持ちで二つの鋼を選び、次の採寸の為に去って行った。

 

 

 何から何まで規格外であった彼女。きっと話に聞く柱と言う人達は彼女の様な者達がなるのであろう。

 

 この時の俺はそう思い、それは数年後現実となる。

 鬼との戦いが劇化したこの世代。生き残った者達に最も貢献した人物は誰かと聞けば多くの者が彼女の名を挙げる。

 

 俺は数年で自分の力の限界を感じ、一線を退いたので彼女の噂を聞けども後にも先にも共に会ったのはこの一度きりだ。

 

 だが俺は自信を持って誇らしげに話すのだ。

 

 「俺は選別試験時から彼女「八雲結」を知っていてその素質に気付いていた」と。

 

 

 

 

 

 

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