鬼の居る世界で 【雲柱】八雲結   作:sirius

12 / 24
第12話 休養

 

 

 鬼殺隊の仕事は意外と地味。というのがこの数ヵ月任務について思った素直な感想だ。

 

 鬼殺隊。その数およそ数百名。古くから存在しているらしく鬼を狩る為今日も誰かが刀を振るっている。

 

 この組織を率いている長が誰なのかは一般隊士には分からず階級の高い一部の者のみ謁見を許されるという。

 

 政府非公認の部隊らしく公に活動する事は良しとはされておらず行動の際には常に制限が伴った。

 

 例えば鬼を屠る為の日輪刀はこの時代の一般人が帯刀を許されてない事から警察に捕まる対象となる。

 

 鬼を殺す事だって端から見れば殺人と変わらない。

 

 鬼の認知度は度々起こる事件の割には驚く程に低く、大衆の前での鬼殺は周囲を巻き込むだけで無く自分自身すら危うくなる危険性を秘めている。

 

 必然的に個人での鬼の捜索は難しく、聞き取りで鬼なんて単語を出した時には奇怪な目を向けられ通報される恐れがあるので必然的に慎重に為らざるを得ず、変わった事、不審な事を聞いて回る探偵の様な事をする必要があった。

 

 鬼の出没情報は鬼殺隊の組織上級者が収集し、鎹鴉を通じてそれぞれの力量に合った隊士、部隊へと振り分けられる。たがこれは確実では無く一般隊士は謂わば斥候の様な扱いだ。並みの鬼と見積り送った隊士達が上位の鬼と遭遇し全滅したなんて話をこの期間に幾度となく耳にした。

 

 並の鬼なら数人を、上位の鬼なら部隊を、十二鬼月に名を連ねる鬼ならば鬼殺隊の最高位の階級である柱の人達が赴くという。

 

 お世話になった蝶屋敷の主であるカナエさんはその柱の一人であり、この話を聞いた時は驚くと共に彼女の様に尊敬を集め、徳の高い人ならばその位に居ても可笑しく無いと変な納得を感じた。

 

 

 ちなみに自分は選別試験にて己の階級を頂き、数ヶ月間の任務功績で丙まで階級が上がっている。

 

 この短期間でここまで階級を上げた者は例が無いらしく、名前までは広まって無いものの噂が立っていた。照れくさい反面自分の力は努力だけで培ったものでは無いので少々複雑な気持ちだ。

 

 鬼殺隊の任務について説明したいと思う。

 先程話した通り鬼の出没情報は上が整理し、それぞれの隊士に力量毎に振り分け鎹烏を通じ命令を下達する。

 

 だが、個人に対してだけではなく討伐の可能性を上げる為、その近辺に存在する複数の隊士に命令が下る。

 

 鬼を討伐した時の階級、報奨金等の恩恵は一部の共闘を除き倒した者のみ与えられるので必然的に早い者勝ちの構図となってしまっている。

 

 基本は鬼を滅ぼし人々が笑い合う世界にすることを理想とする鬼殺隊、誰かが鬼を倒した事を己の様に喜び次の任務に向かう者も居るが中には討伐報酬を得たいが為、規律違反ギリギリの事を行する輩も少なからず存在した。隊士間の虚偽情報の共有、妨害、下の階級が受けた任務の横取り等、etc...

 

 今の所自分は受けた事は無いが同じ隊員間でも気を抜くことが出来ないのは少々問題だと感じる。

 

 鬼殺隊の給与は驚く程に高く自分の初めの己の階級でも数年貯めれば生涯生きていくだけの金が貰えた。任務の為に衣食住に困らない配慮と命を掛けての鬼殺への報酬なのだろう。

 

 金目当てで鬼殺隊に入った者も居ると言うが問題を起こしているのはその辺りの人種なのかも知れない。

 

 自分は授けられた能力を生かし、任務を受けてから数刻で現地へと疾走し、五感、第六感、鬼が好んで狙うという稀血という自分の特性等全てを用いて鬼を討伐してきた。

 

 一般には無茶とも思えるこの手段、月に平均一体の鬼殺隊士の討伐数を考えればこの短期間の自分の討伐数は十数体に上り、我ながら異例と言われるのは納得な気がした。

 

 鬼の強さはピンきりで自分の尺度の幅も狭く、どの程度が並みレベルなのかもまだ定まっていない。以前命令を受け倒したもので上級の鬼がおり、部隊を組んで挑む命令だったが人に害をなそうと行動しており現場の判断で単独戦闘を行い討伐した。近距離で高威力の血鬼術を扱い、少々手間取った記憶がある。

 

 血鬼術を使う鬼は少ないが使う者は当然並の鬼より実力が勝り、搦め手や能力によるゴリ押しもまかり通る恐れがある。だからある程度力を持つ鬼に対しては能力持ちと仮定し、常に慎重に対応し、感覚を鋭くし無駄な反撃を喰らわぬよう確実に討伐してきた。

 

 鬼は基本人を喰った数で力を増していき必然的に年数を生きた鬼程強く若い鬼は弱い。

 

 一見して鬼が何年生きたか分からないと思うかも知れないが自分は人の姿からどれだけ離れているかが一つの尺度では無いかと感じた。

 

 鬼としての年数が重むにつれ人だった時のものを忘れていき、次第にそれは姿に影響し、やがて言葉すら忘れていく、勿論個体による差もあるが余程特異な個体意外はこの例に当てはまると言えるだろう。

 

 以前人としての姿が残る鬼の何体かに対話を持ちかけた事がある。もしかしたら人間としての自我や感情が残っており、争いを避ける事や何かしらの情報を聞き出せるのではないかと。

 

 だが結果は望ましいものでは無く、今後他の鬼との対話も絶望的と思われるものだった。鬼と変わる過程で元の人格にも大きく影響を及ぼしてしまうのかどの鬼も攻撃的になっており、会話が成立せず殆どの鬼が人の殺傷に飢えていた。殺さず捉えた所で鬼が心を開く事など無く、残念だがこの方向からのアプローチは期待出来ない。

 

 

 天使の言葉を思い出す。この世界に起きているこの鬼という異変、最悪世界そのものが無に帰す恐れがあり、何としてでも解決しなくてはならない。

 

 だがこうして日々鬼殺隊士が鬼を狩り続けても鬼は増え続けその勢いは留まる事を知らない。

 

 十二鬼月という上級を越えた鬼を倒せば解決するのだろうか?倒してもまた他の鬼がその位に着くだけではないのか?

 

 時折言い表せない不安が身体を渦巻き押し潰されそうになる。力を貰ったとはいえ、この広大な世界に広がる鬼達の前では矮小な存在でしかない。こうしている間にも人が鬼に襲われている恐れがある。

 

 (うじうじ考えて無いで早く次の町へ行こ。次の町は聞いた所によると美味い事で有名な団子屋があるらしいよ。最近は忙しくて寄る事も出来なかったから餡団子いっぱい食べようね。)

 

 自分はみたらしの方が…と言う言葉を押し込める。

 

 彼女は恐らく自分を気遣ったのだろう。考えだけでも自分達の繋がりは彼女も何かしらのものを感じ取ったのも知れない。

 

 今の自分は数日おきに出身地方内を転々と旅している。

 任務で得た金は路銀や美味しい店巡り、装備等に使い、普段は鎹鴉の連絡を待ちながら自分の足で聞き取りを行っていた。

 

 最近は立て続けに鬼を狩る日々だったので暫くはこの町で休養するのも良いかも知れない。

 

 藤の花の家紋の家という鬼殺隊に命を救われた一族が住み隊員ならば無料で休息できる場所があるのだが自分は余り使っていない。善意からくる心ばかりのもてなしが自分は逆に気を張ってしまう。こちらも鬼殺隊として接しなければならないので任務前の非常時、鬼殺前の宿がどうしても必要な時に利用させて貰っている。

 

 遠目に見えてきた町はある程度栄えてるのが確認でき、宿泊にも困らなそうだ。久々に羽を伸ばすとしよう。

 

 確かに先はまだ不安が多い、でも自分達は一歩一歩進んでいる。それは決して大きくないかも知れないがいつかは長い距離となる。今出来る事を確実に行い積み重ねていこう。

 

 鎹烏のカー助からも任務に関しての命令も無く、休養は確定的だ。思えば鬼殺隊に入ってから棍を詰めすぎていたかも知れない。たまには肩の荷を下ろし、のんびりする事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めての鬼の遭遇から一年と数ヶ月、現階級丙、鬼の討伐数計六十を数え間もないある日の事。

 

 

 八雲唯は十二鬼月下弦の壱と交戦する。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。