鬼の居る世界で 【雲柱】八雲結   作:sirius

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第15話 下弦の壱

 

 

 地獄の惨劇は一人の少女によって止められた。

 

 瞬きもせぬ内に彼女は現れ、手に持つ一振りの刀で鬼殺隊士三人の持つ刀を弾き飛ばした。峰打ちによる打撃だが威力、打撃箇所は的確であり暫くは刀を握る事さえ厳しいだろう。

 

 「ッツ!痛ぇ!!」

 「…ぐっ、腕が!」

 

 他の二名が腕を抑えて呻く中。リーダー格の男はまだ戦意を喪失せずに少女を睨み付ける。

 

 「お前昼間の小娘だな。何をしに来た!?」

 

 「別に…。お前達のやる事に文句があるだけだ。」

 

 「文句だぁ?俺達は鬼殺隊だぞ?鬼を斬る事に何の異議が…ッ痛!?」

 

 言葉を言い切らぬ内に男の顔に小さな袋が投げつけられる。小銭入れ。音を見るにそれなりの額が入っているようで男は走る痛みに顔を歪めた。

 

 「この鬼は俺が狩る。その中には今回の討伐報酬以上の金が入っている。討伐はお前達がやった事にして良い。…良いな?」

 

 「良い訳あるか!俺達が追い詰めた獲物だぞ。俺達に倒させ…ッがぁ!!」

 

 またも続く言葉を少女は腹部への掌底により黙らせた。男は胃の中を撒き散らしながら側にあった墓石に手を付くことで姿勢を保つ。

 

 「生憎お前達と話す事は何も無い。お前は先程言ったな。「力がある者が全て」と、今回は俺に従ってもらうぞ。」

 

 男は憤怒に顔を歪めながら手にした小袋に目を移す。少額に見えたが中には最高の価値がある金貨が数枚。予想を上回る金、それも相当な額が入っており、男の溜飲が僅かに下がった。

 

 (これだけあれば相当遊んで暮らせる。飯も女も住む場所も当分思いのままだ。)

 

 「おい、お前ら此処は下がるぞ。」

 

 男二人は不満を口にするが強引に黙らせる。相手は一見小娘にしか見えないが一連の動きを見るにかなりと使い手と見る。何故こんな馬鹿な事をするかも不明だが、目の前に大量の金があり、彼女の気分が変わらぬ内に下がろうとする。

 

 「此処は下がる事にする。たがお前…覚えていろよ。」

 「………。」

 

 脅し言葉にも何一つの変化も見せぬ少女に男は苛立ちながらも後方へ下がる。そしてある程度移動し、少女の警戒から抜けたと感じた瞬間。

 

 (素直に聞く訳ねぇだろ!お前もいたぶって残りの金も俺の物だ!!)

 

 痛みで痺れていない方の手で腰に差した脇差を少女に投げつける。背中目掛けての投擲であり、回避は不能の筈であった。

 

 「…馬鹿な奴等。」

 

 少女は僅かに身を捻ると空いている片方の手で脇差を苦も無く掴む。そして元の場所へと軽い動作で投擲した。

 

 「へ……?ぐわぁ!!」

 

 瞬間。凄まじい速度で脇差は飛来し寸分違わず男の左手に突き刺さる。男のは悲鳴を上げながらも二人の補助を受けながら森の中へと逃げ帰っていった。

 

 そして残った鬼を横目に夫婦へと視線を移す。

 

 「大丈夫ですか。」

 

 先程とは違う優しい声に夫婦は戸惑うが暫くすると彼女の手を借りながら夫婦は何とか立つ事が出来た。

 

 「一体何とお礼を申したら良いか…。」

 「いえ、お構い無く。」

 

 夫婦の礼に少女は歯切れ悪く答え。少々戸惑う様に考えながらそれを口に来た。

 

 「息子さん。鬼ですよね?残念ですが彼はこの場にて殺さなければなりません。最後の挨拶をお願いします。」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 「…くそぉ。痛ぇ、痛ぇよ!」

 

 「大丈夫ですか隊長?もうすぐ森は抜けますぜ。」

 

 男は左手の傷を庇いながら夜の道を歩いていた。止血と呼吸により大事には至らなかったがその痛みは男の神経を逆撫でする。

 

 久々の獲物であったが昼間の少女によりお楽しみの時間がぶち壊され、ある程度の小金は手に入ったものの男のプライドはズタズタだった。

 

 (ちくしょう。あの小娘覚えていやがれ…。)

 

 少女の事を思い出す度に男はギリギリと歯を軋ませその顔を歪めた。

 

 (この二人も使えねぇ。あんな奴にやられた後もヘラヘラと…。金を分けるのも面倒だ。此処で切り捨てるか。)

 

 男は利き手の握り具合を確認する。少女の顔は覚えた。今は無理だが人数を揃えれば勝てない相手では無い。顔は整っているから復讐した後は好きにして良いともなればそれなりの数は揃う筈。

 

 まずはこの二人を始末しよう。そう考えた時だった。

 

 「…ガッ!?」

 「ぐぇ…」

 

 前方の二人が歩みを止めた。その時発した二人の声に疑問を持ちつつも男は疑問に思いながらも歩みを止める。

 

 「枝にでもぶつかったのか?こんなとこで巫山戯てる場合じゃ…」

 

 ゴロン。と遅れて来た音に男は顔を下に向ける。闇夜で見にくいが丁度毬の様な大きさの玉が二つ。

 

 「…へ?」

 

 それは何時も見慣れた部下二人の顔だった。気付いた瞬間前に立っていた身体は音を立てて崩れる。

 

 「なんじゃこりゃぁぁぁ!!」

 

 男は絶叫を上げながらも原因があると予想される正面を見る。鬼の可能性を考え刀を抜刀し、正面に構える。

 

 それは正面に『居た』。正面三間程の距離に存在した『それ』は初めは木と見間違う程の巨体で逆に鬼だと認識出来なかった。

 

 それがドスン、地響きと共に近付いてくる。大きい、自分より遥かに。高さは八尺はあるだろうか、全身に甲冑を纏った巨体な鬼が自身へと向かって来ている。

 

 「お前か、よくも俺の部下をやって………へ?」

 

 言葉が続く前に男の両腕が同時に切り捨てられる。鮮血が舞い、男が絶叫する。腕は刀を掴んだまま地面に無造作に転がっていた。

 

 「ぎゃぁぁぁ!!腕!俺の腕がぁぁ!!」

 

 疼くまり必死に腕を拾おうとする男。鬼はそんな男を見下しながら煩わしそうに腕を一度振るった。

 

 ピタリ、と悲鳴は止み、静寂が訪れる。

 

 鬼は男達が来た方を見ると何かを感じた様にまたドスン、と地響きを立てながらその方向へと進んでいった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 「…冗談ですよね?」

 

 「いえ、言葉の通りです。お子さんは鬼であり人の血の味を覚えた、最早一刻の猶予もありません。ご覚悟お願い致します。」

 

 夫婦は顔面蒼白になり、わなわなと震える。いたたまれないが今回の様な最後を迎えるのなら相互に別れを告げさせ楽にさせた方が良いに決まっている。

 

 「そんな…。もう少し時間を頂けませんか?」

 

 「生憎ですが無理です。その子は心は最早鬼に傾いている。何時人を襲うか分からない状態です。」

 

 「大丈夫です。拘束も今より増やしますし、血だって夫婦で与えます。今よりも多く与えれば先程のような…」

 

 夫の胸倉を掴み、片手で持ち上げる。

 

 自分の所業にギリギリと心が締め付けられるが表情に出さす淡々と言葉を告げる。

 

 「自分の子供を人殺しにするつもりですか!」

 

 「いえ…それは…。」

 

 「何故鬼の言葉に耳を傾けたんです?どうして子供を人として死なせてやれなかったんですか?その選択が今の結末を迎えている。貴方達の選択で何より苦しんでいるのがあの子だ。今はまだ人としての心が残り制御している様だが正真正銘鬼になったら貴方達二人の力ではどうにもならない。…覚悟を決めて下さい。」

 

 手を放すと力無く項垂れ、夫婦は涙を流した。

 

 刀を構え、鬼を見据える。先程からその子は大人しく此方を伺っており、大粒の涙を流していた。問題無いと判断し、拘束を斬り捨てる。  

 

 子はよたよたと親へと歩き涙ながら話す。

 

 「お父さん、お母さんごめんなさい。丈夫な身体で生まれなくて。沢山迷惑かけちゃったね。」

 

 感謝では無く、謝罪の言葉。それが何より夫婦を正気へと戻させていた。

 

 「うぁ…。ごめん、ごめんなぁ。俺達は何にもお前にしてやれなかったな。」

 

 「お母さんこそごめんなさい。丈夫な身体に産んであげられなくて…。」

 

 「そんなことないよ。お父さんとお母さんは僕を沢山愛してくれた。一生懸命僕の為に働いてたことも知ってるよ?」

 

 「そんな事良いんだよ。子供は親の生き甲斐なんだ。それがこんな事になるなんて…。お父さんとお母さんはお前に少しでも生きて貰いたかっただけなのにもう少しでお前を人殺しにさせてしまう所だった…。」

 

 「ありがとう…。ずっと暗闇の中だったけどお父さんとお母さんの声が聞こえて戻ってこれたんだ。でも次は駄目かも知れない。…ねぇお父さん、お母さん。」

 

 「「何だい?」」

 

 「僕が死んだ後に子供が出来たら、僕はその子に生まれ代われるかな?」

 

 夫婦は共に目を合わせて。慈しみを込めた目で子に答えた。

 

 「…うん。きっと生まれ代われるよ。」

 

 「…だとしたら凄く嬉しいな。今度は元気な身体で生まれて沢山遊ぶんだ。お父さんとお母さんとも沢山お出かけしてまた色んな思い出を作るんだ。親孝行だってしたい、だって沢山迷惑かけちゃったから…。」

 

 「俺達の所に生まれてくれてありがとう。これからもずっと一緒だからなぁ…。」

 

 「大丈夫。お母さんも着いてるわ。これからもずっと一緒よ…。」

 

 親子三人で抱き合い涙を流す。互いの思いの丈を隠す事なく曝け出し、親は子へ、子は親へと感謝、愛する思いを告げていた。

 

 暫く待った後、親は子と手を繋ぎ涙ながらにも決意の籠もった瞳で此方を見た。

 

 「それではよろしいですか?鬼に対する慈悲として痛みを感じる事が無い技があり、今回はそれを使用します。」

 

 「「お願い致します。」」

 

 夫婦の言葉を聞き、刀を構え、正面の子を見据える。

 

 「それでは良いね?大丈夫、痛みは無いよ。少し目を瞑って貰えるかな?」

 

 鬼の子は素直に目を閉じた後、優しく話す。

 

 「お姉ちゃんありがとう。お陰でお父さんとお母さんにお別れが出来たよ。これで安らかにお空の世界へ行けるね。皆を助けてくれて本当にありがとう。」

 

 「ぐ…。」

 

 頬に涙が伝う。両親も子も自分も、この場にいる全て者が涙を流していた。

 

 これが鬼になること。負の連鎖を断ち切るということだ。

 

 水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨の為に刀を構える。

 

 

 

 そんな時、声が聞こえた。

 

 「鬼の分際で人に与する等、嘲笑わせてくれる。お前にはこの一撃がお似合いだ。力無き自分を恨むと良い。」

 

 「…ぇ。」

 

 自分が技を放つ前に鬼に子の頸が斬られ地を軽がる。身体はその場で崩れ、頸は両親の足元へと乱雑に転がっていった。

 

 「痛い、痛いよぉ。お父さん、お母さん。」

 

 苦痛に顔を歪める子の顔に両親が寄り添い必死に慰めの言葉をかける。それは子供の顔が崩れる十秒間程続いた。

 

 自分の全神経がビリビリと反応する。今までの鬼の格段に違う気配、殺気に刀を持つ手が震えるのを感じた。

 

 見た目は二メートルを超えた巨体。全身に朱の甲冑を装備し、顔は黒の総面を着けており表情を伺う事は出来ない。

 

 「カー。カー。鬼殺隊、階級戊、旬彩率イル部隊全滅」

 

 「交戦開始。階級丙、八雲結交戦。応援求厶!」

 

 先程の男達の鎹鴉が三羽鬼の上空を飛んでいる。全滅?先程の男達か?

 

 「カー。カー。下弦の壱。下弦の壱…ッギャ!!」

 

 上空の鴉三羽が同時に切り捨てられ黒い羽が上空より飛来してくる。

 

 降り注ぐ羽の中、総面の奥の双眸がギラリ、と光った気がした。

 

 

 

 

 

 

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