鬼の居る世界で 【雲柱】八雲結   作:sirius

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第23話 柱合会議

 

 

 (身体能力が上がってる…?)

 

 

 水の型、雷の型を一通り行った自分達は頭を悩ませた。

 

 

 空が白み始めた朝、自分達はリハビリを兼ねて蝶屋敷の屋外修練場で型の鍛錬を行っていた。刀は先の戦いで歯こぼれ中なので今は木刀を使用している。鎹烏を用いて文を送り鋼鐵塚さんに修理を頼んでいるが刀を貰った時の様子を見るに何を言われるか分からず非常に恐い。素直に直してくれるとは思わない方が良いかも知れない。

 

 あれから一週間。療養期間も終えたので今日から修練に励もうと型を一通り流してみたが違和感を覚えた。

 

 技の精度が落ちた訳でも体力が低下した訳でも無い。寧ろその逆、身体は疲れを感じる事も無く、手に持つ木刀は羽を持つかの様に軽かったのだ。

 

 元々の力を全集中の呼吸で底上げしているとはいえ、身体能力の意識と動きの連動は呼吸を学ぶ段階で相違無い段階まで高めている。しかし、今は技を繰り出す毎に違和感は募る一方であった。

 

 (原因としては下弦の壱での戦闘か…?身体になんらかの変化が起きたと見るべきかな。)

 (これじゃ当分は任務に就くのも難しいかもね。)

 

 確かに刀身や身体の速度は上がっているがこれでは厳しい。身体の全てを掌握していたからこそ今まで生き残ってこれたと言っても良い。身体能力は上がっているがこの技の精度では今後の任務に影響も出るだろう。

 

 何が原因かは分からないがこの身体の違和感が消える域まで再度修練する必要がある。面倒だがこれも生き残る為、実際力は増しているのでこの身体で極めれば以前より格段に強くなる事が出来る。前は使用出来なかった大技も今後の練習次第では可能となる事もある。

 

(でも今の状態じゃ雲の呼吸は難しいかな…。)

 

 雲の呼吸は水の呼吸と雷の呼吸を元に自分達が新たに編み出した型だ。水の呼吸の歩法、雷の速度と複数の要素を取り入れる事により技は緩急合わせた独特な物となっている。眼や感が良い者程この技は感覚を惑わせ、防御のタイミングさえ掴めなくさせる。

 

 自分と結の呼吸の違いによる利点、欠点は以前から自分達の中にあった。精神の入替えの時間的ラグに関しては問題無い域まで達した。しかし、呼吸の変化による消耗は僅かに止めるのが精々で互いに水と雷の呼吸を極めていけばいくほど対称的に切り替えの消耗は無視出来ないものとなった。

 

 その為編み出した雲の呼吸。この呼吸の最大の特徴は水と雷の中間と言える型なので呼吸の入替えに挟む事により身体的負荷を減らす事にある。

 

 水→雷 雷→水 では複数回までの制限があったのが 水→雲→雷→雲→水 と間に雲の呼吸を入れる事により実質呼吸変化による反動は限りなく低くなる。

 

 威力、範囲共に自分達の身体能力を元に考え出されていて威力、範囲共になかなかの物となっている。  

 

 現状の雲の呼吸は全八つ。それと威力を追求した竜の型、水と雷の呼吸より派生した雨の型と雷の型がある。雲という名前を元に天候を意識した名前だ。技の種類は非常に幅広く、応用力に関しては他の呼吸より抜き出た物を持っていると自負している。

 

 呼吸を新たに生み出すのは並大抵の事では無い。水と雷の双方の特性を残したまま融合させる。互いに使いこなす為に自分は水の呼吸を、結に至っては雷の呼吸を一から学ばなくてはならなかった。

 

 呼吸を融合させる事でさえ、こんなに難しいのに基本の五代流派を作った人は本当に並大抵の苦労では無かっただろう。それかそれを可能にするだけの才能の塊であったかだ。

 

 雲の呼吸の基礎を二人で固めていき技の練度が煮詰まる寸前での下弦の壱との対敵であった。完成していればあの鬼とももう少し張り合えていたのだろうか。

 

 考えても仕方が無い事だがあの時の死に際の光景、感覚が脳裏から離れる事は無かった。下弦の壱との戦闘は未だ私達の中で完結しておらず私達の中で共通の影として心に留まっていた。

 

 このままではいけない。そんな漠然とした不安を抱えながらもその解決策が出ない事が非常にもどかしくいる。

 

 ただでさえ下弦の鬼相手にあの結果だ。この先の上弦を相手にしていく為には更に力を高めなくてはいけない。

 

 このまま鍛錬を続けていけばその強さまで辿り着けるのだろうか。敵は強くなる一方、数は途方もなく倒しても倒しても終わる気配すら見えない。

 

(いけない。こんな事考えてばかりじゃ駄目だ。もっと心を冷静に且つ強く在らなくてはいけない。)

 

 庭にある井戸水を汲み火照った身体を冷やす。頭からかけた冷水はそれだけで意識を研ぎ澄ませ。自身という存在を確かな物にする実感があった。

 

「修行熱心なんですね。もう少し休まれてからでよよろしかったのでは無いですか?」

 

 ふと、後ろに視線を向けるとしのぶさんが寝間着の状態で縁側からこちらを覗いていた。まだ起きたばかりの様子で眠そうに目を擦っている。

 

「療養とはいえ、数日も身体を動かしてなかったのは落ち着かなくて。リハビリを兼ねて身体を動かしてました。」

「余り無理をなさらぬ様にお願いしますよ。何かあったら貴女だけで無く私も姉さんにどやされる事になりますからね。」

 

 姉さんったら普段はあんなですけど怒ると怖いんですよ。としのぶさんはクスクス笑っている。

 

「気を付けます。幸いにも身体は鈍ってる訳ではありませんでしたので今日はこれで終わりにしようと思います。」

 

 濡れた上着を脱いで準備していた服に着替える。外ではあるが早朝であるし胸にはさらしを巻いている。中身が男の自分としては何も気負うことは無い。下は流石に不味いので後で部屋で着替える事にしよう。

 

 ふと、視線を感じ、見るとしのぶさんが自分の身体を神妙な面持ちで覗いていた。

 

「あの…何か?」

「あ、いえ、すいません。ちょっと意外に思いまして。」

 

 自身でも無意識なものだった様で見ていた事に謝罪をしながらもしのぶさんは歯切れ悪く話す。

 

「下弦の壱を討伐した割には余りにも普通な身体だと思いまして。てっきり男性並みの筋力を有しているのかと」

「あーなるほど。でも自分は例外の中の例外ですので余り参考にしない方が良いと思います」

 

 素手で鬼と渡り合い、かける速度は馬を超える。我ながら人並みを大きく外れているが肉体的には周囲と差異は無い。無駄な肉も無いが筋肉も無し。細くしなやかな身体はその辺の町娘と相違ないものだ。

 

 話を聞をしながらもしのぶさんは何処か心此処に在らずの状態だ。いつもはシャキシャキしている様子なのでこんなしのぶさんは大変珍しい。

 

「例外ですか。そうですね、本当に些細な事ですが一つ質問します。唯さん貴女は鬼の頸を斬れない隊士をどう思いますか?」

「頸を斬れない隊士…ですか。それはどういう?」

 

 鬼を前にすると怖気づくといった心理的な物だろうか。当たり障り無く話すのは簡単だがしのぶさんからは真剣味を感じる。

 

「そのままの意味です。技能や精神以前に純粋な筋肉量が足らず鬼の頸を切断する事が叶わない。」

「それは…」

 

 無理と判断するのが賢明であろう。鬼を殺す為に日輪刀による頸の切断が最も有効だ。日の光でも死ぬが鬼が行動するのは深夜、それまで拘束するのも手間がかかる。第一朝まで拘束する必要が無いのだ、各々が携帯する日輪刀で鬼の頸を断てば良いだけの話なのだから。

 

 だがそんな事は今する話では無い。つまりはそういう事なのであろう。

 

「しのぶさん貴女は…」

「カー!柱合会議!柱合会議!」

 

 カー助では無い親方様の使いであろう鎹鴉が屋根裏の瓦から下を覗く様に叫んでいた。

 

「八雲唯!明日行ワレル柱合会議ニ参加サレタシ!細部ハ隠ヲ以テ伝エル!心シテマテ!」

 

 柱合会議。柱と呼ばれる者達が定期的な報告会として鬼殺隊の当主の元に集まると聞いた事はある。しかし、自分に何の関係があるのだろうか?思い当たるとすれば先日の下弦の壱との戦闘だが。

 

「凡そ察しは付きます。そろそろ連絡が来る頃だと思っていましたが思いの外早いものでしたね」

 

 先程の会話から切り替え自分を見ながら話すしのぶさん。花柱の継子としてかその表情は真剣なものだ。

 

「しのぶさん。これはどういう事でしょう?下弦の壱戦での事情聴取ですかね?それにしても柱合会議とは些か大掛かりではありませんか?」

「いえ、これは当然の計らいだと思います。下弦とはいえ上位である壱の数字。それに現在の状況も相まっている。逆に言えば私には貴女以外思い浮かびません。」

 

 未だに疑問を浮かべる自分にしのぶさんは苦笑する。その表情は和やかであり、少し悲しげにも感じられた。

 

「とうとう先を越されてしまいましたね。八雲さん本当におめでとうございます。」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 あれから一日過ぎた朝。自分達は鬼殺隊の本部に赴いていた。

 

 思いの外平凡。というのが鬼殺隊の当主である産屋敷邸へ抱いた感想だった。確かに平屋の建物は大きく庭園も綺麗に整えられていたがそれらは自分の思う権力者特有の華美なものでは無く。鬼殺隊当主として必要な最低限のものにも感じられる。

 

 周囲は森林に囲まれており庭園に聞こえる音は風や小鳥の囀りといったものだけ。鬼殺隊を束ねる本部としては意外な程穏やかで自分は外界とは隔絶した場所なのではないだろうか、という錯覚さえ覚えた。

 

 此処に至るまでの経路は一切分からない。この館は複雑な方法で隠されているらしく多くの隠によるリレー形式による運搬でここまで来た。一日もかからない時間であったが隠の背中を通して伝わる移動が複雑多岐なもので自分は凡その見当さえつかない。

 

(カナエさん以外の柱はどんな人なんだろうね?)

(さぁ…でも鬼を狩る集団のトップだ。武闘派が多いんじゃないかな。逆にカナエさん見たいな人は小数派だと思う。)

 

 本部と関わると聞いて正直に言うと自分達の気分は良いものでは無い。個人で任務を行って来たのもやりやすさあってのものであるし自分達が任務に取り組む姿勢が組織の枠に収まるとも思えない。それに先日の件もあって同業の鬼殺隊士も多種多様な人間がいると知った。良い人、悪い人を含めて。

 

 だからなるべく鬼殺隊との関わりは任務に関係することを除き必要最小限にしようと考えていた。下弦の壱との戦いで階級が甲という柱を除けば最高位になった事もあり階級故のトラブルも減るだろうなと思っていたので今回の様な事は余り気が進むものでは無かった。

 

「この先の間がお館様並びに柱の方がいる場所です。くれぐれも失礼がないように。」

 

 最後に案内してくれた女性の隠が言う。柱合会議の場所の手前であるが隠は額に僅かばかりの汗が見え緊張しているのが感じられた。

 

(……ッ)

(…大丈夫だ。落ち着け結。)

 

 こんな整えられた舞台に立った経験が無い彼女からの動揺が伝わる。自分も闘病生活が長くその様な経験は一切なかったのだが一度死んだ影響か気がつけば自身の生死が関わる場以外に緊張というものが消えつつあったので比較的冷静である。

 

 歩く事で下に引かれた玉砂利が鳴る。音をたてながら一歩、二歩、三歩。二十歩目に差し掛かった所で左に曲がると親方様の居る間が見えてきた。

 

(これは…なるほどな。)

 

 自分達が歩く正面に七人の隊士がおり、恐らく親方様の現れるであろう建物内の広間に片膝を付いて構えていた。背格好は様々だが皆平均して体格に恵まれている。自分が来る事を気配で察知していたようで全員が姿勢を変える事なく視線のみを送ってくる。好奇心、疑惑、敵意。その真意は様々だが余り良いものではなさそうである。そしてそれ以上に自分が強く感じたのは各々が持つ気配の鋭さ。才ある者がその全てを鬼殺に費やし到達する事の出来る頂。そんな力が見える形となって自身の感覚を通し感じた。

 

 柱という存在。確かに今まで見てきた隊士とは一線を画す存在だ。

 

「件の隊士。階級甲、八雲結ですね。どうぞこちらへ。」

 

 自分から見て右翼一番近くにいた胡蝶カナエさんに促されるがまま柱の後ろ列の中間に自分は配置した。その言動、動作は最低限のもので自身と関わる事を極力避けていた。蝶屋敷では見たことが無い。花柱として本来の対応であるのだろう。自分もそれを理解し野暮な事は言わずそれに従う。

 

 お館様と自分を挟む様に柱が配置している。当主と正面きって会話出来る立場でも信頼を得ている訳でも無いのであろう。柱の二尺程後方の位置。力ある柱達が正面に七人並ぶ姿はそれだけで周辺の空間を歪めているかの様にも感じられる。

 

「お館様のお成りです」

 

 幼い白髪の娘が年に合わない覇気ある声で告げる。襖を開ける二人の娘は当主が襖を跨ぐと同時にその両手に寄り添った。雰囲気を見るに娘なのであろう。

 

「お早う皆。今日とてもいい天気だね。顔ぶれが変わらずに柱合会議が迎えられたこと嬉しく思うよ。今日は臨時にも関わらず来てくれてありがとう。」

 

 正面の柱が一斉に頭を下げると同時に自分もそれに習う。事前にしのぶさんから聞いていたお陰で無駄な騒ぎを起こさずにすんだようだ。

 

「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます。」

 

 中央にいた恐らく一番高齢であろう柱が告げる。年齢は恐らく50半ばほど。

 

「ありがとう巨影。本日君達に集まって貰ったのは他でも無い。八雲唯彼女の事についてなんだ。」

 

「彼女については我ら一同話は聞いていますお館様。単身にて下弦の壱を倒した隊士との事ですが。」

 

 次いで中央付近に鎮座していた男が声を上げる。燃える様な炎の装飾を施し、髪もまた炎を彩る色をしている。年齢は40半ばで先に話した事からもこの二人が柱の中でも中枢を担う存在の様だ。

 

「その通りだ愼寿郎。私はね彼女に新たな柱になって貰いたいと考えている。唯前に来てくれるかい。」

 

 お館様の一声で前に居た柱が自分を中心に一斉に道を開ける。柱達の視線に晒されながらも自分はお館様の正面。柱達の中央へ歩みを勧めた。先程の高齢の二人は視線を向けるものの表情は読み取れない。カナエさんは視線を伏せ、頭に装飾を施した男は「派手だな!」笑みを浮かべている。白髪の傷だらけの男が一番分かりやすく敵意を向けて来ており視線だけで殺して来そうな勢いだ。

 

「彼女が柱に相応しいかそれをこの場で決める為今回柱である君達を呼んだ次第だ。どうだろう?君達から見て彼女は柱に相応しいだろうか?」

 

 

 

お館様は和やかに周りの柱へと問いかけた。

 

 

 

 






煉獄父メンタルケア済み
煉獄さんはやる気ある父の指導を受けレベルアップ中

理由等は後ほど
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