鬼の居る世界で 【雲柱】八雲結   作:sirius

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第08話 それぞれの呼吸

 

 育手の方の名は鱗滝さんと言うらしい。見た目は白髪の老人で何故か天狗の面を常に付けている。同じ家で寝食を共にしているが未だに素顔を見たことがない。

 

  鬼殺隊の最終選別は藤襲山で行われるらしく自分が最終選別を受けるかは鱗滝さんが決めると言う。

 

  初めは基礎体力の向上の為、刀を持たされ初日に行った山下りを繰り返した。山には沢山の罠が仕掛けてあってそれは日を増す事に凶悪な物になっていく。

 

 自分は第六感と強化された身体能力で何とか一度も罠に掛かる事無く降り続け、数えで三日目で山下り終了を言い渡された。今回の試験で彼女と交代で降り、相互で第六感に磨きがかかったのは大きい成果だ。

 

  次は刀の素振り。鱗滝さんの青色の刀を真正面に振る事を繰り返す。刀は折れやすいと最初に言われた。刀は横に弱い、なので刀には力を真っ直ぐ乗せる事、刀を折ったら三日間飯抜きと低めに脅された。振りすぎて腕がもげる…何て事も無かったので彼女と交代で一日中確める様に刀を振るう。一週間でそれなりの形になり、次の訓練へ。

 

  転がし祭り。これが中々にキツい、どんな体勢になっても鱗滝さんによって素早く転がされる。

 

 自分は受け身を取って素早く起き上がるのだが全力で力を入れて抵抗しても鱗滝さんは重心の弱所を見つけ確実に転がしてくる。肉体的には大丈夫だが何度も宙を舞い、目の前が回る景色を見せ続けられ重心の大切さを嫌と言うほど体感させられた。

 

  次は先程の訓練に刀を渡され攻撃が許される。自分は刀で真剣なのに鱗滝さんは素手で向かい打つ。だがこれが自分達には難関だった。

 

 「結。お主は相手を傷付ける可能性が少しでもあると攻撃が緩くなるの。」

 

 正に図星だった。しのぶさんの決闘でも感じたが自分達は相手を傷付ける事に慣れていない。鬼なら問題無いが人に対してはそうなる。

 

  「お主の見え見えの攻撃等当たるわけなかろう。早う振れ。」

 

  常に敵が鬼だけとは限らない。そう言う鱗滝さんは自分が人に対してまともに振れる様になるまで何度も付き合ってくれた。ある程度の技量を積めば人に振るう事も無く無力化出来る、要は手加減の問題なのだと鱗滝さんは言った。

 

  最後は呼吸法と型の練習だ。何度も吸って吐いてを繰り返し、間違っていれば腹をバンバンと叩かれる。

 

  身体能力では無く技術を要する訓練は一番多くの時間が掛かった。身を持って体験する為、彼女と交互に練習を行い指導を受ける。一月の時間を経てようやく両方を互いに身に付けるまでに至った。

 

 「もう教える事は無い。」

 

  三ヶ月後それは突然言い渡された。後はお前次第、お前が儂の教えた事を昇華できるかどうかと言われある場所まで案内される。

 

 「この岩を斬れたら最終選別に行くのを許可する。砕くのは無しだ。結、お主は無駄に力があるからの、その場合は石の大きさを二倍にしてやり直しだ。」

 

 そしてそれから鱗滝さんは何も教えてくれなくなった。

 

  岩を切れたら次へ、斬れなければ見込み無しと言うことか。

 

  鱗滝さんから教えられた全集中の呼吸を使えば身体能力が増加し、 並大抵の岩なら斬る事が出来るだろう。

 

 刀を構え、それを見上げる。

 

 「しかし…これはなぁ。」

 

 目の前には中蓮縄の巻かれた五メートル程の岩の姿。

 

 全集中の呼吸だけでは刀は半ばで止まり、折れる。何となくそう感じた。

 

 これを斬るためには全集中の呼吸だけでは無い、水の呼吸を使用して一撃の元で断つ必要がある。

 

 …結。お前ならこれ出来るか?

 

 (う~ん。壱ノ型 水面斬りでギリギリいけるかな。)

 

 マジか…。

 

 型にかけた時間は互いに同じだが、習得速度、その練度には大きく差があった。使えなくは無い。でも今の自分の水の呼吸ではこの岩は斬れないだろう。

 

  彼女ならこの岩を切れる。この場で足踏みする事無く次へ進める。だが自分は?此処で斬れない自分は今後足手まといにしかならない。

 

 その後は彼女に恥を忍んで水の呼吸を教えて貰う日が続いた。実際に身体を動かして学ぶ方が覚えは早い、彼女が型を振り、続けて自分も型を放つ。傍から見れば練度が上下した何とも不思議な様相になっているだろう。

 

 一月経っても岩は斬れなかった。

 

  確かに練度は上がったがそれは微々たるもので岩を斬るまでには至らない。

 

  彼女の剣筋は水の様に流々としていて速度も一定では無く伸びやかなものだ。自分は彼女の様には出来ない。速度や威力では負けていないが細かい動作になるとどうしても粗くなってしまう。

 

 「… ッくそ!どうして!?」

 

 今日も岩の前で無心で刀を振るう。教えられた型を身体に刻み付ける為、少しでも効率良く、的確に振るう為に。

 

 だがそれでも岩は斬れない。

 

 いつまで振るえば良いのか…。身体はとっくに型を覚えた、でも壁はまだ高く険しい。こんな所で足止めを喰らっている訳にはいかないのに。

 

 「はぁぁぁッッ!!!」

 

  岩に向かって壱ノ型 水面斬りを放つ。 刀は岩の七割程まで斬れたがそこで止まった。

 

  限界まで努力した。出来る事は全ては行って来たのに結果が付いて来ない。

 

 岩の前で項垂れる自分に声が聞こえたのはそんな時だった。

 

 「筋は良いようだが…ふむ。」

 

  気が付けば岩の上に同い年位の少年が座っていた。少年は此方を一瞥すると流れる様な動きで下まで飛び降りる。

 

  「それにしてもこれだけ大きな岩を用意するとは…。鱗滝さんはよっぽどあんたに期待してると伺える。」

 

  岩に座りながらカラカラと笑う少年。その顔には鱗滝さんと同じように面がある。頬に傷が入った狐の面だ。

 

 「進め、進み続けろ。例え女だろうとお前が目指すのは鬼殺の道、生半可な腕では死ぬだけだ。例えお前の片割れが出来ようとお前自身が駄目なら必ず綻ぶ。道はお前の考える程甘くは無い。」

 

 獅子色の髪をした少年がこちらを見る。面の向こうの瞳は自分達両方を見てる気がした。

 

  (この人…強いよ。)

 

 分かってる。とにかく鱗滝さんの名を口にしてるが急に気配も無く現れた。刀を持つその佇まいに全く隙が見つけれない。

 

 念の為、刀を何時でも抜刀出来る様にし、全集中の呼吸を始める。

 

  彼は数秒自分を眺めた後、「フン」と鼻を鳴らす。

 

 「喚いてるから喝でも入れてやろうと思ったがその心配は無さそうだ。今回俺は動かん。真菰、後は任せたぞ。」

 

 霧へ進む少年と入れ代わる様にまた同年代位の花柄の着物を着た少女が目の前に現れた。この子も頭に狐の面が着いている。

 

 彼女は自らの名前を真菰と言った。

 

  真菰は水の呼吸について教えてくれると言うので当初は女の結に代わって指導を貰った。一見完成してるかに見えた彼女の型も真菰からすればまだ無駄や癖が付いている所があるらしい。直した彼女の型は確かに見違えてキレが増した様に見える。

 

 「…さて、次は君の番だね。出ておいで」

 

 ギョっとした。先程の少年もそうだったがこの二人は自分達の存在に気付いている。

 

  「…何で俺の存在に気付いたんですか?」

 

  「貴方達が山に来たときから私達は見ていたの。隠そうとしてたみたいだけど分かる人は気付くよ。僅かな癖、剣筋、佇まい。似てる様で貴方達は全く違う。追及はしなかったけどきっと鱗滝さんも分かってたんじゃ無いかな?」

 

 そうだったのか…。ならさぞかし自分達は不思議な存在に見えたに違いない。

 

  真菰が示す通りに水の呼吸を一通り行う。途中に一回アドバイスを受けた意外は最後まで何も言われなかった。

 

  真菰は暫し思い詰める様に考え、そして口を開く。

 

 「貴方は……

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 家の戸を誰かが叩く。

 

 彼はその音、匂いで訪問者を理解した。天狗の面を着け、戸を開き、訪れた者と顔を合わせる。

 

 八雲結。人並み外れた力と体力、鋭い感覚と才能を有し、今までの教え子の中で最短で修行を終えた少女。岩の課題は今までのそれでは彼女を測る事は出来ないとし、現段階で水の呼吸を極め、到達できる限り最大の岩を充てた。

 

 彼女の修練用の着物は所々汚れ、頬には泥が着いている。髪は後ろで縛ってはいるがボサボサで最近手入れをしてない事が伺えた。

 

 彼女が俯き、何かを言おうとしてるのを見て、彼は「ああ、またか。」と思う。

 

 この課題をこなせず鬼殺隊への道を諦める者は少なからず居る。たが、それでも良いと彼は思った。

 

 岩を斬れないならば鬼は斬れない。むざむざ教え子を死地へ送るくらいなら、嫌われてでも現実を突き付け、普通の日常生活に戻した方良い。

 

 彼女は抜き出た者を持っていたが彼女が決断したならば彼は止めないつもりだった。

 

 彼女は意を決した様に彼に心中を伝えた。

 

 

 「自分に…違う流派の育手を紹介して下さい!!」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 「貴方は…貴方には特別変な所は見られなかった。教えの通りに動いて実践してる。型も綺麗だね。これで岩を斬れないと言うことは貴方自身に問題がある。」

 

 問題とは…。と考える自分に彼女は続けた。

 

 「刀の才能はある。でもそう、言うならば水の呼吸は貴方向きでは無いね。変則的な歩法で変幻自在に攻撃する水の呼吸よりは止まった状態で素早く攻撃する炎や雷の呼吸の方が貴方向きに思える。」

 

 確かに思っていた。もっと真っ直ぐ、速く、強くと。

 

 しかし、だからといって異を言えない。水の呼吸にも良い点は沢山あってこれで十分戦えると思っていた。

 

 「自分はどうしたら?鱗滝さんは水の呼吸だ。他の呼吸には他の育手の元へ行かなければならない。折角ここまで面倒見て貰ったのに。」

 

 「貴方の流派は自分に向いていません。」なんて理由で他の流派には行けない。心配する自分に彼女は微笑む。

 

 「大丈夫。鱗滝さんは貴方が真剣に悩んで決めた事なら許す。受け入れる。それに鱗滝さんの教えが残らない訳では無い。貴方達の中にそれは残っている。幸いにも彼女は水の呼吸が向いているしね。」

 

 だから…と、彼女は言う。

 

 「鱗滝さんはそんな事では怒らないよ。いつも私達の事を考えてくれる。だから私達鱗滝さんが大好きなんだ。」

 

 この選択は今まで積み上げて来たものを一度置いて、他の物を一から積み始める行為だ。また新たな育手の元で一から。

 

  それは大変な事だ。でも選ばれなければ行けない。

 

 じゃないともう一人の自分に正面から向き合えない。共に戦えない。

 

 (大丈夫。私は待ってる。一緒に最後の訓練乗り越えよう!)

 

 …おう。

 

 「まずは鱗滝さんに謝らないと、だな。」

 

 進め、進み続けろ。少年にもそう言われた。

 

 過酷、困難。そんな事は分かっている。自分が目指すのは鬼殺隊だ。その為の道にはもう踏み出している。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 半年後、岩の前に私は鱗滝さんと居た。

 

 もう一人の私である彼はとある呼吸の育手の元で半年間基礎から鍛え直した。その道は大変だったけど確実に前へ進んだ。

 

 今日は修行の成果を鱗滝さんに見せる時。

 

 失敗は許されない。学んだ全てを用いてこの岩を斬る。

 

 呼吸を整える。深く、強い呼吸はそれだけで力を生む。心を落ち着かせ次の瞬間に全てを捧げる。

 

 「行きます!」

 

 全集中!!

 

 ヒュゥゥゥ!

 

 《水の呼吸 壱ノ型 水面斬り》

 

 通り抜け様に両腕を用いての横一線。手応えあり。

 

 …でもまだまだ!

 

 水の呼吸の足捌き。一瞬で踵を返し、再度岩へ向かう。

 

 (この時を待っていた…。)

 

 もう一人の私である彼と入れ代わる。その間は訓練を重ね、戦闘に問題無い程に短縮されている。

 

 これから振るうは雷光、速度は神速。水の呼吸と同じ、五つの流派その一つ。

 

 「行きますッ!!」

 

 シィィィィ!

 

 《雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃》

 

 すれ違い様に縦に一線。落雷と聞き間違える様な音が広場に響き渡る。

 

 結果は見なくても身体で理解した。

 

 直ぐ様呼吸の切り替えによって生じた反動を減らすべく、回復の呼吸を行う。

 

 荒い呼吸を続けながら自分は鱗滝さんを見る。

 

 鱗滝さんの背に隠れる様にある岩は縦と横に綺麗に両断されていた。

 

 鱗滝さんは岩の断面を見た後、自分の頭に手を乗せ。

 

 

 

 「合格だ。【二人】共良く頑張った」

 

 と優しく言った。

 

 

 

 

 

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