第一輪 魔法使い<ウィザード>は風と共に
「おお、やったぞ成功だ!」
「素晴らしい。我々はネウロイに対抗する新たな術を手に入れた!歴史の転換点たる時に我々は立ち会えたのだ!」
とある一室の外で軍服に袖を通した男たちはガラスの向こう側にいる人物に向けて拍手喝采を巻き上げる。
その集団から離れた一人の軍人は室内に入り、暗がりの中に佇んでいる人影の肩に手を置くと満足気に微笑むとある言葉をかける。
「よくやってくれた。たった今この時より君は強大な力を手にしたのだ。これから是非その力を存分に振るってほしい。我々の自由と平和のために、期待しているよ…君は我々人類の最高の希望だ」
★
1939年、奴らは突如として現れた。その名はネウロイ。その異形は街を蹂躙し、人類の住処を命を奪った。
人類を脅かす危機に対して人類の対抗策となったのは魔力を持った少女たち通称『
これらの加護を得た人類は今も世界各地でネウロイとの激しい戦闘を繰り広げていた。
そしてある海上でも一人のウィッチが戦艦を守りながらネウロイとの戦いを繰り広げていた。
「くっ」
扶桑のウィッチ、坂本美緒は大型のネウロイを相手に苦戦していた。
航空機がいるといってもネウロイが相手では戦力と数えていいか怪しいところ。実質孤軍奮闘の状態にあった。
そんな彼女の耳に通信機越しに声が飛んでくる。
『大丈夫ですか?坂本さん!』
「そこで何をしている宮藤!出るなと言ったはずだ!」
扶桑より同行してきた少女に坂本は声を荒げた。
宮藤芳佳、回復の魔法を持つ彼女はウィッチとして多くの死線をくぐり抜けてきた坂本から見て確かに逸材だった。しかし彼女は民間人、非戦闘員だ。戦闘に参加させるわけにはいかない。
だから先ほど坂本は彼女に部屋で大人しくしているよう戒めたのだが、どうやら我慢できなかったらしい。
「まったく無茶な奴だな。あの度胸はたいしたものだ」
あいつに負けてられないな
そう意気込んでネウロイの翼にあたる部位を両断するが、切断された箇所は再生を始めた。
コアを破壊できなければ修復されてしまうのがネウロイの厄介な特性だ。
「さてどうするか」
坂本のウィッチとしての能力『魔眼』でコアの位置は特定している。問題はビームが絶え間なく放たれる中をどう突っ切って破壊するか
坂本が思案する最中ネウロイは周囲にビームをばら撒く。
シールドを展開してやり過ごす坂本だが拡散した一部の光線が艦隊へ…宮藤の乗船する赤城へ向かう。
「しまった!宮藤!」
「あっ…」
運悪く甲板にいた宮藤の瞳に高速で迫る赤い光が映る。恐ろしい色をしたそれを宮藤は食い入るように見つめる。
彼女を救おうとする坂本だが今からストライカーを飛ばしても割って入るには遅すぎる。
(お父さん…)
着々と近づく死の光を前に宮藤の脳裏に泣き父の顔が浮かぶ。
その時宮藤の耳に奇怪な音が入り込む。
『ディフェンド、プリーズ』
宮藤の正面に黒い影と緑の風の防壁が出現した。防壁はネウロイの光線を受け止め、宮藤と赤城が焼かれる悲劇をは回避された。
ぎゅっと閉じた目を開くと、宮藤の前で黒い布地がなびいた。
「ふぅ~間一髪、怪我はないか?」
赤城と宮藤を救った黒い影はそう声をかける。緑の宝石の顔を持ち、同じ色の指輪をはめた黒いロングコートの騎士。それが声の主であった。
「は、はい大丈夫です。ありがとう、ございます」
人なのかどうか外面ではとても判別できない謎の存在に戸惑いながら宮藤は助けてもらった礼の言葉を言う。
「どういたしまして、危ないから下がってな。すぐに終わらせる」
宝石の騎士は安心させるように宮藤に言葉を残すと足に風を纏い、その力で赤城から飛翔する。
「ストライカーなしで空を飛んだだと!?」
ストライカーユニットを身に着けずその身一つで空を飛ぶ騎士に坂本は驚く。当の騎士は坂本の反応を余所に彼女の隣に並び、敬礼の仕草を取る。
「何者だ?」
「お初にお目にかかります坂本少佐、私はロマーニャ空軍所属ソーマ・スペランツァであります。本日付けで501部隊に配属を命じられました。お見知り置きを」
「ロマーニャ空軍から…?ああ、ミーナから近々戦力補充の人員が来るという話は聞いていたな。君がそうか、しかしかなり珍妙な恰好をしているな…いや今はそんなことを言っている場合じゃないな。すまないがネウロイの撃破に協力してもらえるだろうか」
「もちろん、そのために来たので」
「感謝する。実戦の経験は?」
「これが初めて。だけどご心配なく。自分の身くらいは守れます」
「わかった、その言葉を信じよう」
「コアの位置はどこかわかります?」
「あのネウロイのちょうど真ん中辺りだ。私がコアを破壊する、君は援護を」
「りょうかい」
坂本の指示に軽い調子で応じた騎士―ソーマは指輪を手の形を模したようなベルトにかざし、魔法を発動する。
『コネクト、プリーズ』
隣に生じた緑の魔法陣から銃剣ウィザーソードガンを取り出したソーマ。
坂本と共に分散し、ネウロイのビームをかいくぐって接近する。
「はあ!」
ウィザーソードガンから銀色の銃弾を放ち牽制するソーマ。ネウロイの注意を引き付けるためそのままネウロイの周りを飛行する。
「そうだ、それでいい。お前は俺に集中してろ」
襲い掛かるビームの束を避けながらソーマは高度を上げ上昇。腰元のホルダーから黄色の指輪を抜き取り指に嵌める。
『ランド、プリーズ。ドッドッド、ドッドッドン!』
『ディフェンド、プリーズ』
黄色の魔法陣をくぐり、緑から新たに魔法陣の色に体を変化させたソーマは集中砲火するネウロイの攻撃を土壁で防御。
砕けて分散した土の破片が重力に従って落下し、ネウロイの体全域に降り注ぐ。
『ハリケーン、プリーズ。フーフー、フーフーフー!』
その結果を落下しながら見届けたソーマは再び緑の指輪に切り替え、土の姿『ランドスタイル』から風の姿『ハリケーンスタイル』となり海面スレスレで浮上する。
「風に土、自然の力操る魔法か。しかも色まで変わるとは、面白い…私も負けてられないな。これは」
実戦が初めてとは思えないソーマの奮闘ぶりに刺激され坂本の気合いが高まる。
ネウロイの火力がソーマに集中し、彼女への攻撃の手が緩くなっている内に一気に懐に飛び込みその体に刃を突き立てる。
「ずおりゃああ!」
右翼に相当する部位を叩き斬ると身を反転させ、そのままコアのある箇所まで一直線に前進する。
「よし!」
コアのある部位へと突き刺した坂本は撃墜を確信する。
ところが
「何っ!」
コアを貫くはずだった刀はその直前で進行を止める。結果としてネウロイはまだ生存している。
その証を示すかのようにネウロイの体の斑点が赤く光る。
「攻撃が来るぞ少佐!」
「っ!」
剣を引き抜き坂本は即座に上昇。その数秒後に彼女がいた場所をネウロイの赤色光線が通り過ぎる。
「どういうことだ。確かにさっきまで攻撃は通っていたはずだ」
「きっとたぶん」
『ハリケーン、シューティングストライク!フーフーフー、フーフーフー!』
坂本と合流したソーマはウィザーソードガンに緑の指輪をかざして引き金を引く。
風の弾丸が銃口から放たれ、先ほど坂本が攻撃した位置…ネウロイのコアの部位で炸裂する。
着弾に成功したため黒煙が上がるがネウロイはけろっとしている。
「やっぱり他に比べてコアの周辺だけ装甲が頑丈になってるみたいだ」
「今までにはない特性を持ったネウロイだ。あれを倒すにはもっと高い威力の攻撃が必要になるな。私の剣は見ての通りコアを捉えられなかったができるか?」
「今撃ったのより威力の高いのあるにはあるけど…それでもあの装甲と再生スピードを越えてコアを破壊できるかどうか」
「君が撃った後にすぐ私が斬る。それではできないか?」
「それだと当てられるかちょっとばかし怪しいな。この攻撃の中じゃ―っと!」
話している間にもネウロイの攻撃は続く。それらを回避しながら坂本とソーマは思った。
せめて後もう一人だけでもいてくれたらと
「あれは?」
その時坂本は赤城に視線を切り替えると甲板上に青い光が展開していた。目を凝らしてみると光源たる魔法陣の中心にはストライカーユニットを装着し、銃を手に発艦準備をする宮藤がいた。
「宮藤なのか?」
「あの魔法陣の大きさ、すごい潜在能力だな」
宮藤の展開する魔法陣は赤城の横幅を覆うほどの大きさだった。坂本もソーマも宮藤の秘めたポテンシャルの高さに驚嘆する。
そうしていると宮藤がストライカーを吹かし赤城の甲板上を飛び出す。その出力は坂本にも劣らない。
しかし離陸した瞬間、軌道がガクンと落ち海面に下がりつつある。
「まずい、あのままじゃ!落ちるぞ!」
「飛べ!宮藤!」
嫌な光景を想像し急行しようとするソーマの横で坂本が声を発した。
すると彼女の声に応えるように宮藤は上昇し、雲の広がる空を舞う。
「私、とんでる?坂本さん私飛んでます!」
高度を安定させ、落下を回避したかと安心した矢先…今度は坂本とソーマの横を駆け抜けてしまう。
ストライカーの操作に苦戦する宮藤の目前にネウロイから放出されたビームが接近する。
「うわッ!」
焦りながらもシールドを張り、ネウロイのビームの防御に成功。
彼女の張ったシールドは大きく、改めてソーマと坂本はその魔法力に舌を巻く。
「すごいな、あの子。すごいけど…大丈夫か?」
「今日初めてストライカーに触れたんだ。無理もない」
「あ~それは仕方ないな」
『エクステンド、プリーズ!』
ソーマは魔法で右腕を伸ばし、宮藤の首元を掴んで引き寄せる。
「ありがとうござい―うわあああ!!腕、腕がぐにゃって、なんですかこれ!?」
「落ち着いて、そうなる気持ちわかるけど危なくないから」
大蛇と見間違えるくらい長くうにょうにょ動く腕を見て気味悪がる宮藤をソーマは宥める。
「す、すいません…えっと」
「俺はソーマ、よろしくな」
「宮藤芳佳です。さっきはありがとうございました」
驚きが冷めてお互いに名前を伝え合う宮藤とソーマ。
それが済んだ頃合いを見計らって坂本は宮藤に声をかける。
「さて、宮藤。私の命令に逆らってここまで来たからには協力してもらうぞ。いいな?」
「はい!」
いい返事だ、坂本は宮藤の言葉に対してそう呟くと彼女の肩に手を回しグッと体を寄せる。顔と顔が触れ合う程度の距離まで
「私が奴の注意を一手に引き受ける。ソーマがコア周辺の装甲を攻撃。着弾と同時に宮藤、お前が接近してコアを砕け」
「私が、コアを」
「大丈夫だ。お前ならやれる。自信を持て」
「はい」
坂本からの激励を受けて宮藤は自らを奮い立たせる。
「よし、じゃあいきますか」
ソーマの言葉を合図に三人は別方向に散開。ネウロイのビームを避けながらそれぞれの仕事に入る。
「はあああ!」
矢継ぎ早に撃たれるビームを回避しながら坂本はネウロイの周囲を飛び回り、ネウロイの意識を他の二人から反らす。
その間にソーマは赤い指輪を填めながら更に上空へ移動する。
「ここまで来ればいけるか」
『フレイム、プリーズ。ヒーヒーヒー、ヒーヒーヒー!』
炎を帯びた赤い魔法陣に足元から通過し、ソーマは赤い姿―フレイムスタイルに変化。
さっきと同じようにハリケーンスタイルの解除によって体が落下を始めるが、気にも留めずウィザーソードガンをガンモードに変え、赤い指輪をかざす。
『フレイム、シューティングストライク!ヒーヒーヒー、ヒーヒーヒー!』
『コピー、プリーズ』
コピーの魔法で二つに増やしたウィザーソードガンを両手に握り締め、坂本が攻撃した場所ネウロイのコアがあると思われる付近へ照準を合わせ発射。
灼熱の業火が二つ、ネウロイに激突する。
舞い上がった黒煙の隙間から紫色の光が零れ、その光源たる石―ネウロイの生命源であるコアが姿を覗かせる。
「よし、見えた!」
「それがネウロイのコアだ!いけ、宮藤!」
自分の出せる限りの全力を振り絞って宮藤はネウロイのコアへ一直線に前進する。
複数のビームが彼女に撃ちかけられる。しかし宮藤は速度を緩めることなくビームの中を突っ切る。
「いっけええ!」
引き金を引き、数十発の弾丸がコアを破砕する。
銃弾の命中によってネウロイはその体を青い粒子状に変質させてバラバラと周辺に散らばった。
「やった…?」
今までにない種類の集中の仕方をそたせいで宮藤は疲弊していた。
そんな彼女の隣に坂本とハリケーンスタイルに戻ったソーマが並ぶ。
「よくやったな宮藤」
「ああ、ナイスバウトだった」
二人とも宮藤の健闘に労いの言葉をかける。そして彼女の勝利を讃えるのは彼らだけではない。
「あれを見ろ。宮藤」
坂本に言われて海上に視線を送ると多くの人間が手を振っているのが見えた。
赤城の甲板上から、避難ボードの上から、命の危険を免れた全ての軍人たちが上空に佇む三人を祝っている。
「皆感謝している。彼らが無事だったのはお前のおかげだ」
「でも私より坂本さんとソーマさんの方が」
「頑張って体を張ったのは一緒だろ?謙遜しないで堂々としたらいいさ」
坂本に続いてソーマがそう伝えると、遠くの空から編隊を組む複数の人影がやって来る。
「あれは…」
「501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズ、ネウロイと戦うウィッチの精鋭たちが各国から集った隊だ。宮藤、ソーマ君たちを我々は心から歓迎する」
今日この時ストライクウィッチーズのウィッチたちに新しい仲間が参入した。
一人は宮藤芳佳…ストライカーユニット開発の第一人者宮藤一郎博士の一人娘。
そしてもう一人ソーマ・スペランツァ…風・土・火といった自然を操る力を持つ仮面の騎士、
彼らとの出会いが後に501統合戦闘航空団に変革をもたらす大きな風を呼ぶこととなる。