ストライクウィッチーズ~約束の空~   作:カメクリオ

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第十一輪 生まれてきてくれた君へ

「宮藤!聞こえるか宮藤!聞こえていたら返事をしろ、ユーティライネン少尉!リトヴャク中尉!」

 

坂本が通信機に呼びかけるが帰って来るのはノイズだけで、名前を呼んだ仲間たちの声は一つとして聞こえない。

 

「今の薄気味悪い音は一体なんなんですの…」

 

ペリーヌが不快と疑念に顔を歪める。

パーティーの料理作りと飾り付けを進行していた最中、置いていたスピーカーから突然不気味な音が流れ出した。

とても人間が出せるものではなかったあまりに異様な音に坂本たちは作業の手を止め、原因を確かめるべくこうして坂本が夜間哨戒に出た三人に連絡を取ろうと試みているのだが、一向にあちらから返事が返ってくる様子はない。

 

「音というよりは歌のように聞こえたがまさかネウロイの」

 

「しかもあの歌はサーニャの歌と同じだった、となると…」

 

「ネウロイがサーニャの歌を理解し、真似ているというのか。そんな話がありえるのか」

 

「ありえないとも言えないわ。ネウロイは日々変化を遂げている。サーニャさんの歌声に反応したネウロイが彼女の歌を聞いて、真似ていたとしてもおかしな話ではないわ」

 

ソーマと坂本の言葉から考えうる結論を口にしたバルクホルンは疑問とやや否定的な色を含んで呟く。

だがミーナはバルクホルンとは対照的に頤に手を当てて推測を述べる。

 

「とにかく今は宮藤たちのところに急ごう。通信が通じないってことはネウロイと交戦してるはずだ」

 

「そうね、ここで話していても仕方がないわ。皆、すぐに出撃の準備を」

 

救援を優先すべきとシャーリーの言葉は尤もだ。

ミーナの一声で皆一斉に食堂を飛び出して格納庫を目指す。

 

 

 

 

『オオオオオオ!』

 

黒と青の二色の巨体、鱗に覆われた脚と腕、雄々しく翼。その姿はまるで多くの国で幻想の存在として語られる怪物…ドラゴンを彷彿とさせる。

それは赤く染まる瞳を動かし、エイラから宮藤へと、そして宮藤に支えられているサーニャへと焦点を合わせる。

 

「避けろ!宮藤!」

 

「えっ?」

 

数秒後の未来を知る未来予知。自身の固有魔法で先読みをしたエイラが危険を察知し、宮藤に声を張り上げる。

その瞬間ドラゴンはグワっと大顎を広げ、そこから白く輝く吐息を放つ。

 

「うわぁ!」

 

サーニャの手を取って咄嗟に上昇する宮藤。ドラゴンの放った吐息が二人のいた場所を貫く。

 

「サーニャちゃん大丈夫!?」

 

「私は平気…!?」

 

回避に成功し安堵したサーニャであったが、自身の足元に視線を切り替えた時信じ難いものを見てその顔が驚愕に包まれた。

 

「ストライカーが凍ってる!?」

 

さっきの攻撃が掠っていたのかサーニャのストライカーの左側先端部分は青く凍り付いていた。

両側が機能しなくなったストライカーではどんなウィッチであろうとも航空は不可能。サーニャはもう独力ではこの空に居続けることもできない。

 

「そんな…」

 

「ビームじゃなくて冷気ってことかよ…本当になんなんだよあいつ」

 

サーニャの歌に反応することといい、姿を変えたことといい、これまでの倒してきたネウロイとは絶対的に何かが違う。

―舐めてかからない方がよさそうだ

エイラは眼光を鋭くさせて相手への警戒心を強める。

 

「私を離して宮藤さん。あのネウロイの狙いは私を狙ってる。私と一緒にいたら宮藤さんまで」

 

「でもそれじゃあサーニャちゃんが!」

 

ストライカーの機動力が衰えているサーニャの状態ではネウロイの攻撃を回避できる望みは薄い。それどころか海面に落ちてしまう。

それは宮藤もわかっていた。だからこそサーニャの要求を飲めない。

 

「私はいいの。それよりも二人の安全を―」

 

サーニャが宮藤に訴えるもそのサーニャの言葉を断ち切るかのようにネウロイの冷気が襲い掛かる。

サーニャは宮藤を突き飛ばしてでも離そうと腕に力を込めるが、その意志に反して宮藤は彼女の腰に手を回し抱きかかえる形で推力を上げ回避する。

 

「駄目だよ、サーニャちゃん。自分を犠牲にして誰かを守ろうとするなんて。もしそれで私たちが助かったってサーニャちゃんがいないんじゃそんなのちっとも嬉しくない」

 

「宮藤さん…」

 

きっぱり否定する宮藤。彼女は力強い真っ直ぐな瞳で言い返す。

 

「私がサーニャちゃんを守ってみせる、絶対に。だからそんなこと言わないで」

 

私じゃ頼りないかもしれないけど、と付け足して宮藤はこんな状況であるのに笑顔を作る。

宮藤の言葉に加勢するように今度はエイラがサーニャの目線の先に降り立って言う。

 

「よく言った宮藤!サーニャ、宮藤の言う通りだ。私もサーニャを犠牲にして勝つなんてゴメンだ。誰も犠牲にしないで皆で勝って、皆で帰るんだ」

 

「エイラ…」

 

にへらと、エイラも同じように笑う。二人の言葉と笑顔でサーニャの心は温かさで満たされる。

 

「二人とも…そうね、一緒に勝って帰りましょう」

 

誰一人として欠かさず501の皆が…家族の待つ場所に帰る。その瞬間三人の気持ちは一つとなった。

 

「宮藤、サーニャは任せたぞ。シールドはなるべく使うなよ、冷気じゃ防いでも凍らされるかもしれないからな」

 

「はい!」

 

「それとサーニャ、私と武器を交換してくれ。あいつにはたぶんそっちのが効きそうだ」

 

「わかったわ」

 

二人が応じるとエイラはサーニャから受け取ったフリーガハマーを肩に背負ってネウロイに接近。敵の動きを意識しながらインカムに呼びかける。

 

「こちらユーティライネン、新型のネウロイと交戦中!サーニャがストライカーを損傷して飛べない。すぐに来てくれ、ミーナ中佐!坂本少佐!誰でもいい、答えてくれ!」

 

基地本部に援軍を要請するが返答はなく、聞こえてくるのは汚いノイズのみ。耳障りな音にエイラは舌打ちを打つ。

 

(クソ、あいつのせいで通信が、助けが早く来てくれるのを信じるしかない。それまで私がサーニャを守らないと)

 

仲間が来てくれると信じて孤軍奮闘するエイラ。

未来予知の力をフル活用して冷気を回避しながら、フリーガハマーのロケット弾をお見舞いするが相手に痛手を与えた素振りは見られない。

それでもエイラは撃ち続け、未来予知で余裕を持って冷気をかわす。そんな攻防の応酬がひたすら何度も繰り返されていた。

だが

 

「動きが変わった!?」

 

冷気を吐き続けていたネウロイが翼を揺らし始めた時エイラに緊張が走った。

―まずい

これから何を起こすのか、その先の光景を目にしたエイラは攻撃範囲から逃れようと推力を上げるが、間に合わずネウロイの翼の振動によって起きた風に吹き飛ばされる。

 

「うわっ!」

 

「エイラ!」

 

吹き飛ばされるエイラ。彼女を心配してサーニャは声を上げる。

 

「大丈夫だ、これぐらいどうってことないっ!」

 

その声に応え、強風に苦しめられていた瞼を開いた瞬間だった。エイラの視界に大顎を全開にして冷気を集約させるネウロイの姿が飛び込んだ。

 

「しまった!」

 

「エイラさん!」

 

「逃げてエイラ!」

 

二人の声は聞こえているが今からではどうあがいても避けられない。皮肉にも未来を見通すエイラ自身がよくわかっていた。

 

(やられる!サーニャ、ごめん)

 

放たれる氷のブレス、青白い空気の奔流がエイラの身体を飲み込んだ…かに思われた時、横から高速でやって来た何かがエイラを冷気の範囲外へ逃れたのは

 

「危なかったな~エイラ。結構ギリギリだったぞ」

 

「シャーリー…?」

 

突然触れた柔らかく温かな感触にエイラがそちらを見ると、シャーリーの顔がすぐ近くにあった。

 

『バインド、プリーズ!』

 

それだけではない。

彼女たちへ追撃を加えようとしたネウロイの巨体と顎に風の鎖が巻き付き、攻撃を無理矢理中断させる。

シャーリーが来たこと、鳴り響いた音声と発動した風の魔法…そこから導き出される可能性を考え、サーニャと宮藤がある一点に目を向けたのはほぼ同時だった。

彼女たちが向けた視線の先には期待通り坂本やミーナたち、501の全員がいた。

 

「芳佳ちゃん!よかった、三人とも無事だったんだね!」

 

「喜ぶのは後だリーネ。あれは一体なんだ?ネウロイはどうした?」

 

大事ない姿を見て安心するリーネ。しかしその喜びを分かち合う余裕はない。

エイラと彼女を抱えたシャーリーが合流したのを尻目に坂本が問う。

 

「あれがネウロイだよ」

 

「何?」

 

「あれがネウロイだというのか?あんなものが」

 

「あんなネウロイ見たことないよ」

 

バルクホルンとハルトマンを筆頭に皆がにわかには信じられないと表情をするが、誰かが次の言葉を発する前に大きな咆哮が轟く。

一斉にそちらを見ればネウロイが風の戒めを力づくで破り、忌々しい感情を込めた瞳をぶつけてきていた。

 

「まずはあれを撃破することが最優先よ、行くわよ皆!」

 

ミーナの一声で駆け付けたウィッチとソーマはそれぞれネウロイを取り囲む形でばらける。

坂本は魔眼の力を使ってコアの場所を探る。

いくら姿が既知のものとかけ離れているといっても同じネウロイであれば、どこかに必ず弱点となるコアがあるはず。

敵の動きも見ながら、下から上に視線を移していくと赤く光る物体に行き着く。

 

「見つけた。コアは首の下、喉元だ。そこに火力を集中させろ!」

 

その指示を受け、首の辺りに狙いを定めて集中砲火を浴びせるが思いのほか鱗は固く、これといった決定打を与えられない。

超スピードを活かしたシャーリーの至近距離射撃でも、リーネのボーイズライフルの一射でも、少し怯む程度のダメージに終わってしまう。

 

「皆離れろ!そいつの近くにいちゃダメだ!」

 

ネウロイが翼をはためかせた時エイラが警告する。彼女の声に反応してネウロイの正面から離れた瞬間、ネウロイを起点に突風が巻き起こる。

 

「なんて凄まじい風なの」

 

髪を捲り、目を潰すほどの勢いの風にミーナが苦しい顔をする。動きを止める彼女たちの前でネウロイは口先をある一点に向け、氷のブレスを吐き出す。

その先にいたのは宮藤とサーニャ。しかしもう何度も見た動作であったために宮藤はサーニャを強く抱きしめたまま攻撃を危なげなく回避する。

 

「サーニャちゃん!」

 

「大丈夫、平気…やっぱり私を狙って」

 

ミーナたちの増援によってそちらにも攻撃するようにはなったが主だった狙いは相変わらずサーニャと彼女を背負う宮藤に集中している。

その攻撃を止めようとソーマは再度バインドの魔法を仕掛けるが、ネウロイは巻き付いた風を一瞬にして振り払い、束縛というには満たない時間で破られてしまった。

 

「二度は通用しないってわけか。だったら」

 

ウィザーソードガンの銃弾で威嚇しながらソーマはバルクホルンの隣に移動すると彼女に助力を乞う。

 

「バルクホルン大尉、手貸してくれ。あいつの動きを止める」

 

「それは今やって失敗しただろう」

 

「冷気との相性がいい防ぎ方があるからそれを使う。ただそれをするとなると自力じゃ飛べなくなる。だから―」

 

「お前が防いでいる間落下しないように私に支えろというのか」

 

「そうだ、頼めるか?」

 

意図を見抜いたバルクホルンは彼が言い切るより前に言葉の先を言う。そしてソーマからの案を受け入れる。

 

「わかった。お前の考えに乗ろう」

 

「サンキュー」

 

『フレイム、プリーズ!ヒーヒー、ヒーヒーヒー!』

 

『バインド、プリーズ!』

 

フレイムスタイルに変わり、バインドの魔法を発動させるソーマ。魔法陣から伸びた鎖は勝手に彼の腰元に巻き付き、その先端部分をバルクホルンが手綱を握るように持つ。

そしてホルダーから取り出した指輪を二つ手に握り締め、じっと機を伺う。

 

(奴が次に冷気を吐いた瞬間、そこが勝負の時だ)

 

 

(あの二人、何か狙ってるみたいね)

 

ネウロイの動きに注目したままその場に静止するソーマとバルクホルンをミーナは捉えていた。そして彼女は次に戦局から離れたところにいた宮藤とサーニャに目を配った。

そこではサーニャもまた同じように宮藤に何かを提案しているようだった。

 

「宮藤さん、お願いがあるの。私と一緒にネウロイの攻撃を受け止めてくれる?」

 

「えっ」

 

突然のその要求に宮藤は驚いた顔でサーニャを直視した。

 

「皆戦ってるのにこのまま何もしないでただ見ているだけなんて嫌なの。皆がコアに接近して攻撃するための時間を作ることぐらいは」

 

「私たちで囮になるってこと?」

 

「あのネウロイが一番狙ってるのは私、だから注意を引き付けるには適任だと思う。宮藤さんも危険な目に合わせることになっちゃうけど」

 

お互いにとって危ない橋を渡ることになる。これでもし断られてもサーニャは宮藤を責めはしない。

だが宮藤なら…とサーニャは確信を持っていた。

 

「一緒にいこうサーニャちゃん。防御は私に任せて」

 

「ありがとう宮藤さん」

 

自分の思った通りの言葉を返してくれた宮藤にそう一言お礼を言う。それと同時に足の代わりを務める宮藤は高度を上げ、ネウロイの目線も高さにまで上がる。

サーニャが視界に入ったことでネウロイは他のウィッチには構わず、冷気発射の体勢に入る。

 

「宮藤さん!」

 

「来る!」

 

身構えるサーニャとシールドを張る姿勢になる宮藤だったが…

 

『エクスチェンジ、プリーズ!』

 

『ディフェンド、プリーズ!』

 

そんな音声が耳に届いた瞬間、二人の前に存在していた景色が一変した。迫りくる青白い凶悪な光が消えていたのだ。

 

「あれ?」

 

素っ頓狂な声を出す宮藤と無言ながらも困惑するサーニャはなんとか状況を理解しようと目を走らせると

 

「っうおおお!」

 

「ソーマさん!バルクホルンさんも!なんで!」

 

「私たちが受け止めている内に攻撃を!」

 

冷風を炎を帯びた赤の魔法陣で受け止めるソーマとその上空で彼の腰に巻き付いた鎖を握り高度を維持するバルクホルンがいた。

自分たちの代わりに何故攻撃を受け止めているのかと混乱したが、バルクホルンの一声でその混乱は吹き飛ばされる。

 

「シールドがいつまで持つかわからない。一気に攻め込むぞ!」

 

「二人が作ってくれたこのチャンス、無駄にするわけにはいかないね。シュトルム!」

 

ウィッチたちは一斉に攻撃を仕掛ける。

全身に風を覆って突撃したハルトマンがネウロイの首をしたから抉るように駆け上がり、その直後同じ場所に至近距離で詰め寄ったシャーリーが弾をお見舞いする。

他の皆も各自の銃器の先をネウロイに向け、連続して銃声が響く。

 

『ガアアア!』

 

「くっ、うううっ!」

 

身に銃弾を浴びせられるこの状況はさすがに堪えたのかネウロイはまず目の前の障害を取り除こうとブレスの出力を上げる。

勢いを増した冷気に次第に押され始めソーマは苦悶の声を溢し始めた。

 

「しっかりしろ、踏ん張れ!負けるな!」

 

押し返そうと踏ん張るも伸ばした腕が時間が経つにつれて段々と曲がっていく。その彼を支えるバルクホルンは握る力を強め、衝撃に歯を食いしばりながら声援を送る。

彼女の声に気力を振り絞ろうとしていたが限界が来ていた。

 

しかし不意に正面からの圧力が和らぐ。

 

「ソーマさん、もう少しだけ頑張ってください!私も手伝います!」

 

「うじゅ!全力全開、フルパワー!」

 

その原因を確かめようと目を向けると、ソーマの両隣で宮藤とルッキーニがシールドを張っていた。ルッキーニの固有魔法は発熱、そして宮藤のシールドは501随一の防御力を誇る。その二つが合わさってくれたとあればネウロイの冷気に対して最も有効な盾となる。

並び立つ二人の支援で負荷が弱まったソーマは目一杯腕を伸ばし切り、魔法陣に注ぐ魔力を上げる。

 

「これでもくらいなさい!トネール!」

 

ペリーヌの放った雷撃がネウロイは悲鳴を上げる。それは冷気の放射が中断される。

この機を逃すまいとソーマは魔法陣を消すと同時にバルクホルンへと声を張り上げる。

 

「バルクホルン、俺を思いっきり上に投げてくれ!」

 

「ずおりゃあああ!」

 

「うおっ…!」

 

バルクホルンによって手に持った鎖ごと力一杯投てきされた彼の体は夜空に舞い上がる。

ネウロイの頭上より高みに上がったソーマは体勢を整えながら、ウィザードライバーに指輪をかざす。

 

『チョーイイネ、キックストライク!サイコー!』

 

夜空に浮かぶ満月の表面に映り込む一つの炎と逆さまになった人影。

ソーマは炎を纏った右脚を突き出してネウロイへと落下する。

それに合わせて坂本は烈風丸を頭上に振り上げ、バルクホルンは両腕に構えた銃口を起こす。リーネも照準を絞って引き金を引く。

 

「いやあああああ!!」

 

「烈風斬!」

 

『グワアアア!』

 

右翼を炎の蹴りで風穴を空けられ、左翼を大量の鍛え抜かれた剣の衝撃波に切り取られるネウロイ。

更には数多の銃弾と弾丸の一発が喉元を穿ち、固い鱗に隠れていたコアが露出させる。

浮力を失った巨体は体勢を崩し、頭から下方に落ち行く。

 

「やった!」

 

「いやまだだ。コアを破壊していない」

 

喜ぶハルトマンの言葉を否定する坂本。そうまだネウロイは健在だ。しかも再生能力のせいで今しがた作った穴が塞がれていく。

しかし彼女にはもう攻撃する意志はなかった。

 

「だがもう終わりだ」

 

坂本は勝利を確信していた。

何故ならネウロイの落下先、そこにはエイラとサーニャそして彼女に肩を貸すミーナが待機していたからだ。

 

『グワッ…!?』

 

エイラはフリーガハマーを、サーニャは彼女の持っていた銃を、ネウロイへとプレゼントする。

二つの攻撃はネウロイの喉元、コアへと直撃し青く煌めく巨体はたちまち白い粉となって拡散する。

 

「終わったな」

 

「ええ、皆無事かしら?」

 

「なんとか、危ないところでしたけど皆さんが来てくれたおかげで助かりました。ありがとうございます」

 

戦闘を終えて一息つくとミーナは身体を振り向かせて皆の安否を確認する。全員無事だ。

安堵の表情を浮かべてミーナは告げる。

 

「宮藤さん、サーニャさんそれとエイラさん。疲れてるところ悪いけど後一時間程この近辺を哨戒してもらえないかしら。さっきのネウロイによる影響がないか確かめたいの」

 

「それは構いませんけど」

 

「サーニャは基地に帰してやってくれないか?ストライカーが損傷して一人じゃ飛べないんだよ」

 

「ごめんなさい。それはできないの」

 

「えっ、なんでだよ。こんだけ人数いるんだから担ぐなりなんなりできるだろ?」

 

「本来であればそうしてあげたいんだが…今回はばかりはな。すまない」

 

らしくないこと言い出す隊長に異議を唱えるエイラ。彼女の言葉に何故かミーナと坂本を除いた面々が答えにくそうに顔をしかめていた…緑の宝石の仮面で顔が覆われているせいでソーマはどうだかわからないが

不自然な反応に当惑するエイラたちへミーナは凛とした顔を崩さず告げる。

 

「込み入った事情があってサーニャさんには二人と一緒にいてもらうのが都合がいいの。不自由をさせることになるのは申し訳ないけどお願いね…これは命令です」

 

「命令って、なんだよそれー!」

 

上官からの命令。これを言われてしまえば如何に納得がいかなくてもエイラは受け入れざるを得なくなってしまった。

 

「私は宮藤さんが平気なら大丈夫です」

 

「うん、私も全然大丈夫だよ。サーニャちゃん軽いから私一人でも支えられるしね」

 

承諾の意を口にした宮藤とサーニャ。それを受け取ったミーナは宮藤にサーニャを託し離れていく。

 

「では三人とも頼んだわよ」

 

「帰ってきたら絶対いいことあるから。ラストスパート頑張ってね」

 

ミーナ、そしてハルトマンはそう言い残して他の面々と共に基地へ飛び去っていった。

 

 

 

 

「あ~疲れた、やっと戻ってこれた。ったく、なんだったんだよ。さっきの中佐たちは」

 

戦闘区域付近を見回り何事もなく基地へと帰還したエイラたち。時刻はすっかり日が変わってしまい、深夜。

こんな時間だと起きている人間はおらず辺りはほとんど光がなく、薄暗くなっていた…てっきりそう思っていたのだが

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

「食堂の明かりが付いてる」

 

そんなはずはないだろう、と言いながらエイラが見てみるとどういうわけか確かに食堂の窓から明かりが漏れていた。しかも人影が複数動き回っている。

 

「本当だわ。いつもはこの時間消えてるのに」

 

「皆まだ起きてるみたいだね。でも何をしてるんだろう」

 

「きっとまた中佐たちが何か企んでるんだな。今度こそきっちり突き止めてやる」

 

格納庫でストライカーを収納するとエイラは宮藤とサーニャの先陣を切って食堂への道を突き進む。

ドアを開け、姿を確認するより前に問いつめようとすると

 

「おい!ミーナ中佐さっきの命令はいったい―」

 

「お誕生日おめでとー!さーにゃん、宮藤!」

 

「えっ?」

 

「ふぇ?」

 

中に入るなりハルトマンから祝福の言葉がかけられ三人は凝固する。

 

「おいハルトマン、一人で勝手に言うんじゃない。それは皆で揃って言うと決めていただろう」

 

「かったいなぁートゥルーデは。いいじゃん、もう一回言っちゃえば。お祝いの言葉は何回だって言っても嬉しいものだし」

 

「それは、そうでもあるが」

 

バルクホルンが先のハルトマンの一声に苦言を呈しているがその内容が耳に入らないほどエイラは困惑していた。

彼女だけではない。

宮藤とサーニャも食堂の壁に飾り付けられた折り紙の花や食卓の上に並べられたパンやシチュー、花瓶に刺された花束を目の当たりにして茫然とし、状況への理解が遅れていた。

 

「あの、これは一体?」

 

「今日は芳佳とサーニャの誕生日でしょ。だから皆でパーティーしよって決めてたの。あ、日付変わっちゃったから昨日か。まぁ、どっちでもいいよね」

 

「まさか昨日今日で様子がおかしかったのって…」

 

「そう、サプライズのつもりで準備してたから宮藤とサーニャには知られたくなくてさ」

 

ルッキーニとシャーリーの説明でようやくこれまでの不自然な態度に答えを得たエイラ。

抱いていた全ての疑問が氷解したと同時に物言いたげな目を向ける。

 

「そういうことかよ…じゃあだったら私にもちゃんと言ってくれればよかっただろ。私だけ除け者みたいにして、私だって参加したかったのに」

 

「もちろんエイラさんにも協力して頂こうという案もありましたわ。けれどエイラさんがうっかりサーニャさんたちにバラシてしまいそうだとハルトマンさんの意見で」

 

「私が除け者になったのは…お前のせいかよ」

 

「人聞き悪いなぁ、そりゃ言い出したのは私だけどさペリーヌだって納得したじゃん。私だけ悪者扱いは違くない?」

 

「なんだツンツン眼鏡。お前も同罪じゃないかよ」

 

「うっ、確かに否定はしませんでしたけど…ですがそれだからと言って除け者にしようとかそのようなことは決して」

 

「はいはい、二人ともそのぐらいにして席に座りましょう」

 

手を叩いてミーナが場を鎮める。

その響いた音を機にリーネとソーマがキッチンから持ち出したケーキを机の上に置く。

 

「芳佳ちゃん、サーニャちゃんお誕生日おめでとう」

 

「うわぁケーキだ!これリーネちゃんが作ってくれたの?」

 

「ソーマさんに作り方を教えてもらったんだ。初めて作ったからちょっと自信ないけど」

 

「そんなことないよ絶対美味しいよ。ありがとうリーネちゃん」

 

「リトヴャク中尉には俺から、どうぞ召し上がれ」

 

「ありがとうございます。すごく嬉しいです」

 

ショートケーキとチョコレートケーキ。

宮藤とサーニャの反応に最上の喜びがこみ上げるリーネ。

ソーマも彼女と同等同種の思いを胸にしつつ、エイラへライターを差し向ける。

 

「ロウソクの火、付けるのお願いしていいかユーティライネン少尉」

 

「私でいいのか?」

 

「仕方なかったとはいえ嫌な思いさせちゃったからな。そのお詫びってわけじゃないけど」

 

「別に嫌な思いって程ではないけど…まぁ、サーニャのためにここまでしてくれたんだし許してやるよ。てかそれよりその呼び方いいよ。普通にユーティライネンとかエイラで」

 

「いいのか?呼んで」

 

「ハルトマンやシャーリーには階級付けないで呼んでるのに今更何言ってんだよ。サーニャだって階級付けて呼ばれるよりそっちのほうがいいって言うはずだぞ」

 

「そうか、じゃあ改めて。よろしくなエイラ」

 

「出遅れた分はきっちり巻き返してやるからな」

 

そう言ってライターを受け取るとエイラはケーキに手を伸ばす。

 

「よし宮藤、サーニャ、私が付けてやるからな。ちょっと待ってろよ」

 

「はい!」

 

「お願いエイラ」

 

ロウソクの火が灯ると、ミーナたちはサーニャと宮藤と取り囲むように立ち祝いの言葉を送る。

 

「では日は変わってしまったけど宮藤さん、サーニャさん」

 

「「ハッピーバースデー!誕生日おめでとう!」」

 

その祝福を合図に宮藤とサーニャはロウソクの火を息で吹き消す。

 

「私からも、誕生日おめでとうサーニャちゃん」

 

「ありがとう。芳佳ちゃんも誕生日おめでとう」

 

宮藤と微笑み合うサーニャ。家族にして友人のいつも以上に眩しい笑顔をエイラはこの先忘れることはないだろう。

 

 

 




書きたいことを書いた結果最長の9000字越えになってしまった。前回の3倍ほど…一話ごとの平均文字数が安定しない…
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