ストライクウィッチーズ~約束の空~   作:カメクリオ

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第十三輪 いつか叶える夢のハナシ

「いたいた。おーい、ソーマー」

 

廊下を歩いていると背後から名を呼ばれた。ソーマが前へと進めていた歩みを止めて振り返ってみればハルトマンが手を振りながら距離を縮めてくる。

 

「ハルトマン、どうした?」

 

「ソーマにお願いしたいことがあってね。さっきからずっと探してたんだ。今時間空いてる?」

 

「まぁ、特にやることとかはないけど…お願いってなんだ?」

 

「見てもらった方が早いかな。とりあえず私の部屋に来てよ、詳しい説明はそこでするからさ」

 

「あ、ああ…」

 

言われるままにハルトマンの後についていくソーマ。二人でハルトマンの部屋へと歩みを進めていると途中、ある人物を見てハルトマンがあっ、と小さく声を上げた。

 

「あら、お二人が一緒にいるなんて珍しいですわね」

 

正面からやって来たのはペリーヌ。彼女を発見したハルトマンは送られた言葉に答えた直後、先ほどソーマにしたのと同じように距離を縮める。

 

「ソーマに用があってね。そうだ、ここで出会ったのも何かの縁だしせっかくだからペリーヌも手伝ってよ。今時間ある?」

 

「これといって予定はありませんけど…?」

 

「じゃあいいよねー、一緒に来て」

 

「え!?ちょ、ちょっと!手を引っ張らないでくださいまし!」

 

ハルトマンはそう言ってそのまま自分の部屋へと進みだす。訝しむ間も、質問する間も与えられず手を引っ張られたペリーヌは困惑し、隣を歩くソーマに訊ねる。

 

「スペランツァ大尉、ハルトマン少尉は何をしたいのです!?」

 

「…俺にもよくわかんない」

 

「はぁ?」

 

帰ってきた答えにますます混乱が加速するペリーヌ。そんな戸惑いを払拭できぬうちに彼女を伴ったハルトマンは自分の部屋の前に到着していた。

 

「さ、入って入って。遠慮しなくていーから」

 

「遠慮しなくていいと言われましてもこ、これは…なんというか」

 

「おおぉ…すっごい部屋だな」

 

ペリーヌとソーマは絶句した。

二人の視線の先、そこにはまさしく別世界とも言える光景が広がっていた。

地面にはガラクタやゴミが散乱し、食べ終った後の食器や書物が山のように重なっている。足の踏み場もあるか怪しい。

唯一目を反らさずまともに見られるのはベッドくらいもの。

部屋の主には非常に失礼だがこういう状態の部屋を汚部屋というのであろう。

 

この惨状を目の当たりにしてストレートに汚いと言わないだけ、我ながらよくできた人間だとペリーヌなどは特には思った。

 

「ここのところ掃除するの忘れててさ。この通りすっかり溜め込んじゃって」

 

「忘れてたってレベルじゃないと思うが…俺たちにお願いってのはまさかこれを」

 

「そ、一緒に片付けて欲しいんだ。今朝トゥルーデに部屋の掃除をしろーって口煩く言われたんだけどこれを私一人でやるのは大変じゃない?だから二人に手伝ってもらおうかなって」

 

予想していたとはいえ望んでなかった答えをまんまと告げられた。

どうしてさっきハルトマンと遭遇してしまったのだろう。

自らの不幸を呪い、ペリーヌは重たい溜息を吐く。

 

「バルクホルン大尉も苦労しますわね…心中お察ししますわ」

 

ハルトマンが叱りつけられた光景が容易に目に浮かぶ。きっと同じカールスラント軍人として情けない、と言った非の打ち所がない正論が飛んでいただろう。

同じくその光景を思い浮かべたソーマは苦笑しつつハルトマンに問う。

 

「やるのはいいけどさ、手伝ってもらう相手になんで真っ先に俺を探してたんだ?手伝ってくれそうなのは他にもいただろ?」

 

「魔法でなんとかラクチンにしてくれないかなーって。ほら、ソーマ色々魔法使えるでしょ、お掃除が簡単に終わる魔法とかある?」

 

あー、と納得した声色でソーマは呟く。なんとも彼女らしい発想から部屋に招かれたものだと思いながらソーマは言葉を続ける。

 

「残念ながらないな」

 

「えー、ないのー」

 

「ない、というかあったとしてもこういうことには使わない」

 

「なんで?」

 

純粋にハルトマンが聞き返す。

 

「もし戦闘になった時に備えてできるだけ魔力は温存しておきたいからな。よっぽどのことでもない限り自分でできることには魔法を使わないようにしてるんだ」

 

「えー勿体ないの。便利なのに」

 

「尤もなご意見ですわね」

 

その言葉に落胆するハルトマンであったがすぐにケロッと明るい表情に切り替えて二人に告げる。

 

「でも手伝ってくれるだけ助かるよ。三人いればパパっと終わるし、それじゃあ、レッツくりーにんぐ」

 

すっかり三人でやる気満々のハルトマンは声高らかに拳を作った片腕を上げる。そんな彼女にとことん呆れ果てているペリーヌにソーマは謝罪を口にする。

 

「悪いな、クロステルマン中尉」

 

「ペリーヌで構いませんわ。別に大尉が謝ることではないことではないですし…はぁ、仕方ありませんわね。さっさと終わらせてしまいましょう」

 

渋々と言った様子でペリーヌは言う。その言葉に感謝しながらソーマは目前に広がる光景を見渡して呟く。

 

「と言っても、これじゃあ何から手を付けていいか悩むな」

 

「どこに何があるのかわかりませんものね。これでは」

 

「…とりあえず皿は戻そう。ペリーヌ、頼んでいいか?その間に俺とハルトマンで進めとくから。後ゴミを詰めるための袋を持ってきてほしい」

 

「ええ、わかりましたわ」

 

ペリーヌは食器を手に一旦その場を離れる。ソーマは地雷源を避けるかのように足元に気を配りながら、一足先にゴミの分別を始めているハルトマンの横に移動する。

 

「で、ハルトマン、まずどこから始めればいい?」

 

「そーだね、じゃあソーマはあっちをやってよ。私はこっち側からやっていくから」

 

「はいはい」

 

部屋の主並びに掃除の責任者の指示に従ってソーマはしゃがみ込んで改めて周りに目を配る。

 

「しかし色々あるなぁ…」

 

缶詰の空き缶、タオル、ちょっとしたバザーが開けそうなくらい種類が豊富な日用品が床に広がっている。仮に開いたところで売れ行きは見込めなさそうだが

よくもまぁ、ここまで溜め込んだものだとそんな感想を過ぎらせつつ目に付くものを手当たり次第に掻き分け、拾い上げては近場に分類ごとにまとめて置く。

 

「勲章まで床に…こりゃあバルクホルン大尉が怒るのも無理ないな。ひとまずこれは置いといて次は…っ!」

 

その作業をしばらく続ける内にソーマの目はある物に留まった。それを手に取り暫し逡巡した後、苦悩した表情を浮かべながらハルトマンに見せる。

 

「…なぁ」

 

「んー、なにー?」

 

「…これはどうすればいい」

 

それはズボンだった。この間サーニャがしていたのと同じ白色の…

 

「んーその辺に置いといてくれればいいよ」

 

仮にも異性に下着を見られたというのに顔色一つ変えずにハルトマンは言う。あまりにも堂々としたその態度に増々一人だけ恥ずかしくなったソーマは無言で畳んだズボンをベッドの上に置いた。

その時

 

「ただ今戻りましたわ」

 

「ご苦労様ペリー…ヌ」

 

「おっ帰りーペリーヌ。ありがとね」

 

ペリーヌの声が聞こえ、顔を上げたソーマは手に空き缶を持ったまま動きを止める。

しかしハルトマンはその反応に気付いておらず、背中を向けたまま礼を伝える。

 

「おい、ハルトマン…これはどういうことだ」

 

「…この声もしかして」

 

招いていないはずの人物の声が自分の名を呼んでいることに身体を震わせ、ハルトマンは恐る恐るといった素振りで振り返る。

嘘であってほしい、そう願っていたが残念ながらその願いは通じず…

 

「何故お前の部屋の掃除をペリーヌとソーマがしているのか、説明してもらおうか」

 

ペリーヌの横にいるのはバルクホルンだった。両腕を腰に当てて青筋を浮かべている彼女の姿を見て表情が引き攣る。

 

「あっれ…トゥルーデ、もしかして怒ってる?」

 

「当たり前だ!綺麗にしろとは言ったが何故自分でやろうとせず人に頼ろうとする!自分の部屋も始末くらい自分でやらんか!」

 

「だってその一人でやるよりその方が早く終わって効率もいいじゃん」

 

「効率云々の話をしているんじゃない!どうしてお前はそうなんだ…まったく、カールスラント軍人として情けない」

 

部屋に入ってハルトマンの目前に立つなり烈火の如く怒りの感情をぶつけるバルクホルン。お叱りを諸共せず、反論するハルトマンを余所にソーマは忍び足でペリーヌの横に移動し、声を潜めて訊ねる。

 

「言っちゃったんだ」

 

「食堂で食器を洗っているところを見られてしまいまして理由を問われたのでつい…ハルトマンさんには申し訳ないと思ったのですけど」

 

「うん、まぁ仕方ない。自業自得だ」

 

そう呟きながらソーマは視線をハルトマンとバルクホルンに戻す。説教はほとんど終息したようでバルクホルンが振り向いて言った。

 

「すまない、二人とも。とんだ迷惑をかけてしまった。後は私が面倒を見るから二人とも下がってくれていいぞ」

 

「そんな!酷いよ!トゥルーデと二人きりで掃除なんて私耐えられないよ!」

 

「酷いも何もあるか!」

 

ハルトマンが悲痛な声で叫ぶ。

 

「やっぱり俺残るよ。どうせ部屋に戻ってもやることないし」

 

「いいやダメだ。ここで甘やかしたらハルトマンのためにならん」

 

頑なに引かぬバルクホルン。彼女の主張は至極真っ当で、ソーマとしても痛いほどわかる…わかるのだが

 

「本人あんなになってるけど?」

 

「ん?ああっ!」

 

ソーマの指先を辿ってみればベッドの上でハルトマンが突っ伏していた。

だらりと手足を伸ばし切って、天井を仰いでいるその様は『私は完全にやる気をなくしました』と声のない主張をしているかのようだ。

 

「こら寝るな!起きろ、シャキッとせんか!」

 

「もーダメだ。なんもする気が起きないーさっきまではやる気満々だったのにー」

 

バルクホルンが必死に言葉でやる気を引き出そうとするが効果はない。

一を十や百にすることは簡単にできても、ゼロになってしまったものを上げるのは困難の業ということだろう。

 

わなわなと肩を震わせるバルクホルンにソーマはペリーヌと共に同情する。

 

「あれはもう何言ってもダメだと思うぞ」

 

「説得するだけ逆に時間を浪費してしまいますわ。私もお手伝いします。早々に終わらせてしまいましょう」

 

「二人とも、ありがとー!」

 

ソーマとペリーヌの言葉に感激するハルトマン。反省しているのかしていないのか相も変わらず読めないその声色にバルクホルンはガクリと肩を落とした。

 

 

 

「ふー疲れた!ありがとね三人とも、おかげですっかり部屋が綺麗に片付いたよ」

 

部屋の掃除を終えて四人は食堂で休息を取っていた。ペリーヌの煎れてくれたカモミールティーの味に達成感を満たしながらハルトマンは感謝を告げる。

 

「まったく調子のいい奴だ。二人の好意に感謝するんだな」

 

結局は手伝ってしまった自分の甘さを痛感しつつバルクホルンもまたカモミールティーの香りに心を休ませる。

 

「二度目はご免こうむりますけどね。ハルトマン少尉、バルクホルン大尉も仰っていたようにご自分の暮らす部屋なのですからきちんと清潔になさってください」

 

「大丈夫、大丈夫。皆に手伝わせちゃったしもうあんなことにはしないよ」

 

(しばらくしたらまたあの光景を見ることにそうだな…どのくらい持つかな)

 

ペリーヌからの苦言にそう宣言するハルトマン。しかし口ではそう言っているが、反省の伺えない笑顔で言っているところを見るに再犯の可能性が高いとソーマはそう確信した。

 

「しかし驚きましたわ。ハルトマン少尉の部屋で医療の本を見るなんて」

 

「医者を目指してるってのは聞いてたけど俺も意外だったなぁ」

 

掃除をしていた時部屋の中で唯一、最初から綺麗に片付いた部屋の本棚に並んでいた医学書を思い出してペリーヌとソーマは呟くように言う。

 

「なんか気になるなーその言い方」

 

「日頃のお前の振る舞いを考えればこういう物言いになるのも当然だと思うぞ」

 

「あ、やっぱり?だよねー」

 

腕を組んで言うバルクホルンに気分を害した素振りを微塵も見せず受け流すハルトマン。

 

「元々医者をやってた家族の影響っていうのもあるんだけどさ、たくさんの人を癒して助ける仕事がしたいんだ。それでいつか自分の病院も作るのが夢なんだ…まぁ、ネウロイをやっつけた後だから当分先の話になるだろうけどね」

 

「ご家族と同じ道を歩まれるなんて、きっとハルトマン少尉のご家族も嬉しいでしょうね」

 

「へへ、ありがと。ペリーヌのも聞かせてよ。ペリーヌは何かしたいことあるの?」

 

ペリーヌの言葉に嬉しさを感じたハルトマンが訊ねる。

 

「もちろんありますわ。ガリアを解放して、国と家を建て直すことです」

 

「家って、前から思ってたけどペリーヌは貴族なのか?」

 

「そうですわよ。といってもここでその立場を使う気もありませんし、今はあまりその立場に意味もありませんけどね」

 

「ガリアは今ネウロイの支配下にあるからな」

 

バルクホルンの言う通りペリーヌの故郷ガリアはネウロイに占領されてしまった。その故郷はここブリタニアは目と鼻の先

つまりロマーニャ、カールスラントを故郷に持つこの場にいる隊員の中ではブリタニアのネウロイを殲滅させることで最も恩恵を受けるのはガリアのペリーヌだ。

だからこそペリーヌはここブリタニアでの戦いにかける思いは人一倍強かった。

 

「ガリアがネウロイに占領された時お父様とお母さまは亡くなりました…ですが家族が私に残してくれたものはまだたくさんあります。お二人の愛したガリアの国と民を守るために、なんとしても一日でも早くガリアを取り戻さなければいけないんです」

 

表情に陰りを作りながらも確固たる意志を口にするペリーヌ。そんな彼女にバルクホルンは助言を送った。

 

「私とハルトマンも故郷をネウロイに奪われた身。その気持ちはわかる。だがしかし決して焦って自分を蔑ろにするようなことだけはするなよ。

なにをするにおいてもまず自分の命があってこそだからな」

 

「言ってることは正しいんだけどさぁそれトゥルーデが言えたことかなぁ」

 

「なんだと?もう一回言ってみろハルトマン」

 

「ついこの間まで無茶苦茶な戦い方してたじゃん。見てて危なっかしかったんだから」

 

「確かにあの時はお前にも宮藤にも多くの者に迷惑をかけた。それは非として認めるが…しかしだな」

 

記憶に新しい出来事を蒸し返されてバルクホルンはその時のことを恥じつつ、応戦する。

あまりヒートアップしないだろうかと心配になりながらも見守っていたペリーヌが横に視線を移動させるとソーマが沈んだ顔をして己を見つめていたのに気付く。

 

「どうかされまして?」

 

「あ…いや、なんでもないんだ。ごめん」

 

ソーマはそう言って顔を背けるが、その顔は変わらず。なんでもないと思っている人間が向けてくる表情ではない。

 

「もしかしてさっきの私の話を聞いてそのような顔をなさっております?」

 

どうやら当たりだったようだ。目に動揺が走った彼の反応からそう確信したペリーヌは言葉を続ける。

 

「貴方がどう思っているか想像はつきますけど心配には及びませんわ。家族を失った心の傷が今もないと言えば嘘になります。けれどいつまでもくよくよしていられません…二人の死を背負ってこれからのクロステルマン家、そしてガリアを支え守っていかなければなりませんから」

 

「ペリーヌ…」

 

毅然とした貴族然とした声でペリーヌはそう告げる。

するとバルクホルンもハルトマンとの口戦に区切りを付けて彼女を激励する。

 

「そうだな、それを単なる夢で終わらせないようにするためにもまずは今できることを全力でするしかない。日々の訓練を欠かさぬようにするんだぞクロステルマン中尉」

 

「もちろんですわ」

 

「お前もだぞ、ハルトマン」

 

「はいはーい、わかってますよ~」

 

間の抜けた声で返事をするハルトマン。本当にわかっているのかと再度問いつめようとする相方のスズメバチの針のように鋭くキツイ視線を肌で感じつつ、彼女は机の上に組んだ両腕の上に顎を乗せてソーマに問いかける。

 

「ねぇ、ソーマのも教えてよ」

 

「俺の?」

 

「私とペリーヌが話したんだから次はソーマの番じゃない?トゥルーデは大体わかるし、ソーマはもしネウロイとの戦いが終わった後のやりたいこととか夢とかあるの?」

 

「いや、俺のはいいだろ…」

 

その問いかけにソーマは突き返そうとするが

 

「そんなことないよ。皆知りたいよね?」

 

「そうですわね。私も気になりますわ」

 

それでハルトマンは引くことはなく追及を重ね、ペリーヌも興味があるようで加担してくる。

 

「特に、ないよ」

 

「何もないなんてそんなはずないでしょう?恥ずかしがることはありませんのよ?」

 

「本当にないの?やりたいこと。家族に会いたいとかさ」

 

瞬間、表情が変わった。そのやり取りを静観していたバルクホルンの双眸はその時をしかと捉えていた。

 

「ああ、そうだな。久々に家族のところに顔を出すのもいいかもな」

 

「ほら、やっぱりあるんじゃん。じゃあさ家族と会って何したい?」

 

「色々あるけどまずはただいまって言いたいな。それからケーキ作って食べながらゆっくり皆のことを話そうかな…まぁとりあえず今日のことは絶対言うだろうな。撃墜数二百を越える記録を持つカールスラントのウルトラエースの私生活はやたらと汚くてだらしないって」

 

「えーやめてよ。恥ずかしいよ」

 

言葉の割にまるで恥ずかしいとは思っていない平然とした表情のハルトマン。そんな彼女へペリーヌも追撃を加える。

 

「なら尚の事これから部屋を清潔に保った方がよろしいんじゃありません?」

 

「そういうことだな。今回は目を瞑るけど次やったら…そうなるかもな」

 

「もう、二人して意地悪だなぁ」

 

ハルトマンがそう言うと三人の間に笑いが生まれた。

 

 

「待てソーマ」

 

ソーマが食堂を離れて自室に戻ろうとすると今度はバルクホルンに引き留められる。

声に反応して振り向いたタイミングで彼女は口を開いた。

 

「さっきのお前の言葉について聞きたいことがある」

 

「さっきのって?」

 

「お前の夢の、家族の話だ。あれは本当の話か」

 

「疑ってるわけ?」

 

「あの話になってからお前の言葉は歯切れが悪かった。何か嘘をついてるんじゃないか」

 

突き刺し、探るようなバルクホルンの視線。

見返すソーマは沈む夕日の暁の光に頬を照らし、その顔に微笑みを作りながら踏み出すと

 

「嘘なんてついてない。全部本当の話さ―まだ信じられないってんなら」

 

「なっ!?」

 

言いながらソーマは突然距離を詰め、バルクホルンの肩に腕を回して引き寄せると

 

「大尉の疑いが解けるまでこれから二人で話し合うか。俺の部屋で朝まで」

 

彼女の耳元で囁くように言う。

想定していなかったアクションに虚を突かれた彼女であったが、やがて何をされたのか理解すると夕日よりも濃い赤色で顔を染めながら腕を払って、大声を張り上げる。

 

「バ、バカなことを抜かすな!誰がそんな規律に反するような真似を!」

 

「はは、だよな、わかってる。悪かった」

 

軽く微笑んで立ち去っていくソーマに静止の声を上げるがその背中は遠ざかっていく。

バルクホルンは彼の態度に盛大に深い溜息を吐いた後、自分の部屋へと戻っていった。

さっきまで抱いていた疑問などすっかり忘れて

 

 

 

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