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「ここは…」
黒、黒、黒。右も左も上も下も黒一色に包み込まれた景色が俺の前に広がっていた。
あの人型ネウロイは、坂本少佐や宮藤たちはどうなったのか、様々な疑問が頭の中を駆け巡ったが、いの一番に口を突いて出たのはここはどこなのかということだった。
『愚かな奴だ。他人のために自らの身を盾にするとは』
突然聞こえてきた声。その声の持ち主を求めて俺はまた視線を辺りに動かすがやはり黒一面の世界があるだけで自分以外の人間の姿は見えない。
「誰だ!?どこにいる!?」
『何故あんな真似をした。仲間のために自ら死にに行くような真似をするなど馬鹿げているとは思わんか』
声は俺の問いかけを無視して逆に問いかけを投げかけてきた。
それに不満を感じたが、ここまでの会話で…いや会話とも言えるかどうかわからないやり取りの中でわかったことがある。
あっちは俺を知っていてさっきの少佐を庇った時の行動も把握しているということだ。
だがそれがわかったところで相手の素性は一向に推測すらできない。こちらからの問いは返ってこないものと認識しつつ、俺は口を開いた。
「俺が自分で望んでやったんだ。馬鹿げてるなんてこれっぽちも思っちゃいないさ。それに皆の悲しむ顔は見たくなかったからな」
得体の知れない相手に言った言葉だが嘘は一切含んでいない。
あそこで俺がエクスチェンジの魔法を使わなかったら坂本少佐はネウロイの攻撃を受けて負傷していた可能性が高かった。そうなったらミーナ中佐やペリーヌ、坂本少佐を慕う501部隊の仲間たちは酷く傷ついたはずだ。
だから俺はあの行動を取った。
そのことを後悔してはいない。
『自分の取った行動に間違いはない…そんな自信に満ちた顔をしているな。本当にそうと思えるか?』
「何だと?」
なんなんださっきからこいつの口ぶりは。まるで俺のことを全部理解しているかのような言い方をしてくる。
『まぁいい。お前の行動にいちいち口出しするのも面倒だ。だが一つ、忠告しておこう。お前の善意が必ずしも善意を注いだ相手を救うとは限らない』
「待て、どういう意味だ!おい!」
姿が見えないせいで遠ざかっているのかわからないが段々と薄れていく声に俺は叫ぶ。
聞きたいことが山ほどあるし、それに一方的に好き勝手言われたままでは終われない。
なんとか相手の気を引いて留まらせようと俺は声を張り上げる。そんな俺に相手が寄越してきたのは
「うああっ!!」
赤き炎と緑の強風の洗礼だった。不思議と痛みも熱も感じないが身にかかる圧は凄まじかった。
「くそ、こんなもんに負けるか…!」
腕を交差させ、足腰に力を入れて踏ん張るものの、炎と風の勢いは衰えるどころか更に勢いを増していき、とうとう
俺の足が浮かんだ。
「うわあああああ!!」
『今回のような無茶は二度としてくれるなよ。お前がどうなろうと知ったことではないが、俺が消えるのはご免だからな』
炎と風が混ざり合った竜巻に身を飲み込まれる。
世界から弾き出される最後の瞬間、俺の耳が捉えたのはそんな言葉と…荒々しく力強い竜にも似た何かの咆哮だった。
★
(どこだここ…)
重たい眼を開いたソーマが真っ先に見たのは天井だった。
自分のいる場所の手がかりを求めようと視線を切り替えようとしたちょうどその時ドアが開く音がした。
「目が覚めたのね。よかったわ」
ドアから入って来たのはミーナだった。
「そのままでいいわ。まだ体の調子が悪いでしょう」
体を起こそうとしたソーマを諫めてミーナはベッドの横に椅子を用意し、それに腰を下ろす。
「ここは?基地の中か?」
「基地の医務室よ。貴方はネウロイの攻撃を受けて意識を失っていたの」
眠りから覚めて思考が機能し始めると共に、徐々にソーマは状況を把握してきた。そして思い出す。
坂本を庇って自分はネウロイの攻撃をまともにくらったことを。
「ネウロイはどうなった?」
「逃げられたわ。目を離したのはほんの僅かな間だったみたいだけどその隙に」
「そっか…」
逃げられたと聞いても嫌な顔一つせずソーマは天上を仰ぐ。
暫しの静寂
「確かに貴方に私は頼んだわ」
その後にミーナが口を開いた。
「でもだからと言ってこんな結果は望んでなかった。私にとって501の全員が等しく大事な存在なの。誰か一人が助かっても他の誰かが傷ついて、それでいいなんて私は思わない…」
ソーマは視線を動かしてミーナの瞳に合わせた。
ミーナは真っ直ぐソーマを見つめ返す。
「約束して。次はもうこんなことしないって」
「ごめん…次は気を付けるよ」
ソーマはミーナから視線を切ると視界の端に煌めきが映り込む。不思議に思ってその方向に目を向けるとタンスの上に置いてある指輪だった。
その視線の動きを追ったミーナは彼に説明する。
「ネウロイの攻撃を受けて飛び散ったのをエーリカ、ハルトマン少尉が回収してくれたのよ」
「そうか、後でハルトマンに礼を言わなきゃな」
視線の方向に気付いたミーナからの説明を聞きながらソーマはぼんやりと指輪を眺める。フレイム・ランド・ハリケーン…石の輝きから置かれている指輪の種類を把握した時ソーマは目を見開いた。
「…ない」
「どうしたの?」
「ウォーターの指輪!」
ソーマは勢いよく起き上がり、タンスに歩み寄る。ベッドからタンスまでの数歩の間にも痛みが襲いかかるが、突然のことにミーナが立ち上がって目を丸くするが、それすらも些細に思える程の問題に気付いてしまった。
「ウォーターの指輪だけがない。ハルトマンが置き忘れたのか?」
「それはないと思うわ。いくらエーリカでも貴方の戦いに必要な道具を置き忘れるなんてことはしないはずだわ」
「だったらなんで…まさか!」
そこまで言葉にした時ソーマはある可能性に行き着く。
「ネウロイに奪われたのか!」
「どういうこと?」
「さっき僅かな間しか目を離してなかったのに逃げられたって言っただろ。ウォーターの指輪がもしあの人型ネウロイの手に渡ったのだとしたら、ネウロイは海に潜って逃げたのかもしれない」
「そんな、ネウロイは水が苦手なはずよ。水中を移動できるなんてこと…」
「わからない。けどない話とは言えない」
ネウロイは水を不得意とする生態とされているが、あくまでも過去の進行から基づく推察であり絶対であるという確証はない。
もしその生態が真実だったとしてもウォーターの指輪の力を使うことでネウロイが水という欠点を克服できたとしたら…
「待ちなさい!どこへ行くの!」
壁に立てかけていたジャケットを取って医務室を出ようとするソーマをミーナが諫める。
「指輪を見つける。すぐにでも危険を取り除かないと」
「その体じゃ無理よ。いくら宮藤さんの魔法で治療したと言ってもまだ意識が戻ったばかりでしょう。ここから出ることは認められないわ」
「でももし海中から攻め込まれでもしたら…!」
陸戦・空戦に長けたウィッチは数多く入れど水中戦を得意とするウィッチは世界広しといえども存在しないだろう。
少なくともこのブリタニア基地に駐在している現状のウィッチには水中戦に対応できる人材はいない。
ソーマの言葉通り、本当に水の中からネウロイに襲撃されようものなら遅れを取ることになるのは明白だ。
ジャケットに腕を通し、指輪を取りドアに向かおうとするソーマ。
そんなソーマの進路を塞ぐようにミーナはドアの前に回り込んだ。
「スペランツァ大尉、対応策は私たちで考えるわ。貴方は今は身体を休めることに集中して」
「それは命令か?」
「素直に聞いてくれるならどう取ってくれても構わないわ。でも私はお願いとして言ってるつもりよ…」
交り合う二人の視線。お互いがお互いの考えを探るように見つめ合った後
「わかった。大人しくしてるよ」
ソーマは観念したように目を伏せ、ベッドに腰かける。
「何かあった時には私か他の誰かが呼びに来るわ。だからそれまでは休んでて」
そう言ってミーナはドアノブに手をかけ、医務室を去った。
静かに音を立ててドアが閉まる。
★
医務室を出たミーナが歩いていると反対側から坂本がやって来た。
「美緒…」
「話したのか?あいつに私のことを」
目を合わせるなり坂本が切り出した。対してミーナは口を閉ざしている。
予想していなかったからなのか、予想していたからこそなのか…どちらにしても今の坂本が言いたいことに変わりはなかった。
「私の代わりに奴が犠牲になると見越してか」
「違うわ!そんなこと私は考えてなんか」
「お前はそうだとしてもあいつが考えるとは思わなかったのか!」
「っ!」
「お前も知っていたはずだ。あいつが他人を助けるために自分の身を投げ出すことを厭わない奴だと。その危うさを。どうして気付けなかった」
その言葉にミーナは大きく目を見開いた。
心のどこかで期待していたのかもしれない。
ソーマが以前にもバルクホルンとペリーヌをネウロイの攻撃から庇ったように今度も坂本を守ってくれると。
それはミーナも場にいてそれを見ていた。
だから仲間を守るために自分を犠牲にする判断をソーマがすると至らなかったミーナに坂本はやるせない思いを感じていた。
「すまない…私が言えることではなかったな。少し風に当たってくる」
ミーナが次の言葉を発する前に坂本は背を向けて去っていく。
一人残されたミーナ。彼女は坂本のいた場所を見つめたまま立ち尽くしていた。
★
(私のせいだ…私があの時ネウロイを撃たなかったせいでソーマさんが)
宮藤は自らに対して嫌悪と言っていい感情を抱いていた。
緊急着陸した砂浜と基地の医療室で宮藤は必死にソーマの手当をした。
魔法力と体力、精神が持つ限界まで。いや限界を越えても治療を続けた。
その宮藤の頑張りの甲斐もあってかソーマの傷は回復し、一命も取り止めた。
だがそのことに安堵する間もなく宮藤はミーナと坂本に執務室に呼び出され、独断行動の責任として自室で謹慎を命じられた。
一人ソファに座って悩む宮藤。彼女を
「ひゃう!?」
ひんやりとした冷たい感触が頬を襲い、宮藤はつい間の抜けた声を出してしまう。
「へっへー、どうだ。少しは落ち着いたろ」
「エイラさん、サーニャちゃん」
思考を中断させて振り向くと水の入ったグラスを持ったエイラと心配そうな眼差しで宮藤を見るサーニャがいた。
「ほら、今日ずっと魔法使って疲れてるだろ。飲めよ」
「あ、ありがとうございます。エイラさん」
差し出されたグラスを受け取る宮藤。
エイラとサーニャは彼女を挟むように左右分かれて座る。
「大丈夫?芳佳ちゃん?」
「うん。私は平気。だけど…ソーマさんは。私のせいで。私があの時ネウロイを撃たなかったから」
「芳佳ちゃん、自分を責めないで」
「そりゃ宮藤が気にするのは無理ないけどさ、ソーマは助かったわけだしそこまで落ち込むことないって。ソーマだってたぶん気にするなって言うと思うぞ」
後悔に苛まれる宮藤へサーニャとエイラは元気づけようとする。
だが宮藤の表情が晴れることはなかった。
(こりゃ思った以上に重症だナ)
ソーマが負傷した経緯をエイラは現場を見ていた他の隊員から聞いて知っていた。
ソーマが人型ネウロイの攻撃から坂本を庇って負傷したことも、その人型ネウロイを宮藤が撃たなかったことも
だから宮藤が責任を感じるのも無理はないと思う。しかしいつまでも暗い顔をする宮藤でいて欲しくないとも思った。
宮藤がこんな調子では背中が痒いし何よりサーニャまでもが暗い顔をしてしまう。
「そんなに気になるなら直接本人に聞いてみたらどうだ?」
「えっ?」
「さっきミーナ中佐が医務室の方から出てくるのを見たからきっともう意識が戻ってるはずだ。ソーマに謝って宮藤が今抱えてるモヤモヤを取っちまえよ」
「私もそうした方がいいと思う。その方が芳佳ちゃんとソーマさん、お互いのためにもなるよ」
「そうだね。私行ってくるよ。ありがとう、サーニャちゃん、エイラさん」
二人に感謝を告げて宮藤はその場を後にする。思い立ったら即行動、彼女らしさを感じさせる後ろ姿をエイラとサーニャは見送った。
「芳佳ちゃん、ちょっとだけいつもの芳佳ちゃんに戻ったね」
「やっぱ宮藤はああいう感じじゃないとな。じゃないとこっちまで調子が狂っちまうよ。全く手間のかかる奴だナー」
やれやれと言った感じで立ち上がり、ぼやくエイラ。そんな彼女を見上げてサーニャはクスリと笑みを溢した。
「なんだよサーニャ」
「芳佳ちゃんを元気づけようって最初に言い出したのエイラだから」
「べ、別にあいつのためなんかじゃ…宮藤が元気ないとサーニャが悲しむかなってだけで別にあいつのことなんてなんとも、いやなんともってわけでもないけど…」
恥じることでもないのに必死になって誤魔化そうとするエイラ。素直になれない仲間思いな彼女の姿にサーニャの表情にまた笑みが生まれた。
ユナフロ楽しい…魔眼でコアを発見してリーネちゃんで撃ちまくる作業が原作再現感あってすごく楽しい。
なお★3は一人だけの模様。悲しいなぁ