ストライクウィッチーズ~約束の空~   作:カメクリオ

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第二十一輪 さまよいのFriendShip

「ソーマ、さん?」

 

メイジと兵士たちの合間を通ってマロニーの横に並ぶソーマ。自分たちが拘束され、銃を向けている状況に顔色一つ変えず、当たり前のようにマロニーの側に立った彼を宮藤たちは信じられないような目で見る。

 

「ああ、紹介しよう、彼はメイジ部隊の隊長を務めるソーマ・スペランツァ大尉。私の忠実な片腕だ」

 

宮藤たちの驚く顔を待ち望んでいたかのように思える笑みを浮かべてマロニーは言う。

 

「嘘ですよねソーマさん…そんなの。だって私に言ってくれたじゃないですか。自分を信じろって」

 

でたらめに決まってる。つい先日だって坂本を身を挺して守って、落ち込んで悩む自分にも寄り添って温かい言葉を送ってくれた。

なのに裏切るなんてありえない。そう自分に言い聞かせ問いかける宮藤だが、ソーマは無言で眺めているばかり。

マロニーの言葉への否定も、宮藤の言葉への肯定もない。

 

「なんで黙ってるんですか…?何か言ってください…本当に、本当に裏切ったんですか!」

 

「本当だよ」

 

愕然とする宮藤。彼女だけでないリーネもペリーヌもサーニャも、彼を信じていたほとんどの者がショックを受けた。

 

「おいおい、そんな顔するなよ。こう見えて俺だって心苦しいんだ」

 

そんな彼女たち一人一人の顔を見渡しておどけるようにわざとらしく手を上げて言うソーマ。たった数時間顔を合わせなかっただけなのにまるで別人のように思える変貌を遂げた彼にエイラは思いの丈をぶつける。

 

「なんだよそれ、嘘だったってことかよ。今までのこと全部…サーニャと宮藤の誕生日を祝ってくれたじゃないか!あれも芝居で本心じゃなかったってことなのかよ!」

 

「嘘、か…別に嘘ってわけでもないさ。その時にしても純粋に祝いたい気持ちでの行為だったし、仲間のために悩んで励まし合って頑張るお前たちを見て『ああ、こんないい奴らをこれから裏切るのか』って胸が痛むこともあったよ…ただお前たちよりもこっちを優先した。それだけの話だ…ああ、それと一つ言っておくと裏切りって言い方は少し適切じゃあない。ここに来る前から俺はこっち側の人間だし、お前たちを本気で仲間だなんて思ったことは一度もない」

 

語る内容に反して罪悪感を感じているとは思えない程清々しい顔。何もかも愚弄するソーマの態度に感情を爆発させかけている者がいた。

 

「ふざけるな…」

 

誰かがそう呟いた。同時にミシミシ、と鎖が軋む音が聞こえ、そちらを見ると魔法力を発動させたバルクホルンが鎖を裂こうとしていた。

 

「ふざけるなぁ!!」

 

「バルクホルンさん!」

 

「バルクホルン!?」

 

「おおぉ…」

 

怒号と共に鎖は弾け飛び、バルクホルンは戒めを脱する。

魔法で強化されているとはいえ鎖を腕力で破壊したことにマロニー側の人間だけでなく宮藤たちも驚き、兵士たちは狼狽えながらバルクホルンに銃口を集中させる。

だがバルクホルンの目は自分に向けられている銃口にはまるで目もくれずただ一点を、ソーマだけを見ている。

 

「そんなに気にくわないなら確かめてみるか。ウィッチであるお前とウィザードである俺、どっちが人類のためになるか。今ここで」

 

「望むところだ」

 

『ドライバーオン、プリーズ』

 

闘志をたぎらせた瞳で睨むバルクホルンの前に立ちソーマはウィザードライバーを出現させる。

これから一戦交えよう、二人の間にはその意志が視線で飛び交っていた。

 

「馬鹿馬鹿しい。隊長、そのようなお遊びは程々に-」

 

「いいだろう、やりたまえ」

 

「マロニー大将!?」

 

二人で勝手に決めるな、と言わんばかりに副隊長格のメイジが口を挟むが意外にもマロニーは容認した。

 

「今日まで君たちがガリアの奪還のために尽力してきたのも事実、このまま無下にするのも私としても心証が悪い。バルクホルン大尉とスペランツァ大尉による実戦形式の模擬戦を行い、その結果で決めようじゃないか。バルクホルン大尉が勝てばこの話は白紙、501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズは現任務を続行し我々は退散する。しかしスペランツァ大尉が勝てば大人しく我々の命令に従ってもらう。それでいいかね」

 

「構いません」

 

「俺もいいですよ。どの道結果は変わりませんし」

 

自分の勝ちだと暗に言っているソーマの言葉にバルクホルンは内なる憤りを強める。

もし身体にダメージを与える力がこもっていたら穴が空いてそうな程の力強い視線をバルクホルンから感じるソーマだが、それを受けてもやはりその顔は涼しい顔のままだった。

 

 

 

MG42を二丁持ったバルクホルンとウィザーソードガンを持ったウィザードハリケーンスタイル。

模擬戦の準備を終えた二人は滑走路から数キロ離れた空の上で睨みを聞かせていた。

 

「改めて確認するが本気なのか?」

 

「いつだって俺は本気のつもりさ。信じられないかもしれないけど」

 

「…」

 

マロニーたちに声の届かない空なら本当のことを話してくれるとバルクホルンは考えていた。

何かしらの事情があって彼らを欺くために芝居を打っているのだと。

けれども答えは変わらなかった。

 

「見損なったぞ。いつもいい加減なことを言ってはいるが、平和を望む心は仲間を思いやる気持ちだけは本物だと信じていた…尊敬していたんだ私は。なのに、なのにお前は!」

 

初めはお気楽な奴だと思っていた。だが窮地を助けられ、近くで彼の行動を見て人柄に触れていく中で理解できていたような気がした。ハルトマンやシャーリーのように楽観的な言動は目立つものの、戦いや仲間に関する思いは自分とお同じ、いや自分以上の持ち主であると。

だがどうやら自分の目が節穴だったようだ。その評価は見当違いだったのだ。

 

 

無言で宙に佇む両者。滑走路から開戦を知らせる空砲が鳴った。

 

『チョーイイネ、シューティングストライク!サイコー!』

 

「っ!」

 

と同時に動いたのはウィザード。銃身を引き起こし、バルクホルンに向けて風の弾丸を放つ。

バルクホルンは上昇して回避。ウィザードもその後を追いかけるべく風の力で舞い上がる。

 

「いきなりか!」

 

バルクホルンは反転して引き金を引き、迎撃する。

ウィザードは弾幕を回避しながらウィザーソードガンで撃ち返す。

 

 

変身を解いたメイジの一人、副隊長を務めるリベリオン軍人のエリック・ラングウェイは遠く離れた戦いの様子を見ながらマロニーに問うた。

 

「よろしかったのですか?あのような勝手を認めてしまって」

 

「構わんよ、魔法使いの優位性を証明する絶好の機会。ましてやカールスラントが誇るエースが相手となれば世間にこの上ない宣伝となるからね」

 

難色を顔に示すエリックと違ってマロニーからすればむしろこの展開を好意的に受け取っていた。

それはエリックに言った言葉もだが、マロニーはウィザードの勝利に確固たる自信を持っているためでもある。

 

「いっけー!そこだ!やっちゃえバルクホルンー!」

 

ウィザードの攻撃を回避していくバルクホルンにルッキーニの声援が飛び、同じく二人の戦いを見守っていたミーナたちは困惑を抱えていた。

 

「中佐、中佐はこの勝負どう見る?」

 

「総合的に考えるとバルクホルン大尉が勝つ要因の方が多い。でもまだどう転ぶかわからないわ。相手が相手だもの」

 

「…だよな」

 

シャーリーからの質問にミーナはそう意見を述べた。

今現在ウィザードは動き回り、指輪を使う暇を与えようとしないバルクホルンに翻弄されているように見えた。

経験・技量・思考、バルクホルンが数多くの実戦で培ってきたもの全てを活用すればウィザードが劣勢に追い込まれてしまうのはある意味当然の結果だ。

だが油断はできない。ネウロイと違って相手は文字通り手を変え品を変え、戦局に対応する魔法使い。

最後の最後まで何があるかわからない。

 

「そういえば坂本少佐…」

 

戦いから目を反らしたペリーヌは自分たちの側にもマロニー側にも敬愛する上官の姿がないことに気付く。

一体どこに消えたのか、辺りを見渡して探すもその姿は影も形もなかった。

 

(さぁ、ここからどうでる)

 

四方から迫る風の鎖を巧みな機動でかわし、射撃を行いながらバルクホルンもミーナと同じことを考えていた。

自分が上回っている面が多いのは彼女もわかっている。だがウィザードには多彩な魔法という他の誰にもない持ち味がある。それを発揮されてしまえば、形勢があっという間に逆転してしまう恐れは充分にありうる。

 

だからこそバルクホルンはウィザードからなるべく離れず、指輪を使う隙を与えぬよう攻撃の手を緩めないような戦い方に徹していた。

 

「嫌な戦い方するな…さすが、見事なまでに俺の弱点をわかってる」

 

そのバルクホルンの狙いにウィザードも気付いていた。

距離を取ろうとしても追いかけてくるし、射撃や魔法で怯ませようにも彼女は回避と同じ動作でこちらに接近、牽制してくる。そのせいでホルダーを見て適切な指輪を取る余裕もない。

 

そしてウィザーソードガンを持つ手を狙撃され、たたでさえ少ない攻撃オプションを手放してしまう。

 

「ってぇ!…大口叩かない方がよかったかなこれは」

 

不利な状況の中でウィザードが軽口を叩く。

彼の目には接近するバルクホルン。彼女は両腕に持った武器を放り投げ、拳を作ると

 

「目を覚ませぇ!!」

 

「っ!!!」

 

魔法力を込めた渾身のストレートが緑色に輝く横っ面に叩き込まれる。

 

「なんだと!?」

 

「殴ったぁ!?」

 

「マジかよ…」

 

武器を捨て、素手で殴りかかった。これには滑走路で眺めていた者たちの敵味方の隔てなくどよめきが走った。

肝心の殴られたウィザードは右手で伸びきったバルクホルンの腕を掴み、自身の腕と腰の間に挟み込んで捕獲する。

 

「しまった!」

 

頭に血が昇っていたせいで己の失態に気付くバルクホルンだがこの時にはもう遅い。

空いたもう片方の手でホルダーから抜き取った該当の指輪を強引にバルクホルンの指にはめると、彼女の手をベルトにかざした。

 

『スリーブ、プリーズ!』

 

「うっあ…!」

 

魔法が発動して間もなく、強烈な睡魔に襲われるバルクホルン。

だが卓越した精神力故か、彼女は魔法の効力に抗っていた。

 

「まだだ、ここで私が負けるわけには…いかな…」

 

耐えていたバルクホルンだったが目を閉じて項垂れる。

力を失くしたその体を落ちないようにウィザードが抱留めた。

 

「…ごめんな」

 

逞しき眠り姫の目尻にたまった涙にウィザードはそう謝罪した。

瞬間、勝敗は決した。

 

 

「これで勝敗は決定したね」

 

「ずるいよあんなの!卑怯じゃん!」

 

「そうです、やり直しを要求しますわ!」

 

冷や汗をかいた気分になりながらも勝利を宣言するマロニーだが、その横からハルトマンとペリーヌが猛烈な異議を唱える。

無理もない、とても真っ当な決着の付き方ではないとマロニーですら思っていたのだから。

 

「一方が戦えなくなった時点で勝敗となる。その条件をバルクホルン大尉自身が飲んだ。これは正当な結果だよ」

 

だがマロニーにとって大事なのは結果だ。ウィザードがバルクホルン大尉を戦闘不能にしたという事実さえ確実ならば勝ち方など取るに足らない問題。

 

「さぁ、ウィッチーズの諸君。ただちに準備をし、ここを去りたまえ。君たちの役目はもう終わったのだ」

 

醜悪、少なくとも宮藤たちウィッチにはそう見える笑いを浮かべてマロニーが宣告する。

 

そこに意識を失ったバルクホルンをお姫様抱っこで抱えたウィザードが帰還。

着地と同時に変身を解除すると、そっぽを向き口の中から何かを吐き出す。

 

滑走路に転がる赤い色の付着した歯。それを見るソーマの頬は赤く張れ、唇には血が滲んでいた。

 

 

 

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