もし読みづらかったら申し訳ありません!
完全にマロニーの手に落ちたブリタニア基地。海の上ではメイジたちが訓練に励んでいた。
ウィッチで言うところのストライカーの役割を担う魔法の箒ライドスクレイパーを操縦しながら海上に設置した的を箒を操縦しながら光の矢で狙い撃つ、という内容なのだが
『アロー!ナウ!』
「あっ!」
「どこを見ている!動かない的に満足に当てられないようでは実戦で使い物にならんぞ!」
「すみません!」
大多数が順調に成功していく中で一人のメイジが的から大きく矢を外す。
そのメイジに訓練を見守っていたエリックの怒号が飛ぶ。
同時刻の執務室のソファにソーマは座っていた。
頬に湿布を張る彼に声をかけるのはミーナ…ではなく、かつて彼女の座っていた立場と椅子を奪い取ったマロニーである。
「君の勝ちを信じていたとはいえ少々ヒヤリとしたよ。手酷くやられたね」
「まぁ、大した怪我じゃないんで」
言いながらバルクホルンに殴られた頬にソーマは触れる。
まだ痛みが残っているのか、それとも消えていたのがマロニーによって蒸し返されたせいで痛みがぶり返したのか顔をしかめる。
「これでようやく私の目的が達成される。あのような小娘たちの力などなくてもネウロイどもを一網打尽にできることをウォーロックとメイジで証明するのだ」
「作戦は大丈夫ですかね。俺も加わった方が」
「ネウロイの巣の一つや二つ、ウォーロックと彼らで充分さ。それにここで結果を出してウォーロックとメイジの量産にこぎつける必要もある」
-よっぽど自信がおありのようだ。
マロニーの言葉を聞いてソーマは思った。
彼は元よりウィッチという存在とそれに頼らざる得ない現状に苛立ちと危機感を抱いていた。
だからこそウィッチに頼らず、ウィッチに変わる新たな力としてウォーロックとメイジの導入に躍起になっているのだ。
その偉大なる一歩として今回の巣の撃破はまさにアピールに打ってつけの機会といえよう。
「ああ、そうだ。君に贈り物があるんだ」
マロニーは足元に置いた黒いケースを机に置く。そのロックを外してソーマが開けると中には三つの指輪が入っていた。
「新しい指輪ですか」
一つはゴリラのような巨人の紋様の紫色をした指輪。もう一つは息を吐いているドラゴンの絵の指輪。
そして最後の一つは緑色の指輪。ハリケーンウィザードリングに似ているが細部に違いがある。
「ありがとうございます。マロニー大将」
「礼はいい。私からのプレゼントではないからな」
最後の指輪に目を奪われつつもソーマはスーツケースの指輪を全てポケットにしまう。
マロニーにとってはどの指輪が何の効力を秘めているのかわからない。というより興味はないが、自身の配下であるウィザードの戦力がアップするのは間違いないと踏んでいたため、さして指輪については言及せず別の話に切り替える。
というよりも彼にとってはこちらの方が重要だ。
「ところでウィッチーズ隊の方はどうだね」
「出発に向けて準備してるみたいですよ。誰も彼も渋々な様子でしたが」
「そうか、それはよかった」
その言葉にマロニーはほくそ笑む。
それを尻目にソーマは立ち上がり,扉に向かう。
「どこへいくんだね」
「最後くらいきっちりお別れしとこうかと思いましてね。一応、世話になったので」
顔だけ向けてドアノブに手をかける。
回してドアを開けようとしたその動作をマロニーの一声が止めた。
「まさか情が移ったのではあるまいね」
「ご心配なく。そのつもりならとっくのとうに裏切ってますよ」
「それもそうだな。失礼した、行っていいぞ」
刺された釘にそう答えたソーマは執務室を出る。扉が閉まり、一人となったマロニー。
彼はこれから訪れるであろう長らく待ち望んだ光景に思いを馳せ、今から興奮を抑えられずにはいられなかった。
★
「はあーあ、これからどうなるんだろうなぁ」
「私たちはスオムスに行くんでしょ」
木材と一緒に貨物列車に運ばれるエイラとサーニャ。
エイラとサーニャ、二人はスオムスへ帰還することになった。
「そりゃそうなんだけどさ、なんかパッとしないってかさ。モヤモヤするんだよな」
「ソーマさんのこと?それとも芳佳ちゃん?」
「んーどっちもかな。いや宮藤は宮藤でまぁなんとかなんとかするだろうけど、ソーマは…あの時はああ言ったけどよく考えたらなんかあいつ無理してる感じだしてさ」
「うん、私も思う。すごく変わりすぎてて違和感があったわ」
エイラもサーニャもソーマの急変ぶりには奇妙なものを感じた。彼は501としての自分が演技だったと言っていたがエイラとサーニャにはむしろ逆、マロニーの仲間として振る舞っている彼の方が演技のように思えた。
「まぁ、それも今まで見せてきた姿が嘘だって言われたらどうしようもないんだけどな。あっ」
空を見上げ、遠く離れた仲間たちの顔を思い浮かべる。とそこで忘れていたことを思い出し、ポケットに手を入れる。
「参ったな。これ渡すのすっかり忘れてた」
ポケットからエイラが取り出したのはウォーターウィザードリング。会ってすぐソーマに渡そうと思っていたが多くの出来事が立て続けに起こったせいで、エイラの中で存在が消し飛んでいたものだ。
「どうしよう」
「どうしようって、それがないとソーマさん困るんじゃ」
「そうだよなぁ…けどなぁ」
相談したサーニャからの返答にエイラは指輪を指で回しながら考え込む。
あんなことがあった手前、わざわざ渡しに戻るのもなんだかな…そんな悩みが顔に出ていた。
「戻ろエイラ」
答えを出しかねているとサーニャが提案する。
濃い付き合いからかエイラの表情から悩みを読み取ったのだ。
エイラは虚を突かれた様子でサーニャを見た。
「ソーマさんにとって大事な物だから返してあげないと」
「サーニャ…そうだな。まったくサーニャに手間かけさせやがって。渡すついでに一言文句言ってやるかんな」
やれやれ、と言った口調でありながら多少乗り気なエイラ。
そんな彼女にサーニャはまるで妹を見守る姉のような温かな微笑みを浮かべた。
「忘れ物はないかー?ルッキーニ」
『グラマラスシャーリー』の文字がボディにつけられたオレンジの航空機。
この航空機の持ち主であるシャーリーもルッキーニと共にこの航空機で基地を離れ、新しい土地で新しい任務へと着こうとしいた。
「ねぇ、本当に言う通りに離れちゃうの?」
「んー?しょうがないだろ。あれでも一応上官なんだし、命令は守らないと」
模範的な軍人からはシャーリーもルッキーニも対極とも言えるぐらい離れた性格の持ち主であるが、基本的な心構えは理解していた。
いくら納得がいかないことがあろうとも一端の軍人ならば従うしかないのだ。
「そうそう、命令はきちんと守らないとな」
そこに彼女たちを揶揄するような声。ソーマだった。
彼を目にした瞬間ルッキーニは『げぇ』と、まずい食事でも食べたかのような顔をする。
「何しに来たの今更」
「見送りに来たんだよ。寂しいだろうと思ってな」
「ちーっともそんなことないよーだ!早く帰ってよ!」
「帰ってって、それはそっちの方だろ」
自分を見た瞬間の顔といい、ストレートな物言いといい、なんとも子どもらしい裏のない素直な反応にソーマはつい苦笑してしまう。
「わかったわかった。いなくなるよ、じゃあまたな。元気でやれよー」
いよいよネコのように目付きだけで威嚇するようになったルッキーニに観念してソーマは手を振りながら背を向ける。
だが基地に戻ろうとしていた足を止める声がした。
「なぁ、お前。本気でやってるのか?」
その言葉に踏み出した足を止め、ソーマは首を向けると声の主シャーリーが操縦席からこちらを見つめていた。
いつになく真剣で試すような目線を寄越している。
「こう見えて俺は適当なことはしない主義でね。今も昔もいつだって本気だよ…あ、そーだ」
ソーマがポケットから出した指輪を投げ渡す。片手でキャッチしたシャーリーが掌に落とすと。収まっていたのは紫の巨人の指輪だった。
「せめてもの餞別だ。大事に持っててくれよ」
去り際に軽く笑ってソーマは基地内に引っ込んでいく。
暗がりに消えていく背中にルッキーニは舌を出す。
「いーだ!もう早く離れちゃお、シャーリー」
「…ああ、そうだな。いくか」
せめてもの仕返しとばかりに可愛らしい反抗に出た少女はシャーリーに進言する。
彼女に返事をしながらシャーリーは渡された指輪をまじまじと見つめた。
段々と小さく、遠くなっていく基地。
高級車の後部座席に乗りながらリーネは名残惜しそうに少し前まで自分の居場所だった建物を見ていた。
(芳佳ちゃん…元気になってるかな。大丈夫かな)
他の仲間たちの今後も気になるが一番はやはり宮藤だった。
リーネにとって宮藤は消極的だった自分に自信をつけさせてくれた親友ともいえる大事な人。
今回の件で部隊の解散となった原因を作ってしまった責任を感じているだろうと思うと、気がかりでたまらなかった。
「どこにもいませんわ。坂本少佐、どこに行ってしまったのでしょう」
運搬トラックの隣で静かに佇んでいる宮藤の近くでペリーヌがせわしなく辺りに目を走らせていた。
これから宮藤とペリーヌは陸路で港へと向かって扶桑への船旅をすることになる。
ペリーヌに関しては元より故郷が支配されている身の上であるため、どこに行くのかまだ定まっていないのだが、行動が決まるまでの間は尊敬する坂本の元で行動しようと心に決めていた。
しかしその話を持ちかけようにも肝心の坂本がどこにもおらずペリーヌは途方に暮れていた。
「まーだこんなところにいたのか。お前たち」
「貴方、よく私たちの前に平然と顔を出せましたわね」
「他の奴らは皆離れたぞ。後はお前たちだけだ」
そこに姿を現すなり声をかけてきたソーマにペリーヌは厳しい目を向ける。
彼女も彼女なりにソーマを信じていただけに裏切った彼の態度に不満を持っているのだ。
一方で宮藤はペリーヌと異なる反応をした。何歩か前に出て、ソーマへと進み出たのだ。
手を伸ばせば体に触れることができる程度の距離まで近づいた宮藤はソーマと目線を合わせると頭を下げた。
「ソーマさん…今までありがとうございました」
「…」
「み、宮藤さん?」
この反応には意外だったのか、ソーマもペリーヌも虚を突かれたような表情になる。
しかし宮藤は構わず言葉を繋げていく。
「情けなくて未熟な私が今日までやってこれたのはソーマさんのおかげです」
「俺はお前たちを騙してきた人間だぞ。言っただろ、あの時の言葉だってお前が基地を離れてくれた方が都合がよかったから言っただけだ」
「そうなのかもしれません。でも、それでもあの時言ってくれたソーマさんの言葉は嬉しかったです。だから私、信じます。ソーマさんがどう思ったとしてもソーマさんは私たちの仲間で家族だって」
「宮藤さん…」
真っ直ぐで真摯な視線と言葉が突き刺さる。
宮藤に向き合っていたソーマだがやがて彼女に背を向けた。
「坂本少佐は一足先に赤城に向かった。お前たちも早く行け、乗り遅れても泊めてやる場所はないぞ」
それだけ言い残してソーマは踵を返し、基地内へと戻っていった。
宮藤とペリーヌにはどこか寂しく見えた。
ストライカーユニットの保管されている格納庫の入り口はマロニー派の兵士らの手によってH鋼で塞ぐ作業が行われていた。
そこに足を運んだエリックはまだH鋼で妨げられていない空間から内部に目を配らせた。
十数のストライカーユニットが並んでいる。いずれも持ち主の好みや魔法に合わせた調整がなされている世界で一つしかない物だが、エリックからすればガどれもガラクタにしか見えなかった。
「こんな物」
アローの指輪をはめて、ベルトにかざそうとする。魔法が発動する間際、エリックのその手を寸前で横から伸びた腕が掴んだ。
驚きに息が詰まったエリックが手の伸びてきた方向を見るとそこにはソーマ。
「こういうのはよくないんじゃないか」
舌打ちを打ちエリックは掴まれていないもう片方の腕を使ってソーマの手を振り払う。
「ストライカーユニットを壊そうとしたのか。何のために」
「ウィッチが無能だからいつまで経ってもネウロイどもが地上から消えないんだ。役立たずにいつまでも戦場にいられたら迷惑なんだよ」
「これはあいつらにとって必要な翼だ」
「ウィッチに肩入れするつもりですか。マロニー大将の片腕の貴方が」
「お前がウィッチにどんな感情を持っているのかは知らない。だがウィッチがこれまで命がけで戦ってきてくれたからこそネウロイの被害を最小限に抑えてこれた、そういう考え方はできないのか」
言われてエリックは黙りこくる。しかし納得したわけではない。
言葉の節々もだが、現に今向けられている目付きに不満が残っているようにソーマは思えた。
「失礼します」
しかしその感情を表に出さずやむなくと言った様子でエリックはそう言い放って足早に離れていく。
去っていく彼を見送ったソーマはおもむろにマロニーから受け取った新しい指輪をポケットから出した。
「…今の内に試しておくか」
ソーマはウィザードライバーを起動し、マロニーから渡されたハリケーンスタイルに似た形状の緑の指輪をはめる。
「見た目からしてたぶんこれで変身できるはずだけど」
一体どうなるのか、指輪に秘められた力に想像を掻き立ててウィザードライバーに緑の指輪を翳す。
ところが
『エラー』
「ん?」
ベルトから流れてきたのは期待を裏切る音。
「あれ?おっかしいな」
『エラー』
改めてもう一度、試してみても結果は同じ。はっきりと認証を拒否する音声が響く。
肉体に何も変化は起きず、空間に魔法陣が出現することもなかった。
「不良品か?いや、そんなはずはないけど、なんでうまくいかないんだ」
魔力を使い切っている状態ではないのに魔法が発動しないという奇妙な事態。
ソーマは首を傾げ、もう一つのドラゴンの絵の指輪も試してみる。
『エラー』
「こっちもか」
まさかと思いつつも少し期待していたのもあって落胆の声がこぼれる。
「まだ使い時じゃないってことか?それとも」
(今の俺じゃ力不足だってことなのか?)
このような事例は初めてだ。
魔法が使えない原因が自分にあるとして理由は何なのか。指輪に秘められた力を引き出すに値する力量が不足しているのか、はたまた別の理由によるものなのか
しばらくその場で考えてみたものの、疑問を解消できる答えを見つけることはできなかった。
たった一話の内にソーマがあちこちに出没してる…忙しすぎる。
自分でもそんなことを思いながら書いてました。