「アドバイスをくれって?」
「恥ずかしながら私の実力不足は痛いほどわかっております。ですから少しでも周りの役に立てるよう大尉から助言を頂きたいんです」
そうソーマに訴えているのは訓練中に最もミスの目立ったメイジ部隊の一人。
作戦開始まで残り数時間弱。その間に自らの未熟さを埋めようとソーマへ助けを求めに来たのだ。
「お願いします!私が至らない故に他の大勢の足を引っ張りたくないんです!どうか、お願いします!」
「わかった。ただじっくり教える時間はないからちょっとしたことしか言えないけどそれでもいいか」
「構いません。是非!」
「じゃあここじゃなんだし俺の部屋で話そうか。付いてきてくれ」
快くその申し出を受け入れたソーマは兵士を伴って自分の部屋の前まで移動する。
「さあ、入ってくれ」
「失礼します!」
ドアを開けるソーマに緊張気味に答える兵士。
兵士が先に、ソーマが後に入り扉を閉める。
直後、何かが倒れる音が室内から響いた。
★
「見て、基地からウォーロックとメイジが!」
「ついに動いたわね」
基地から海を挟んだ大地にある家屋の名残りを僅かに残した建造物の中でハルトマンたちカールスラント組はいた。
彼女たちは基地を離れた後すぐにここで基地の様子を探ることを決め、ネウロイの巣を破壊するべく飛び立つウォーロックとメイジを双眼鏡で捉えていた。
「巣を破壊しに行くのかな。あの中にソーマはいないみたいだね。どう、ミーナ?」
「ええ、見当たらないわ。基地に残っているようね」
編隊を組んで飛行する影に見慣れた姿がないことからハルトマンとミーナは彼が出撃していないと踏んだ。
そしてハルトマンの口にした名に微弱ながら体を震わせて反応する少女がいた。
バルクホルンだ。
ソーマとの模擬戦の後目を覚ましてからというものバルクホルンは見るからに気落ちし、口数も減っていた。
自分が勝てなかった故に部隊が解散する結果になってしまったこともだが、やはり一番はソーマの裏切りのせいだろう。
(確かに聞こえた…)
そんなバルクホルンが頭に浮かべていたのは模擬戦の終盤、スリーブの魔法で意識を夢の世界に飛ばされかけた時ソーマが口にした『ごめんな』という言葉。
(うっすらとしか聞こえなかったが間違いなく言っていた。あの時聞いた言葉は本物だ)
「トゥルーデー?」
(ソーマは本当に私たちを裏切ったのか?やはり何か思惑があって…もし仮にあれが芝居だったとしてそうせざるを得ない事情があるのだとしたら一体…)
「トゥルーデー?ねー聞いてる?トゥルーデってばー!」
ソーマの言動に合点がいかず、その背景を探ろうと回転するバルクホルンの思考はハルトマンの声で一旦中断させられる。
「どうした?」
「どうしたじゃないって。さっきからずっと呼んでるのに全然反応してくれないじゃん」
「すまない、少し考え事をな」
笑いを浮かべて言うバルクホルン。しかし付き合いの長さから養われた勘によるものかそれが自分に気を遣ってのものだとハルトマンは検討がついた。バルクホルンが何に悩んでいるのかにも
「たぶん大丈夫だよ」
「何がだ?」
「ソーマのこと、ソーマは何も変わってないよ」
「どうしてそう思うんだ」
まさに考えていたことを言い当てられ驚くと共にバルクホルンはその根拠を訊ねる。
「どうしてって、なんとなく?」
「なんとなくって…」
「でもあんな態度をしたのにはきっと何か理由があると思うんだ。自分勝手な理由じゃないのは確かなんじゃないかな。私と違って真面目じゃん、ソーマってさ」
さらっと軽く、けれどソーマへの信頼を感じさせる言葉を放つハルトマン。
それに賛同するかのように基地の動向を監視していたミーナも続く。
「エーリカの言う通りよ。彼はまだ私たちの味方よ」
「まだ?まだとはどういうことだミーナ、何か知っているのか!」
「彼は…」
ハルトマンと違ってはっきりと根拠があるように言い切るミーナ。
彼女がバルクホルンからの問いかけに答えようとした瞬間、空に動きがあった。
何かが爆発する音がしたのだ。
「巣が爆発した!」
「始まったみたいね」
会話を止めたミーナたちが空に目を向けるとウォーロックとメイジたちによるネウロイの巣への攻撃が始まっていた。
いよいよ始まったウォーロックとメイジの戦い。
空での動きは満遍なく管制室でも確認していた。
「ウォーロック及びメイジ部隊、ネウロイとの交戦に入りました」
「よい、よいぞ。見事だ。さすがは私が手塩にかけて各国から選び抜いた精鋭たちだ」
管制官の告げる報告とカメラに映し出された戦闘の様子にマロニーはほくそ笑んでいた。
ウォーロックのビームとメイジの魔法は巣から沸いて出てくる小型ネウロイを着実に減らし、巣へのダメージも与えている。
予想通りの結果、いや戦闘開始からの経過時間を踏まえれば予想以上と言ってもいいかもしれない。
(それ見たことか。やはり私の考えは正しかったのだ。これからの戦場においてイニシアティブを握るのは人類の科学が生んだ兵器なのだ。あのような小娘たちではない)
この戦闘が終われば晴れてガリアは解放される。ウォーロックとメイジはその功績を称えられ本格的な量産が始まり、世界的に配備される日も近い。
そして自分自身が今よりも重要なポストに着くことも確実だ。
マロニーはこの時点で既に戦いが終わった後の理想図を頭の中で描いていた。
エリックを始めとするメイジは巣の破壊をウォーロックに任せ、小型ネウロイの撃墜に専念していた。
『アロー、ナウ!』
「数ばかりうじゃうじゃと!」
魔法の矢で前方の小型を数機まとめて落としたエリックは周囲に目を配らせる。
見たところメイジたちの動きに大きな問題はなく順調といってよかった。訓練時に危うかったメイジもこの短時間でありえない程、堅実な動きでネウロイのビームを回避している。
精々問題らしい問題といえば小型の数が多いくらいで後は特に不安な点は見られない。
「これならばいける。ウィッチがなくとも我々だけで充分に戦えるんだ…あんな男の出番など」
-いずれはあのウィザードなど越えて自分がネウロイから世界を救う英雄となるのだ。
そんな願望を胸に抱くエリックがまたしても小型ネウロイを粉塵に化したちょうどその時、頭上を覆う暗雲に動きがあった。
黒い雲の中から小型ネウロイが多数姿を覗かせたのだ。
「まだくるのか!」
「もうかなり倒したぞ。これじゃキリがない!」
「情けない声を出すな!ネウロイがなんだ!我々の人間の底力を見せてやれ!」
「ああそうだ!俺たちはやれる。もう奴らに好き勝手させるものか!」
未だ戦力を残していたネウロイ側に苛立ち、互いを鼓舞するメイジたち。しかし出現したばかりの小型ネウロイたちは彼らには構わず、一斉にウォーロックを囲いだす。
「何をしようと言うのだ」
四方八方、360°ウォーロックの周囲に展開する小型ネウロイ。
それらは同時にビームを放ち始めた。中間にいるウォーロックにではなく射線上にいた味方に向けて
「ネウロイが同士討ちを?これは一体…」
「ウォーロックのコアコントロールシステムが作動したのか…?」
目の前で起こった光景に驚くメイジが多数を占める中エリックだけが冷静に呟いた。
彼はマロニーからウォーロックの性能を聞かされていた数少ない人物であり、だからこそネウロイの同士討ちの理由についてすぐ検討が付いた。
だがそれにしても妙におかしい。
「ネウロイの巣が…」
エリックが疑いを持った瞬間、奇妙な現象が起きた。
ネウロイの巣が突然形を崩して白い粉となる。
その粉は吸い込まれるようにウォーロックの元へ流れていき、次第に変化を与えていく。
小型ネウロイが続々と同士討ちによって消滅していく中心で白銀の装甲が黒一色に染まる。
そして巣も小型ネウロイも跡形もなく消え、残ったのはウォーロック一体のみとなった。
「やったのか?」
爆音が収まり、訪れる静寂。巣も小型も消え、敵を殲滅したというのに誰からも歓声が上がらない。
不安が色濃くこべりついたようなメイジの一人の呟きが鮮明に他のメイジたちによく聞こえる。
誰もが緊張の眼差しで動向を見ているとウォーロックが突然彼らに向けてビームを飛ばした。
「なんだと!?」
咄嗟にライドスクレイパーを操り、寸でのところで回避するメイジたち。
しかし暴走したウーロックはメイジたちに放ったビームの行方を確認する間もなく戦闘機形態へ変形し、高高度に移動。
変形を解除するとところかまわずビームを乱雑に打っていく。
その赤い光は赤城の付近の海に、基地付近の地面に着弾する。
「ウォーロックが味方に攻撃を!?」
「副隊長、どうしてウォーロックが!」
「狼狽えるな!全員突撃だ!ウォーロックを止める!」
飛び交う戸惑いの声を打ち消すように声を荒げてエリックが命令を下し、メイジたちはそれに従って動き出す。
アローやブラストで攻撃を仕掛けるメイジたちだが、ウォーロックに大して損傷はなく彼らにもビームが襲いかかる。
ディフェンドでビームを受け止めるが、何人か反応が追い付かず魔法の切り替えが間に合わない者たちがいた。
「うわあああ!」
その中の一人にビームが真っ直ぐ向かう。巣を貫通するほどの威力だ。生身で食らうよりはマシだろうが、それでも死ぬ確率の方が高い。
仮面の中の顔が恐怖で歪み切っていたメイジの前に別のメイジが横から割って入り、片手から展開した青い魔法陣でビームを防いだ。
「うぇ…は?」
「すぐに退け!これはお前たちに対処できる相手ではない!」
「シールドを張った!?貴様、何者だ!」
急死に一生を得た状況に理解が追い付かず言葉にならない声を出すメイジと打って変わってエリックが問いつめる。
魔法陣の色、指輪を用いずに魔法陣を展開したことからエリックはメイジの中身が自身の管轄外にいる人間だと見抜いた。
「さては貴様、ウィッチか!何故ウィッチがそのベルトをしている!」
「今はくだらん言い争いをしている場合ではない!状況をよく見ろ!」
「生意気なことを…!」
言い返そうとしたエリックだが言葉を紡ぐ前に思い直す。
完全に敵となりビームを放つ砲台と化したウォーロック、狼狽え懸命に身を守るための回避や防御を取る自身の部下たち。
この状況下で軍人として、部隊を指揮する立場として取らなければならない選択は残念ながらウィッチの変身するメイジの言う通りだった。
「ちっ!総員、基地に撤退!」
結果的にウィッチに従わなければならない不満を抑えてエリックは部隊に告げ、基地に引き返す。
「見てシャーリー!ウォーロックが!」
「おいおいマジかよ。味方を攻撃してるぞあいつ」
ウォーロックの異様な変異をルッキーニとシャーリーも視認する。
基地を発った後シャーリーの案で念のために周辺の空域でウォーロックとメイジの戦いの様子を見ることにしていたのだ。
『ウォ!ウォ!』
「うぉ!?なんだなんだ!」
「うひゃあ!?何これ!ゴリラ?」
声が聞こえたと思えばシャーリーのポケットから小さな紫の巨人が飛び出してきた。
驚き、奇異の目で見つめる彼女たちにゴリラ…否、巨人『パープルゴーレム』は手と顔を使って基地の方角を示す。
「さっきソーマに貰った奴だよね?基地に戻れって言ってるのかな」
「みたいだな。よし、戻るぞルッキーニ」
「りょーかい!」
意図を察し、ゴーレムに従うことを決めたシャーリーとルッキーニ。
航空機を旋回させて、基地へと進路を変えた。
同じ頃、エイラとサーニャはというと
元より基地に引き返していた二人だがウォーロックの暴走を見て、急がねばとますます走るスピードを速めていた。
「エイラ、見て」
「ん?」
二人の正面、基地の方角からブルーユニコーンが地を駆けて近付いてくる。
その存在をサーニャとエイラが認めて足を止めるとブルーユニコーンも同じようにピタリと止まって、くるりとその場で一回転。
元来た道をまた走り出す。
「なんなんだあいつ?」
「もしかして私たちを迎えに来たんじゃないかしら」
サーニャの言葉にまさかと思い、見てみるとブルーユニコーンは少し先の道で動きを止めて二人に首を向けている。
付いてこい、言っているかのように
「どうやらサーニャの言う通りみたいだナ。あいつに付いていってみるか」
「うん、そうしましょうエイラ」
得体の知れない物体だが少なくとも敵対心は感じられない。
相談の結果、エイラとサーニャはユニコーンに付き従うことを決めた。
リーネもまた突然メイジたちに反旗を翻したウォーロックに戸惑いを隠せなかった。
ウォーロックがメイジに危害を加えている光景が異常事態なのはすぐにわかった。
だがどうするべきか悩んでいると、彼女の元に基地の方角の空から赤い物体がやって来た。
「何かこっちに来てる…鳥?」
その物体、レッドガルーダは空からリーネの視線の高さまで降下すると鳴き声を上げて羽根を基地の方を指し示す。
「基地に行け、って言ってるの?」
その動きに首を傾げつつ、リーネが試しに言ってみるとガルーダは軽く鳴いてみせた。おそらくは肯定の意だろうとリーネは感じた。
「わかった。貴方を信じてみる」
きっと他の皆もこの事態を認識して解決に動いているはず。
そう思ったリーネはガルーダの要望通り、基地に戻ることにした。
「悪い予感が当たちまったか」
ウォーロックの変異に悪態を突きながらソーマは滑走路の先端から海へジャンプ。空中でハリケーンスタイルに変身し、ウォーロックの元へ急行する。
「マロニーめ、厄介な奴を作ってくれたものだな!」
シールドを張ってウォーロックのビームを防ぐメイジ。
その横に出しうる限りの全速でウィザードが駆けつけた。
「ごめん、遅くなった」
「見ての通りだ。お前の予感が的中したな」
「当たって欲しくなかったんだけどな。そっちは頼む。できるだけ持ちこたえる」
「任せた。無茶はするなよ」
合流してから数分足らず。
たったそれだけやり取りを終えてメイジは赤城へ方向転換し、ウィザードはウォーロックの相手を引き継ぐ。
「えらく変わっちまってまぁ」
人類の希望として作られたものが今や人類に害をもたらし絶望を与える存在と同じパーソナルカラーに染まり、人類に牙を向けてしまった。
なんとも皮肉で哀れな話だ。
「安心しな、誰かの命を奪う前に破壊してやる」
ウィザードはコネクトの魔法陣から引き抜いたウィザーソードガンの銃口をウォーロックに向け引き金を引いた。
撤退したメイジたちと交代するように始まったウィザードとウォーロックの戦い。
ビームと銃弾を打ち合う両者を赤城の上で見守る宮藤とペリーヌは一人のメイジが自分たちの方に近付いてくるのに気付く。
「ペリーヌさん!メイジの人がこっちに来ます!」
「なんですって!」
一体マロニー側の人間が何の用なのか、赤城の甲板上に浮遊して来たメイジを警戒しているとあちらの方から声をかけてきた。
「無事かお前たち!」
「えっ、この声…」
「もしかして坂本少佐!?」
メイジの凛々しく頼もしい声、その声を宮藤とペリーヌが聞き間違えるはずはなかった。
現にライドスクレイパーから降りて変身を解いたメイジが見せた姿は紛れもなく彼女たちが敬愛する坂本少佐その人であった。
「少佐、何故そのような恰好を?」
「マロニーたちに気付かれずに動くにはこの姿にならざるを得なくてな」
再び会えたことに喜ばしさを感じつつも何故メイジのドライバーを身に着けているのかと、疑問の眼差しで見つめるペリーヌに坂本が答えた。
「暴走したウォーロックを止めるぞ。宮藤、お前は先にソーマに加勢するんだ。私とペリーヌは基地でストライカーを取り戻してから他の仲間たちと合流する」
「でもストライカーユニットが」
「大丈夫だ。ちゃんと持ってきてある」
そう言うと坂本は軍服のポケットから二つの物を取り出す。
宮藤のストライカーユニットと銃だ。ただしその大きさは掌に収まる程度に小さくなっているが
「ストライカーユニット!?でもなんでこんなに小さく…」
「待っていろ。今元の大きさに戻す」
『スモール、ナウ!』
縮小する際に使ったスモールで小さくなっていたストライカーと銃のサイズを通常の大きさに戻る。
それを見て「あっ」と小さく驚いたペリーヌは坂本に質問を投げかけた。
「少佐、これはもしかして。スペランツァ大尉の」
「そうだ、あいつは私たちと完全に袂を分かったわけではない。あいつはあいつで人類と私たちを思い悩み、考えた。その結果としてお前たちを傷つけることになってしまった…急に言われても理解し難いのはわかる。だが私たちは仲間であり家族だ。どんな理由があろうとも家族を見捨てるわけにはいかない。二人とも力を貸してくれるか?」
「はい!」
「も、もちろんですわ!」
二人から返ってくる頼もしい肯定の意。
坂本は宮藤を真っ直ぐ見据え、言葉をかける。
「宮藤、我々も後から行く。それまで任せたぞ」
「わかりました。そちらも気を付けてください」
「ではペリーヌ、私たちも行くぞ。後ろに乗れ」
「し、承知致しましたわ。坂本少佐」
『チェンジ、ナウ!』
力強い宮藤の返事に頷くと坂本は再度メイジに変身。ライドスクレイパーに跨るとペリーヌにも後ろに乗るように促す。
ペリーヌが後ろに着いたのを確認して坂本は基地を目指して海上を飛行する。
遠ざかり小さくなっていく彼女たちを見送った宮藤はウィザードとネウロイの戦いに視線を切り替える。
船の上で空で繰り広げられるネウロイとの戦いを見ていると自身の初陣を思い出す。
あの時はまだストライカーユニットを乗りこなしておらず、窮地をソーマに助けられた。
今度はあの時とは逆。ソーマの窮地に自分が駆けつける番だ。
宮藤はストライカーを装着し、発進準備に入る。
「ソーマさん、今行きます…!」
絶対に守って、一緒に帰ってみせる。
決意を胸に、宮藤は荒れる空に飛んだ。
ついに一期最終決戦まで来ました。やっとこさ、やっとこさです!(自分の投稿頻度が遅いせいなんですが
予定では後三、四話程で一期の内容を終わらせるつもりです。
一期内容が終わったら次はオリジナルの話を挟んでから二期のロマーニャ解放に行きたいと思いますので、今後もよろしくお願いします!