さぁ、ルチアナやマルチナも早く来るんだよ。しかしその前に水着サーニャとエイラの二人を手に入れなくては
水と建造物が一体化した構造の街、ヴェネツィア。
数ある街の名物の一つリアルト橋から少し離れたサンマルコ広場にてソーマはいた。
「ここで待ってれば迎えが来るらしいけど…まだ来てないみたいだな」
ガランドの話によれば第504統合戦闘航空団アルダーウィッチーズから迎えの者が来て基地まで一緒に行く手筈になっているそうだが、それらしき人物は今のところ確認できない。
早く来すぎたのもあってこうして十数分、予定時刻からは数分が経過している。
焦りも苛立ちもないが、何もせずただ待っているだけというのはいかんせん時間の流れを遅く感じて退屈だ。
退屈すぎて露店のジェラートでも買ってしまおうかという思いまで生まれてしまっている。もちろん迎えの人の分も買うつもりで
しかしいつ来るか定かではない待ち人の分を今買ってしまうのもどうだか、かといって自分だけ食べてしまうのもそれはそれで待ち人に失礼だろうし、もしかしたら食べている途中で来てしまうかもしれない。
それならいっそのこと買わないべきか…などと決断に悩んでいると広場の前の通りに軍用ジープが止まり、運転席から一人の軍人が出てくる。
(あれがそうか?)
白い軍服、見た目は自分と同じくらいの年齢の少女。おそらくは彼女が自分の待ち人だろうと判断したソーマは自らも歩いて彼女との距離を縮める。
「遅くなってしまってごめんなさい。ソーマ・スペランツァ中尉で、間違いないかしら?」
「はい。貴方がアルダーウィッチーズの?」
「ええ、初めまして。私は竹井醇子。扶桑海軍大尉で第504統合戦闘航空団アルダーウィッチーズの戦闘隊長を務めているわ。さぁ、車に乗って、基地まで案内するわ」
軽く自己紹介を済ますと二人はジープに乗り込み、竹井の運転で基地を目指す。
その道中ソーマは竹井の横顔を見ながら話しかけた。
「扶桑の人なんですね」
「ええ、坂本少佐と同じくね」
「少佐を知ってるんですか?」
「美緒とは同期で一緒に戦ったことがあるの。リバウの時とかね」
(今度は坂本少佐の知り合いか。思ってたより世界狭いな)
ガランドに続いての竹井、これで501を離れてからミーナと坂本の知り合いと出会ったことになる。
いずれも階級が高く、ずっと前から軍にいるから顔が広くて当たり前なのだろうがそれにしたって数日の内に知り合いの知り合いに二人も遭遇するとは前例がなさ過ぎてつい驚いてしまう。
「美緒は元気かしら?」
「元気でしたよ。剣の稽古も少しですけど受けました。でもあの体力には驚きますよ。疲れを知らないのかってぐらい朝から自分の訓練だけじゃなく他の隊員の指導までして」
「そういうところ相変わらず変わってないんだ。それでこそ美緒って感じで安心するけど」
到着までどう話を広げればいいのか悩んだが共通の知り合いのおかげで初対面同士でも話に華が咲いた。
この勢いでソーマは抱えていた疑問を訊ねてみることにした。
「あの一つ聞いていいですか?竹井大尉から見てアルダーウィッチーズの人たちってどんな感じですか?」
「そうね…だいぶ個性的な人が多いかしら。それと後敬語使わなくていいわよ。お互いその方がやりやすいでしょ」
「個性的、ですか」
「隊長は特にその代表格といえるかも。気分屋というかいい意味で隊長らしくないというか結構奇抜な発想をすることが多いわね。貴方に合わせて言うならミーナ中佐とは真反対の人物像ね」
竹井の言葉にソーマは隊長の人物像を想像してみる。
気分屋でいい意味で隊長らしくなくて個性が強く、ミーナ中佐と反対の人物像…竹井から与えられた情報を整理するとあのうじゅ娘、
「大変そうですね」
「ふふ、でも頼もしい人よ。もちろん隊長だけでなく他の皆も。きっと上手くやれると思うわ」
「それを聞いて安心しました。むしろ会うのが楽しみになってきた」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。でも敬語がなければもっと嬉しかったかも」
「あ…」
指摘されてソーマは気付いた。まだまだ直すのには時間がかかりそうだ。
「すいません」
「謝るほどでもないわよ。ちょっとからかってみただけだから。ごめんなさいね」
真面目な反応に苦笑する竹井。
海に面した険しい崖道を進んでいると
「あれは…何かしら」
水平線の奥、閃光の発生と消滅が見える。それも一度ではなく、何度も。別々の場所で
不審に思って車を止め、外へ飛び出す二人。
使い魔である白犬の耳を生やした竹井が強化された視力で確認してみると各所に赤い光を点在させている黒い物体とその周辺を飛び回る人影、その影が作りだす飛行機雲を捉えた。
「ネウロイ!戦ってるのはフェルたちね」
「もしかしてアルダーウィッチーズの?」
「ええ」
魔力による五感の強化ができないソーマに返答しながら竹井は敵戦力を確認する。
「敵は大型一体、特に苦戦してる様子はないみたいだけどコアを見つけられていないよね」
「魔眼を持ってる人がいないのか」
「残念ながら」
ネウロイのコアの位置を把握する固有魔法『魔眼』。それを有する人物がいるのといないのとでは戦況が大きく変わってくる。
魔眼を持つウィッチの指示した箇所を狙って撃破するやり方ができないとなればひたすら手探りで装甲を破壊してコアを見つけていくしかなく、時間も労力も遥かにかかってしまう。
「ネウロイがこっちに向かってくる」
ウィッチの銃弾を受けながら街に侵攻しようとしているネウロイの姿が竹井の目にはっきり大きく映る。
加勢したいところだが手元にはストライカーはおろか銃火器もない。
「銃さえあれば…」
「向こうから向かってくるならここからでもいけるか。竹井大尉、下がってくれ」
悔しさに歯嚙みする竹井にそう言いながらソーマは前へと進み出る。
『ドライバーオン、プリーズ!』
腰元にドライバーを出現させ、慣れた手つきで左の中指に付けた赤い指輪をドライバーにかざす。
「変身!」
『フレイム、プリーズ!ヒーヒー、ヒーヒーヒー!』
竹井の前でソーマは変身し、ウィザードフレイムスタイルが降臨する。
「これがウィザード…」
『フレイム、シューティングストライク!』
『コピー、プリーズ!』
実物を目の当たりにして多少驚きを隠せない様子の竹井の前でウィザードは着々と攻撃の準備を整える。
何人もの自分を複製し、全員が銃形態変形させたウィザーソードガンをコピーで二丁にしてネウロイに向けて構えた。
★
数刻前
二人が向かっている第504統合戦闘航空団アルダーウィッチーズの基地の庭では三人の少女が草木の上に寝そべっていた。
「ねぇマルチナ。これから来るウィザードってどんな奴かしらね」
「ドッリオ隊長はすっごく楽しみにしてるよね。面白そうだってー」
真っ先に声を上げるのは赤毛と強気な顔つきが目立つ少女。フェルナンディア・マルヴェッツィ少尉、赤ズボン隊のリーダーを務め、『フェル』という愛称で慕われている。
その彼女に同調する少し背の低い少女はマルチナ・クレスピ曹長。フェルと同じく赤ズボン隊に属するメンバーの一人だ。
「ドミニカはどう思う?」
「どんな奴が来ようと私は一向に構わない。ジェーンさえいればそれでいいからな」
「あんた口を開けばそればっかね。らしいちゃらしいけど」
問いに毅然とした口調で返したのはドミニカ・S・ジェンタイル。
返って来た実に彼女を彼女たらしめる言葉にフェルは呆れる。
「こんなところにいたんですね!フェル隊長とマルチナも手伝ってくださいよ。歓迎会の準備がまだまだ終ってないんですから」
「大将もですよ!ルチアナさんと私だけじゃ手が足りませんよ」
困り顔で現れたのは二人の少女。片や黒髪の、もう一人は明るい灰色の髪の少女。
黒髪で長身の方はルチアナ・マッツェイといい、フェルやマルチナと同じ赤ズボン隊の一員。
隣に控えるはジェーン・T・ゴッドフリー。ドミニカの相棒的な存在で彼女を『大将』と呼び慕っている。
二人は隊長からウィザード歓迎会の準備を進めていたのだが作業中、同じく命を受けていたはずの三人の姿がいつの間にか消えていたのに気付き、作業を中断して捜索。
基地内を一通り見て回った後フェルたちを見つけたのだ。
「準備っていっても料理は後で作るでしょ?私らのやることなんてないんじゃないの」
「ねーむしろ私たち邪魔になるよね」
「二人ともそう言わずにやってくださいよ…」
「愛らしいジェーンの横顔を見てるだけでいいというならずっといてもいいんだが」
「大将ってば…もう」
三者三様、実にらしくそれでいて参加拒否の意志を表明する回答が帰って来た。
付き合いの長さと性格上どちらかというとこういったことには慣れているルチアナとジェーンだがさすがに協力を得られないことには歓迎会の準備は終わらないので、説得を試みる。
「こらこら貴方たち、そんな態度じゃこれから来てくれる新しい仲間に失礼よー」
明朗快活な覇気のある声と共に歩み寄って来たのは褐色肌の女性。フェデリカ・N・ドッリオ。
彼女こそ第504統合戦闘航空団アルダーウィッチーズの隊長…であるのだが
(なんでナースの恰好を??)
(また始まったわね)
ドッリオの服装は軍服ではなく病院の看護師が着るようなナース服だった。
それを目の当たりにして唖然として固まる一同。
平然と流しているのはドミニカくらいのものだ。
あまりにも場の雰囲気に不釣り合いな恰好に言及しなければいけない空気を肌で感じたフェルはドッリオに訊ねた。
「あの隊長…?ツッコむのも野暮かもしれませんけども…どうしてナースの恰好なんかしてらっしゃるんでしょうか?」
「これ?この後来るウィザード君を盛大に歓迎しなきゃいけないでしょ。だからいつもより派手にいかないとね?」
「…ですから歓迎するのにその恰好でいる必要なんでしょうか?」
ウィンクするドッリオに辟易しつつ更にフェルは質問を重ねる。
「男の子はこういうの好きでしょー。それに懇親会だってまだなんだし、尚更ね。大丈夫、心配しなくても貴方たちのもちゃんと用意してるから。バニーとか水着とか、好きなの選びなさい」
「いりません!」
「素っ気ないわねフェルはーじゃあルチアナたちに」
「申し訳ありません。ドッリオ隊長私たちもそれはちょっと」
語気を強めて、断固としてフェルは隊長の誘いを拒否しそれに他の者も首を縦に振って追随する。
彼女たちはわかっていた。
この隊長の奇行は今に始まったことではない。ちょっとでも相手のペースに乗せられてしまったが最後どうなるかその末路は想像に難くない。
(ウィザードがどんな奴か知らないけどドッリオ隊長よりマトモであることを祈りたいわ)
この際性格に多少難はあっても文句は言わない。
ただ直に自分の前に現れるウィザードが比較的常識的な感性を持った人間であって欲しいとフェルは切望した。
するとその時敵の襲来を知らせる警報が基地内にけたましい音が鳴り響いた。
★
ドッリオを除く五人は出撃し海上で複数のネウロイを目視した。
敵戦力はエイのように横幅が大きい大型が一体とそれを取り巻く小型が四体。
「あれぐらいだったら楽勝ね。いくわよルチアナ、マルチナ!」
「了解です」
「ちゃっちゃとやっつけちゃおー」
フェル、ルチアナ、マルチナ、赤ズボン隊の三人が先んじて仕掛ける。
ネウロイのビームを回避しながら接近。フェルが大型を、残る二人が小型に狙いを定めていく。
「つくづく威勢がいいな」
「大将も似たような感じですよ?」
「私が?そんなことはないだろう」
「自分に自信があるところとかすごくそっくりですよ」
「…まぁ、そこに関しては否定しないが」
ドミニカとジェーンも戦いに参入する。
赤ズボン隊の三人に負けじと劣らぬ息の合ったコンビネーションで早々に小型の一体を撃墜し、次に向かう。
優勢の勢いを保ったまま戦況を運ぶフェルたちだがここで大型に変化があった。
後部のパーツを外してスピードを上げたのだ。
「あの大型逃げるつもりね。逃がさないわよ!」
大型の担当をしていたフェルが追跡を行う。だが彼女との距離が縮まり切る寸前、大型は急速に飛行速度を上げた。
「加速した!」
「街の方に向かってるよ!」
大型の進行先を見てマルチナが声を張り上げる。ネウロイがこのまま進路を変えなければヴェネツィアの街に侵入してしまう。
「あんたの相手は私でしょうが!そっちに行くんじゃないっての!」
残る小型の相手を完全に四人に任せ、フェルは大型を追いかける。
ストライカーユニットの加速に魔力を注ぎながら銃撃を命中させるがネウロイの速度は止まらず、次第に相手方との距離が開いていく。
「あいつ早すぎる。これじゃ…ッ何あれ!」
らしくないとわかっていながらもどうしても弱音が出てしまった。
その時街の方から光が…赤い炎が複数飛んできた。
炎は弾のような形状をしていて、しかも不気味なくらい無駄なく丁寧にネウロイの横の大きさに合わせるかのように並んでいた。
フェルがそれを炎と認識した時には炎は若干のズレは見られたものの全てネウロイに直撃し、装甲ごとその体の半分は濃い煙幕に飲み込まれていた。
「あの光、見つけたわよ」
風に乗って流れる煙の合間から眩くも怪しい光が漏れている。
「大きいのくれてあげるわ!」
コアの光だと判断してすぐにフェルは炎の銃撃で動きを止めた大型ネウロイに急接近。
接近を拒もうとする光をフェルは華麗に避け、限りなく近い距離で引き金を引く。
その一撃はネウロイを絶命には充分なものだった。
「全部片付いたようだな」
白い破片となったのを滞空して見届けるフェルの元にドミニカたちが集う。
残る敵も片付けてきたのだと察するフェルだがその口から出たのは労いの言葉より疑問の言葉だった。
「さっきの攻撃、地上からよね。一体誰のかしら?」
『フェル聞こえる?』
「タケイ?さっきのってあんたの?」
通信機から聞こえてきた声は戦闘隊長を務める竹井のもの。
フェルは試しに問いかけてみた。
『私じゃないわ。一緒にいる彼よ』
「彼って誰よ…あっ」
『彼』と聞いて、フェルはそれをある人物と頭の中で結び付ける。
竹井が基地を離れていた理由を思い浮かんだのだ。
「もしかしてウィザード?」
『今から彼と基地に向かうわ。貴女たちが戻るのが早いだろうから隊長にも今の戦闘結果と一緒に報告しておいて』
否定せずにそう告げて竹井からの通信は切れる。
(まさか顔も見てない相手に助けられるとはね…一人じゃ街に入る前に倒せなかったとはいえ複雑だわ)
「隊長、スペランツァ中尉をお連れしました」
「ソーマ・スペランツァ中尉です。本日からこちらの部隊にお世話になります」
フェルたちが帰還してすぐ竹井と彼女が連れて来たソーマも到着した。
今フェルたちの前ではナース衣装を着替えていないドッリオが竹井の帰りとソーマの来訪を迎えている。
「あれがねぇ」
フェルは竹井の隣に立つソーマを見て呟く。
彼がウィザード。ウィッチと肩を並べてネウロイと巣を倒し、ガリアを解放した功労者。
そしてついさっき自分を支援した者という肩書きも追加された。
「フェルから報告は聞いてるわ。海上のネウロイを陸地から狙撃したそうね。着任早々お手柄ねーさっすがガリア解放の立役者」
「貴女は…看護師の方?わざわざどうも…」
気さくに話しかけてくるドッリオの服装を見てソーマが怪訝な顔をし首を傾げつつ呟く。
(これ説明した方がいいのかしらねぇ)
その反応に困りつつ、フェルは言葉を淀ませながら彼に声をかける。
「あー…その人うちの隊長なのよ」
「……へぇ?」
間の抜けた声がソーマの口から飛び出た。
彼はフェルの言葉に凝固し、眉間に皺を寄せながら信じられないような眼差しでドッリオを見る。
「…本当に?冗談でしょ?」
「非常に言いにくいんですがフェル隊長の言う通りです」
「…何故ナースの恰好を?」
ルチアナからの捕捉にソーマは戸惑い改めてドッリオを髪の毛先から靴に至る細部にわたって視線を集中させる。
舌を出してウィンクを送って来る彼女は胸元の谷間こそ大胆に露出しているが、やはりどこからどう見てもナース。
軍人の仕事とは一切関係のない服装であるためそんな言葉がこぼれるのは至極真っ当といえよう。
(やっぱりそういう反応になるわよね。そりゃあそうよ)
自分たちと寸分違わぬ反応を示してくれたソーマにフェルは同情もしつつも感謝する。
どうやら振り回す側ではなく自分たちと同じ振り回される側の人間寄りのようで、ひとまずフェルは安心した。
「これからよろしくねウィザードくん。仲良くやりましょ」
アルダーウィッチーズの隊長は新たに加わる魔法使いを満面の笑みで受け入れた。
前回のガランド同様504の面々の性格ってこんな感じでよかったかなと思いながら書いた回。
そしてこんな思考がこの章の終わりまで続くという
一応紅の魔女を参考に書いてはいますがもし性格に違和感を感じるようでしたら感想欄などで知らせてくれるとありがたいです。特にドミニカやドッリオ辺りがすごく不安です(こんなんでこれからやっていけるのか…?)
その他にも感想などありましたら是非お願いします。