「ぁ~気持ちいい」
模擬戦が終わったその日の夜、ソーマは男性用の浴場に一人浸かっていた。
ヴェネツィア基地の浴場は竹井のこだわりで扶桑風の内装が施されていて、ブリタニア基地とは一風変わった雰囲気が楽しめる。
「はぁ~湯舟はやっぱり最高だな。気分も落ち着けて疲れも取れるし、扶桑式の風呂ってのも味がある」
お湯に浸かる行為自体はブリタニアと一緒だが周りの内装が違うだけで全く別物に感じる。
肌だけでなく、目でも楽しめるとはこれまた新鮮。
未知の経験に少し興奮しているのもあってか極上の一時といって差し支えない。
「気に入ってくれたみたいで嬉しいわ。竹井も今の言葉を聞いたら喜ぶわよ」
「いやーほんっとたまらなくいいですよ…?」
-ん?あっれ?
ここでソーマは何か違和感を覚える。
声が聞こえてきたのはいい。しかし聞こえてきたのは声と口調からして間違いなく女性のもの。
そして今彼がいるのは男性用の浴場だ。女性の声など本来ならば聞こえてきていいはずがない場所。
「-なっ!!?」
たった一声から情報を整理したソーマは異常を認識し、同時にある予想を立てた。
どうか自分の勘違いであってくれと願いながらも入り口を見てみればそこには
「はぁーい」
残念ながら予想通りドッリオがいた。幸いと言うべきか白いバスタオルで隠すところは隠してくれていたが衣服を纏っていない恰好のドッリオがいた。
「ちょっと、ええ!?何やってんですかぁ!?」
その姿を見て上ずった声を上げながらソーマは思わず湯舟の中を移動して距離を置く。
「しー。また竹井にバレたら偉い目にあっちゃう」
「いや、しーってあなた…男湯ですよここ…なんでいるんですか」
「理由ならちゃんとあるわよ。あなたと話がしたくてね」
「話?ここじゃなくてもいいでしょうよ」
「ここだからこそよ。知らない?扶桑にはね裸の付き合いって言葉があるのよ。それにソーマも嬉しいでしょ?女の子と一緒にお風呂に入るのは」
いつもながらの眩しい笑顔のドッリオ。
タオル一枚隔てているといえ異性に裸を見られても一点の恥じらいも見せない彼女の姿勢がソーマの羞恥をますます増大させる。
目のやり場に困ってソーマはドッリオから視線をずらす。
たまたまタオルを持ち込んでいたおかげで己の大事なところを隠せて、あちらに不快なものを見せずに済んだのは不幸中の幸いというべきか。
「…とりあえず入るなら早く入ってもらえません?」
「えっ?いいの?それじゃ失礼して」
「最初からそのつもりで来たんでしょうが」
返事を返すのも一苦労のソーマの心情など気にしていない素振りでドッリオは乱れのない所作で浴槽に浸かる。
「あ~極楽極楽。どう?ウチの子たちとは上手くやれそう?」
「…それを聞きにきたんですか?」
「これでも一応は隊長らしいことはしてるのよ」
「あ、いや、そんなつもりじゃ…すいません」
ドッリオに見つめられてソーマは失言だったと謝罪する。
自由気ままで他人を振り回してばかりというイメージがすっかり定着してしまったせいで彼女がまさか自分を気にかけてくれるとは少し思ってもみなかったからだ。
「ふふふ、いいのよ。そう思われても当たり前だし、むしろそういう風に見てくれてる方ががこっちとしてもやりやすいわ」
「はぁ…まぁ、大丈夫だと思います。皆いい人たちだし」
「そう、ならよかったわ。でね、ここからが一番大事というか聞いておきたいことなんだけど」
「は、はい。なんでしょうか」
ソーマがドッリオに視線を合わせる。
(何を聞かれるんだ?)
今日の模擬戦の感想か、ウィザードとなった経緯か、501にいた時の話か、自分自身の話か、それともまるで無関係な不真面目な話か。
色々な可能性をソーマが予想しているとドッリオの口から質問が飛び出した。
「誰が一番好き?」
「は?」
あまりに突拍子のない質問。
パンチが正面から来ると思っていた身構えていたら横からボディブローを食らったような、ドッリオの質問はそんな大きな衝撃を伴ってソーマに届いた。
「何の話ですか?」
「この部隊のウィッチで彼女にするなら誰かって話よ。皆それぞれ違う方向性で可愛いし、二日経って気になる子は見つかったかなって。誰?誰?フェル?ドミニカ?それとも竹井?もしいるなら喜んで応援するわよ」
「なんでそんな熱こもってらっしゃるんですか?」
-すごい食い付いてくるなこの人
何故か異様なまでに興味深々なドッリオの眼差しにソーマは気圧されてしまう。
「あっ、なるほどなるほど。そういうことね」
すると今度は一人納得したような顔になるドッリオ。
その顔を見ただけでソーマには嫌な予感しかしなかった。そしてその予感は間もなく現実となる。
「501にもういるのね。付き合ってる子が」
「いません!」
即座に声を大にして否定の言葉が出た。そのスピードはハリケーンリンクスでジェットを使用した時に匹敵する程だ。
「いるわけないでしょうが!」
「違うの?てっきりそうかと」
「違いますって。第一501にいた皆とは一人たりともそういう関係じゃないです」
「そうなの?一人も仲良かった子いないの?付き合ってるとまではいかないまでも」
「仲が良かった…それはいないことはないですけど…」
顔を合わせながらも視線はそっぽを向き始めたソーマ。
一方のドッリオはまたしても悪事を思い浮かべたいたずら小僧にも似た表情をするとソーマに向かってこんなことを口にし出した。
「なら私となってみる?そういう関係に」
「はい?」
放たれた言葉を相手がきちんと意味をくみ取って把握するよりも前にドッリオは腰を上げてソーマに近付く。
反射的に後ろへと引き下がっていくソーマだがあっという間に背中が壁際に当たり、逃げ場を失ってしまう。
彼は間近に迫ってきたドッリオにたじろぐ。
「な、なにを…」
「ふふ、可愛い。私ね、気に入っちゃったの貴方のこと。だから貴方にも私のことを気に入ってほしいの…」
言いながらドッリオは背を曲げて顔を近付ける。
豊かな谷間を見せびらかすようなそのポージングは実に煽情的でまるで悪魔に誘われているような感覚になる。
視界に入れぬようにそっぽを向いているがどうしてもその圧倒的な存在感が気になって、いけないとわかっていてもついつい視界の端に入れてしまう。
「ダメ?」
「…ちょ、ちょっと待って…急にそんなこと言われても…」
「焦らなくてもいいわ。まずはお互いを知ることから始めましょう。きっといい関係になれると思うわよ。私たち」
煽るようにドッリオが益々背中を丸めて僅かに空いた距離を詰める。
それはどんどん彼女のふくよかな谷間が近づいていることを意味していて、逃げ場のないソーマは目を閉じようと体に言い聞かせても食い入るようにそれを見つめてしまう。
頬が紅潮し、心臓の鼓動が異常に早まっている。自らの体に起こっている異変に気付いていながらもソーマの意識はドッリオに完全に集中していた。
「ここは男湯ですよ隊長。なんで隊長がいるんですか」
その声が浴場内に反響した瞬間,温かい湯に身を癒されているはずのドッリオの体感温度が一気に低下した。
奇しくも先のソーマと同じように
「あっらーもうバレちゃったか…って、竹井?…か~な~り…不機嫌そうね」
ドッリオが背後を振り替えるとそこには腕を組む竹井の姿。
柔和な笑顔で佇んでいる竹井だが目の奥は静かな怒りを宿していた。
最初こそ普段通りの朗らかな笑みで乗り切ろうとしたドッリオがその視線を真っ直ぐ突き付けられたのを認識すると、その笑顔を引き攣らせた。
「当たり前です。何度も何度もソーマさんに迷惑かけて。今度という今度はキツいお叱りさせてもらいますからね。ごめんなさいソーマさん、せっかく休んでいるところ。今からでもゆっくり休んで」
「あ、いや」
ドッリオに対しては冷ややかに厳しく、ソーマに対してはあくまでも平常時と変わらない対応の竹井。
それが益々ドッリオに恐怖心を植え付ける。
「さぁ、行きますよ。今後一切こういうことができないようにお灸を据えさせて頂きますからね。覚悟してくださいね」
「痛い痛い。ごめん、ごめんって竹井。悪ふざけが過ぎたのは謝るから!そんな強く引っ張るのはやめて。竹井ってば、ねぇ、聞いてる~!」
戸が閉まった音が浴場内に響き、ソーマは大きく息を吐き湯の中に鼻から下を沈める。
「本当になんなんだあの人」
夜、自室のベッドに寝そべりながらソーマは今日あった出来事を振り返る。
いいことも悪いことも含めて色んな出来事が起こり過ぎた。
朝食の場で改めて行った自己紹介、前日にも簡単にはしたが結構緊張した。
アルダーウィッチーズの皆との模擬戦、混成チームの中で一番に落ちたのは悔しかったが皆錚々たる実力者で実戦では助けられることも多々あるだろう。
ルチアナとジェーンが作った夕食、あれはかなり美味しかった。
宮藤やリーネの料理にはない味があった。明日にでも二人に料理を教えてもらえるよう頼んでみようか
そして
『一人も仲良かった子いないの?』
浴場でドッリオに言われたその言葉が頭から離れない。
他にもフェルや竹井から言われたことは山ほどあるのに何故か一番記憶にあるのはそれだった。
その理由が考えても心当たりがなく、妙にもやもやする。
それから暫くソーマは手にしたハリケーンリンクスの指輪を見つめていた。
意外なことにお風呂場でのラッキースケベに立ち会ったのはこれが初のソーマだったりする。というより風呂に入っているソーマすらもこれが初めてなので当たり前ではある…
501ではやってなかったんだなと今更ながら今回で気付いたのでいずれ二期の方でお風呂回はますますやりたくなりましたね…二期…お風呂…尻…ミーナちゅ-(どこから弾丸のごとく飛来するヒップ)(床に倒れ伏す作者)