「暇だねーフェルたいちょー」
「そうねー。この後の訓練までどう時間潰そうかしら」
「午後の訓練の後もやることなくて大変だよ。どうする?」
「このまま部屋に戻ってもやることがないのは一緒だしねぇ。どうしたものかしらねぇ」
時刻は朝、フェルとマルチナは暇を持て余していた。
というのもここ最近はネウロイの襲撃もなく、ルチアナとジェーンのように料理や後片付けを担当することもなく、前基地からの引っ越し作業やソーマの歓迎会という大イベントも終わってしまった現在のヴェネツィア基地のこの時間において二人は何も抱えていない。
要は時間の使い方に悩んでいた。
なので特に行く当てもなくただ彷徨うように適当に基地を歩き回りながら何の中身も進展もない会話をしている二人。
「何してるの竹井ー」
そうしていると格納庫で積み荷に囲まれている竹井を発見する。
マルチナの声に反応して振り向いた竹井。その手にはリストが握られている。
「昨日届いた搬入物資のチェックをしているのよ。本当は昨日の内にやっておきたかったのだけどできなくて」
「ほんと仕事熱心よね。毎日ご苦労様よ」
感心しながらフェルは置かれた荷物に目を走らせる。銃器に弾薬、食料、各地から届いた物資の詰まった木箱が並んでいる。
「ねぇ竹井。これ何?基地の設備とは関係なさそうよ?見た感じの大きさからして」
その中でフェルが見つけたのは両手で持てる程度の木箱。一見した限りでは弾薬や食料のようなものが入っているように見えない。
興味を引き寄せられたマルチナも実際に持ってみると重さは見た目の想像以上に軽く、ウィッチの魔力を発動せずともいとも簡単に持ち上がった。
「なんだろうね。何が入ってるんだろ」
「えっと、それはソーマさん宛てになってるわね。ガリアからの物資みたい」
「あいつに?ガリアってことは501関連かしら」
物資のリストを確認しての竹井の言葉にフェルがそう返す。
「そうかもしれないわね。悪いけど持ってってあげて。この時間は確か厨房の方にいたはずだから」
「しょうがないわね。行ってあげてもいいわ」
「ちょうど暇してたところだしね」
いつものフェルならば「どうして自分が」といった類の小言を吐いていたところだがマルチナの言葉通り今回は素直に受け入れるだけの理由があった。
「よいしょ。案外軽いわね。いくわよマルチナ」
「はーい」
フェルは木箱を持って厨房を目指し、マルチナはその後を追いかけた。
★
「ごめんなさいソーマさん。手伝ってもらちゃって」
「ありがとうございます」
「いいっていいって。むしろ料理作ってもらったんだし二人にはゆっくりしてほしいくらいだよ」
ところかわってその食堂ではソーマとルチアナら四人が同じ卓に座りながら談笑していた。
卓の上には食後のおやつとしてジェーンお手製のビスケットが皿に盛りつけられていて、四人はそれに手を伸ばしては口の中に入れていく。
「うん、相変わらず私の好みを抑えた絶妙な味わいだ。本当にジェーンは何をしていても最高だな」
「ジェーンのこと好きなのはわかるけどさぁ。本人目の前にしてそんなはっきり言うかね」
「いいものをいいと言って何が悪い。それにジェーンが私にとって最高な存在だというのは揺るがない真実だ。真実を口にすることに私は何ら恥とは思わんぞ」
(言われた方がその分恥ずかしいと思うんですけど。この感じ、ペリーヌみたいだな。いや厳密にはペリーヌともちょっと違うんだろうけども)
そう。ドミニカのジェーンに対する姿勢は坂本に対するペリーヌと既視感を覚えるが似ているようで割と違う。
ペリーヌは本人を目の前に尊敬を口にすれど愛情めいたものをここまで堂々と恥じらいなく言うことはなかった。
「ちょっと失礼。入るわよー」
するとそこにフェルとマルチナがやって来て、ちょうどドアが見える位置に座っていたジェーンが二人に気付く。
「フェルさんなんですかその荷物?」
フェルの抱えてきた木箱に食堂にいた者たちは一斉に疑問を持つ。四人の視線を集めるそれを机の上に置くとフェルはソーマを見る。
「さっき来た物資の中にあったのよ。ガリアからあんた宛てだって」
「ガリアから?誰からだ…?あ、ありがと」
「いえいえ」
ビスケットに手を伸ばして食べるフェルへの感謝を忘れずに言いながら木箱を開封して中身に手を突っ込む。
フェルを始めとする他の面々もソーマの周りに集まって一緒になって中身を確認する。
まず出てきたのは
「ティーカップ?」
「それは俺が向こうにいた時に使ってたやつだな。こんなのわざわざ送ってくれなくてもよかったのに」
青いスペード、緑のダイヤ、赤いハート、濃い紫のクラブの絵柄のマグカップ。
ブリタニア基地で余っていたのを拝借し、501着任時から使用していたものだ。
「で…これは、茶葉かな」
「茶葉みたいですね。カモミールって書いてあります」
次に箱から出したのは茶葉。カモミールの他にもダージリンやアールグレイなどそれなりの種類の物があった。
そしてそれ以外にもまだあった。
「へがみゃもはぃふぇるよ(手紙も入ってるよ)。はい」
「どれどれ」
ビスケットを口の中で噛み砕きながら話すマルチナから封筒を受け取り、裏面を見るソーマ。
そこに書かれていた差出人の名前は
「ペリーヌからだ」
「501の仲間か?」
「ああ、ガリアの貴族」
「貴族なんだ。マルチナと同じね」
「そうそう…は?え?今なんて?」
「そんなことはいいからさ。中身教えてよ中身」
「あ、ああ」
サラッとフェルの口から飛び出た衝撃の事実にソーマは耳を疑い、詳しく問いただそうとするがそれは当の本人によって遮られてしまう。
すごく、すごく気になったがマルチナの勢いに押し負けてソーマは封筒を開いて手紙の内容を読み上げる。
「『ソーマさんご無沙汰しています。ペリーヌです。勝手ながらミーナ中佐から配属先を聞いて、ブリタニア基地にあった貴方の私物を送らせて頂きました。それと勝手ですがこちらで用意したものもありますのでもしよろしければ配属先の部隊の方とご一緒に召しあがってください。分けても多少余る程度の数は入っておりますので』」
「これ私たちももらっていいんですか?」
「いいよいいよ。さすがには一人じゃ全部はさばききれないし、向こうもそのつもりで送ってるみたいだし」
ルチアナの言葉に顔を上げてそう言うとソーマは再度文面を読み上げる。
「『最後になりますがガリアをネウロイの手から解放してくださったこととても感謝しています。今度お会いした時に改めてお礼をさせてください。それまでどうか大事なきことを祈っています。お身体にお気を付けてお過ごしください』」
「へー、いい仲間を持ってるじゃない。で、これがその仲間たちとの写真?」
「写真?」
「中に入ってるわよ。ほら」
フェルに言われてソーマは手紙を一旦置いて箱の中を覗き込む。
そこには確かに写真立ての中に納まっている写真があった。
「あの時のか」
それはウォーロックを倒して数日後の夜ブリタニアを解放した記念に撮ったものだった。
501皆が写っている初めてにして唯一の写真だ。
「ねぇそのペリーヌって人はどれなの?」
「えっと、この眼鏡の」
ソーマが写真の中のペリーヌを指差すとマルチナが顔を近付けて見つめる。
「これがそうなんだ。どんな人?」
「どんな人…うーん…この中似てるって言ったらドミニカが近いかな」
「どこがだ?見た目は全然似てないぞ」
「あー…見た目っていうか入れ込み具合?特定の相手への」
「何を言ってるのかさっぱりわからん」
食べかすが端に付いた口を「へ」の字にして首を傾げるドミニカ。一方で彼女以外の面々はソーマの言わんとしていることが伝わったのかあえて捕捉は言わずに「あー」と納得したような顔をしていた。
それらの顔を見てもさっぱりな様子のドミニカは関心の対象をペリーヌから写真にある別の人物に移し替える。
「ミーナ中佐もいるな」
「知ってるのか?」
「前によくしてもらったことがある。いい上官だった。ここに来る前はミーナ中佐のところに行こうと思ったんだが扶桑から新人が来たとかで定員が一杯だったようでな」
「新人、あー宮藤のことかそれ」
「ミヤフジ?聞いたことのない名前ね。このあんたに腕を回してるのがそう?特に仲良さそうだけど」
「それはシャーリーってリベリオンの所属。宮藤はこれ。このミーナ中佐の隣にいるのが宮藤」
ソーマは写真の中の宮藤に指先を置く。
写真の中の彼女はミーナの隣でしかも中心あってかやや緊張気味な笑顔を浮かべている。
「へーなんだか可愛らしい子じゃない。見た感じすごく好きになれそうだわ」
「こう見えて見かけに寄らずかなりの治癒魔法の使い手なんだぞ」
「この人も治癒魔法使うんだ」
「フェル隊長と同じですね」
「ま、私の治癒魔法の方が断然上でしょうけど」
ルチアナの言葉に自信満々に胸を張るフェル。
フェルも治癒魔法には一家言あるのだ。
「ちなみにそのミヤフジって子の治癒魔法はどれだけのものなの?」
「結構すごいぞ。ネウロイのビームで二回と銃の弾を腹にくらったので三回くらい死にかけたことあってその度に助けられたよ。宮藤がいなかったら今頃こうしてないかもな俺は」
「なによそれ…」
一応の参考までに、くらいの気持ちで尋ねたフェルにとって完全予想外の解答が飛んできたことで彼女の中でさっきまでのあった自信が打ち砕かれた。
擦り傷を治す程度の治療は幾度となく余裕でこなしてきたがネウロイのビームを受けた人間の治療という生死に関わる治療の経験はない。それだけでもすごいというのにしかも死にかけの人間を三回も救っている実績があるという。
自分にはない、これから先もできないであろう実績を相手にこの上ない敗北感にフェルは打ちのめされた。
「フェル隊長よりすごいかもね。残念」
そこに傷口に塩を塗るかのようなマルチナからの追い打ちが飛んでくる。
ぐぬぬ、と唸るフェルが何か言い返そうとして口を開いたそのタイミングでジェーンがソーマに声をかけた。
「ソーマさんもすごいですね」
「何がだ?」
「あ、いたいた。探したわよー」
言葉の真意を問うたソーマにジェーンから答えが返って来るかと思われた時、新たに食堂に入ってきた声が一同の視線を集める。
ドッリオだ。
「あら、いいもの食べてるじゃない。私ももらっていいかしら」
「探してたって、ドッリオ隊長誰を探してたの?」
「ソーマよ」
「俺?」
自分を指差すソーマだが、直後以前の風呂での一件が頭を過ぎり一気に不安が大きく膨らむ。
-また何か厄介ごとに巻き込まれそうだな。嫌だなと
彼の顔色が変わったのを見てドッリオは卓の上のビスケットを摘まみ上げながら誤解を与えないようにと即座に訂正する。
「貴方に電話が来てるわ。私の机に番号を控えた紙があるからかけてきちゃいなさい」
「は、はぁ」
★
(一体誰からだ?)
執務室に移動したソーマは言われた通り電話番号の記された用紙を手に取り、それを見ながら電話をかける。
ドッリオが「ゆっくり話してきなさい」と気を利かせてくれたので周りには誰もいない。
ちなみにフェルとマルチナは電話の相手と内容が気になったのかこっそりと付いてこようとしたがその素振りを見抜いたドッリオによって雑用を押し付けられたのだが、ソーマがその事実を知ることはこの先ない。
「もしもし」
『久しぶり。元気にしてるかしら』
電話越しに聞こえてきた声。それにソーマは目を見開いて喜びに満ちた表情を浮かべ、その表情に見合った弾んだ声で相手の名を呼ぶ。
「その声、ミーナ中佐か!」
『ええ、覚えてくれて嬉しいわ』
ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズの隊長にしてソーマにとってかけがえのない大切な存在の一人だ。
「そりゃ忘れるわけないって。すごくお世話になったんだから。でもどうして俺に電話なんて」
『ガランド中将が直属の上司になったとはいえ貴方はまだ私の部下でもあるのよ。部下の近況を把握しておくのも上官の務めだもの…嘘、ただ公の理由抜きに話がしたかっただけ。どうかしら?504は。さっきドッリオ隊長と話したけど着任早々大活躍だったみたいね』
「大活躍って言う程大それたもんじゃないさ。まぁなんとかうまくやれてるよ。部隊は皆いい人ばかりだし。あ、そういえば中佐に前に世話になったってウィッチもいるんだ。誰だと思う?」
「そうなの?えっと…ごめんなさい。ちょっと見当が付かないわ」
「ドミニカって言ったらわかる?」
『ドミニカさん?彼女今504にいるの?ブリタニアの部隊に配属されたって話は聞いていたけれど』
「そうなの?じゃあそこから504に配属になったんじゃないのか?」
『今そっちにいるならそういうことだと思うけど…どうかしら』
電話と国境を挟んでいながら仲良く困惑する二人。これ以上この話を広げても無駄と判断したソーマは話題を振った手前申し訳ないと思いながら別の話題を振る。
「ああ、さっきペリーヌから写真届いたよ。中佐が教えてくれたんだろ?」
『ええ、すごく心配してたわよ。貴方が別の場所に配属になったと聞いて』
「ペリーヌが…?」
『お返しの手紙でも送ってあげたらどうかしら。きっと喜ぶと思うわよ』
「そうだな。そうしてみるよ」
ミーナの言葉に穏やかな声色でソーマは返した。
『今日のところはこれで切るわね。これから別の仕事に集中しないといけないから』
「了解、忙しいところわざわざありがとう。それじゃあ」
ソーマがそこで会話と電話を打ち切ろうとした時電話口のミーナから呼び止められた。
『ああ、ちょっと待って、最後に一つだけ』
「ん?」
受話器をかけようと下げた腕を再度耳元に当てる。
『何かあったら遠慮なくすぐ連絡してちょうだい』
「わかった。悪いな、気にかけてもらって」
『いいのよ。家族でしょう私たちは。悩みとか相談でも何でもいいから頼って』
「……そうだな。ありがとう」
その言葉を最後に今度こそ会話は終わりソーマの方から電話を切った。
ゆっくりと静かに受話器を戻すが、何故かソーマはその場を離れるどころか電話機を見つめたまま動かず佇んでいた。
(家族を頼れ、か…俺にそんな資格あるのかな…皆を裏切ったおきながらどの面下げて)
窓から差し込む日差しが顔を照らす。しかしだというのに彼の顔には色濃く陰りがあった。
☆
(元気そうなのは安心したけど…なんだか少し心配ね。大丈夫かしら)
カールスラント基地の数ある執務室の中の一つで電話を終えたミーナはその美麗な顔に憂いの陰を作っていた。
というのも彼女にはソーマに関して心配事があった。
ウォーロックとの戦いの時に受けたビームや銃弾の負傷は宮藤のおかげで完全に問題はないから身体的な面では心配はしていない。
それ以外の面、精神的な面で彼が何か問題を抱えているような気がしてならなかった。
そしてさっきの会話の中で時折何度か生じた間。それがミーナの疑念を確信に変えた。
(いえ大丈夫よね。彼ならきっと)
501以外の部隊。新たな家族と環境。
それが彼にとって良い方向に作用できれば何かいい変化を与えてくれるはず…今のミーナにはそう祈ることしかできない。
過去トップクラスに安直なサブタイトルだと思う…でも今回これくらいしか思いつかないの…サブタイトルって考えるの難しいですね!(今更感)
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