ストライクウィッチーズ~約束の空~   作:カメクリオ

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第三十三輪 夢の邪魔

「あーあ、見つからねぇな。どうすっかな」

 

穏やかな風吹く街のある家の屋根の上で足を交差させて寝そべる者がいた。

地上との距離は相当なもの。

一歩間違えれば地面へと真っ逆さま、決して軽傷では済まない傷を負うのにそんな可能性などまるで考慮していないかのように彼はその場を動かず、ただただ晴天を仰いでいた。

 

彼の心中にあるのは一つの存在。人間の身を超えた力を持ち、人類の希望ともてはやす声が近頃増えてきたウィッチではない者。

それに対して彼は弱くはない大きな感情を向けていた。

今すぐにでも会いたいほどに。ただその存在の所在を彼は知らない。見つけようとしても見つからない。

 

だから彼はこうしてその存在の顔を眺め、頭の中で思い浮かべることしかできなかった。

 

「早くそのキラキラ鬱陶しそうな顔面を粉々に磨り潰してやりたいぜ」

 

誌面にある色とりどりの姿を使い分けて砂漠でネウロイと戦うウィザードの写真に向かって彼は笑顔を浮かべた。

 

「こんなところで何を油を売っていていいの?」

 

そんな彼に声をかける者がいた。

彼が声の発声源、地上に目を向けるとそこには女がいた。

 

「あんなに息巻いていた割には随分静かじゃない」

 

「俺には俺に合ったやり方ってのがあるんだよ」

 

「嘘おっしゃい。大方、見つからなくて困ってるんでしょう。ウィザードが」

 

その言葉に彼は小さく舌打ちをする。

真実を言い当てられて苛立ちが生じたからだ。

 

「助け船、出しておいたわよ」

 

「本当か?」

 

聞き返す彼はそれまでとは打って変わって上機嫌になり、勢いをつけて屋根から飛び降りるなり女の肩に手を回す。

 

「ありがてぇ。やっぱあんたは話のわかる奴だぜ。なぁメアさんよ」

 

「調子のいいこと」

 

女は即座に手を払いのける。しかしその動作の割には表情に嫌悪はなく優雅とさえ思える程に美しい笑みを保っている。

 

「けどあれだな。結局待つだけってのは変わんないわけだ」

 

「そんなに待ってるのが嫌ならいっそのこと眠ってみたら?いい夢を、見せてあげるわよ」

 

「シャレにならない冗談やめてくれ。俺らがあんたに頭が上がらない理由わかってて言ってんだろそれ」

 

「ええ、もちろん」

 

(怖え女…)

 

女の態度に彼は心でぼやいた。

彼はお調子者であっても馬鹿ではない。

もし女の気を損ねるようなことをすればどうなるかをよく知っているからだ。

 

だから彼はその選択をした。そして女もそれをわかっているのか彼に対して依然として笑みを向け続けていた。

 

 

 

 

 

 

「包丁の音?誰か食堂にいる?」

 

早朝、基地内を歩いていたルチアナは不審に思った。

向かっている食堂の方向から包丁を立てる音が聞こえてくる。

 

音自体に問題はないが今日の朝食の当番は彼女だけ。なのに自分よりも先に食堂で料理を作っている者がいるであろうことに疑問を持ったからだ。

 

食堂の扉付近まで辿り着いたルチアナは僅かに開きっぱなしになっていた扉を押して中に入る。

キッチンの方に目を向けるとそこにはソーマがいた。

 

「ソーマさん!?」

 

彼の姿を認めたルチアナは大慌てで壁に立てかけられたエプロンを身に着けて駆け寄る。

対してソーマの方はというとルチアナの声にトマトを刻んでいた手を止めて、彼女の方を見る。

 

「おはようルチアナ」

 

「ソーマさん、いいですよ。私がやりますから、ソーマさんは休んでいてください」

 

言葉を交わすなりルチアナはソーマに代わるよう進言する。

 

「大丈夫、俺にやらせてくれよ。久しぶりにご飯作りたくてさ」

 

「でも今日の当番は私ですし…」

 

ソーマの意を汲みたいけれど当番である自分が何もしないわけにもいかない。

そんな迷いが瞳と表情に出ていたルチアナを見てソーマは穏やかに笑う。

 

「だったら一緒に作ろうか。ルチアナの料理を作るところ見たいし、それでいいかな?」

 

「はい、それでよければ…私で参考になるかわかりませんが」

 

ソーマの出した折衷案に納得してルチアナも共に料理を作り始める。

主食と前菜に別れて作業を分割して品を作っていく。

 

「あちらでも皆さんの料理を作られてたんですか?」

 

「頻度的にはそうでもないけどな。俺よりも皆の舌を満足させられる一流のシェフがいたし」

 

「へぇ、ちなみにどなたなんですか?」

 

「こないだ話に出た宮藤っていたろ?その子とリーネ、じゃなくてリネットか。その二人が主に料理当番してたんだよ。宮藤が扶桑出身でリーネも宮藤に料理を教わってたから出てくるのは扶桑料理が多かったな」

 

それを聞いてルチアナはソーマと501部隊との写真を、次に宮藤の顔を思い浮かべる。

 

「扶桑の料理ですか。竹井さんもたまに扶桑の料理の話をされてますけど変わったものが多いそうですね。腐らせた豆があるとか」

 

「納豆のことか。あれは確かに匂いとか粘着きとか癖があって人を選ぶよな。でも美味しいぞ。501でも初めは不評だったのが皆慣れてきてたよ。カールスラントとかリベリオンの仲間にもウケがよくてさ、別れ際には宮藤の扶桑料理が食べれなくなるのが悲しいって言うのでいたくらい」

 

「そんなに美味しいだなんて、少し気になってきましたね。竹井さんに言えば作ってもらえるでしょうか」

 

「今度頼んでみたらどうだ?ただ竹井大尉が好物かどうかはわからないが」

 

「そうですね。試しに聞いてみます」

 

お互いにとってこれが初めて行う一対一の会話になるが特に不穏な空気が訪れることはなく、終始和やかに会話も料理も進んだ。

後の残りの作業は他の面々が来てからにしようという方向で休憩に入った二人は一息ついて椅子に座り、ペリーヌから頂いたカモミールティーを飲み物にささやかな談笑タイムに入る。

 

ルチアナはソーマから501の仲間の話を、ソーマはルチアナから504の仲間の話を、それに区切りが付けばお互い自身の話を。

原隊がロマーニャ軍所属という共通点もあってか話は尽きることはなかった。

 

「あっちゃぁ~」

 

とその話の最中ソーマが自分の服の袖を見て声を上げた。

 

「どうしました?」

 

「ここ、いつの間にか破けてた。いつ破けたんだ?」

 

ソーマはルチアナに腕の裾を見せる。裾部分には決して大きくはないが小さくもない程度の穴が開いていて、そこからソーマの肌が覗いていた。

それ以外にもよく見れば生地の消耗具合が激しく傷んでいるところが多く見受けられた。

 

「また新しいの申請しないとな。でも後一着しかないんだよな。どうすっかな」

 

直近でロマーニャ空軍の軍服は四着あったのだが内二着は人型ネウロイ、ウォーロックとの戦いでおじゃんになり、一着はたった今傷ができてしまった。

補充をしようにも異動のごたごたでその余裕もなく今日まで来てしまったために残り一着でどう工面したものかと頭を悩ませる。

 

「ちょっと見せてもらっていいですか?」

 

「ああ、はい」

 

下にシャツを着ていたため抵抗なく軍服を脱いでルチアナに渡す。

律儀に軽く会釈して受け取った彼女は傷口をじっと見つめると落としていた視線をソーマに向けた。

 

「これくらいなら私が治せますよ。よろしければやりましょうか」

 

「いいのか?ならお願いするよ」

 

「では少しの間お預かりしますね」

 

そう言ってルチアナは軍服を自分の隣の椅子に畳んで置く。

 

「裁縫得意なのか?」

 

「まぁ一応軍に入るまではそっちの道目指して勉強してたので」

 

ルチアナの顔をじっくり見て、声色を聞いてソーマは感じ取った。

趣味程度ではなく本気でなりたいと思っていた者にしか出せない種類のものだと。

 

「夢だった?」

 

「元々軍にもウィッチ用の装備を作るつもりで入ったんです。夢に繋がる勉強にもなると思って。それで軍に入隊して射撃の訓練してたところをフェル隊長に声をかけられてで、そのままあれよあれよといった感じです。でも諦めたわけじゃなくて今のこういう状況が落ち着いたら本格的に目指してみようかなと」

 

「そっか…」

 

視線をルチアナから手元のカップに落とすソーマ。心なしかどこか痛まし気な顔が紅茶の水面に映っていたが彼は水面に映る自分の表情に気付かない。

 

「是非叶えてくれよその夢。ルチアナの夢叶ったら俺も嬉しいし」

 

「ありがとうございます。その時はソーマさんのお好きな服を作らせて貰いますね」

 

「そんな特典付けてもらちゃっていいのか?」

 

ニヤリ、とソーマは意地の悪い笑みを出す。

悪ガキ、という言葉が当てはまるようなその顔を見てルチアナは苦笑する。

 

「さすがに限界はありますけど可能な限り要望に答えられるようにその時までに腕を磨いておきます」

 

「そんな大げさな。冗談だったし…俺そんな意地の悪い奴に見えたか?」

 

「失礼ですけど…今の表情はかなり」

 

「それはごめん」

 

目を泳がせておちゃらけてみせるソーマ。直後ルチアナは柔和な笑みと共に軽く吹きだし、それに釣られてというより気を良くしてソーマも微笑んだ。

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

ちょうどその時通路を歩いていたマルチナは食堂のドア際に立つある人物を見て声を上げた。

突っ立っているだけでなかなか中に入ろうとしないように見えるその姿に疑問を感じたマルチナは声をかけようとする。

 

「あ、行っちゃった?」

 

けれど声をかけるより前にその人物は食堂を後にしてしまった。

マルチナは首を傾げた。どうしてかその背中がいつもより小さく思えたから。

 

 

 

 

「フェルの様子がおかしい?」

 

「ああ、薄気味悪いくらいだ」

 

ドミニカの発言に竹井とウィザード・ランドスタイルは眉を潜める。

実戦での戦術を組み立てるためウィザードの魔法を把握したいという竹井の言でソーマは外で各スタイルへの変身・戦闘用・非戦闘用、今ある全ての魔法を彼女に披露していた。

 

ドミニカが訪れたのはそのお披露目会が終盤も終盤に差し掛かった頃、一緒になってウィザードの魔法を見物しているところに突然放たれたのが先刻の言葉だった。

 

「変な物を食べたわけでもないのにずっと口数が少ないのがどうにも引っかかる。何かあったのか?」

 

「私も朝食の時からいつものフェルらしくはないとは感じていたけど、何かって言われても」

 

竹井もフェルがいつもと違うと感じてはいたが思い当たる節はなく首を傾げながら答える。

 

「直接本人には聞いてみたのか?」

 

「もちろん聞いた。なんでもないと返されてな。どう見てもなんでもないわけではない覇気のない顔だったが」

 

-それは確かになんでもないなんてことはない。

普段のフェルを見ている竹井やドミニカにはそれを額面通り受け取るほど鈍感ではなかった。

無論二人に比べて日の浅いウィザードも同様だった。

 

「ルチアナやマルチナは?二人にも何か変わったところは?」

 

「いや、あの二人はいつも通りだったな。特に変わった感じはない」

 

「ならどうして…」

 

昨日までは普通だったはずの人物がまるで別人のようになった異変に竹井とドミニカも答えが出ず悶々としている。

 

(確かめてみるか)

 

そんな二人と心地良いくらいに晴れ渡った青空、それぞれにソーマは目をやった。

 

 

 

 

(初めて聞いた。あんなの)

 

フェルは自室のベッドで赤ズボン隊の制服を脱いだ下着姿で横になり、天井をぼんやりと眺めていた。

 

二人の会話を耳にしたのは偶然たまたまだった。

たまたま開いているドアの隙間から聞こえてきた声が気になって足を止めただけだ。しかしそのせいで聞いてしまった。

 

服飾の道に進みたいというルチアナの夢を、自分が声をかけたのが理由で前線にいることを、そして夢の話を楽し気に語る彼女の眩しい笑顔を

 

「私、ルチアナの邪魔してたのかな…私があの時声をかけたりなんてしなかったら今頃ルチアナは夢のために進めたのに、私がそれを今日までずっと…」

 

ルチアナはああいう性格だから本当は今すぐ夢への道に行きたいと心底望んでいても自分に気を遣って飲み込んでしまっているのでは?

もしこのままずっと自分がルチアナの側にいれば彼女の夢はこの先ずっと叶うことはないかもしれない

本当はこれまでに夢を成就できる機会があったのに自分が誘い込んでしまったためにその機会を奪ってしまったかもしれない。

 

(ルチアナには私が邪魔なのかしら。その方がルチアナは今よりも幸せになるかも)

 

そんなことを考えれば考える程罪悪感は深みを増してフェルの胸を締め付ける。

 

「-うわぁぁ!?」

 

その時、開いた窓からレッドガルーダが入って来た。

いきなり音沙汰なしに飛び込んで目の前に浮かん来た奇妙な存在にフェルは悲鳴混じりの驚きの声を上げながら起き上がる。

 

-ゴツン!!

 

だがそのせいでレッドガルーダに盛大な頭突きをかましてしまう形になってしまう。

 

「ぃったー!なんなのよこれ」

 

頭を抑えながらフェルはそれまで考えていた悩みを吹っ飛ばして、恨めしそうな目でレッドガルーダに注目する。

鳥のようであって鳥ではない明らかに生命体ではないそれに戸惑っていると窓の外からまた別の声が聞こえて来る。

 

「どーこ行ってるんだよ。おーい、ガルーダー?かくれんぼのつもりかー?でてこーい」

 

声の主はソーマ。ガルーダの侵入してきた窓の外から顔を突き出した彼は目的のガルーダと、ついでにその隣にいる下着姿のフェルと目が合った。

 

「あ」

 

たった一音を溢してまるで想定していなかった光景を目にしてしまったとばかりの目でフェルを見つめるソーマ。

突然の出来事に双方共にピクリとも体を動かさない時間が流れる。

そして

 

「な、何見てんのよー!!」

 

「おぶっ!?」

 

ようやく状況を理解し、羞恥に顔を赤く染めたフェルの投げた枕が寸分の狂いもなくソーマの顔面に直撃した。

 

 

 

「…で、何か言うことは?」

 

「ごめんなさい。わざとじゃないんです…」

 

それから時間を置いたフェルの部屋には制服を着直した部屋の主と正座して合わせる顔がないと言わんばかりに床に視線を落とすソーマがあった。

 

「まぁ、開けっ放しにしてた私にも非はあったし今回は大目に見てあげるわ。それで、なんだって私の部屋に来たわけ」

 

「えっと、俺の使い魔、ああ、その鳥を探してたんだ。竹井大尉にさっき魔法を見せてたんだけどその最中にいきなり勝手に飛んでっちゃったんだよ。それで追いかけてたら、あんなことになってしまった…わけでして」

 

「ふーん…」

 

顔を上げて説明をするソーマにフェルは目を細める。にわかには信じられないという眼差しを向けて

 

「それよりさ、なんかあったか?」

 

「何よ急に」

 

藪から棒に話題を切り替えてきたソーマにフェルは困惑の顔を浮かべる。

 

「いや、なんていうかさ。こう…今日のフェルはいつものフェルらしくないって感じがしてさ。なんかあったのかなって」

 

その言葉にフェルは喉を詰まらせる。

同時に思い出す。先ほどまでの抱いていた悩みを、その悩みの根源たるやり取りこそルチアナとソーマの会話の中にあることを。

けれどフェルは迷わずそれを話すよりも隠すことを選んだ。

 

「……別になんてことないわよ」

 

「そうか、俺の気のせいだったみたいだな。変なこと聞いて悪かったな」

 

そう言ってソーマは立ち上がり扉へと向かい手をかける。

そのまま扉を押して去ると思っていたフェルだがその予想に反して彼は振り向いてこんなことを言ってきた。

 

「俺でよかったらいつでも相談乗るから」

 

「何でもないって言ってるでしょ」

 

小さく呟かれたフェルの言葉を聞き届けてからソーマは静かにドアを閉めた。

 

「言えるわけないでしょ」

 

そう言えるはずもない。話してしまえばいずれはルチアナの耳に入ってしまう。

もしそうなれば今の関係に亀裂が生じてしまう。それだけならまだいい。

彼女に拒絶されるような結末になってしまうようなら…そうなってしまうくらいなら苦しくてもこのまま胸の内に抑え込んでおくのが賢明な判断だ。

 

その選択の結果ずっと胸が苦しむことになっても




夢とかそういう話になるとそうじて誰かしら曇り顔してるなぁ…この作品。
でも今回は原作にもある展開だから!私のせいじゃないもん!(という必死な言い訳をしてみる)


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