ストライクウィッチーズ~約束の空~   作:カメクリオ

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UA15000突破ありがとうございます!

相変わらず更新頻度の安定しない作品ではありますが今後もよろしければお付き合い頂けると嬉しいです。
読んでくださる方がいることが嬉しいですし、モチベにも繋がりますので…本当にありがたいことです。


第三十五輪 優しさという強さ

日付が変わって数時間。執務室でドッリオは帰還した竹井からの報告を聞いていた。

 

「そう、フェルが…」

 

フェルの撃墜、それを聞いて楽天家がウリのドッリオも真剣味を帯びた顔にならざるを得なかった。

 

「申し訳ありません。私がもっとしっかりしていれば」

 

「タケイの責任ではないわ。それだけ敵が手強かったというだけのことよ。貴方はよくやったわ」

 

ドッリオがかけた言葉は掛け値なしの本音であった。

分裂と増殖によって数を増やし、コア持ちの個体を困難にさせる特性を持つという今回のネウロイ。

彼女以外の誰かが指揮していたとしてもおそらく同じあるいはそれ未満の結末になっただろう。

 

「ネウロイのこともだけどそれよりもフェルの救出を優先しないとね…他の皆はどう?」

 

「帰投してすぐドミニカさんとジェーンさんには一時仮眠を取ってもらうようにしました。フェルの捜索に出てもらうために。たとえ数時間でも寝ないよりはマシですから」

 

「正しい判断ね。後の三人は?」

 

「マルチナさんとルチアナさんは自分の部屋で待機してもらっています。彼女たちにもドミニカさんたちとおなじように睡眠を取るようには言いましたがたぶん休めていないと思います」

 

「…そうね。なるべく今は二人をそっとしておいてあげて」

 

「そのつもりです。あの二人が一番ショックが大きいでしょうから」

 

赤ズボン隊の三人の間には特別強い繋がりがある。それだけにフェルの撃墜並びに行方不明はショックが大きく、心身共に落ち着ける時間を要するだろう。

最も時間は用意できても満足に休めるかどうかは本人たち次第と言うほかないのだが

 

「ソーマさんは自分から部屋に戻って休むとは言ってました。ただ彼もルチアナたちの様に休めないと思うんです」

 

「優しいものね。あの子も…どうか少しでも休めて欲しいわ」

 

どうか少しでも休めて欲しい。それはソーマに限らず、目の前の竹井を含めた全員に対して思った。

 

 

 

 

 

ソーマの部屋のカーテンは閉め切られていた。

カーテンの隙間から僅かに漏れる神々しささえ感じる月の光しか照らすものがない空間の中でソーマは座り、床に視線を落としていた。

 

(俺が指輪をちゃんと使えていたらこんなことには…)

 

後悔に苦しむソーマは床から掌に握るハリケーンリンクスウィザードリングへと視線を移した。

 

フェルがネウロイの攻撃を受けて落下した時助けられたはずだったのだ。

それができる力があると自覚していたし、実際に過去の戦いではフェルの救出をするには充分可能な超スピードを使えていた。

なのにそれができなかった。

 

(…なんでだ。なんで急に答えてくれなくなったんだ…あの時のあれは偶然だったのか…?それとも)

 

思えばそもそもハリケーンリンクスへの変身は他の四スタイルとは経緯がてんで異なる。

ペリーヌ・ハルトマン・シャーリーの体から出てきた光が変化した指輪の出現と共にその変身が可能となった形態である。

言うなればハリケーンリンクスの力には三人の力が含まれているに等しい。

となると考えられる可能性は

 

(この指輪は俺に使われたくないってことなのか?)

 

ハリケーンリンクスに変身した唯一の一回。その時はウォーロックを倒してガリアを解放するという共通目標が501全員の間にあった。皆が同じ方向を向いていた。

だからペリーヌやハルトマン、シャーリーの力とそれを扱うハリケーンリンクスへの変身はできた。

 

だがウォーロックを倒し、ガリアを解放した今彼女たち三人に裏切り者である自分に力を貸す理由などない。自分が彼女たちに拒絶されているから変身ができないのだと、そんな考えが浮かんだ。

 

 

「ソーマさん。まだ起きてますか?私です。ルチアナです」

 

指輪に視線を注いでいるソーマの耳にノックの後にそんな声が聞こえてきて顔を上げる。

 

「…うん。今開けるよ」

 

指輪を机に置いてドアに向かい、鍵を解除する。

ドアを開ければそこには不安気なルチアナの顔があった。

 

「どうした?」

 

「竹井さんには寝るようにって言われたんですけど寝れなくて…少しだけお話してもいいですか?」

 

「いいよ。入って」

 

ソーマは一礼した断ることなく部屋に招き入れる。彼女はベッドに腰掛けたソーマの横に座る。

 

「ごめんなさい。ソーマさんも眠らないといけないのに。私の勝手に付き合わせてしまって」

 

「そういう言い方しなくていいよ。気持ちはわかるから」

 

「そう言ってもらえると少し気持ちが和らぎます」

 

沈黙。そこから数分間二人の間に言葉はなかった。

ただじっと座っているだけだった。

 

それに対してソーマは機嫌を損ねはしない。

彼もルチアナを思いやれない程鈍感な男ではない。たとえ自分自身の不甲斐なさを責めている最中であったとしても

 

不気味なくらい静かに、美術品のように美しい雰囲気を醸しだした横に座るルチアナを上から下へと視線を動かして見つめているとソーマはあることに気付く。

 

(目が赤い?)

 

よく見てみると彼女の目は赤くなっていた。

袖にも注目していると黒い服の袖の部分に染みのような跡が浮き上がっているのがわかる。

 

この部屋に来るまでのルチアナがどんな様子であったのかをそれでソーマは理解した。

故に彼が伸ばした手でルチアナの手をそっと卵を扱う時のように優しく包み込んだ。

 

「大丈夫」

 

不意に訪れた温かな感触とかけられた言葉にルチアナは視線をそちらに向ける。

 

「フェルなら絶対大丈夫だ。きっと俺たちが助けてくれると信じて待っているはずだ。今は前向きに考えて俺たちにできることを全力でしよう」

 

「…そうですね。そのためにもまずは寝ないと、ですね……あの、もう一つだけお願いしてもいいですか?」

 

「なに?」

 

「今日はこのままここにいていいですか?一人だとまた心配事ばかり考えちゃってたぶん寝れないと思いますから」

 

「構わないよ。もちろん」

 

我ながらどこまでも勝手な要求だとルチアナ自身も思っていたがソーマは喜んで承諾してくれた。

 

ソーマは彼女にベッドを譲り、自分は床で眠りについた。

押しかけた側なのにベッドを使うなどと失礼な話、とルチアナは拒んだがそうしないと今度は自分の方が寝れないとソーマに言われてはその好意に甘えざるを得なかった。

 

 

それから数時間。

意識が覚醒するなりソーマは起き上がり、ベッドで静かに寝息を立てるルチアナを起こさぬようにして外へと向かう。

外に出て間もなくガルーダとユニコーン、クラーケンとゴーレム。使役する使い魔を立て続けに起動させる。

 

「なるべく急いでくれ」

 

そう伝えるとガルーダはユニコーンを脚で、クラーケンはゴーレムを触手で掴んで二組のペアに別れて飛行していく。

基地から遠く離れて小さくなっていく自身の使い魔の姿をソーマは見送る。

 

(頼む、無事でいてくれ)

 

 

 

 

「ぅ…うん…」

 

意識を取り戻し始めたフェルがまず感じたのは冷たさだった。

全身、特に脚から腰の辺りが冷たい。

 

「ここって…」

 

倒れていた体を両手で起こして暗闇から解放された視界で彼女が見たのは森と砂浜。後ろには小気味よい音を立てる波があった。

 

「私、なんでこんなところに…?そっか私落とされたんだったっけ」

 

思考が働き始めてようやく状況の理解ができた。

ルチアナが被弾しかけたのに焦りを感じて無理な攻撃を仕掛けてしまった。その結果として周りを見る余裕を失い、落とされたのだと。

 

「…これじゃ使い物にならないわね」

 

飛行に必要なプロペラが無残に千切れ、ユニット自体も切断されてしまっている。

プロペラが無事であったとしても飛行は不可能な損傷具合なのは人目でわかった。

 

「どうしよう…って救助に来てくれるのを待つしかないわよね。当然」

 

仲間の顔がちらつく。真っ先に浮かんだ二人の内、一人に思うところがあったのかその時フェルの表情に陰りが生まれた。

 

しかしそれも僅かな間。何よりもまずは生きて帰ることを優先すべきとフェルは思考を切り替えた。

 

「ストライカーはこのままでいいか。目印にもなるし」

 

幸い墜落したのが浜辺で視界を遮る物体はない。探しに来た竹井たちに自分の居場所を知らせるにはいい目印になる。

ストライカーをその場に残してフェルは身を隠せる場所を探し求めて移動を始める。

 

「いった!もう、服は濡れて寒いし何から何までさいっあく!」

 

森の中を歩いていると木の欠片が足裏に刺さってフェルは口から悲鳴をこぼす。

治癒魔法の使い手であることから即座に傷口を治して、足元に注意を払いながら歩行を再開する。

そして見つけたのが洞窟と思われる穴だった。

 

「ここならいいかも…大丈夫よね。熊とか変なのいないわよね」

 

猛獣やら蛇やら妙な生き物の住処でないことを怖がり、祈りながら中に入る。

洞窟自体はさほど深くはなく、他の動物はいないようだった。

一時的に雨風をしのげる場としては好条件だ。

 

「何もなさそうね。よかったー…さっきから独り言多いわね私。らしくないったらありゃしない。あーやだやだ」

 

岩肌に背中を預けるように座りながら呟く。

周りに誰もいないからか、遭難という状況下におかれているからか。とにかく不安が心にあるのは認めたくないが認めなくてはならない。

 

(助けに来てくれるかな…ルチアナ、マルチナ)

 

 

 

 

 

同時刻。ブリーフィングルームではフェルの救出兼敵の動向を探るための偵察から帰還したドミニカとジェーンを交えての対策会議が行われていた。

 

「あの一帯の空にはまだネウロイがいる。もしあの近くの島のどこかにフェルが漂流しているのだとしたらあれがいる限り捜索は不可能だ」

 

「まるで動く気がないって感じでした…ソーマさんの使い魔がフェルさんを見つけてくれてたらせめて救出だけでもしたいところですけど…」

 

二人の話に竹井の表情は深刻さを増し、ソーマに情報提供を求める。

 

「分裂して数を増やすネウロイ、あれをどう攻略するか。スペランツァ中尉は似たようなタイプと交戦したことがあると言っていたけどその時はどうだったの?」

 

「前に戦ったのは今回のみたいに数が増えるような特性はなかったんだ。魔眼を持っているウィッチがコアを持ってるのを探し当てて、他が数を減らして探しやすくするみたいな流れになってた」

 

「魔眼の能力を持つウィッチの派遣を要請することはできないのか?」

 

「一番近い基地に頼んでも数日はかかるわ。それまでフェルの体力が持つかっていったら…」

 

「私たちだけで倒すしかないということか」

 

ドミニカの言うように単に倒すだけなら魔眼を持ったウィッチが来るまで待つのも一つの手ではある。

しかしそれだとフェルの救出が叶わなくなるし、ウィッチの選抜にも相応の時間がかかる。

結局のところ追加補充の効かない現状のメンバーでネウロイを倒すしかないのだ。

 

「コアを持ったネウロイさえわかればまだやりようはあると思うんですがそれも難しいですよね」

 

「昨日だって最初でも数多かったのにそっからバーッと増えてきたからね。ほんと嫌になる」

 

ルチアナとマルチナが昨夜の戦闘を振り返りながら話す。

昨夜の戦闘帰還時は休んだらすぐさまフェルの元に飛んでいきそうなマルチナだったがいつものような声色と口調に戻っている。

だがその態度が意図的にそのように勤めているのだというのはドミニカたちにはわかっていた。

ならば尚のこと彼女の思いに応えなければと身と心を引き締める。

 

具体案が出ずに悩む中、ソーマもいい手がないか考えを巡らせながらポケットに手を突っ込む。

三つの指輪を出し、その内の一つを摘まむように片手で持って自分の目線の高さまで運ぶ。

 

「何か考えがあるの?ソーマ」

 

無言で神妙な面持ちで指輪を持つその動きを見つめていたドッリオはソーマに声をかけた。

 

「あ、いや……考えてるのは一つある」

 

「聞かせてくれる?」

 

「でもできるかわからないんだ。前はできたけどまたできるかは…」

 

「それでも聞かせて。ちょっとでもできる可能性があるのなら聞いておきたいわ」

 

その場におる全員がソーマに視線を集中させた。

それを見て変に余計なことを口にして混乱させてないけないと一旦は言葉を呑み込もうとしたソーマだったが、考えを改めて自分の考えていたことを打ち明けた。

彼から語られた内容を聞いて咀嚼する面々。それから真っ先に口を開いたのはドッリオだった。

 

「いいわ。それでやってみましょう」

 

即決するドッリオ。彼女の判断に不安を色濃く顔に出し難色を示したのは意見を出した張本人のソーマだった。

何を言いたいのか看破したドッリオは彼が口を出す前にあっけらかんとした笑顔を浮かべて言い放つ。

 

「次もできるかもしれないでしょ?それにできなかったとしてもその時はまた別の方法を考えてやればいいのよ。ねぇ?」

 

「実際他に有効そうな作戦もないし、今話してくれた話は俯瞰的な目線で見ても最善だと思うわ」

 

と続いて竹井は好意的な意見を述べる。他にもルチアナもマルチナもドミニカもジェーンも言葉にはせずとも同意見だというようにソーマを見ている。

 

「わかった。やってみる」

 

これだけ信頼されて裏切るわけにはいかない。ソーマはドッリオたちの顔をしっかりと見て答えた。

するとその時開けっ放しにしていた窓からガルーダ・クラーケン・ゴーレムの三匹の使い魔が帰って来て、主であるソーマのいる机に並び立つ。

 

「可愛い…」

 

「ユニコーンがいない…見つけたのか!」

 

「本当ですか!?」

 

ソーマの言葉に応えるようにジェーンに『可愛い』と称された使い魔たちは身振りで頷き、鳴き声で肯定を示す。特に感情表現がオーバーなゴーレムは元気よく高くジャンプして一際わかりやすく伝えてくれた。

その動作にルチアナやマルチナたちにも安堵と喜びの表情が浮かぶ。

 

喜びの連鎖はドッリオにも起こり、彼女は不敵な笑みを見せた。

 

「じゃあ皆、作戦の準備に取り掛かりましょう。ネウロイに私たちアルダーウィッチーズにかかればちょちょいのちょいだってことを思い知らせてやりましょう」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

「ふぇっくし!はぁ…お腹空いた…」

 

大きなくしゃみが暗く静かな空洞にこだまする。

一体どれくらいの時間が経っただろうか。

 

意識を取り戻してこの洞窟に入ってから三、四時間。撃墜されてからは半日以上といった具合か。

もしかするとそれ以上経っているかもしれない。

 

海水に濡れた体は洞窟の入り口から侵入してきたすきま風のせいで寒くて震えあがり、ろくすっぽ食料も口にしていないからお腹は何度もやかましく音を立てて栄養を求めてくる。

 

(このままだと助けが来る前に…食べ物だけでもなんとかしないと…だけど動く気力がない…動かなくちゃって頭じゃわかってるのに…私の我が侭でルチアナを振り回した罰かえってきたのかもね)

 

こうやって時間が経てば間違いなく死ぬ。けれどもうそれでも、ぼんやりと思っていた時、掌にポツンと乗りそうなくらいの青い馬が洞窟の入り口からやって来てフェルの近くに駆け寄ってくる。

 

「なに…この馬…うま?」

 

「よかった。なんとか無事みたいだな」

 

馬にしては小さ過ぎ、珍しい色合いをした目の前の奇妙な物体をなんと表現したらよいのかと戸惑っていると、青い馬-ブルーユニコーンのやって来た洞窟の入り口からウォータースタイルのウィザードが歩いてくる。

 

「あんた…どうして?」

 

「この辺の空にまだあのネウロイがいてさ。ネウロイに気付かれずにフェルのところに着くには海の中を移動するしかないってことで俺が来た。ほら、これ。お腹空いてるだろ?」

 

ウィザードがコネクトの魔法陣から取り寄せた小包をフェルに渡す。

それがフェルの手に渡ったのを確認すると次いでフレイムスタイルに変身し、掌に灯した炎を彼女に向ける。

 

「寒かっただろ。もっと温度上げるか?」

 

「いい。ありがと」

 

邂逅してすぐさま口にしていない自分の要望を提供してくれる優しさと気遣いにフェルは感謝するが、その声はいつもと違う。

衰弱状態にあるせいか、別の原因によるものか。その追及は一旦置いといてウィザードはクラーケンを起動させる。

 

「疲れてるところ悪い。隊長たちに見つけたって伝えておいてくれ」

 

指示を受けたクラーケンが入口を通って基地へと飛んでいく。

その間にフェルが小包を開けており、中には三個ほどのおにぎりが入っていた。

 

「これって」

 

「おにぎりっていう扶桑の料理だよ。時間がなかったからそれくらいしかできなかった。味も全部塩振っただけ」

 

ソーマの説明を聞いてフェルは物珍しい目を維持したままおにぎりにかぶりつく。

 

「…おいしい」

 

「ならよかった」

 

確かに本当に塩の味しかしない。

けれど不思議と最近食べたどの食べ物よりもおいしく感じた。長時間何も口にしていなかったからだろうか。

 

「怪我は大丈夫か?」

 

「自分で治した。ダメになったのはストライカーだけ」

 

「ならひとまずよかった。ストライカーは別の場所か?後で場所を教えてくれ。俺が直しにいく」

 

暫し会話が止む。フェルが咀嚼する音だけが洞窟の中に存在する音となっている。

 

「昨日から様子が変だったのってルチアナのことか…」

 

一個目のおにぎりを食べ終わるのを待っていたウィザードがフェルにかけた言葉がそれだった。

その瞬間言葉をかけられた彼女は息が詰まったような衝撃に襲われた。二個目のおにぎりを取ろうと伸ばした手を止め、『どうしてそれを…』と言いたげな目を丸く顔で見る。

その表情でウィザードは己の予感が的中したのを悟った。

 

「マルチナが教えてくれたんだよ。昨日の昼前に食堂の前でフェルを見た時から変な感じだったって。それでもしかしたら、って…聞いてたんだろ?俺とルチアナの会話」

 

「……」

 

「自分が強引に引き込んでそのせいでルチアナが本当にやりたいことをできなくなったって思ってるんじゃないか?」

 

「なんでそんなことがあんたにわかるのよ」

 

「俺も同じ立場だったら似たようなこと考えるタイプだからさ。なんとなくな」

 

ウィザードの言葉にフェルは反論せず、沈んだ顔で地面へと向ける。

 

「ルチアナがそう言ったか?」

 

彼女の反応を観察してからウィザードが紡いだ言葉にフェルは顔を上げた。

 

「そりゃあ遠慮して言いたいことを言えずにいるってこともあるだろうさ。でもルチアナにとってフェルは自分の夢と同じくらいに大切で、一緒にいる今の時間が楽しいって思ってるのは確かなはずだ…そのことは俺でもわかる。じゃなかったらお前が撃墜されて夜も眠れないほどショックを受けたり、慣れないおにぎりを作ったりなんてしない」

 

「え?」

 

「そのおにぎり作ったのルチアナだぞ。ルチアナの方からフェルが元気になるために短時間で手軽にできるものを教えてくれないかって頼んできて。それでな。俺も手伝いはしたけどその中に俺の作ったのはない。全部ルチアナのだ。ルチアナがフェルのために作ったんだ」

 

「ルチアナが私のために?」

 

フェルは持っているおにぎりに視線を落とす。

さっきまで単なる食べ物として見ていなかった物が急に特別な何かに思えてきた。

 

「料理は気持ちが入ってると美味しさが増すって聞いたことがある。それを美味しいって思ったならそれだけルチアナがフェルを想う気持ちが詰まってるってことさ。だから変な心配するな。どうしても気になるってなら直接本人に確かめてみたらどうだ?」

 

ウィザードの言葉の後に再度訪れる沈黙。

ただ今度はフェルの反応が違った。

 

「…そうね。私、帰ったら直接ルチアナに聞いてみる」

 

フェルの言葉に段々と力がこもっていき、顔には笑顔が戻っていく。

 

「おかげでやっと気付いたわ。私の好きなルチアナはどんな言葉をかけても私のことを嫌いにならないってこと」

 

自信満々で勝気、ようやくフェルという少女が本来の自分の長所を戻した。

その瞬間を目の当たりにしてウィザードは安心する。

 

「そのためにもあのネウロイよ。どうする気なの?作戦はあるの?」

 

「ある。もちろんフェルにも協力してもらう」

 

「望むところよ。今度こそリベンジして私たち赤ズボン隊の前に敵はないって教えてやるんだから」

 

自身の胸の前で右の手で握りこぶしを作り、戦意をたぎらせるフェル。

しかしウィザードは一つ引っかかることがあり、わざとらしく聞き返した。

 

「赤ズボン隊?」

 

「…っと、私たち第504統合戦闘航空団アルダーウィッチーズ、ね」

 

そう。赤ズボン隊、ドッリオと竹井、ドミニカとジェーン、そしてソーマこと魔法使いウィザードで構成される第504統合戦闘航空団アルダーウィッチーズ一丸となってネウロイと戦うのだ。

逆襲の時は間もなく始まる。

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