ストライクウィッチーズ~約束の空~   作:カメクリオ

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第三十六輪 信じあう心

複数の島が点在する海の上空に浮かぶキューブ状の大型ネウロイ。

平和を脅かさんとする強大な力を持った黒き巨影に米粒程の五つの小さな影が青空の彼方から接近しつつあった。

 

「皆、いくわよ」

 

「「了解」」

 

小さな影-竹井、ドミニカ、ジェーン、ルチアナ、マルチナは竹井が声をかけると同時に散開する。

 

懲りもせずやって来た五人のウィッチを迎撃するべく大型ネウロイは昨夜と同じように全身から紫色の光を放つと、大量の小型となってウィッチたち一人一人へと向かっていく。

多方面から撃たれるビームをストライカーを操り回避する竹井たち。

その動きは皆前回と違って危ういものではなく、相手に翻弄されることなく落ち着いている。

回避してすぐさま方向転換。的確な射撃でネウロイを落とし、落としたネウロイとは別のネウロイから新たなネウロイが生成されても狼狽えず、攻撃の気配を感じたら回避する。

 

「そう、それでいいわ…後は」

 

目に見えてネウロイの数が減っているとは思えない戦い方であるが竹井はそれでよかった。

彼女はビームを発射しようとしていたネウロイを撃ち抜きながら視線を走らせ、周りの様子に気を配る。

その時戦闘空域から少し離れた島々の一つから花火が打ちあがった。

太陽に負けない強烈な光と風に運ばれて来る轟音に竹井たちは一斉に花火の上がった方角を見た。

 

「あそこね。いくわよ!」

 

「ビームに気を付けながら、だよね。わかってるよ」

 

竹井の言葉に楽観的な調子で応じながら移動するマルチナ。

残る三人も後に続き、ネウロイもまたその背中を追いかける。

 

 

 

竹井たち五人の移動は島の浜辺にいるウィザードとフェルの目にも不鮮明ながらしっかりと映った。

激しい音と眩い輝きを絶え間なく生み出す空を見上げて二人は目配せして頷き合う。

 

「よし、こっちも始めるぞ」

 

「もうとっくに準備はできてるわよ。いつでもいいわ」

 

ウィザードがタイムの魔法で修復させたストライカーを身に着けるフェル。

プロペラや動作に何も不具合がないのを確認したウィザードはフレイムスタイルからハリケーンスタイルにチェンジし、サイクロンの指輪を指に嵌め終えると島の上空に舞台を移した竹井たちの戦闘を見上げる。

 

「私は右を見るわ。左お願い」

 

ドミニカとルチアナ、マルチナのいる右側にフェルが、竹井とジェーンがいる右側にウィザードが意識と視線を集中させる。

空中では目まぐるしく攻防が入り乱れている。ネウロイが落とされる時もあれば、ジェーンが背後を取られて竹井がその窮地を救う時もあった。

 

(今すぐにでも飛んでいきたい…でも私がするべきことはそうじゃない。私は私のやることに集中しないと。そのためにルチアナたちが戦ってるんだから。私たちを信じて)

 

(どこだ…どこにいる…)

 

心中は穏やかではなかった。たたでさえ七人でも大苦戦したの五人、しかもこちらがコア持ちを特定しやすいようにと一人一人がバラバラに散らばって味方に隙を補ってもらえない状況にあるのだ。

いつ撃墜される者が出てきてもおかしくない。不安でたまらない気持ちは大きい。

だが不安が芽生える度に二人は必死にこらえて感情が体を動かすのを抑え、じっと戦場の空を見上げていた。

 

(あれか?)

 

その努力が功を奏し、ウィザードはネウロイの集団の中で他の個体に守られているように見える個体がいるのを発見した。

それがコア持ちである見込みは高いがまだ確証は持てず動けない。

 

試しにウィザードはコネクトの魔法陣に腕を入れ、戦場から離れた空に浮かべた魔法陣からウィザーソードガンで狙撃を行う。

すると弾丸の進行に気付いた別の小型ネウロイがそのネウロイを守るように盾となり散っていった。

その不自然な動きを見てウィザードは自信を持ってフェルに断言した。

 

「あの動き、間違いない。あれがコア持ちだ!」

 

「見つけたのね!」

 

「ああ、あそこだ!」

 

ストライカーに魔法力を注ぎフェルは飛翔する。飛行に問題はなく、風に影響を受けることなくウィザードが指で指した方向へコア持ちの疑いのある個体へと射撃を行いながら直進していく。

 

「「フェル!」」

 

「フェルさん!」

 

「「フェル隊長!」」

 

海上から空を駆け上がるように飛び、勇猛果敢に攻める彼女の姿を見て喜びの表情を見せる五人。

島に残ったままのウィザードはサイクロンの指輪を見つめて語りかける。

 

「この後使えなくなってもいい。でも今この時だけは成功させなきゃいけないんだ。仲間を助けるために…俺に力を貸してくれ!ハルトマン!」

 

指輪に描かれたパーソナルマークの主、エーリカ・ハルトマンへと祈るように助力を乞いドライバーにかざす。

 

『チョーイイネ!サイクロン、サイコー!』

 

自由気ままな天使が応えてくれた。

ハリケーンスタイルの状態のままサイクロンが発動し、コア持ちとその周辺のネウロイは丸ごと竜巻に呑み込まれ中で風に切り刻まれる。

 

これがソーマの打ち立てた作戦。

コアを持つ個体を特定した上でその周辺の小型ネウロイをまとめて同時に倒してしまえばいい。

拘束と攻撃を同時に行えかつ範囲外からの敵の侵入を防ぐ壁を形成できるサイクロンの魔法はまさに打ってつけだった。

 

 

現にその見立て通り切り刻む魔力の渦に小型の数体は増殖する間もなく絶命している。がしかしまだ肝心のコア持ちは耐え凌いでいる。

 

「くっ、があああ!」

 

魔法を維持するために魔力を集中させている右手にスパークが走り、ウィザードは苦悶の声を漏らす。

 

(溢れる魔力を制御できない!普通のハリケーンじゃダメってことか…だがそんなの、構うもんか!)

 

痛みが増すのもおかまいなしとばかりに魔力の使用量を増やす。

腕の痛みと引き換えに威力が上がり、竜巻の中のネウロイは塵芥と化していく。

 

「どりゃあああ!」

 

そこに竜巻の外側からフェルが銃を撃つ。魔力を込めたウィッチの弾丸なら強風に耐え、ネウロイを狙撃することができる。

彼女の放った弾は竜巻の中に突入しても形を保ったまま小型ネウロイを撃ち抜く。

そしてフェルに加勢が入った。

 

「フェル隊長、私たちも手貸しちゃうよ」

 

「マルチナ…」

 

左にはマルチナが颯爽と入り

 

「これが終わったら隊長の大好きなものたくさん作りますからもう少しだけ頑張ってください」

 

「…ルチアナ」

 

右にはルチアナが気遣いの言葉をかけながら駆けつける。

二人の顔を見てフェルは自然と笑みを作る。

 

「へへ…ありがと」

 

明るい笑顔を見せあって三人は竜巻に向けて射撃を開始する…正確にはその中のネウロイに向けて

中から隙間を縫ってビームを放たれるも竜巻の外をくるりと回るように回避しながら、残弾数を惜しまず三方向から撃ちまくる。

 

竜巻の中のネウロイは減っている。その証拠に風に混じる白い粉の量は増え、飛んでくる赤いビームの数は減っている。

だがまだ竜巻外のネウロイが健在。ということは肝心のコア持ちネウロイも生き残っているということ。

 

「しぶといわね…根性振り絞って踏ん張りなさいソーマ!」

 

「ぅあああああああ!!」

 

フェルが声を発した直後サイクロンの出力がまた上がった。

どうあっても声が届く距離ではないのにまるで彼女の言葉に背中を押されたようなタイミングでウィザードが魔力を強めたのだ。

 

そして遂に、三人の内の誰かの弾がネウロイのコアを撃ち砕いた。

同時に竹井たちが相手取っていた他のネウロイも連動して行動を停止し、粒子へと姿を変えていく。

 

「一つ残らず…終わったな」

 

「成功したんですね。私たち」

 

「ええ、皆が頑張ってくれたおかげでね」

 

ドミニカ、ジェーン、竹井が緊張を解き、戦闘終了の余韻に浸る。

顔を見せて頷き合うと三人はコア持ちネウロイを撃破した赤ズボン隊に視線を移す。

 

静寂に包まれた青空に赤ズボン隊の三人は浮いていた。

 

「ねぇルチアナ。私-」

 

「隊長ずっと私のことで悩んでたんですよね。私の夢のことで」

 

まさにそのことを言いかけたフェルを遮ってルチアナが告げる。

 

「どうしてそれ…」

 

「ごめんね。ここに来る前話しちゃった。ソーマと相談してルチアナには話すって私が」

 

「そうなんだ」

 

マルチナは申し訳なさそうに言うがフェルはマルチナを責めたりしない。

ルチアナから次の言葉が放たれるまでの数秒間にどんな内容であったとしても受け入れる心構えの姿勢に入り、待ていた。

 

「確かに夢は諦めてませんし、私にとって大切です…でも夢と同じくらい今の時間が大切なんです。フェル隊長やマルチナ、504の皆さんと一緒に過ごす時間を私は楽しいと思ってます。むしろフェル隊長には感謝してもしきれません。あの時私に声をかけてくれたこと、あれがなければ私は今ここにいませんから。こうしていることがとても嬉しくて楽しいんです…だからありがとうございます。そしてこんな私でよければこれからもよろしくお願いします」

 

「…何言ってんのよ。ありがとうだなんて…そんなのこっちから言いたいくらいよ。ありがとうルチアナ、マルチナも、こんな私についてきてくれて」

 

「どういたしまして。えへへ、当然これからもついていくからね。覚悟してよ?」

 

和気藹々とした雰囲気で言葉を交わし、晴天にも負けない晴れやかな笑顔の三人を傍目に見ていた竹井たちも満足気に微笑む。

 

(よかったな。三人とも)

 

そしてそれはウィザードも同じだった。

右腕を左腕で抑えながら彼はフェルたちを見つめていた。

 

 

 

 

 

赤く腫れあがっていた。

脱衣所でタオルを腰に巻き半裸となったソーマは顔を顰め、自身の右腕に視線を落としている。

 

「全然痛みが消えないな…ってぇ、やっぱりあの魔法はハリケーンリンクスじゃないと無理か」

 

腰のタオルの上にウィザードライバーを出現させてハリケーンリンクスの指輪を取り、翳してみる。

 

案の定というべきか変身音もエラー音も鳴らない。

深く大きな息を吐いて、指輪を外す。

 

その後プラズマ、ジェット、サイクロンの指輪を試しても結果は変わらず

 

「ダメか…」

 

籠の中の着衣の上に置いた四つの指輪に答えを求めるような視線を集中するソーマ。

 

『言っておくが今回俺は一切干渉していないぞ』

 

「!!?」

 

思案していたところに突然響く声。

弾かれたように周りに目を走らせるソーマだが自分以外の存在は影も形もない。

 

(今のは、俺の中にいる奴の声?…干渉していないって、じゃあ他にどんな理由が)

 

聞こえてきた声は自分の中にいる存在…ドラゴンのものだと遅れて理解した。

 

何かを考えること数秒、諦めてソーマは浴場へと姿を消した。

 

 

 

 

夜の街の高台。街を一望できるその場所に蛇の怪物が佇むように立っている。

その顔が為す微笑みには月明かりの神秘的な光に照らされているにも関わらず、悪魔にも似たおぞましさが宿っていた。

 

「もうすぐ会いにいくからよぉ。束の間の平和、今の内に満喫しとくんだな」

 




今回でフェル回もとい赤ズボン回完結。そして次回から504編クライマックスに突入します。
その後はストライクウィッチーズ2編に行くのは確定ですが、その前に一話か二話ほど挟むかも?ね、年内には2期の内容に突入したいなぁ…(震え声)
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