それはもうさておき新年おめでとうございます!今年も遅いなりに更新を頑張らせて頂きますのでよろしくお願いします!
ウロボロスとウィザードの戦いが終わった後のヴェネツィアの街上空をフェルたち赤ズボン隊とドミニカ・ジェーンを加えた五人が飛行していた。
全員の手には銃が握られ、いつ襲撃が来てもいいように備えている。
ところがその警戒を裏切るかのように街は静かで、敵がいる気配も感じられない。
「不気味なくらい静かだな。本当にネウロイのような怪物がいるのか」
「もしかしたらソーマさんがもう倒しちゃったのかもしれませんよ」
実際にウロボロスを目撃していないドミニカとジェーンは半信半疑…とまではいかないまでも怪物の存在にいまいち実感がわかずにいる。
しかし次の瞬間そんな彼女たちにあった疑念を根こそぎ吹き飛ばすような光景が眼下に広がっていた。
「あんなに綺麗だった街が…」
「ちょっと離れただけでこんなに、ひどすぎるよ」
「どうやら怪物が現れたというのは紛れもない事実のようだな」
街中のあちこちに散乱した瓦礫。黒く焦げた路面。割れた窓ガラス。
どれもネウロイが通り過ぎた後に残る破壊の痕跡と遜色ないものだった。
そしてこの辺りで戦いが行われたことは疑いようのない事実だとドミニカとジェーンは認めざるを得なかった。
「どこにいるのよ…ソーマ。ちゃんと無事なんでしょうね」
一方でフェルは街中の光景を憂うよりもソーマを探し求める気持ちが強く優先され、飛び回りながら彼を探す。
街があの有様なら彼も危ない状態にあるかもしれない。
「いた!見てあそこ!」
探すこと数分弱、彼女たちはゴンドラの乗り場でソーマを見つけた。
打ち上げられた魚のように力なく水に濡れた身を投げ出し、意識もまた手放しているのが遠目でもわかった。
彼の手にはハリケーンリンクスの指輪が固く握り締められていた。
☆
「スペランツァ中尉が負傷…それは本当ですか?ドッリオ少佐」
受話器を手にするミーナの美貌を驚愕が覆い尽くしていた。
その理由は電話の相手はドッリオ。正確には彼女からもたらされた情報にあった。
『今ウチの部隊のウィッチが回復魔法で治療をして医者にも診てもらってる。傷は酷いけど今のところ命に問題はないみたい。ごめんなさいミーナ中佐。貴方から預かった大切な部下をこんなことにしてしまって』
「いえドッリオ少佐が謝ることではありません。それで彼を倒したネウロイは?今どこに」
『ネウロイじゃないみたいなのよ』
「えっ?」
電話越しの相手が何を言っているのかミーナは理解できなかった。
ネウロイとの戦いでないのならソーマは一体何との戦いで敗れ、深手を負ったというのか。
ミーナがそう思っていると、ドッリオがすかさず詳細な情報を教えてくれた。
「一緒にいたフェル、私の部下の話だとネウロイのようでネウロイじゃない謎の怪物にやられたって聞いてるわ」
「謎の怪物?」
「ええ、それも私たち人間とほとんど変わらない大きさで私たちと全く変わらない言葉を使っていたそうよ」
「えっ…?」
告げられた情報にミーナは大きく目を開いた。
人語を発する怪物など荒唐無稽で馬鹿げた話と断じたいが、それができない理由がミーナにはあった。
統合戦闘航空団の隊長を務めるに相応しい冷静に情報を分析する能力があるというのも一つだが、彼女は人型ネウロイをその目で見た者の一人。
だからこそそれまで確認されていなかった存在が新たに出てきたとしてもあり得ないことではないと考えることができている。
「それはつまり、ネウロイの変異体、あるいはネウロイともまるで違う新しい敵…ということでしょうか」
「どうかしらね。どちらとも今の段階では何も言えない。ただ聞いた情報を総合的に考えるに敵であるってところに関しては揺るぎようのない事実だと思う」
フェルもルチアナもマルチナも揃って怪物が明確な敵対意志を持って攻撃をしてきたと証言している。
味方、話し合いが通じる相手ではないのはほぼ確定事項だろう。
「その怪物は今どこに?」
「それもわからないわ。ヴェネツィアの街中でソーマと戦ってからの目撃情報は上がってないわ」
「そうですか…また何かあればご連絡ください。私の手は届く範囲のことなら力を尽くします」
「ありがとうミーナ中佐。頼もしい言葉だわ」
失礼します、と最後に締めくくってミーナは電話を切り受話器を置く。
(…ガリアが解放されたことでネウロイにも変化が訪れたということ?それともこれまで出てこなかったものが出てきただけなのか…)
敵の素性もだがミーナが引っかかったのはタイミングだ。
ストライクウィッチーズによるガリア解放が成された直後というのが気になる。
ガリアの解放が人類にとって大きな変化であったと同時にネウロイにとっても何かのきっかけとなったのではないか。
巣が破壊され、戦力が低下したことでネウロイ側が新たな策・あるいは進化の一環として今回の新たな脅威が出現したのではないかと。
(ソーマさん…)
どちらにしても今ソーマが窮地の中にいることに変わりはない。遠く離れた自分にはこうして無事を願うことしかできず、そうすることしかできないことにやり切れない思いが生まれた。
☆
彼が目を覚ますと視界いっぱいに赤黒い空が広がっていた。朝昼夜、どんな時間のどんな場所でもあり得ない色をしている。
体を起こして周りに目を向けると更に衝撃的な景色があった。崩れた街並みと稲光、まるで世界の終わりを思わせるようだ。
「目を覚ましたか臆病者が」
凄惨な景色に目を奪われていた彼がその声に反応して振り返る。
そこには蛇と竜の怪物ウロボロス。
彼が戦い、敗れた相手。それがまた目の前にいた。
「お前は、今度こそ!」
その存在を認識した途端彼は風の魔法使いとなって斬りかかる。
今度こそ必ず倒すという意気込む彼の手に握られた剣がウロボロスの肉を切断する…ことはなく片手でいとも簡単に受け止められる。
押しても引いても意味がなく、長剣で何回も切りつけられてしまう。
片膝を付く魔法使いへウロボロスは両肩から火を吹き、遠く離れていった彼の顔と地面とをキスさせる。
「まだだ…まだ俺にはこれがある!」
てんで攻撃を与えられない魔法使いであったが希望は捨てていなかった。
闘志のこもった声で腰のホルダーからハリケーンリンクスの指輪を引き抜くと、躊躇いなくベルトへと翳す。
だがそこから変化は一切ない。
「っ!?なんで!?なんで使えない!」
まるでそれが異常な現象だというように魔法使いは新鮮に驚き、視線を下げて何度も指輪をベルトに持っていく。
「当たり前じゃん。私たちがソーマなんかに力を貸すわけないじゃん」
そんな魔法使いへ声が飛んだ。ウロボロスとは違う、可愛さの富んだ声だ。
その声を魔法使いはよく知っていた。だからこそ大きく肩を震わせて、ウロボロスから視線を切り替えた。
「ハルトマン?」
声のした方を向くとそこにはエーリカ・ハルトマン。カールスラント軍人で今はミーナとバルクホルンと共に行動しているはずの少女が珍しく二人を伴わずたった一人でいた。
「なんで…」
目前の少女は持ち前の笑顔ではない敵意をむき出しにした表情で魔法使いを睨みつけるように直視していた。
今の今まで彼女にそんな顔で見られたことのない魔法使いは大きく衝撃を受けた。
「影で私たちを追い詰めようとしていた方たちと繋がっていながら私たちに平気でいい顔をしていたのでしょう?そのような卑怯者が私の力を使おうだなんてはっきり言って虫唾が走りますわ」
新たに聞こえる第二の声。こちらも魔法使いには聞き覚えのある声だった。
魔法使いが素早くハルトマンからそちらへ顔を移動させる。
「ペリーヌ?お前までどうして…どうしてそんなこと言うんだよ…ハルトマンも、らしくないぞ…」
声の主はペリーヌ・クロステルマン。ガリア軍所属でブリタニアでの戦いの結末を仲間の誰よりも喜んでいた少女だ。
そんな彼女も強い怒りと嫌悪を詰め込んだ言葉を放ち、魔法使いを激しく戸惑わせた。
良く知る仲間の二人からは到底想像もできない表情と発言に魔法使いは恐る恐る後退りする。
いつの間にかウロボロスの姿は影も形もなかったが、魔法使いはそのことに気付いていない。気付けない。
「出たよ。お前のそういうところ。ほんと嫌いだよ」
そして魔法使いの背後からまた別の声がした。
魔法使いは息が詰まったような感覚に襲われる。振り返ることを恐れる仮面に覆われたその顔を背後から伸びた手がそっと触れた。
「本当は気付いてるくせに。自分に仲間の力を使う資格なんてない、気持ちを踏みにじるような真似をした自分に仲間たちが力を貸してくれるはずがないって。そう、わかってるんだ。なのにいざその通りになったらそのことを認められない…上っ面だけなんだ何もかも。本当の意味で何もわかってないんだよ」
「シャー、リー…」
間違いであって欲しいと思いながらも、手が触れている程の距離で声を魔法使いが聞き間違えるはずがない。
シャーロット・E・イェーガー、リベリオン軍人で笑顔が心地よい人物だ。
その彼女までもが信じられない程冷めきった声色で責め立ててくる。
触れている手からは温もりを感じる気がするのに、その口から放たれるのは冷たい言葉の数々。
体を覆う仮面と法衣が消え魔法使いではなくなった彼へハルトマンとペリーヌは薄汚い生き物を見るような目で、何故か愉しそうに笑いながら歩み寄る。
「やめろ…来るな…こないでくれ…」
彼は怯えた表情で二人から逃げようと後ろへ足を引く。
だがシャーリーがそれを許さない。
頬に触れていた手が肩へと下りていきそのまま腕で首を絞めてくる。
「あ”っ!かっ…な、なにを…」
絞め殺される程の力はないが、息苦しさを与え彼の動きが止めるには充分な力はあった。
「私たちの誰も頼りたくもなければ頼られたくもないんだよね。はっきり言って存在が迷惑」
「もういっそのこと消えてくださればいいですのに。ガリアも解放されたことですし、もう貴方に価値なんてありませんわ」
「お前がいなくなったところで誰も悲しんだりする奴なんていない。だからさ、安心していなくなってくれよ。皆それを望んでる」
ハルトマンが、ペリーヌが魔法使いの目の前にまで迫り、シャーリーは首を絞める手の力を強める。
「や、…やめ…やめて…」
魔法使いの視界一面が黒く染まった。
「はっ!!?」
ソーマは眠りから覚めて間もなく、勢いよく上半身を起こし周りの状況を確認する。
赤黒い空も、ウロボロスも、ハルトマンもペリーヌもシャーリーもいない。
ただ医務室と思しき設備があって、複数あるベッドの一つに自分がいた。
「夢…?よかった…」
べったりと汗が額にも下着にもべたついて気持ち悪い感触のはずだが、それが気にならない程今のソーマには落ち着きがなかった。
夢であったことを喜びながらも何度も荒く息を吐いて、激しく肩を上下させているのが証拠だ。
(本当に夢だったのか。あれは、あの言葉は本当に嘘なのか?)
その理由は夢の中にあった。本物ではないにしろ彼女たちに言われた言葉は耳を塞ぎたくなるくらい自分に刺さっていた。
何故ああも的確に自分の突かれたくない急所を突いてきたのか、よりにもよって何故夢に出てきたのがあの三人だったのか、そのことを考えるのに夢中になりすぎていたせいで彼はドアの開く音に気付けなかった。
「ソーマ!あんた目覚めたのね!」
その声にソーマはただならぬ速さで首を動かし、ドアの方を見る。
入ってきたのはドッリオとフェル。そのフェルの赤い髪の色を見て夢で見たある人物を連想したソーマは目に見えてわかるほど動揺する。
「ちょっと大丈夫?顔色悪いわよ?」
「…平気、な、なんでもない…大丈夫っぅ!」
ふとした拍子に挙げた右腕に激痛が走り、つい別の手でそこを抑えてしまう。
ソーマの元にドッリオとフェルが心配して近付く。
「ああ、もう言わんこっちゃない。あんまり体動かさないで。私程度の治癒魔法じゃ傷口を減らすのが精一杯で痛みまでは完全に治せないんだから」
「あの怪物は?」
「私たちがあんたを見つけた時にはいなかったわ。今マルチナたちやロマーニャ軍の兵士たちで探してる」
「……まるで歯が立たなかった」
ポツリ、溢したソーマの顔には後悔が滲んでいた。
そう、負けたのだ。それもただ負けたのではない。
ウォーター、ランド、ハリケーン、フレイム、自分の持てる力を全て出し切った上での敗北だったのならまだ恰好はつく。
まだ最大戦力を残していたのに、もしかしたらあの時使えたかもしれないのにその使用を諦めた上での敗北は情けないにも程がある。
「フェル、竹井たちにソーマはもう大丈夫だって伝えてきてくれる?ここには私がいるから」
すると彼に視線を合わせていたドッリオが言う。
唐突に言われて目を丸くしたがその内容に納得してフェルは言う通りにする。
「え?あ、うん。いいわよ…っと、ソーマ。あんたの恨みは私たちが返してあげるから今はゆっくり休んでなさいよ。いい?大人しくしておくのよ」
病室を出る前にそう残してフェルが退出する。部屋の中にはソーマとドッリオの二人きり、無音の時が訪れる。
その間ドッリオはソーマをじっと見ていた。そして
「何か悩みがあるでしょ?そんな顔してる」
彼の表情から何を感じ取ったのかそう言い放った。
「…勘違いじゃないですか」
ソーマはそう否定して見せるが、一瞬ぴくッと揺れた体の動きをドッリオは見逃さなかった。
正解だと強い確信を持った彼女は一旦椅子から離れると机の上に置いてあった指輪を取ると、また椅子に座って取った指輪を見せる。
「この指輪のことじゃないの?」
「っ!」
ドッリオが見せたのはハリケーンリンクスの指輪。
自分が隠そうとしていた悩みの有無だけでなく、その具体的な内容まで言い当てられたソーマは言葉を失う。
エスパーでも使ったかのようなドッリオに恐れを抱く。
「どうしてわかったんです…?」
「勘、って言いたいところだけどね。残念ながら違うわ。気を失っていた貴方を竹井たちが見つけた時これを大事そうに握っていたようなの。見た感じいつも変身に使ってるのと同じやつみたいだけどこれを使ってるところを今まで見たことなければ報告でも聞いたことがない。だからもしかしたら使いたくても使えない理由が何かあるんじゃないかなーって、なんとくね」
まさにその通りだった。反論する余地もなく、ソーマはすんなりと胸の内を明かす。
「…俺がその指輪を使えないのはきっと俺のせいなんだ。俺が仲間を傷つけたから」
「どういうこと?」
「その指輪には501の仲間…隊員たちの力が関係しているんです。でも使えたのは最初の一回きりで…フェルが撃墜された時にも使おうとしたけど使えなかった」
「つまり501の仲間が貴方のことを仲間として認めてないからこの指輪は使えない。そう考えてるの?」
「他に理由がないですから」
「そうかしら」
「え?」
「原因が貴方にあるってのは正しいかもしれない。けれどちょっとズレてるんじゃない?」
どういう意味なのかとソーマが訊ねようとする。しかしその前にドッリオは椅子から離れてドアへと向かい、医務室を去ろうとしていた。
「まぁ私の考えてることで合ってるか確証はないわ。でももしそうだとしたらそれは貴方が自分自身でちゃんと気付くべき問題よ。それができない限りいつまで経ってもその指輪は使えないわね」
いつもとは違う真面目な声色でそう言ってドッリオは医務室を出て行った。
☆
ヴェネツィアから離れたロマーニャの小さな町のカフェ。
日が落ち、店も閉まっている時間帯だというのに店の外の席で優雅に紅茶を嗜む一人の女がいた。
濃い暗闇の下、街灯が照らす彼女はまさしく絵画のよう。彼女自身の美貌と体つきもあって、絵が命を持って現実世界に飛び出してきたように思える。
しかし惜しむべきは彼女を目にする人間が一人としていないことだろうか。せっかくの美しさもそれを堪能する者がいなければ寂しいもの。
と思いきや、女の前の椅子が動き、気だるそうに座る男が現れた。
男の顔を見ずに女は口を開く。
「あら、ご機嫌斜めって感じね」
「そりゃあなるだろ。拍子抜けもいいところだったぜあのウィザード。これならまだ魔女数人を相手にした方がまだマシだったかもな」
既知の友人のような慣れ親しんだ様子で女と会話を交わす男。彼こそがウロボロスであった。
「期待外れだったわけね…でもいいの?最後まで味わなくて」
「あん?何がだ?」
「まだ生きてるわよ。彼」
女の言葉をウロボロスの眉が微かに動いた。
「そんなわけねぇだろ。俺は確かに確認した。水に落ちたあいつが浮かんでこないのを」
ウロボロスははっきりと断言する。自分の目が節穴であったなどとそんなことがあろうはずがないと。
しかし女は表情を変えることなく言い放った。
「いい味だったわよ。彼の」
「…マジかよ」
ウロボロスは苛立ちを込めた舌打ちを打つ。露骨に嫌悪に満ちた彼の顔を前にして女は不敵な笑みを浮かべておる。
自分を嘲笑しているようにしか見えないその顔にウロボロスは物申したい気持ちはあったが、喉元から出かけた言葉を理性で飲み込んで席を立つ。
「いくのね?」
「面白味のない戦いも面倒くさいのも嫌いだがやり残しはもっと嫌いなんでな。今度こそきっちり息の根止めてきてやるよ。期待して待ってな」
勝利宣言とも取れるその言葉を最後にウロボロスは夜の街へと消えていく。
「私としては是非とも頑張ってもらいたいわね…彼に」
一言、呟いて女は夜風に揺れる髪を抑える手とは別の手を使ってティーカップを口に運んだ。
本年2022年は記念すべきウィザード10周年。何か発表あるといいなぁ
そしてこの小説が2期までいけるといいなぁ……はい、さすがに今月までには頑張ります。頑張らせてください…