ストライクウィッチーズ~約束の空~   作:カメクリオ

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第四十一輪 向き合うべきコト

緑溢れる大地に二人の兵士が銃を手に立っている。

ヴェネツィア周辺の地域ではロマーニャ軍による厳戒態勢が敷かれていた。

街中に出現し破壊の限りを尽くした怪物-ウロボロスの襲撃に備えて兵士が警備にあたっているのだ。

だが警備の任を受けて数時間この場所にいるが特にこれといっておかしなことはなく、二人の兵士は暇を持て余していた。

 

「なんだって俺らがこんなことやらなきゃいけないんですかねぇ。怪物なんて本当にいるのかよ」

 

「ヴェネツィアの街がああなったのはお前も見ただろ、住民の目撃証言も多数ある。万一の事態に備えて警戒を強化しておくのは妥当だろ」

 

「そう言われたら何も言えないじゃないですか。あーあ、ウィザードが倒してくれてたらなぁ。ガリアを解放したって言われてますけどその割には大したもんでもないんですかね」

 

又聞きした話でしかないがウィザードが怪物と交戦したというではないか。

彼がしっかりと撃破してくれていたら今自分はこんなことをせずに済んだのではないかなどと、兵士の一人は胸の内で考えていた。

 

「不謹慎なことを言うんじゃない…ん?何か来るぞ」

 

愚痴を溢す兵士と彼を諫める兵士たちの前に前方から影が近づいてくる。

もしや噂の、と思い姿勢を正し緊張した面持ちで銃を握る手を強める兵士二人。

影が大きくにつれてその姿が鮮明に見えてきた。影の正体は至って何もおかしなところも見られない男であった。

二人は安堵して銃を下げると自分たちからも距離を縮める。

 

「ヴェネツィアにある基地ってのはこの先か」

 

「君ここは今立ち入り禁止だ。悪いが基地に用があるなら別の日にしてくれ」

 

「黙れ」

 

「は?-がっ!!?」

 

首を傾げた生真面目な兵士が首を掴まれ、持ち上げられた。

これには片割れの兵士も動揺し、震えながら銃を向けて男への警告を行う。

 

「ぐっ…ぁ…」

 

「な、なんの真似だよ!手を降ろせ!」

 

「いいぜ。降ろしてやるよ」

 

-ボキィ!!

男が不気味に笑った直後そんな音がし、持ち上げられていた兵士の手がぶらりと力なく垂れる。

男が軽々と兵士の首の骨を折ったからだ

 

「ひぃ!!?」

 

「お前らに用はねぇ。とっととウィザードを出せ」

 

兵士の目前で男は不気味な姿-ウロボロスとなる。

それがさっきまで噂していた怪物、と悟った兵士の顔は完全なる恐怖に脅え、その場で腰を抜かす。

 

「うわあああああああ!!」

 

その兵士の叫びも途絶えるのもそう長くなかった。

 

 

 

 

 

「ソーマさん、大事には至らなくてよかったですね」

 

「でも安心はできないわ。敵がいつどこに現れてもいいように今の内に対応を練っておかないと」

 

ブリーフィングルームでドッリオと竹井を中心とした対策会議が行われていた。

議題はもちろんウィザードとの戦闘を展開した相手ウロボロスに関してだ。

 

「そうは言うが具体的にどうするんだ。ネウロイのように観測できるのか?」

 

「無理でしょうね。おそらく。街に出てきた時まるでこっちじゃ気付けなかったもの」

 

「次にどこに出てくるか場所だけでもわかればだいぶ違うんでしょうけど」

 

ドミニカ、竹井、ジェーンが意見を交えるがネウロイとは勝手が違いかつ初めて相まみえる存在とあって話に大きな動きはない。

と、そんな時だった。フェルがポツリと呟いたのは

 

「もしかしたらここに来るかも…」

 

その言葉に他の者が視線を向ける。

説明を求める皆の目を一手に集めてフェルは言葉を紡いだ。

 

「あいつはソーマに言ったの。『やっと会えたな』って。あいつがまだソーマにこだわってるなら次はこの基地を狙ってくるかもしれないわ」

 

ウロボロスと会った時のことを参考に自分の考えを語るフェル。

すると直後バタバタと周囲への配慮など感じないような騒がしい大きな足音を立てて通信兵の一人がミーティングルームへと入ってきた。

ノックもなく平静さを欠いている様子からして只事ではないと察したドッリオが内容に粗方の予想をつけながらも報告を促す。

 

「大変です!」

 

「どうしたの」

 

「基地周辺の平原で救援要請が!ネウロイと酷似した怪物と交戦中、ただちに応援をと!」

 

報告を聞いた皆の顔に緊張が走る。

 

「向こうの方が動きが早かったみたいね」

 

「皆、出撃よ。急いで準備して!」

 

竹井の号令にフェルたちは頷いて格納庫へと走り出す。

 

(皆気を付けて…)

 

 

 

 

 

基地の内も外も、ウィッチも一般兵も慌ただしく動いている状況下であるというのに医務室にいるソーマの周りは不気味と言える程に静かだった。

退屈しのぎに何かをするわけでもなく、眠りに付くわけでもなく、静かにぼんやりと医務室の景色を眺めていた。

無論ただ眺めているわけでもなかった。

 

『原因が貴方にあるってのは正しいかもしれない。けれどちょっとズレてるんじゃない?』

 

『言っておくが今回俺は一切干渉していないぞ』

 

ドッリオが去ってから彼女から言われた言葉とそして自分の中にいるドラゴンに言われた言葉の意味をずっと考えていた。

 

(この指輪を使えない理由に他にどんな答えがあるっていうんだ)

 

どれだけ考えても正しい答えが見つからず、ハリケーンリンクスの指輪を使えない自分。

なのにドッリオとドラゴンは自分がわからない答えが見えているかのような口振りで語りかけてきて、そのことがより一層悩みを強くさせる。

悩み苦しむソーマが視線を窓に向けた時空へと飛び立つフェルたちが映った。

 

「フェルたちが出撃した?ネウロイが出たのか?」

 

ストライカーを身に着け、銃を手にして同じ方向へと飛んでいった。

ネウロイ出現の報を受けての出撃かと思ったが、彼女たちの進行方向は海上ではなく陸地。

となれば考えられる可能性は二つになる。

通常・陸戦型を含めたネウロイか。もしくは

 

(まさかあいつ!)

 

ウロボロス。ソーマはそちらの可能性を強く思い浮かべた。

だとすれば敵の狙いは自分にある。自分がいかなくては。フェルたちを巻き込むわけにはいかない。

 

居ても立っても居られずソーマは着の身着のままで医務室を飛び出す。

しかしドアを開け、手をドアノブから離す前に首を後ろに動かして机の上で光るある物-ハリケーンリンクスの指輪を見つめる。

 

戦闘で使い物にならない代物。持って行ったところでどうせ意味なんてない。

 

そういった思いがソーマの脳内を駆け巡った。だがやがてハリケーンリンクスの指輪を掴み、医務室を完全に後にした。

 

 

 

 

「いたわ!あそこ!」

 

フェルたちが駆けつけた時には既にそこには凄惨な光景が一面に広がっていた。。

銃器だった物の金属片が散らばり、腕が不自然な角度で曲げられて白目を剥いている者、胸に穴が空きそこから大量の血を流している者。

そんな火の粉舞う平原の中心にはウロボロスがいた。

 

「あれがソーマを苦戦させたウロボロスとか言う奴か」

 

「撃破よりもまずは負傷している兵士から遠ざけて退避する時間を作ることを優先させて…いいわね、いくわよ!」

 

竹井の下した方針に従ってフェルたちは連携の取りやすい赤ズボン隊の三人・ドミニカとジェーンの二手に別れ、左右二方向からウロボロスに向かう。

 

「ウィッチの方が先に来やがった。まぁいい。こいつらじゃウィザードを叩き潰す前の肩慣らしに物足りなかったところだしな!」

 

上空を見上げたウロボロスは肩の蛇と竜の口から炎をドミニカとジェーンの方へ、炎を帯びた長剣による斬撃波を赤ズボン隊の三人へと発射する。

三日月の形を作って飛んだ炎を赤ズボン隊の三人は減速もシールドの展開もせず炎の軌道から逃れ、接近しながら銃弾を浴びせる。

 

「ううぁっ!」

 

フェル、ルチアナ、マルチナが時に一斉に時にタイミングをずらして銃撃を行う。

魔力の込められた弾丸はウロボロスを直撃し、苦悶の声を引き出す。

 

続いて同じく火球の回避に成功していたドミニカとジェーンが別方向から追撃に加わる。

五人がウロボロスの相手を引き受けているこの間に竹井は地上へと降り立ち、負傷している兵の救援に当たっていた。

 

「無事な人たちを連れて帰投してください」

 

「申し訳ありません。我々が不甲斐ないばかりに」

 

「そんなことはありません。よくここまで耐えてくれたこと感謝します。後は私たちが引き継ぎます」

 

頭から血を流している兵士へ竹井は建前のない労いの言葉を送る。

実際戦車もない魔力もない戦力でネウロイと同等近い相手を前に彼らはよくやってくれた。

逃げずに立ち向かったその姿勢だけでも大いに評価されるべきだ。

 

「貴方たちの頑張りに今度は私たちが応える番です」

 

健闘虚しく命を落としてしまった兵、傷付いたお互いの体を支え合いながら離脱していく兵。

自分たちが到着するまで被害を食い止めてくれていた全ての兵に感謝を口にして竹井も戦線に入る。

 

移動もできず剣を盾代わりにするウロボロスだがそれで一方向からの直撃は凌げても別方向からの直撃は防げない。

ウィザードの銃撃と違うのは複数人による一斉射というだけではない。一つ一つの弾に込められた魔力の高さが違うのだ。

 

「ウィザードよりもやるじゃねえか。ちと見くびってたぜ。だがな、こんなんで勝てると思ってるようじゃ甘えな!」

 

しかし銃弾の雨もウロボロスの戦意を削ぐことはなかった。むしろ思っていた以上の手応えに高揚したウロボロスは全身に纏った炎で自身に降りかかる銃弾を灰に変える。

 

「やっぱ簡単にはいかないわよね」

 

この結果をフェルはすんなりと受け入れた。

ウィザードが敵わなかった相手だ。いくら数的にこちらが有利とはいえ圧倒的な勝利で終われるわけがないことは戦う前から覚悟していたことだ。

 

「ちょこまか動かれたら面倒だ。数を減らすか」

 

止まない銃撃を受けつつウロボロスは地面に魔力を送る。

白と黒の強い魔力は地面の表面を伝う水のようにフェルたちの目に見え、彼女たちは危機感を強めた。

 

「何か来ます!」

 

いち早く警告を発するルチアナ。その見立て通り轟音を立てて地面から出てきた黒い竜と白い蛇がフェルたち目掛けて襲い掛かる。

 

「下からなんか出てきたよ!しかもでかいし!?」

 

「こんな真似もできるのかこいつ!」

 

大型ネウロイ程の大きさの物体に驚愕を大きく表すマルチナ。彼女とドミニカ、残るウィッチたちは攻撃を中断して回避行動に意識を集中させる。

ストライカーを巧みに操り、空を舞って巨体二つを振り切ろうとするが執念深く追いかけてくる。

それだけでも厄介だというのに両肩からの火球と斬撃波をウロボロスは追加で手当たり次第に打ち出す。

 

「しつこい!」

 

いくらスピードを上げても方向転換してもしぶとく狙ってくる白蛇を姿勢を反転してドミニカは撃ち抜こうとする。

姿勢制御のために一時動きの止まった一瞬に付け入りウロボロスは彼女へと照準を合わせて火球を放った。

 

「しまった、避けきれない!」

 

視線も体も完全に白蛇へと向けていたドミニカには回避する術はなかった。

咄嗟にシールドを出して火炎を受け止めたものの彼女の体は強制的に移動され、その先で大きな口を開けた白蛇がいた。

 

「大将危ない!-きゃ!」

 

その時ストライカーを全速で吹かしたジェーンが体当たりでドミニカを救い出す。

しかし結果として彼女の方が今か今かと獲物を食おうと待ち構えていた白蛇の口へと飲み込まれてしまう。

 

「まずは一人消えたな」

 

「ジェーン!おのれ、よくも!ジェーンを吐き出せこのデカ物!」

 

自分を庇う形で呑まれたジェーンを助けようとドミニカは白蛇へと一直線で向かい一心不乱に弾を撃ちまくるも思いのほか頑丈な表皮で白蛇は簡単に消滅しない。

 

「うわぁ!」

 

「「マルチナ!」」

 

その一方で次はマルチナが同じ道を辿る羽目になった。ウロボロスの火球と炎の斬撃波に翻弄されていた彼女は黒竜の接近に気付かず、その胴体から繰り出される体当たりを食らう。

フェルとルチアナが援護に周ろうとするも火球と斬撃波の横槍を入れられ、一直線に救出に向かえない。

救出に手間取っているその内に黒竜はマルチナを一思いに口の中に納めた。

 

「これで二人。後の奴らは俺が直接始末してやるとするか」

 

余裕を崩さないウロボロスに竹井はたまらず唇を噛む。

 

(あの蛇と竜が消えずにsいるということはまだマルチナとジェーンは生きている…でもウロボロスをどうにかしないと二人の救出もままならない。考えるのよ、きっと手はあるはず)

 

マルチナとジェーンを救出を優先するには火力を二体に集中させるのが最善なのだろうが、ウロボロスを無視してできるほどの余裕も時間もない。

かといって先の一斉砲火に耐えたことからウロボロス自身も二体に劣らぬ防御力を有しているのは明白。

今いる四人で簡単に倒せる相手と言えるかといったら違う。

 

一体どう動くのがベストな選択か、ウロボロスの攻撃を避けながら竹井は思考を続ける。

 

「どうした?ビビッて迂闊に動けねえのか?だったらこっちからいくぜ!」

 

そんな中で新たな動きを見せたのはウロボロスであった。

地面を蹴って、炎を帯びた剣でフェルへと斬りかかる。

 

「狙われてるわよフェル!避けて!」

 

「わかってる!」

 

竹井からの言葉に手短に返してフェルはウロボロスを迎え撃つ。

射撃を行い限界まで引き寄せてからウロボロスの長剣の及ばぬ高高度へと上昇し、攻撃を失敗に終わらせる。

 

「こういうのが面倒なんだよなウィッチってのは…だが、隙だらけなんだよなぁ!」

 

「どこに撃って…!」

 

空振りし着地したウロボロスは別方向に体を向けて両肩から火球を二つ発射する。

 

たった今攻撃を与えようとしていた自分とは異なる見当違いな方角に疑問を抱くフェルだったが火球の進行先に視線を移した瞬間、血相を変える。

その先にはジェーンを救出するために白蛇への攻撃を継続しているドミニカ。

ウロボロスがフェルへ攻撃を仕掛けて遠距離攻撃が止んだのを機と捉えて行動したのだろう。

 

しかしジェーンを助けるのに躍起になるあまりウロボロスへの意識を緩めてしまったのが仇となった。

 

「ドミニカ!」

 

叫ぶフェル。

その呼びかけに答えるかのように寸でのところでルチアナが前に入り、シールドを展開してドミニカを守る。

守れはしたが防御に秀でていないルチアナのシールドでは威力を殺すことはできず、二人は派手に押され平原の地面と激突する。

 

「いったい…ドミニカさん大丈夫ですか!」

 

「すまない。ルチアナ、私の不注意のせいでお前に迷惑を」

 

「謝らないでください。無事なら何よりです」

 

ドミニカは自らの非を詫び、ルチアナへの感謝を告げる。

ルチアナもそれを受け取って再度飛び立とうとした時二人は異変に気付いた。

 

「ストライカーが!」

 

「私のも。これでは…!」

 

二人のストライカーは地面に衝突した影響で部品が外れ損傷していた。

ウロボロスはそんな二人を戦力に当てはまらないと見なして鼻で笑うと未だ空にいる竹井とフェルを見上げる。

 

「最後に残ったお前ら二人は特別待遇だ。じっくり遊んでやるよ」

 

「誰があんたなんかと!」

 

睨むフェルと竹井を始末しようと駆けるウロボロス。

そのウロボロスの胴体を一閃する風が現れた。

風は速度を落とすことなく流れるようにそのまま地上に降り立つと、ウロボロスへと走り出す。

 

「ソーマ!?どうして」

 

その風-ウィザードの参戦にフェルは驚いた。

このピンチの場面で助けに来てくれたのは嬉しいが彼は怪我人だ。万全な状態でないのにどうして来たのかという疑問の方が彼女の中では勝っていた。

 

「よく生きてたじゃねえか。おかげでこんな面倒する羽目になっちまった」

 

ようやく待ち望んだ相手の登場に沸き立つウロボロスはウィザードとの剣戟を交える。

 

「お前を倒すまでは死んでも死にきれないんでな」

 

「ほう、口だけは達者だな。だったらやってみろよ!」

 

「ぐあっ!」

 

一度攻撃が入ったのを皮切りにウロボロスは反撃を許さず立て続けにウィザードを斬りつけ、地べたへと転がす。

前回の戦いのダメージが今なお尾を引いていることもあってたった数回の斬撃でウィザードはすぐに立ち上がれない。

 

「もっと真面目にやれよ。でないとあの中にいるお前の仲間のウィッチが溶けてなくなっちまうぞ」

 

「なに!?」

 

「なんですって!?」

 

そこで初めてウィザードは白蛇と黒竜に意識を向けた。

地面から生える大樹のようにそびえ立つ二体。その中にいる『仲間のウィッチ』をウィザードは周囲を見て確かめる。

 

「マルチナとジェーンのことか。そんなこと、させるか!」

 

仲間の命が危険に晒されていると聞きウィザードは傷付いた己の体を強引に動かしてウロボロスへと突っ込む。

 

「いいぜ、そうこなくちゃな」

 

剣だけでなく蹴りも攻撃に織り交ぜて仕掛けていく。

が、剣は長剣で反らされ、打撃はウィッチの銃撃にも耐え凌ぐ表皮が相手では碌に痛みも与えられない。

そう、まるで歯が立たないのだ。

だからウィザードはウロボロスに身を切り裂かれ火で炙られるしかない。

 

「私たちだけでも援護するわよ!フェル!」

 

「当然よ!」

 

一方的に嬲られる様に耐えかねてフェルと竹井がウロボロスに向かって射撃を行う。

足が止まり、守りの体勢に入るウロボロス。

 

「これしかない!」

 

『チョーイイネ!キックストライク、サイコー!』

 

今しかチャンスはない。

跳躍し、足に風の魔力を纏うウィザード。

右脚を突き出した姿勢でウロボロスへと真っ直ぐに突き進んでいく。

ギリギリまでフェルと竹井が斉射を続けてくれていたおかげでキックは長剣を盾にされたもののウロボロスに決まる。

 

「うおおっ!」

 

「うっ…!」

 

呻き、足が土をめくって後ろに下がる。

このまま押し切ればあと少しで攻撃が炸裂するとウィザードは期待した。

 

「おらぁ!」

 

けれどもその期待は抱いてすぐに水泡のように淡いものと化し、ウィザードは振り抜いたウロボロスの長剣によって弾かれる。

 

「うわあああ!」

 

変身が解かれたソーマは右肩から派手に滑稽に地面に転がり落ちる。

 

「今ので万策尽きたって感じだな…じゃ、もう終わりにするぜ」

 

長剣を肩に担いだウロボロスは軽やかな足取りでソーマへと歩を進める。

 

「逃げろ!逃げるんだソーマ!私たちに構うことはない!」

 

「逃げてくださいソーマさん!」

 

ドミニカやルチアナが懸命に呼びかけるが彼女たちの思いに反してソーマは土に伏してウロボロスを睨んだまま動かない。

今の戦いと先の戦いで蓄積されたダメージの影響で逃げたくても逃げれないのだろうか。

それが真実かは定かではないが少なくとも竹井はそう判断し、ウロボロスの背後に回りこんで背中を撃ち抜く。

 

「ちっ、無駄だとわかってる癖にしつこさだけは一丁前だな。順番くらい守れよ。お前らの相手は後でしてやるってのに」

 

「フェル!ソーマさんをお願い!」

 

自らを囮にしてウロボロスを引き受けている内にソーマを逃がす。

その意図を理解したフェルは竹井の目論見通りウロボロスが彼女に火球を放った間にソーマの横へと飛行した。

 

「立てる?私の肩に手を回して。あんただけでもこの場から離れないと」

 

「駄目だ。あいつの目的は俺だ。俺を消さない限りあいつはどこだろうと見境なく狙ってくる。俺のことはいいからルチアナたちを。いやそれよりもマルチナとジェーンを助け-」

 

「ああ!うるさい!余計な口叩かず黙りなさい!で、言うこと聞く!」

 

「やめろフェル!」

 

ソーマの言葉にフェルは真っ向から強く言い返すなり強引にその腕を掴んで自分の肩へと回す。

異議を唱えるように名前を呼ばれたがそんなのはお構いなしだ。

 

「二度も逃がすかよ。お前は今日ここで俺に殺されるんだよ!」

 

ウロボロスがその動きに気付いた。

竹井からの連続射撃を無防備で受けながら、体をそちらに向けて火球を放とうとする。

 

すぐに逃げて、と竹井が焦りをにじませて叫ぼうとした時だった。

 

「ぐおおおっ!」

 

弾丸がウロボロスの右側で炸裂し、彼を吹っ飛ばした。

竹井たちは弾丸の飛来して来た方角に目を走らせる。

一台のジープ。運転席にいるのはボーイズライフルのスコープを覗くドッリオ。

 

「「ドッリオ隊長!?」」

 

思いも寄らぬ人物の登場に竹井やフェルたちは驚きの声を上げるがドッリオはその反応を楽しむような表情を見せず、ジープをフェルとソーマの近くに止める。

 

「いたた…わかっててやったこととはいえ結構腰に来るわ」

 

「隊長までどうしてここに来たのよ。怪我してるんじゃ」

 

ドッリオは過去にマルタ島での戦いでの負傷が原因で実戦には出てこれないと聞いていた。

なのにそれがこうして目の前に駆けつけてきたことを疑問に思ったフェルが訊ねると当の本人は痛みを笑顔で誤魔化しながら言葉を返してきた。

 

「大切な部下たちが戦ってるのに隊長の私が何もしないわけにいかないじゃない。それに何よりソーマに届けたい物もあったしね。竹井!悪いけどもう少しだけ踏ん張ってくれる!」

 

「っ了解!」

 

何か考えがあってのものと信じた竹井にウロボロスの相手を任せてドッリオは軍服の内側、胸元のポケットから一枚の写真を出してソーマに差し出した。

 

「よく見てソーマ、これに貴方がずっと求めていた答えがあるわ」

 

「これは…なんでこれを今俺に」

 

ソーマが受け取ったそれはペリーヌから届いたストライクウィッチーズの皆で取った写真。

非常に大事な物であるがドッリオがわざわざ戦場にこれを持って来た意味がわからず怪訝な顔をする。

 

「そこにいる皆すごく気持ちのいい笑顔してるわよね。貴方と一緒に写真撮ってそんな表情をしてるのに貴方のことが好きじゃないと思う?仲間として認めてないと思う?」

 

「っ!!」

 

その言葉にハッとしてソーマは写真を見つめる。

自分の行いを全て知った後でもこの写真に映る皆は眩しく心地良い笑顔を見せている。

それはどうしてだ。自分のしてきたことの全てを知っても受け入れてくれたからではないのか。

 

「なんの話だかよくわからないけどそれでもはっきり私にも言えることがあるわ。ソーマ、前にルチアナのことで悩んでる私にあんた言ったわよね。ルチアナが本当に私が思ってるようなことを言ったのかって。あの言葉そのまま今返すわ。あんたの仲間は確かにあんたが思ってるようなことを言ったの?」

 

続いてフェルからもそう告げられソーマは頭にかかっていたもやのようなものが消えかかっていく気がした。

 

「…違う、皆は俺を」

 

皆は自分を許してくれた。ガリアを解放を祝って写真を撮ったその時も、その後も。

ペリーヌは写真を含めた送り物を送ってくれた。ミーナは電話で気遣ってくれた。バルクホルンは行いに思うところはあっても仲間であることを否定しなかった。

 

「…指輪を使えない原因は俺だったんだ。他の誰でもない俺自身が自分で自分を認めていなかったんだ」

 

仲間を裏切った自分を許せなかったのは自分だけだったのだ。

いくら仲間が力を貸すことを許しても自分自身でそれを拒んでいたら、使える力も使えない。

そんな単純なことに気付くまでどれだけ時間がかかったことだろうか。

 

「ほんとどこまでも迷惑な奴だよ」

 

自分で自分に自虐的な言葉を吐いてウロボロスへと目を向ける。

ハリケーンリンクスの指輪を左手の中指に嵌めながら一歩一歩、歩み寄る。

 

「ちょっと-」

 

「心配しなくても大丈夫よフェル。きっともう」

 

とても防御など考えていないような姿勢で敵へと近づくのを不安に思い止めようとするフェルに対してドッリオはどこか落ち着きがあった。

ソーマが視界に入った竹井は攻撃を止め、ウロボロスはその竹井の行動でソーマの接近に気付いた。

 

「とうとう諦めて自分から命を捨てに来たか」

 

「違う。俺が捨てたのは自分の中にあったくだらない悩みさ」

 

言いながらソーマはドライバーを操作し、変身の準備を整える。

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!』

 

「訳がわからねえな!」

 

はなから相手の意志など興味のないウロボロスは一思いに頭から両断しようと長剣を振りかぶる。

迫り来る危機にソーマは怯えない。

スゥっと、大きく息を吸いある言葉を気持ちを込めて呟く。

 

「変身!」

 

ウロボロスの勢いの乗った長剣はソーマの脳天を砕き、弾けたスイカのように血潮が舞い散り、その命を絶つ。

 

『ハリケーン、リンクス!』

 

というのがウロボロスの思い描いた未来。

しかし現実は長剣が髪先に接触することすら叶わず、ソーマの周囲に鳥籠のように発生した緑の風にウロボロスは長剣ごと吹き飛ばされた。

 

「なんだと!?」

 

『ビュービュー、ビュービュービュー!!』

 

信じられないとばかりに声を上げるウロボロスの目に映るのは大地の上で渦を巻く濃い風。

それが薄れ晴れた時、立っているのは魔法使いである自分自身のマークを中心にして展開するウサギ・ダックスフント・シャルトリューのマークの刻まれた魔法陣を背にしたウィザード・ハリケーンリンクス。




キリのいいところまで書こうと思って書いていたら久々にこんな長くなりましたね…
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