ガリアの首都パリ。
この町は現在復興作業の真っ只中。新たに家を建てる職人たちが木材を運んでは置き、置いては一息ついてまた木材を運ぶために移動を再開している。
熱心に作業に励んでくれる彼らの様子をある少女は少し離れた場所で喜ばしく感じていた。
「そろそろお茶にしませんかーペリーヌさーん!」
遠くから呼ぶ声に少女-ペリーヌは顔を上げて視線を切り替える。
丘の上から声をかけてきたリーネを発見して笑顔を向ける。
「もうそんな時間ですのね。ええ、そうしましょうかリーネさん。作業中の方たちも一旦お休みになられてください」
二人はクロステルマン家の屋敷へと場所を移動して休憩を取ることにした。
自身が端整込めて育てた花壇の前で机と椅子を用意してリーネが持って来た紅茶入りのカップをペリーヌは口に運んだ。
「どうですか?ペリーヌさん」
「そうですわね…なかなかいい味ですわ。貴方が入れましたの?」
「はい、今回は前より自信があるんですよ。っていってもペリーヌさんに比べたらまだまだですけど」
「そう簡単に追い付けるなんて思わないでください。でもまぁ確かに成長は感じますわね」
「本当ですか?」
「嘘言ってどうするんです」
それもそうだと苦笑で返すリーネ。
吊られてペリーヌも柔和な笑みを浮かべるとガリアの街並を思い返して口を開く。
「やっと少しだけ元の姿が戻ってきましたわね」
「協力してくれる皆さんのおかげですね」
「それもありますけど貴女のおかげでもあることを忘れないでくださいリーネさん。貴方には本当に感謝しています」
その言葉に嘘はない。
ガリア解放以来リーネは復興を共に手伝い、自分をサポートしてくれている。所属も生まれもブリタニアなのにだ。
彼女の友情と尽力にはペリーヌは頭が上がらない。
「感謝だなんてそんな、私がやりたいと思ってやっていることですから」
「貴女も変わりましたわね」
心の底からペリーヌは思う。
今の彼女は以前の自信なさげでおどおどしていた姿からはとても想像できないほど堂々としていて信頼を寄せられるほど頼りになる。
こんなにも彼女が変われたのはきっと扶桑から来たあのウィッチの影響だろう。
自分の敬愛する坂本少佐の推薦(というのが少し気に入らないが)で部隊に来たあのウィッチ。
良くも悪くも己の思ったことに真っ直ぐ突き進む彼女の姿勢にリーネは感化されたのだろう。
現にあのウィッチが来てからリーネは戦場で目まぐるしい活躍を挙げ、その活躍はブリタニアのエースの称号に相応しかった。
そういう意味ではリーネの素質をあのウィッチが開花させたと言っていい。もしあのウィッチが来てなければリーネが本来秘めていた素質を発揮することなく、自分の愛する祖国が解放されることもなかった。
…となれば自分はあのウィッチに感謝しなければならないだろう。
坂本少佐のお眼鏡にかない、何度も指導を受けていて、今頃も扶桑で時々会っている可能性があると思うと妬ましい…いや羨ましい部分もあるが
ともかくそれを抜きにしなくてもあのウィッチが自分たちに与えた影響は大きい。
「出会いと言うのは不思議なものですわね」
感慨深げな思いを持ったままペリーヌがティーカップを置いた時彼女の体は強烈な緑色の輝きを纏いだした。
「ペリーヌさん!?」
「これは…?」
突然自分の体が発光する現象。その現象にペリーヌにも、それを見て戸惑っていたリーネにも心当たりがあった。
「今のってウォーロックの時と同じですよね。もしかしてソーマさんが?」
「ええ、そんな気がしますわ」
ペリーヌは感じ取っていた。
今遠くの場所でウィザードが戦っていると。そしておそらく自分の魔法に由来した力を持つハリケーンリンクスを使わざるを得ないほどの状況にあるというのも
(今も戦ってるのですね貴方は…人を守るため、何より貴方を守るためなら私の力、貴方の思うように好きなだけ使ってください)
☆
「ハルトマンの奴、またこんな時間まで寝ているとは。今日という今日は今度こそきつく言っておかなければカールスラント軍人として他の皆に示しがつかん」
早朝のサントロン基地の廊下をゲルトルート・バルクホルン大尉はある部屋を目指して歩いていた。
その目的地は彼女の相方の寝室。多くの軍人ならば起床して一日の行動を規則正しく開始している時間になっても姿を見せず眠りについている彼女を起こすためである。
度々口を酸っぱくして態度を改めるよう言ってきたがのんべんだらりとかわされ諦めて見逃してきたがさすがにそろそろ改善してもらわないと困る。
「おいハルトマン-」
部屋の前まで到着したバルクホルンは扉を開けながら中の人物を叱責する。
いやしかけた時、言葉の途中で軍服を着たハルトマンが眠たそうに眼を擦りながら出てくる。
反射的に進路を譲る形でドアに手をかけたまま体を動かすバルクホルンは目を丸くしていた。
「…どうした?」
「何が?あ、おはよートゥルーデ」
「こんな時間なのに服を着て…どうした」
「何それ。いつもはこんな時間まで寝てるとは何事だーって言うくせに」
「あ、いや、それはそうなんだが…」
ハルトマンの言うようにいつものバルクホルンならばそう言っていたし、自分の目覚ましなく軍服を着て起きて来たことには『やっと自覚ができたようだな』くらいには褒める。
しかしいざこうしてそんな事態に直面すると喜びよりも恐怖が勝ってしまった。
「向こうも頑張ってるみたいだしさ、私も今日くらいはちゃんとしないといけないかなーって」
「向こう?」
「そ、さっきまた感じたんだよね。前みたいなの」
バルクホルンからすれば何のことだかさっぱりだがハルトマンにはわかっていた。
彼女もペリーヌと同様にハリケーンリンクスに変身した戦っているソーマを感じていた。
「さーって、ひとまずミーナにも顔出しとこっかな。今日何するか予定も聞いておきたいし」
疑問に関する答えを一切返すことなくハルトマンはいなくなってしまう。
一人取り残されたバルクホルンはというと
「向こう?感じた?一体何を言ってるんだあいつは」
余計に益々困惑を強めていた。
☆
アフリカ大陸の砂漠地帯を一台のバイクが横断している。
その運転を担うはシャーロット・E・イェーガー大尉。サイドカーに同乗しているのはフランチェスカ・ルッキーニ少尉。
通常の指揮系統の中に納まらない特異な立場にいる彼女たちは祖国ロマーニャ及びリベリオンの管轄内ではなく、司令部からの指示でこのアフリカ地帯に身を置いていた。
「シャーリーお腹空いたー喉も乾いたー」
「まだちょっと我慢できるか?もうすぐで水のあるところに着くだろうから」
「ん―頑張ってみる」
「よしよし、偉いぞルッキーニ」
姉妹にも母娘にも思える仲の良さが伺える会話は相変わらずの二人。
無駄に広く、その癖変わり映えのしない砂漠を走るバイクのサイドカーの上でルッキーニはふと空を見上げた。
「ねぇシャーリー」
「なんだ?」
「皆は今頃どうしてるかな?」
「んーそうだなぁ。解散する前に聞いた話だとミーナ中佐たちはサントロンで、ペリーヌとリーネがそのままブリタニアに残って、サーニャとエイラがスオムスだったか、確か。で、後は宮藤と坂本少佐が扶桑に帰るって話だったな」
「じゃあソーマは?ソーマはわからないの?」
「ソーマかぁ。あいつは…最後に話した時も自分がどういう扱いになるかはわからないって言ってたしな。どうしてるだろうな」
シャーリーとしてもソーマの近況は気にしている。
諸々の要因があって彼は自分たち二人以上に特殊な立場に置かれている。
もしかしたら処罰を与えられて、拘束か投獄されている可能性だってある。
ルッキーニもその辺りの事情を詳しく把握している訳ではないだろうがなんとなくソーマが嫌な目に合っている可能性は低くないと薄々思っているのだろう。
「大丈夫だよね?またちゃんと会えるよね?」
「大丈夫さ。必ずまた会える。だからその時まで私たちがまずはしっかり頑張らないとな」
「そだね!じゃあそのためにも早く人のいるところにいこ!」
シャーリーの言葉を受けて途端に元気を取り戻すルッキーニ。
さっきまで不調を訴えていたのとは同一人物とは思えない変わり身の早さにシャーリーは心の中で思い切り笑う。
そんな彼女にももちろんある現象が起こった。
「うおっ、わあ!?なんだなんだ!?」
「シャーリー光ってるよ!ウォーロックの時みたいに!」
体が緑色の光を放ったのだ。
予兆もなくあまりに突然の出来事であったためにシャーリーはすぐさま運転を止めて光輝く自身の掌と身体を不思議そうにルッキーニと一緒になって見つめる。
「ソーマがまた私やハルトマンたちの力を使って変身したのか」
シャーリーもまた自分の身に起きた発光現象を結びつけた。
『ウォーロックの時と同じ』というルッキーニの言葉で気付いたが確かに自分の体内から温かな力が満ちてくるのを感じる。
「ソーマ戦ってるんだ…」
彼が今この時も戦っていると知り、心配そうな顔をするルッキーニ。
そんな彼女を励ますようにシャーリーは平常時と変わらぬ笑顔を浮かべる。
「そんな心配しなくても平気だよ。ソーマは強い。それに私たちの力もついてるんだ。簡単に負けやしないさ」
「そっか、そうだよね」
ルッキーニから目を外して先ほどの彼女のようにシャーリーは青空を見上げた。
(大丈夫だよなお前なら。絶対負けるなよ)
遠く離れたこの空の下で戦う仲間の魔法使い。彼の勝利と無事を信じて
☆
アルダーウィッチーズのウィッチたちとウロボロスの前でウィザードは変化した。
彼は変身に使用したハリケーンリンクスの指輪を見つめて感慨深げに呟いた。
「あの時と同じだ…体の中に温かい力を感じる」
前にも味わった感覚。この感覚を再び味わえたことがウィザードは嬉しかった。
身体の中を流れ外を覆う強くも優しく温かい魔力。それが近くにいなくてもあの三人が…仲間たちと繋がって、支えてくれていることの証明のように思えるから。
ウィザードは拳をぎゅっと握り締めてからウロボロスへと歩いていく。
「さっきとちょっと見た目が変わっただけじゃねえか。そんな程度の変化で俺に勝てると思ってんのかあ!」
ウロボロスも走り出し彼の方からも両者の間にある間隔をなくしていく。
己の武器のリーチにウィザードの体が入ったところで長剣を勢いよく叩き付けるように振り下ろす。
ウィザードは舞うように身軽な所作で横に回転して回避。
後ろへと通り過ぎたウロボロスの背中をその場で蹴り付ける。
「うお!」
情けなく前のめりに倒れ込むウロボロス。
だがダメージ自体は大したことはなかったためにすぐに起き上がる。
なにかのまぐれだろうと確信して何度も斬りかかるが、振り回した長剣は何度も余裕を持った最小限の動きでかわされ、ウロボロスの苛立ちが蓄積する。
「この、こいつ!」
縦や斜めに振るっていたものを今度は横に剣筋を変えて振るう。これならば回避のしようがないと思っての一振りだった。
しかしウィザードはバク宙で剣の軌道から外れ、着地と同時に顎を蹴り付ける。
またしてもウロボロスは地面に全身を付ける羽目になった。
「何故だ!?何故こんな……こうなったら先にこっちから始末してやる!」
ウロボロスは標的を変えて白蛇と黒竜、二頭の中にいるマルチナとジェーンを溶かす消化液の速度と強度を上げるために地面を経由して魔力を送る。
その行動をフェルたちは見抜けなかったが一度受けた経験のあるウィザードは地面を流れる魔力から狙いに気付いた。
「そうはいくか」
『チョーイイネ!プラズマ、サイコー!』
掌を地面に向けて雷撃を放つウィザード。雷撃はたちまち地中を巡り、ウロボロスと彼の使役する白蛇と黒竜に到達する。
「があああああ!!」
ウロボロスは大きなダメージを受けて膝を付き、白蛇と黒竜は破裂して体内にいたマルチナとジェーンが肉片と共に放り出される。
「マルチナ!」
「いった!?あー、助かった。危うくもう少しで溶かされるところだったよ」
「ジェーン!無事で何よりだ」
「大将-ソーマさん!?なんでここに!?」
胃液で身体はべとべとになってしまっていたが解放された二人にすかさずルチアナとドミニカが駆け寄り喜びを露わにする。
これで心置きなく集中できる。
それを見て同じように喜び、安堵していたウィザードだが気を抜くことなくウロボロスへと向き直り、魔法陣から出したウィザーソードガンを手にする。
最初の数歩はゆったりと、そこからは一気に駆け出して接近する彼のウィザーソードガンと長剣が幾度となくぶつかり合う。
力任せに振るうウロボロスだがウィザードは剣戟を結んでいたと思いきや途中で距離を取ってガンモードに変形させたウィザーソードガンで射撃を行う。
その射撃もこれまでと違いウィッチの放つ弾と同等近くにまで威力が上がっていて無防備な体勢で受けたウロボロスの身を苦しめた。
(どうなってやがる。さっきよりも強くなってる…)
ウロボロスは疑問に思った。どういうわけだかウィザードは格段に強くなっている。
自分に手も足も出なかったはずがあっという間に形成が逆転し、今では自分の方が痛めつけられている。
とにかく近接戦は一旦諦めてウロボロスは遠距離攻撃を主体に戦い方を変えることにした。
両肩から火球を連続で放ち、ウィザードを丸焼きにすることに決めた。
『チョーイイネ!サイクロン、サイコー!』
「はぁ!」
迫る来る複数の火球をウィザードは魔法陣から竜巻を吹きだし打ち消す。
そしてそれだけにとどまらず竜巻は頭を宙へと向けてウロボロスの足を地上から切り離した。
「うおああああ!」
大した抵抗もできず空に舞い上げられるウロボロスに滑空したウィザードの剣が上下左右から刻まれる。
「こんな変わるものなの…」
その圧倒ぶりはソーマが本気を出せるようになれればもしかすれば希望はあるかも、と思い悩みの払拭に貢献したドッリオにも予想外だった。
しかし単純に考えれば当たり前のことでもある。ハリケーンリンクスはウィザードの胸に眠る力が引き出されていることに加えてウィッチ三人分の魔法が付与された形態。それもただのウィッチではなく一流のエースの三人だ。
これで弱くないはずがないのだ。
「図に乗るな人間の分際で!」
攻撃を受け続けていた鬱憤が蓄積したウロボロスが叫んだ。そして体に変化が起き始めた。
「うっ!おおおおああああっっ!ああ!」
「何をするつもりなの…」
苦しむ声を上げながら背中から突起が二つ左右に伸び、それらはやがて銀の翼へと形成されていった。
「俺に楯突いたことをあの世で後悔しろ。全員まとめて塵にしてやる!」
翼をはためかせてウロボロスは飛翔する。ウィザードやフェルたちが小さな豆粒と錯覚するまでの高度に到達すると翼を広げ、そこに力を集約させる。
空中にいたフェルや竹井が攻撃を未然に防ごうとするが、彼女たちが射程圏内に移動するよりも早く翼から無数の火の矢が雨のように地上へと降り注いだ。
「こんな無茶苦茶な数私たちだけじゃ防ぎ切れない!」
「大丈夫だ。あれくらいの速さなら間に合う」
あまりに広範囲に及ぶ攻撃に狼狽えるフェルだがウィザードの声には動揺はなかった。
『チョーイイネ!ジェット、サイコー!』
『コピー、プリーズ!』
緊迫感の欠片もない陽気な音声。
その音声が魔力で強化されたフェルの耳に聞こえたのと地上にいたウィザードが空から地上に落ちていく最中の矢の一部を切り払ったのはほぼ同じタイミングだった。
「馬鹿な…」
「はっや」
敵も味方も言葉を失う。矢の数はどんどんと高速で動く二つの刃の前に消えていく。
空に展開していた火が全て消滅し、ウロボロスの脇腹をウィザードが切り裂いて駆け抜けウロボロスよりも大きく離れた高みに移動していた。
「どうした。これでおしまいか?」
「殺す!」
白雲を背にするウィザード。
視線でも実力でも自分を見下しているように感じたウロボロスは戦法も戦略も考える時間を置くこともなく一直線に目指す。
ウィザードも二刀流でウロボロスを迎え撃つ。
「何ぼさっとしてるの。貴女たちもいくのよ」
「でも私たちのストライカーは壊れてしまって」
「おまけに弾も心もとない。こんな有様で突っ込んでもソーマの足手まといになると思うが」
ルチアナとドミニカのストライカーは破損により飛行ができず、弾薬も全員残りわずか。
しかしドッリオはそんな答えなど予想していたというように得意気な顔を浮かべて、ジープを親指で指す。
「こんなこともあろうかとちゃんと用意してきたわ。ほら!」
ルチアナたちが揃ってジープの後部座席を見てみると、そこにはルチアナたちが扱う武器ごとの弾薬が詰まれていた。
「ストライカーはさすがに持ってこれなかったけどね…持って来たかったけどうちに予備はなかったし」
「どの道私とルチアナは戦えないか」
「だったら私がやります!大将の分も!」
主戦場が空に移った今ストライカーがなくては戦えない。悔しさを表情に出すルチアナとドミニカだったが、二人に向かって意気込んで声を上げたのはジェーンとマルチナだった。
「ジェーン、戦えるのか?」
「あの中にいる間もし外に出れた時のためにストライカーだけは守らないとって、シールドで守ってたんです」
「私もいくよ。やられたままじゃ黙ってられないからね」
ウィッチの基礎訓練として水面にシールド展開して海の上に立つ内容があり、ある扶桑の新米ウィッチはこの訓練を日常的に行っている。
マルチナとジェーンはこの応用でストライカーを足元の消化液から身を守ったのだ。
「なら私の銃も持っていけ。せめてこれだけでもあいつのところに届けてやりたい」
「はい、大将」
「マルチナ、私の分までお願いします」
「任せて!しっかり届けてくるから。ソーマにもあいつにもね」
大切な相方から武器と思いを受け取り、マルチナとジェーンは空へと飛翔する。
「竹井、私たちも」
「わかっているわ。終わらせるわよ。私たちの力で」
フェルと竹井も続いて上昇した。
緑の魔法使いと白と黒の怪物の剣が透明な青空で何度も音を立てて激突する。
ウロボロスの苛立ちは頂点に達していた。
攻撃がまるで通らないのだ。自身が繰り出す攻撃は軒並みかわされ、逆に向こうからの攻撃は入る一方。
しかも息を切らしているこちらと違ってウィザードは調子を崩すことなく落ち着いていた。
剣を両手ごと頭の上に上げるとウィザードに斬りかかる。
するとウィザードは思い切った行動に出た。二つのウィザーソードガンを更に空中に投げると、空いた両手の平で長剣を挟み込んだ。
「なにい!?」
それは扶桑で言うところの真剣白刃取り。ウィザードが坂本や宮藤から聞いて知っていたわけではなく、過去に試した経験もない。
完全なる予備知識なしのぶっつけ本番であったが成功したようだ。
ウロボロスは押し込もうと腕に力を込める。しかしウィザードも負けじと押し返し、剣の位置は両者の中間から大きく動かない。
「いいのか?俺にばかり夢中になってて」
ウィザードがそう言ってウロボロスが疑問を感じた直後彼の両翼が被弾した。
「おおっ!?」
首を動かして背後を見るとジェーンとフェル、マルチナと竹井が左右に分かれて銃口を向けていた。
翼の傷みが彼女たちの仕業とわかるとウロボロスは怒りの形相を浮かべる。
「いいのかしら?私たちばかり見てて。痛い目見るわよ」
フェルの言葉にウロボロスが元向いていた方に首を戻すと彼の想像していた通り横蹴りが飛び、蹴りをぶつけた張本人はウロボロスが手を離した瞬間に剣を掴み投げ捨てる。
「俺は最強だ!最強のウロボロスだぞ!それがこんな、こんな奴らに負けるなんてありえねえ!」
自分の方が圧倒的な強さを持っているはずなのに。その強さで追い詰めていたはずなのに。
それがどうして。どうして急に自分の方が追い詰められているのか。
ウロボロスには理解ができなかった。
「お前の言う強さよりも」
「私たちの強さの方が強かった。それだけの話よ」
『チョーイイネ!スペシャル、サイコー!』
フェルの言葉に同調するようにして先ほど手放し落下してきた二つのウィザーソードガンを魔法陣の中に収納したウィザードが締めの一撃に入る。
高速移動・竜巻・放電。仲間たちの持つ三つの魔法を同時に使ってウロボロスの周囲を高速で旋回し、雷帯びる風の檻を形成する。
逃れる間もなく閉じ込められた風をから抜け出そうと試みるウロボロスだが、武器を失った今の状態では猛烈な勢いで吹き荒れる風と身体の中まで浸透する雷には太刀打ちできない。
風を破ろうと拳を突き出しても、ダメージを覚悟で突撃しても満足に抜けきれず中へと押し返されてしまう。
ウロボロスが足掻いている間にもウィザードは風の檻の頂点に行き着いていて、その位置から急降下して風と雷を纏った蹴りをウロボロスへと突き出してくる。
「まずい!」
あれを食らったら自分は…己の強さに確固たる自信を持つウロボロスは直感で相手の攻撃の威力の高さを見抜いた。
真っ向から立ち向かう姿勢を見せず逃げることだけをひたすら考えていた。
生まれて初めてのことだった。
(下だ!この風を抜けるにはあそこにしかない!)
生に飢えた彼の視線が無風の空間を見つけた。
傷付き痛みが治まらない翼を懸命に働かせて必死に生存への希望を求めてウィザードに背を向けた。
しかしウロボロスが目指した無風の安全領域の先には一つの銃口が置かれていた。
「あらどこへいこうってのかしら…逃がさないわよ」
銃口の主、フェルが勝気な笑みを浮かべて引き金を引いた。
弾はウロボロスに直撃し、弱っていた彼の身体を貫通する。
「うがああああ!!?」
その間にもウィザードはもうすぐそこまで迫っていた。
「だあああああああ!!」
「-俺が、この俺があああああああ!」
竜巻の中で大きな爆発が生まれた。最後の最後まで自身の敗北を受け入れられぬまま怪物は炎の中に散った。
「ふぅー」
竜巻が消え始めたのと時を同じくして翼を広げたウィザードがフェルの横で止まる。
「助かったよ。ありがとう」
「いーえどういたしまして。そっちこそ、お疲れ様。帰ってゆっくりシャワーでも浴びましょ」
お互いに感謝と労いの言葉を送り二人は勝利の喜びを分かち合った。