ストライクウィッチーズ~約束の空~   作:カメクリオ

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第四十三輪 いつかまた…

「え!!?ソーマさん、もう504から離れちゃうんですか!?」

 

「昨日司令部からお達しがあってさ。五日以内に荷物をまとめて引き払えって」

 

ウロボロス撃破から数日経った昼食の席でのこと。

自分の店を台無しにしてくれた敵を自分の代わりに倒してくれたと噂で知ったジュリアが同業者の友人の店で購入し、差し入れられたドーナツを食べながら話をしていた。

色んな話が飛び交う中で、最もルチアナたちを驚かせたのが『ソーマの転属』であった。

 

「せっかく仲良くなれたのに」

 

「連携だって慣れたところだったのにね」

 

マルチナがシナモンドーナツを、フェルがレーズンロールを食べながら突然の知らされた別れを残念がる。

ドッリオも同感の意を口にしながら話題を変える。

 

「仕方ないわよ司令部が決めたことなら。でもその代わりにうちにメイジになれる人を多く派遣してくれるみたいよ」

 

「メイジ。それって確かソーマの使ってるのと同じようなベルトを使って変身する魔法使いのことよね」

 

「合ってるよ。俺がブリタニアを離れる前はベルトは十個くらいしかなかったけどそこからまた更にベルトを増やしたみたい」

 

メイジなる者の名はフェルも噂くらいでなら少しだけ聞いたことがある。

ウィザードと同じ原理・道具で変身する魔法使いでウィザードの戦闘データを元に反ウィッチ派思想を持つマロニー一派によって開発された。

魔力の少ない者でも変身が可能なのが特徴で実際ソーマを隊長とした部隊の変身者は全て潜在的に魔力が乏しいとされる男性ばかりであった。

 

「元々ソーマが来ることになったのも統合戦闘航空団のウィッチと魔法使いが戦場で上手く共存ができるかっていう試験的な意味合いあってのことなのよ。つまりこれからのアルダーウィッチーズは本来司令部が今後の主軸として考えていた編成になるってわけ」

 

「魔法使いとウィッチの混成部隊ですか。それが実現すれば確かに戦いは楽になるかもしれませんね。戦える人が増えればそれだけ私たちウィッチの負担が減るわけですし」

 

「それなら大歓迎だが逆の場合も考えられないか?」

 

竹井も全面的に同意を示したメイジの導入。しかしそこにドミニカが懐疑的な言葉を投げかけた。

 

「逆?」

 

「問題が増えるかもしれない、ということだ。極端な話今後そのメイジとやらに後ろから撃たれる、そのようなこともありえないとは言えないだろう」

 

「それは…どうなの?」

 

「ドミニカの言うようなことはありえると思う。こんなこと特にフェルたちの前で言いたくないけど軍の中でもウィッチにいい感情を持たない人間はそれなりにいる」

 

ソーマにはドミニカの懸念をはっきり否定できない根拠があった。

メイジの初陣となったガリアでの戦いがまさにそうだった。

ウィッチを快く思わない人間は残念ながら軍の内部にも一定数おり、マロニーらの一派の中枢はまさにそういった人物で構成されていてウィッチへの反発的な行動を取った。

 

「もちろんそういう人ばかりがメイジに選ばれるわけじゃないと思う。特に今は上の方も気を遣ってそんなことを起こさないようなメンバーを選別してるんじゃないかな」

 

ミーナかガランド辺りから小耳に挟んだ程度の情報になるがマロニー一派に関与し反ウィッチの思想を持つ軍人の多くが降格や辺境の地へ左遷されるなど何かしらの罰を受けたばかりだという。

その直後に同じような行いをしかねない人物をメイジの変身者に選ぶようなことは連合軍上層部も各国のお偉いさんも自分たちの面子を下げないためにも避けたいところだろう。

 

「そうね、ドミニカの言うことには私も一理あるわ。けどそれはメイジに限った話でもないんじゃない。私たちが使っている銃や刃物だってそう。結局はその道具や力を扱う人次第。手にした力で大切な何かを守りたいと思ってくれるそんな人がメイジとしてこの基地に来てくれたら私にとって嬉しいことはないわ…ん!これ見た目の割に味がまとまってて美味しいわね」

 

そうまとめたドッリオはストロベリーにチョコフレークの乗ったドーナツを絶賛する。

最後の最後で真面目さを崩す辺り実に彼女らしいが言ってることの内容自体にはフェルたちも納得させられた。

 

「そうね、それに来てみたら案外ウマが合うってのもあるかもしれないわね。事前の評判が悪かった魔法使いさんとだって結果的には別れるのが寂しいくらいには仲良くなれたし。ね?」

 

「うっ!」

 

からかうように言うフェルの横で彼女曰く事前の悪かった魔法使いが無言で背中を曲げて、苦しそうにシナモンドーナツを持っているのとは別の手で胸を抑えて背中を曲げる。まるでそこを弾丸で撃たれたように。

大袈裟なでおどけた仕草にルチアナたちの口元は自然と綻ぶ。

 

「これから色々問題も出てくるだろうけどそれ以上にステキなことが起こる。そう期待しておくことにしましょ。今はそれでいいんじゃないかしら」

 

ドッリオが最後の一口を口に含んでそう締めくくった。

 

 

それから数時間後の夜。

ソーマは自室を出て浴場へと足を運んでいた。

ところが男性浴場の入り口にはいつもはない立て札が設置されていてそこには『設備点検中にて使用不可、現時刻は男性は隣の浴場を使用してください』の文字が手書きで書かれていた。

 

「点検中…ってことは、今はこっちを使えばいいんだよな」

 

何の疑いも抱かず女性専用の浴場へと入っていく。

その背中が消えたのを見て物陰に身を潜めていたある女は音を立てずに誰も見ていないのを確かめると立て札を動かした。

男性浴場の入り口から隣の壁際へと

 

「これを変えてっと。よし、後は…んっふっふっふ、たんのしみだわ~」

 

これから何が起こるかを想像して女は愉快な笑みを浮かべた。

 

 

そんな外の様子など知る由もなくソーマは脱衣所で衣服を脱いで腰にタオルを巻いてから浴場に足を踏み入れた。

まずシャワーで身を満遍なく清潔にしてそれから湯舟へと身を沈めた。

 

「くぁ~。この風呂ともうすぐお別れか。少し寂しくなるな。扶桑式の凝った風呂なんてあるところそうそうないだろうしな」

 

ここヴェネツィアの基地では扶桑人(たけい)が基地の設備に口が利く立場で、彼女のこだわりを反映して浴槽が設けられているがこういったところは希少種。

元いた部隊で関わった扶桑のウィッチ二人から教わったのもあってかすっかり扶桑の文化に身も心も虜になってしまった身としては、多少なりともさみしかったりする。

 

「次はどこに行くんだろうな…次のところでもこんな風にやっていけるといいけど」

 

今後の自分の未来に思いを馳せる。どんな出会いが待っているのか、期待と不安を考えながら腕を頭の後ろで組んで天井を見上げる彼の耳は次の瞬間奇妙な音を拾いだした。

 

 

「皆でお風呂に入ろうだなんてどうしたんですか隊長?」

 

「これといって深い意味はないわよ。珍しく書類仕事も片付いたから久々に皆で入れたらいいなってだけよ」

 

「その書類仕事ほとんど私がやったんですけど…」

 

「あ、貴女たち、入る前にちょっと待って。タオル巻いておいた方がいいわよ」

 

「……え?」

 

おかしい。

女子の声、というよりフェルたちの声が聞こえてくる。

一瞬自分の耳がおかしくなったのかと疑ったがそうではなさそうだ。段々と会話の内容が鮮明になってくる。

 

「うっそだろ。この時間は使っていいはずだよな。なのになんで?なんでこっちくんの?」

 

次々と浮かび上がってくる疑問を片っ端から口にしながらソーマは浴槽の中で起き上がる。

脳内で描かれてしまった現実になりうるであろう嫌な光景を避けるためにもとにかく今はここを離れなければ、そう思って脱衣所の出入り口へと向かったが今一歩遅かった。

彼の手が届く数秒程前に向こう側から扉が開かれフェルたちの顔が見えたからだ。

 

「ぁ…」

 

「は?」

 

ソーマの側もフェルたちの側も両者が自分の目の前にある光景を信じられず、その場で立ち止まって目を見開く。

フェルとマルチナは驚きと怒りの表情でソーマを睨むように見て、ルチアナとジェーンは驚きの中に恥じらいの混ざった赤い顔で自身の身体をタオルと手で隠している。

ポーカーフェイスな印象の強いドミニカでさえも不審と失望の目をソーマへと寄越している。

今まで見たことがないそんな彼女の表情がソーマは一番傷付いた。

 

「…何してるのあんた。ここ女湯よ」

 

「まさか私たちの身体を見るために?」

 

「そんな奴だったとはな。最後の最後で見下げ果てたぞ」

 

「待って!待って!話、話を聞いてくれ!」

 

怒りと失望を持ってしまった三人からの非難の嵐にソーマは言葉と手を思いっきり使って否定する。

 

「ヘンタイの言い訳なんて私たちが耳を貸すと思う?」

 

「俺が来た時ここは男湯ってことになってたんだよ!」

 

必死になって弁明する彼の様子を見てフェルたちも落ち着きを取り戻して冷静に質問を投げかける。

疑いの眼差しを維持したままではあったが

 

「どういうこと?」

 

「入口に立て札があってこの時間男湯は点検中だから代わりにこっちの湯を使ってくれってあったんだ。それで俺は何の疑いもなくここに」

 

「私たちが来た時はそんなのどこにもなかったわよ。なかったわよね」

 

「うん。なかった。絶対なかった」

 

「でも、ソーマさんが嘘をついてるようには思えませんし」

 

「ソーマがヘンタイで私たちの艶姿を見るのが目的だったとしても目的に対してあまりに手段が杜撰すぎるしな。ソーマではない誰かがその立て札を設置してソーマが入った後、私たちが入る前にこっそり立て札を取り除いたといったところか」

 

「けれど一体誰が何のためにそんなことをしたんでしょう」

 

これまでの積み重ねが功を奏してソーマへの誤解はあっさり解け、この状況に至った原因を突き止めようと言葉を重ねるフェルたち。

彼らの輪から外れ、音を立てないように密に浴場の出入り口へと逃亡を図る者がいた。

 

「どこに行くんですかドッリオ隊長」

 

この状況下において明らかに浮いて目立っていたその者の動きを竹井は逃さなかった。

空間内に広がる温かい空気を裂くように凍てついた声で自分の名前を呼ばれ、逃亡者は背筋が跳ね上がり恐る恐る振り向いた。

 

「隊長、貴女ですよね。ソーマさんをここに入るよう仕向けたのは」

 

「さ、さぁ?何のことかしら。私にはさっぱりー…」

 

ドッリオはソーマのように弁解を試みるが無駄なあがきだというのは残念なことに気付いていた。

目の前で竹井は表情こそ笑っているが目の奥はちっとも笑っていない。

完全に自分の犯行だと確証を持っているようだ。

そして竹井は更にそれを裏付ける根拠を突き付ける。

 

「さっぱり?いいえ、そんなことはないはずですよ。私たちが入る前こう言ってましたよね。タオルを巻いておきた方がいいって。あれってソーマさんが中にいるのを知ってたからですよね」

 

「どうだったかしら…私、言った覚えないんだけどなー」

 

「言ってた!そうだよ。今考えてみたらおかしいよ。いつもはそんなこと言わないのに」

 

視線を泳がせながらドッリオはすっとぼけてみせるがマルチナにまで証明されてしまったことで逃げ道を潰された。

 

「一応私たちへの配慮してくれたってわけね。そこはよかったけど、いやよくはないんだけど。そもそもなんでこんなことを?」

 

「最後にソーマにちょっとでも記憶に残るようなことをしてあげようかなって。後ソーマの反応面白そうだったし」

 

「最後のがメインですよねそれ」

 

「でも嬉しいでしょ。こんなかわいい女の子たちのあられもない恰好なんて見たくても見れるものじゃないわよ。でしょ?そう思わない?ソーマ」

 

「隊長、反省してないようですね」

 

反省の色がまるで伺えない享楽主義の塊に竹井が冷ややかな目を突き刺さす。

その目を維持したまま彼女の耳は次の瞬間後ろの方で小さな声で呟かれた言葉も聞き逃さなかった。

 

「嬉しいか嬉しくないかって言ったら、嬉しいけど…」

 

「ソーマさん?気のせいかしら。今何か言って?」

 

「いえ!何も!えっと、とにかく本当ごめん!すぐに隣に移動するからほんとごめん!」

 

不用意な失言を繰り返して竹井の怒りの矛先が向くのを避けるためソーマは駆け足でフェルたちの間を通り抜けて女子風呂を出ようとする。

 

「危ないですよ走ったら!」

 

「え?うおわぁぁ!!?」

 

大急ぎで危なっかしい動作を見てルチアナが警告するが遅かった。

水に濡れた床に足を取られたソーマは顔から地面にダイブする。

咄嗟に鼻と口を手でカバーして、腰には元からタオルを巻いていたためにソーマ自身にとってもルチアナたちにとっても悲劇が起きなかった。

それは不幸中の幸いといえよう。

しかしほぼ素っ裸の男が複数人の女子が見ている前でだいぶ悲惨なこけ方をしたのは情けないと思われるのは否めない。

 

「……じゃあ、また明日」

 

本人も自覚はあったようで恥じらいを隠すようにすぐさま起き上って顔を見せずに男湯の方へそそくさと消えていく。

 

「同情するわね。ある意味」

 

「なかなか可哀想だったね」

 

一方的に振り回された挙句すっ転ぶ顛末を迎えてしまった彼のいた場所へフェルとマルチナが悲哀の混じった呟きを残す。

 

「もったいない。もう少しいればよかったのに」

 

「隊長。後でお話がありますので覚悟しておいてくださいね。今日は少し長いですよ」

 

ドッリオは尚も自らの行いを悔いているとは思えない発言をする。

当然そんな彼女を竹井が気にも留めないはずはなく、お灸を据える腹積もりを打ち明ける。

 

「せ、正座は勘弁して。あれ足痺れてしんどいのよ」

 

「自分の蒔いた種ですよね?もちろんこうなるってわかっててやったことですよね?なら何も問題ないじゃないですか」

 

いつにも増して恐ろしさが増している。竹井の顔を見て、声を聞いてドッリオは震えた。

ソーマが相手だったとはいえ異性にほとんど裸に近い状態を見られたのが相当堪えたのだろう。

 

フェルたちもそんな竹井の思いは充分理解できた。

 

「これが扶桑のコトワザにある自業自得ってやつかしら。まぁ仕方ないわよね。私たちもさすがに今回は庇いきれないわ。さ、隊長は放っておいて温かいお湯に入りましょ」

 

「そだねー」

 

「こんな姿でここに突っ立っていても風邪をひくだけだからな。悪く思わないでくれ」

 

「す、すみませんドッリオ隊長。そういうわけですので、頑張ってください」

 

「私も失礼します。ごめんなさい!」

 

だからこそ止めるのは野暮と思いドッリオを見捨てる道を選んだ。それは他の者も同じであった。

そもそもフェルも言っていたがこれはドッリオの自業自得なのだ。

ある者はすんなり割り切って、ある者はせめてもの謝意を送ってから湯舟へと進んでいく。

 

「あ、えっと…」

 

脱衣所に残ったのは自分と竹井の二人のみ。

見捨てられる形になったドッリオは恐る恐る竹井の顔色を伺うと尚も彼女は安心できない笑みを浮かべたままであった。

 

「お風呂には入っていいですよ。私のお話は上がった後の方がゆったりできますから」

 

「は、はい…でもできるだけお手柔らかにお願いします」

 

「そんなことが言える立場だと思いますか?」

 

「いえ…すみません」

 

ああ、どうか。どうか温かいお湯が竹井の怒りを鎮めて何とか上手い事収まってくれないだろうか。

そんな可能性の低い、淡い希望が現実になることをドッリオは切望した。

 

 

当然そんな奇跡は起こらなかったが

 

 

 

 

同じ日の夜。

ヴェネツィアから少し離れたロマーニャの町の空は月も星も厚い雲に覆われ天から地上を照らす光は一つたりともなかった。

ひんやりと冷たい風吹く街の無人の喫茶店の席でまた女性が一人で座りティーカップに入った紅茶の味と香りを楽しんでいた。

背筋をピンと伸ばして両足を揃えて紅茶を飲む姿は貴族顔負けの気品と美しさに溢れている。

 

「やられちゃったのねウロボロス。あれだけ息巻いていたのに残念ね……でも大丈夫、安心して。貴方の仇は取ってあげるわ。私の心を満たすついでにね」

 

仲間の死を想って口元に笑みを作る。

彼女が手には新聞がある記事の面で開かれた状態にあった。その記事に載っている写真にいたのは第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズの十一人のウィッチとウィザードであるソーマ。

そこにある顔を見て女の笑みはより深みを増した。




今回でアルダーウィッチーズ編完結になります!(まさかこんなにも時間がかかるとは開始当初は思わなかった…執筆が遅いのがいけないんですが)

次回からはストライクウィッチーズ2編に突入致します。個人的に一番好きでやりたいことが多い章ですので気合いを入れて頑張ります。

それと後今回からしばらくの間アンケートを設置します。
そう大したものではないので気軽に投票してくれると嬉しいですし大変喜びますのでもしよろしければよろしくお願いします。
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