『例え己の力が弱くできることが少なくても周りとの連携次第で敵に大きなダメージを与えることに繋がる。私がこれからの戦いでお前に求めるのはそれを行おうとする意識や考え方だ』
『初めは上手くいかないと思うわ。でもそれでいいの。むしろたくさん失敗してもどれだけ時間がかかってもいいから服部さんには挑戦してほしい』
昨日の模擬戦で坂本姐さんとミーナ中佐は言ってた。
実践では仲間のことを考えておくことが大事で、その意識を俺に持って欲しいって。
一日でも早く坂本姐さんたちからの期待に答えたい俺はあることをしようと決めた。
それは部隊の皆さんのことをもっと知ること。
皆さんがどんな魔法を持っててどんな戦い方をするのか、どんなことをするのが好きで好きな食べ物はなんなのかとか戦いに関わること以外にも色々聞いてみようと思った。
戦いにも役立てて皆さんと仲良くなれる。これぞ一石二鳥。
そうと決まれば早速行動開始。善は急げだ。ってなわけで
「俺のことをもっと知りたい?」
「はい!教えてください!」
最初はやっぱりこの人からだ。世界で初めての魔法使いウィザードで俺がすっごい尊敬するソーマ先輩。相部屋となった寝室の中で机の前に置かれた椅子に座る先輩に俺は聞いてみた。
「なんでいきなりそんなこと、あー…昨日坂本少佐に言われたことか。いいよ」
「やった。ありがとうございます!」
急な俺の願いを快く快諾してくれた。本当に先輩は頼りになって優しい。坂本姐さんが教えてくれた通りの人だ。
「さて何を話すか。そうだなぁ、やっぱりまずは俺の使う魔法のことから話すか」
そう言うと先輩は自分の腰に身に着けたホルダーから変身に使う四色の指輪を引き抜いて俺に見せてくれる。
「これが俺が変身に使う指輪。もう何回か見て知ってるだろうけど、風と火、土と水の力がこの指輪にはあって俺はこれがあるおかげでウィザードとして戦えてる」
「全部で四つあるんですね。俺が見たことないのは黄色の姿ですけどそれは土でいいんですか?」
「そう。これは他よりも防御力が高くて剣が使える近距離の戦いだと重宝するんだがな、空だと使い勝手が悪くてな。この姿で飛べたらまた違ったんだろうけど」
先輩は一旦他の三つの指輪を机の上に置いて黄色の指輪を親指と人差し指で挟み込むように持った。
「言われてみれば緑の時以外は全部下に落ちてましたね」
「風の力を持つハリケーンだけしか浮かべないからな。でもだからって空の戦いでハリケーン以外の他の指輪がいらないってことにはならない。フレイムやウォーターの姿でしかできない魔法もあるし、同じ魔法でも姿が違うと効果も変わったりするから」
「なるほど…っとメモしないとな。えっと紙、紙が…ない」
教えてもらったことを忘れないようにと俺はペンと紙を探すがここである事実に気付いた。
俺の私物には紙とペンがないということに、これでは今日一日皆さんから話を聞いたとしても翌日にはすっぽり記憶から消えてしまう。
ところがそのことに困っていたのが動作や顔に出ていたのか先輩が自分の机の引き出しから小さな紙とペンを出して俺に渡してくれた。
「使うか?」
「是非。ありがとうございます」
ああ、本当になんて心の広い人なんだろうか。
先輩から貰った紙とペンを使って俺は自分の膝を机の代わりにしてメモを取る。
とペンを走らせていたが、ここで疑問に思ったことが一つ出てきた。
「あれ?変身するのに使う指輪は四つって言ってたじゃないですか。けどもう一個ありませんでした?この間使ってたあの風の奴」
メモを書きつつも俺は先輩のある姿を思い浮かべていた。
胸部分が何かの生き物の顔のようなものがくっついているように見えた緑の風の姿だ。
「ハリケーンリンクスのことか。それもあるな」
「水とか火とかは一つだけなんですよね?なんで風だけ二つあるんですか?」
「…それなぁ、なんて言ったらいいかな」
説明に困った。そんな感じで先輩は頭を掻いている。
「ちょっと特殊でさ、最初は使えなかったんだよ。でもブリタニアでの最後の戦いで光って使えるようになったんだよ」
「へー光って、光った?」
「光った。突然」
「そうなんですか…」
指輪が光るなんていまいちよくわからないしとても信じられないけどでも先輩がそんな嘘つくわけないから本当なんだろうな。
不思議なこともあるんだなぁ。
「まぁこんなところかな。指輪はまだ変身に使う以外の物もあるけど数あるし、いっぺんに一つ一つについて説明しても覚えられないだろうし、それに他の皆にも話聞くんだろ?次は誰のところ行くのか決まってるのか?」
「いえ、まだ特には…」
「だったら一緒に来るか?俺もミーナ中佐に呼び出されてるからついでにそっちの用も済ませられる」
「は、はい」
その先輩からの誘いを受けて俺が一緒に向かったのは隊長室だ。
俺はこの部屋に来るの初めてだから緊張しているけどもちろん先輩はそんなことはない。
「中佐、俺だけど。今入っていいかな?」
「どうぞ、入っていいわ」
先輩がノックして中にいるミーナ中佐の許可を聞いてからドアを開けるとそこにはミーナ中佐だけではなく坂本姐さんもいた。
坂本姐さんとは扶桑でも一緒にいて会話する機会が多かったから平気だけどミーナ中佐はほとんど初対面だし(それは他の皆さんにも言えることだけど)501の隊長だっていうのもあってまだ話す時に緊張してしまう。
ちゃんとしっかり俺の言いたいことを伝えられるだろうか
「あら服部さんも一緒なのね」
「皆の魔法とか色々知りたいらしくてさ。それで聞きに来た」
不安に思っていたら先輩が俺が頼みたいことを先に言ってくれた。でもありがたい反面本来俺が直接言わなくちゃいけないのを代わりに言わせてしまったことに申し訳ない気持ちになってくる。
「ほう、早速私の言ったことを実践しようとしていることか感心だ」
やった。坂本姐さんに褒められた。
昔から坂本姐さんに褒められると毎回嬉しくなる。
「先輩の言った通りなんですけどいいですか?」
「ええ、もちろん」
「私も一向に構わん。何でも聞きたいことを聞くといい」
二人の承諾を貰った俺は気を良くして質問をする。
「じゃあ早速、坂本姐さんがネウロイのコアの位置がわかる魔眼で俺も見たことありますけどミーナ中佐の魔法っていうのは」
「空間把握よ。近くの物体や人の位置がわかるの」
「それってどのくらいの範囲までできるんですか?」
空間把握。なんだか凄そうな魔法だがどう凄いのかいまいちピンと来ない。おそらく俺の理解力が足りないからだろう。
「そうねぇ。どこまでできるかっていうのは試したことはないから何とも言えないわね」
「この基地の中くらいなら余裕で把握できるだろう。どうだ?試しに私たち以外の隊員たちがどこにいるか教えてみるか」
「そうね。服部さんはまだ私たちとソーマさん以外の人のところには行ってないのよね?」
「はい。先輩と坂本姐さんとミーナ中佐だけです」
「ちょっとお手伝いしてあげる」
俺の返事の後にミーナ中佐はウィッチ特有の耳と尻尾を出し、目を閉じて意識を集中させている。
「宮藤さんとリーネさん、ペリーヌさんが自分たちの部屋にいるわね。格納庫にルッキーニさんとシャーリーさん、それから訓練場にバルクホルン大尉とハルトマン中尉が、エイラさんとサーニャさんも二人の部屋にいるみたいね」
「すげぇ、こんな短い時間でわかるなんて。これが空間把握ですか」
一歩も動かずにはっきりとどこの場所に誰がいるか直接そこに行って確認するまでもなくわかるなんてミーナ中佐の魔法は思っていた以上に凄い。確かにこの魔法が戦いであれば坂本姐さんたちとの連携が上手くできそうだ。
俺は今の目の前で起こった出来事も忘れないようにメモに書く。
「この後の行く順番としては宮藤たちのところとルッキーニたちのところ、その次にバルクホルンたちのところにするといいだろうな。エイラとサーニャは夜間哨戒があるから今日はそっとしといてやれ」
「バルクホルン大尉とハルトマン中尉には私から服部さんが来ることを伝えておくから先に宮藤さんかルッキーニさんの方に行った方が手間と時間がかからずに済むわね」
「そうだな。じゃあそうするか」
俺が一生懸命にミーナ中佐の魔法についてまとめている間にお三方は俺のこの後の予定について考えてくれている。
ここまでしてくれるなんて素晴らしい人たちなんだ。
次にやって来たのは宮藤さんとビショップさん、そしてクロステルマンさんの部屋。
部屋の中はいかにも女の子らしさに溢れた雰囲気や匂いがあって俺は少し、いやかなり緊張してしまっている。
そんな俺を余所に先輩が宮藤さんたちにここに来た目的、俺が皆さんのことについて知りたいということを話してくれていた。
「っていうわけで服部に色々と教えて欲しいんだよ」
「何を話せばいいんですか?」
「何でもいいよ。自己紹介くらいの簡単な感じでもいいし、あ、でも魔法のことは絶対教えて。坂本少佐からの宿題だから」
「わかりました。じゃあ私からやりますね」
先輩とのやり取りを終えて宮藤さんが俺に体と目線を向けて話を始めてくれる。
「ええっと、名前はもう知ってると思うけど一応。宮藤芳佳です。私の魔法は治癒魔法で皆の傷を治せます。もし怪我したら遠慮なく私に言ってくださいね」
「私はリネット・ビショップ。皆からはリーネって呼ばれてます。魔法は撃った弾の軌道を安定させること、って言ったらいいのかな」
「最後は私ですわね。ペリーヌ・クロステルマンですわ。使う魔法はトネールと言って雷を扱う魔法です」
宮藤さんとリーネさん、クロステルマンさんがそれぞれ丁寧に名前と魔法について言ってくれる。
傷を治す魔法に射撃を上手くする魔法に雷が出せる魔法、こうやって聞くと本当に一人一人効果が違うんだなぁウィッチって。
でもだから坂本姐さんが言ってたみたいに協力して大きな力になるわけで、そう考えるとやっぱさすがすげえや
「それじゃあ今度は服部さんの番だね」
「え?俺ですか?」
「そうだね。私たちも服部さんのこともっとよく知りたいもの。これから一緒に戦う仲間なんだし」
言われてみれば確かにそうだ。人から求めてばかりで自分だけは何もしないというのもおかしな話だし失礼だ。
「わかりました。ではいきますね」
「いきます、ってそんな身構えるようなことでもないでしょうに」
「気持ちの問題だろうからそこはまぁ」
クロステルマンさんと先輩が何か言っていたようだが残念ながら俺の耳は上手く聞き取ることが出来なかった。
そのくらい次に自分の言う言葉を考えることに頭がいっぱいだった。
「俺は服部幸助っていいます。扶桑の松山の出身で魔法使いビーストをやらせてもらってます」
「服部さん松山なんだ。私は鎌倉生まれだよ」
「鎌倉ですか。鎌倉は軍学校が横須賀だったんで休みの日とか出かけてましたね。たまに妹とも一緒に」
「服部さん妹いるの?」
「はい。二つ下の妹が一人、今年の八月十五日で十三になるのかな」
「私と同じ誕生日だ」
「えっ、そうなんですか?」
これはまた凄い偶然だ。まさか宮藤さんと俺の妹の誕生日が同じだなんて。
これだけでも充分度肝を抜くような衝撃の事実であるのに宮藤さんは更に俺が驚くような情報を投下してきた。
「私だけじゃなくてサーニャちゃんも同じ誕生日だよ」
「サーニャって…リトヴャクさん?リトヴャクさんもなんですか?」
サーニャという名前がリトヴャクさんだと結びつけるのに時間がかかってしまった。
宮藤さんだけじゃなくリトヴャクさんまでもが妹と誕生日とは…俺も相当驚いたが妹が知ったら俺以上に驚くだろう。これは扶桑に戻って妹に会ったら真っ先に報告しないとな。
絶対に喜ぶに違いない。
俺と同じで501の皆さんには憧れているから絶対そうなる。
「あれ?ちょっと待って、もしかして服部さんって私たちと同じ年なの?」
「妹さんが十三で二つ年下って言ってたからそうだね。私たちと同じ十五歳ってことになるね」
「え?俺がお二人と同じ年?」
「後ペリーヌさんともだよ」
この部屋に来てからもう驚きっぱなしだ。妹だけじゃなく俺にまで共通点があるなんて。
こんなのラッキーが過ぎる。
「凄い偶然だね。でもおかげで一気に服部さんと距離が縮まった気がする…ねぇ服部さん、だからってわけでもないけど今から友達にならないかな?私のことは芳佳とか宮藤って呼んでよ。もちろん服部さんが良ければ」
「私のこともそんなビショップさんとかじゃなくてリーネでいいよ。そっちの方が嬉しいから」
「わかりました。改めてよろしくお願いします。芳佳、リーネ」
「ふふ、敬語」
「あっ、すみませ-ごめん、リーネ」
「うん、それがいいな。よろしくね幸助くん」
敬語を止めるようにと言われたのにすぐ戻してしまった俺をリーネは怒るわけでもなく柔らかい雰囲気で指摘してくれた。
尊敬する先輩としてではなく同じ年の友達として仲良くすることになった二人と握手がしたくて手を伸ばした。
すると二人はにっこりと笑って俺の手を握り返してくれた。
温かい手だった。二人の優しさがそのまんま表れているようで俺はなんでか嬉しく思えてくる。
「ペリーヌさんもいいよね?」
「別に友達になる分には一向に構いません。でもそれはそうと服部さん。私、貴方に言いたいことがあるんです」
「はい」
「貴方坂本少佐のことを何と呼んでらっしゃいますの?」
「えっ?」
思いも寄らぬ質問に俺は戸惑った。つい目を動かして他の皆さんの顔を見てみると芳佳とリーネは俺と同じようにキョトンとしているようだが先輩はなんだか苦笑してように見えた。
「坂本姐さんって呼んでますけど」
「そう、その言い方。坂本少佐と親しくしているだけでも問題ありだというのにこともあろうに姐さんとは何事ですの」
俺が答えると何故だかクロステルマンさんが声を大きく出して顔を近付けて来る。
俺はクロステルマンさんの機嫌を悪くするような何かをしてしまったのだろうか。
「えっ?でも…坂本姐さんからそういう風に呼んでもいいって言ってくれたんで言ってるだけですけど」
「いくら坂本少佐本人が仰ったからといって本来坂本少佐は貴方たちがそんな軽々しく呼んではいけないお方。宮藤さんといい貴方といいそれをキチンと理解しておりますの?」
「私も…?」
「まだそういうとこ治ってなかったんだな…」
なんだなんだ?どうして坂本姐さんを姐さんって言ったらクロステルマンさんがこんなに怒るようなことになるんだ?
「何がいけないんですか?俺が坂本姐さんって言ったらクロステルマンさんに何の問題があるっていうんですか?もしあるなら遠慮しないではっきり言ってください。俺、絶対直しますから」
「あ、いえ…」
もちろん俺はクロステルマンさんとも仲良くしたい。俺に問題があるなら謝りたいし、そこは直したい。
だからこそクロステルマンさんにそこを教えて欲しいのにクロステルマンさんはなかなか次の言葉を言ってくれない。
「その、はっきりとなんて言われても言えるわけが…ああもう!なんでもありませんわ!」
「なんで!?」
「自分で考えてごらんなさい!」
「ええっ…」
どう考えてもどう見てもなんでもないわけがない。クロステルマンさんの言葉と態度が合っていないように見えるのは俺だけなのか…それに顔もなんか赤っぽくて変だし?
どうすればいいのか助けを求めるように俺は先輩や芳佳たちの方を見ると、芳佳とリーネは俺と同じように疑問を感じていそうな顔をしていて先輩は苦い顔をしている。
こんな状態じゃペリーヌに聞いても無駄だし後で先輩に聞いてみようか。そうだな。それが一番だ。