「九百六十七…九百六十八…」
バルクホルンは黙々と懸垂を片手のみで行っていた。
ミーナからは室内で大人しくしているように言われたがそういうわけにはいかない。
ジェットストライカーの力を存分に発揮できないのは自分の至らなかったせいだ。一日でも早くジェットストライカーを使いこなすためにも鍛錬で自分の体を強化し、負荷に耐えられるようにする必要がある。
疲弊した体に無理を言わせてでもやる価値がある。
「まだやってるんだ」
「ジェットストライカーを乗りこなすためだ。休んでいる暇などない」
背中からかけられたハルトマンの声にバルクホルンは正面を見据えたまま言葉だけを返す。
「これ宮藤たちから、ご飯ね」
「後で食べる。そこに置いといてくれ」
「はぁ~い」
己に視線を移さないバルクホルンにさして嫌な思いを持つわけでもなくハルトマンは気の抜けた声色で言い、指示通りに手に持った物を全て置いて部屋を出て行く。
彼女の気配がなくなってもバルクホルンは懸垂を続けた。
床には流れ落ちた汗が蓄積し、池水のように広がっていきその上にもまた新しい汗が落ちていく。
それから一時間弱、懸垂運動を継続して行うバルクホルンの元に再びハルトマンがやって来た。
「食器下げとくよー」
「かたじけない」
バルクホルンの食べ終わった皿を撤去しにきたのが目的のようで食器を回収したら立ち止まることなく部屋を後にしていった。
ハルトマンにしては珍しいなと思ったが長い付き合いの中で仲間思いな一面を見せてくれたことはあるし、なんだかんだで世話焼きな面も見たことがある。自分のための行いに対してバルクホルンは感謝を告げた。
懸垂を続けること暫く。さすがに筋肉に疲れが出てきてペースが落ちてきた。
(この程度で音を上げてしまうのか。仕方ない、少し休むとしよう。風呂にでも入るか)
自室謹慎中とはいえ一応風呂の許可は出ている。汗水でべたついた体を洗い流すためバルクホルンは浴場に向かう準備をしとうとするがさっきまで食器の置いてあった場所にインカムを見つける。
「インカム?何故こんな物が、ハルトマンがさっき来た時忘れていったのか?」
この部屋に入ってきたのは食器を運びにきたハルトマンのみ。
だからこのインカムは彼女の物であると即座にわかったのだが、気になることはまた別にあった。
「誰の声だ?」
インカムから声が流れているのだ。それもどうやら一つではなく複数の声、誰かとの会話が流れているようだった。
気になったバルクホルンはインカムを耳に付け、聞こえてくる音に意識を集中させた。
そして彼女は目を見開いた。
時刻は夜の九時を過ぎた。
陽の代わりに三日月が黒の空を独占し、格納庫の中は照明の光が照らしている。
手伝ってくれた宮藤たちがそれぞれの部屋に戻ってもなおソーマとシャーリーは残って作業を続けていた。
「なぁ、ソーマってさ」
「なに?」
汚れたストライカーユニットの表面を布で拭きながらシャーリーはノートにペンを走らせているソーマに言った。
「バルクホルンのこと好きなのか?女として」
「好きだよ」
シャーリーの発言から十秒と経たずに答えたソーマ。ただ次の瞬間動きを止めてシャーリーの方を向いた彼の顔は疑問に満ちていた。
「え?」
「へ?」
どういうことなのか?いまいち状況をよく理解できないとでも言いたげな目で二人はお互い見つめ合った。
「今の質問なんて質問した?今」
「バルクホルンのこと好きかって、女として」
「俺、なんて返した?」
いくつかの会話を重ねてもソーマの呆けた顔は変わらない。
それに打って変わっていち早く状況を理解したシャーリーは意地の悪い笑みで言った。
「好きだって答えてたぞ。はっきり」
「……違う!違うぞ!そういうんじゃない!」
その言葉と表情でようやく状況を咀嚼したソーマ。瞬間、彼は目に見えて動揺した。
「そういうんじゃない?」
「さっきの!バルクホルン大尉のこと!俺はそういう目で見てない!」
「じゃあ嫌いってことか?そういうことになるよな。その言い方」
「違う、違う。ああ、なんて言ったらいいんだこれ…」
「わかってる、わかってるよ。仲間としては好きだってことだろ」
「そう、それ…」
「何も考えずに答えてたろ。今日はもう休んだ方がいいんじゃないかー」
普段ならここで『からかうのはやめてくれ』とか文句の類を言ってきそうなところだが違った。
シャーリーとしてはいつもの彼と比べて調子が乱れていると捉えられた。
「…かもな」
本音を言うと今の一連の流れの方が一日の中で最も疲れた気もするが確かに今日の作業量は多いとソーマは自分でも思った。
朝はジェットストライカーのテストをし、昼から夜にかけてはそれに加えてストライカーの勉強、と言った具合に体も頭も魔力も一日中使っている。
こんな疲れる一日はウィザードになってから初めてなくらいだ。
「キリのいいところまでやってからにするよ。変なところで終わりにしてもなんか嫌だし」
眠たそうに欠伸をしながら背伸びをして体を伸ばすとソーマはまたノートと向き合う。
そんな彼にシャーリーはまた先ほどの話を蒸し返した。
「でも実際のところどうなんだ?いくら仲間のためだからって一からストライカーの知識を学ぼうなんてなかなかできることじゃない」
「…どうなんだろうなぁ」
手の動きを止めてソーマは考え込む。
「俺はただジェットストライカーをバルクホルン大尉が使えるようになったらいいなって思っただけだよ。バルクホルン大尉にとっても早く故郷を取り戻せるならその方がいいだろ?」
カールスラント軍人であるバルクホルンがカールスラント製のストライカーで奪われた故郷を取り戻す、そうなってくれたらと思って行動を起こしたのは本当だ。
それにウィッチとしてのあがりも近いことを考えると時間は惜しいだろう。
「だからその、異性としての好きとかそういう感情はないと思う。バルクホルン大尉だけじゃなくて他の皆にも」
「ふぅん、そっか…」
シャーリーは納得した調子で返す。
話を聞いている間にも手を動かしていたため整備が終わり、道具とストライカーユニットを片付けると工具箱を手に持って立ち上がる。
「私はもう風呂入って寝るとするよ」
「ああ、お疲れ。お休み」
「そっちも夜更かしはするなよー」
温かい湯で身体と疲れを洗い取ったシャーリーは自分の部屋に戻ってベッドの上に座り込んだ。
時刻は十時を過ぎて少し経った頃、もちろんルッキーニは深く長い夢の中に没入している。
あんまりにも気持ちよさそうな寝顔をしているものだから見ているシャーリーも眠気が増して来たような気がする。
もうとっとと寝てしまおう。ベッドに横になって目を閉じたシャーリーであったがそのまま眠りにつくことはなく、ふと何かを思って目を開ける。
シャーリーはベッドを離れてシャツを羽織るとそのまま部屋を出てある場所に向かう。
下着の上にシャツを着ただけのしかも風呂上りな彼女の恰好はスタイルの良さも相まって実に刺激の強いことこの上ないが、幸いにもこの時間帯は部屋の外に出ている人間はいない。
精々夜間哨戒の任のあるエイラとサーニャくらいのものだろう。
やがて格納庫の入り口が見えるようになると出入口の隙間から光が漏れていた。
夜間哨戒の二人がユニットを装着して発つ時はいつも照明を落としていくから彼女たちによるものではない。
(はぁ、やっぱりか)
まさかとは思ったが念のために来てみればさっきと同じ場所、同じ椅子に彼はいた。
「私が言ったこともう忘れたのか?あれだけ休めって言っただろ」
目の前にある光景が予想ができていたとはいえ呆れないというわけでもなくシャーリーはそう言いながら歩いて行く。
ところが声をかけても、足音を立てても彼からは何の反応もない。返事はおろか体をピクリとも動かしていない。
「なぁ、何か言って-」
いくらなんでも無視は酷くないか?
そう不満を口にしかけたシャーリーが顔を除いた時それは引っ込んだ。
ソーマはペンを握って腕の上に額を押し付けたまま眠っていた。
ルッキーニのように静かに寝息を立てて、熱心に学習していたであろうノートを広げたまま。
「…こんなところで寝たら風邪ひくってのに」
全くもってしょうがない。本当なら声に出してそう言いたいがシャーリーは飲み込んだ。
今日一日頑張ったんだからこれくらいは見逃してやろう。
日付が変わり後数時間で朝日が昇る時間になってソーマは眠りから覚めた。
顔を上げて、首を左右に動かして周囲の光景を確認する。
「どこ、ここ……かくのうこ?…ぁ、あ~あのまま寝ちゃったのか俺」
明瞭になった視界に飛び込んで来る光景から思考が情報を分析し、今に至る経緯を自力で解き明かした。
そして自分に失望した。
いくら疲れているにしても作業の途中で、おまけに風呂にも入らずに眠り込んでしまうとはなんとも情けない。
深い落胆の息を吐いて、彼は背中を包む温かさを感じた。
首を動かしてその正体を見てみると肩にはタオルケットがかけられていた。
「自分でかけたっけな俺…」
記憶を思い返してみる限りタオルケットを自分で羽織った覚えも格納庫に持ち込んだ覚えもない。
なのにどうしてここにないはずのものがあるのか。
そんな疑問が生まれたソーマは続いて自分の手の中に奇妙な感触を感じた。
白い紙、それが右手の中にあった。ただこれも眠る直前に目にした覚えはなく、ソーマは首を傾げながら手を開いて紙を広げた。
『今日はお疲れさん。明日は昼の十二時から今日の続きするからそれまで起きてくるなよ。もしその前に起きてきたら当分口聞いてやらないからな
あ、後風呂にはちゃんと入ってから寝ろよーわかったなー』
手紙にはその文面と最後にはハートマークとウィンクをしたウサギの顔が可愛らしい字体で書かれていた。
内容を一読したソーマは小さく笑った。
☆
後日昼の十二時に差し掛かった頃の同じ格納庫内では昨日に引き続いて実験が行われていた。
ペリーヌがノートから得た情報を元に選別した部品をシャーリーがストライカーに組み込んで調整し、そのストライカーにソーマが魔法を付与し、リーネと宮藤そしてルッキーニが交代交代で飛行し結果を確認する。
そういった光景が何度も繰り返されていた。
「今のが最後の組み合わせですがこれもはっきり言っていまいち、でしょうね」
「速いには速い方だと思うんだがジェットストライカー程かって言われたらなぁ」
ペリーヌに相槌を打ちつつシャーリーは机に置かれた紙に視線を移す。
紙には宮藤やリーネ、ルッキーニらの名前があり、そのすぐ横には時間が何個も書かれている。
この時間はストライカーのスタートからゴールまでにかかった時間を使用者で分けて測定し、パーツや魔法を変えた都度に書き足していったものだ。
既に計三十回近くにわたって行われているが、どのパターンを試してもジェットストライカーに到達するスピードを引き出すことは難しかった。
部品や装着者の問題ではなくジェットストライカーがそれだけ他の追随を許さぬ素晴らしい発明だという証明なのだが、
「でもいっぱい長く飛んでても魔力がもう少ない!って感じはしないよ?」
「ああ、今のままでもストライカーの中じゃ断然燃費はいい。ただジェットストライカーでも同じようにいくかっていったら…」
「上手くいかないんですか?」
「たぶんな」
ジェットストライカーの力を一番その心に味わっただけにシャーリーにはわかる。
自身が改造調整し、魔法の手助けを得た物でもあれに及ぶにはまだ足りないと。
それはソーマも同じ考えであった。彼は机に並べた指輪を眺め次にどれを使うか思案し、宮藤も手伝うために隣に立った。
「他に何か良さそうな魔法あったかな…」
「この指輪、まだ試してないですよね?」
「タイムか」
宮藤が手に取って見せたのは時計の絵が描かれたタイムの指輪。
「時計の模様があるからもしかしたらって思ったんですけど使えるならソーマさんがもうやってますよね」
「その指輪は確かに時間に関係する力がある。ただ使った
「瞬間ですか?」
「前にそれをシャーリーに使った時は壊れたストライカーとシャーリーの魔力を元の状態に戻したんだ。その時みたいに俺が魔法を使う相手の側にいるなら今宮藤が考えた通りでいいんだけどジェットストライカーみたいなのだと俺が魔法をかける相手と同じくらいのスピードで飛べることが前提になってくるし、そうならないように飛ぶ前の段階で魔法を使っても結局はその状態の、つまり魔力をちっとも消耗してないところにかけることになるから意味がなくなるんだ。魔法を使ったその時点で効果が発揮する魔法だから」
ソーマもタイムを使う発想自体は浮かんだが今述べた『使った瞬間に効果が発動してしまう』という理由から実行に移すことはしなかった。
それにそもそもタイムの魔法を使うのにすら膨大な魔力を要するのもあって、とてもではないが正式な打開策に採用できるとは言えないだろう。
「そうなんですね」
「でもそういう風に案を出してくれるのは助かるし嬉しいよ」
協力してくれている宮藤を傷つけないようにそう言葉をかける。
「そういえばもうお昼は皆食べたのか?」
机の上にある皿に乗ったサンドウィッチを見てソーマが言う。今になって彼はそこにそれがあることに気付いたが記憶を辿っていくと自分が昼過ぎに来た時からあったような気がする。
「はい、あれはソーマさんの分です」
「あれ俺の分だったのか。ミーナ中佐とかももう?」
「私とリーネちゃんで渡してきちゃいました」
「バルクホルン大尉にも?」
「バルクホルンさんにはハルトマンさんがやってくれました」
「ハルトマンが?そっか」
自分からは目立って発信しないが彼女も彼女で仲間を思う心を持っているのは知っているし、バルクホルン相手ともなればそういう行動を取ったとしても疑問はない。
ないのだが、
(ハルトマンがなぁ…)
それを考慮しても納得よりも意外性の方が強かった。
「インカム?これ誰か戻し忘れたのか?」
サンドイッチや皿が乗っている机に置いてある一つのインカムをソーマは摘まみ取り、指で抑えるように持って眺める。
誰かが任務に出た時に取ってそのままにしてしまったのかとソーマが考えていると宮藤がインカムに気付いた。
「あ、それはそのままそこに置いといてください!」
「宮藤のか?」
「私のじゃないです。でもそれでいいみたいです」
(みたい?)
宮藤のどうにも引っかかる言い方にソーマは首を傾げて追及の言葉を言おうとする。
しかしその言葉が音になる前にシャーリーからの言葉が飛んできた。
「ソーマはそこにあるサンドイッチ食べるのかー?」
「ああ、起きてから何も食べてないから」
そう返事を返したソーマはインカムを机の上に置き直して代わりにサンドイッチを手に取って食す。
「それじゃあそれ食べて時間置いてから続きやるぞ。四、五十分くらいしたらで再開。宮藤たちもそれでいいか?」
「私は大丈夫ですよ」
「あ、だったら俺今の内に一旦ミーナ中佐のところ行ってきていいですか?やらなきゃいけないことがあって」
「幸助くん、ミーナ中佐に呼ばれてたの?」
幸助に向かってリーネが疑問を口にする。
「手続きの資料に書いた俺の名前の字が間違ってたみたいでさ、正式な書類として提出するのにそのままじゃ受理されないから直さないといけないって」
「自分の名前を間違えるなんてありえますの?」
「ロマーニャの文字で書かないといけないやつだったんだよ。俺、自分の名前を扶桑以外の国の言葉で書いたことなかったからさ」
「…なるほど、それでしたらまぁわからなくはないミスですわね」
自分の名前を記入し間違えるなんてどうやったらできるのかと信じられなかったペリーヌだったがそれを聞いて合点がいった。
統合戦闘航空団に属する者は時に自分の生まれ育った国以外の言語を使う必要に迫られる。
その点を考えてみたら服部の犯したミスも珍しい話でもないのだ。
「わかるなぁ、私も覚えるの大変だったよ。私はブリタニアの言葉で最初の手続きの時は坂本さんが側で見てくれて、その後はリーネちゃんに言葉を教えてもらったからちょっとは書けるようになったけど、坂本さんやリーネちゃんがいなかったら怖かったなぁ。何度も書類をやり直すことになってたかも」
雑談で盛り上がる宮藤たち。その風景を目に、話に耳を傾けながらソーマは黙々と神妙な面持ちでサンドウィッチを食べていた。
(やり直す…時間を置く…時間を置いて、やり直す)
会話の中に出てきたいくつかの言葉を振り返ってある一点に自然と目がいく。
昨日今日にわたっての飛行テストでストライカーユニットに組み込まれ使い物にならなくなった部品の数々。
「じゃあ俺行ってきますねー」
全員に届くようにはっきりと言って離れていく服部。その際彼の置いたストップウォッチをソーマは手に取ると壁際に寄せられた部品に近づき足腰を曲げてタイムの指輪を手に嵌める。
『タイム、プリーズ!』
『タイム、プリーズ!』
二度に渡って使用される同じ魔法。会話が少ない最中に響いた音声なだけにルッキーニは音が耳に入るなり迷わずソーマの元に移動して尋ねる。
「何してるの?」
「ちょっと試したくてさ。まだ結果出ないだろうけど」
「どゆこと?」
「まぁ少ししたら答えが出るからそれまで待っててくれ」
疑問の晴れないルッキーニの顔を見ながらソーマは言い、同時に持っていたストップウォッチで時間の測定を始めた。
「すいません、今戻りました」
「おかえり~」
「よし、皆揃ったし充分休みも取ったし再開するぞ」
解散から約一時間弱、服部が戻ってきた。
さぁこれから改めて実験を始めようとシャーリーを筆頭に行動を移そうとした時格納庫の床のある部分で青白い光が瞬いた。
何の光かと全員が寸分違わぬタイミングでその方向を見ると新品同様綺麗な品質を保っているストライカーの部品とそのすぐ近くで椅子に座りストップウォッチのボタンを押すソーマがあった。
「ここにある部品壊れてたはずじゃありませんでしたっけ」
「すご~い。全部ピカピカ、これってソーマがやったんでしょ?さっきのやつ?」
「そう、さっき言ってた試してみたいこと」
「前に私に使った魔法か?タイムだっけ」
シャーリーの言葉にソーマは頷く。
「ああ、ただちょっと違う使い方をしてみた。今回は二回、この部品に一回とタイムの魔法自体にも一回かけた」
「魔法にですか?」
いまいち理解が追い付いていない。そんな心境を物語るような声色で服部はソーマの発した言葉をそのまま反覆した。
「魔法を魔法にかけるなんてできるんですね」
「俺も最初はそう思ったよ。でもよくよく考えてみたら同じ魔法をかけたことがないってだけでこれまでにも似たようなことはやってたんだよな。俺が戦う時同じ魔法でも風や火の姿で魔法の効果が変わるのとか」
「ん~っと、それでソーマは今何を確かめたかったの?」
小難しい話は苦手なルッキーニはリーネとソーマの会話についていけず頭痛に見舞われる。
「一回目のタイムは『物の時間を戻す使い方』二回目のタイムは『一回目にかけたタイムが発動する時間を遅らせる』っていうふうにして、時間差で同じ魔法が使えるか知りたかったんだ」
「そうか。一回目をジェットストライカーを使う奴の魔力を元の状態に戻すっていう使い方、二回目を一回目の効果を遅らせて発動するっていう使い方にするってわけか。それならソーマがジェットストライカーを使う奴の側にいなくても消耗した魔力を回復できる」
「俺の考え通りならそうなる。ただだとしてもまだ課題はある。『ジェットストライカーを使って一体どのくらいで魔力が限界を迎えるのか』これがわからないと二つのタイムが効率よく使えない」
「では今度はその時間を検証する、その作業が必要になりますわね。また一筋縄ではいかない難題ですがどうすればいいかまるでわからなかったさっきよりはだいぶ希望が近くに見えてきたような気がしますわ」
シャーリー、そしてペリーヌが追随するように言葉を並べる。
これまでの『ユニットや部品に魔法をかける』アプローチから『使用するウィッチに魔法をかけ、更には魔法そのものにも魔法をかける』というアプローチに変える。
これが吉と出るか凶と出るかは断言できないが今目の前で目撃した検証結果を見たらなんとなくいける気がしてきた。
「ようするにうまくいく可能性が出てきたってことですね。そうとなれば俺も頑張ります!」
「ようするにって…貴方本当に理解できてます?」
手の平を別の手で作った拳で打ち付けやる気満々さを見せつける服部にペリーヌが疑いの眼差しを向ける。
服部が今の話の内容を飲み込めるとは思えないと感じていたからだ。
「いや?わかんねぇよ。ちっとも。でもペリーヌや先輩たちは理解できてるんだろ?なら俺は指示に従って動けば間違いにはなってないだろ?」
「それは、その通りと言えばその通りですけども…貴方はもう少しご自分でも考えるようにすべきでは…?」
「別にいいじゃん。わかる人がわかってればさ。ね、シャーリー?」
「まぁなー。ルッキーニと服部はそれでいいんじゃないか」
「えへへ、だよねー」
「ありがとうございます!」
「私、やはりこの方たちのことが時々わからなくなりますわ」
前向きな言い方をすれば思い切りがいいとでも言うのだろうが。あまりにも考えることを放棄しすぎているような気もする…そんな二人の考え方にペリーヌは頭痛のような感覚に見舞われた。
夕映えのする美しいオレンジの空にまた飛行機雲が直線を刻み込んだ。
ストライカーユニットで宮藤が空を飛んでいるのだ。
「千二百、千二百一、千二百二…」
窓枠を隔てた先にある景色を見てバルクホルンは懸垂運動を欠かさず行いながらうわ言のように呟く。
彼女の耳にはインカムがあり、ベッドの横の机の上にはペンと何かが書き記されている用紙があった。
ジェットストライカー回とほぼ同時期に始まったルミナスが終わり、一方のこちらはまだ終わっていない…ワタシハイッタイナニヲヤッテイルノデショウカネ
それはそれとしてルミナスは面白かったですね!最終回もとっても綺麗な終わり方していて好きな作品の一つになりました。