ストライクウィッチーズ~約束の空~   作:カメクリオ

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第六輪 友・情・構・築

「何故今になってあの時の夢を…」

 

窓から差し込む白き光が唯一の光源となる部屋でバルクホルンは寝そべりながら今朝方見た悪夢を振り返る。

炎に包まれ崩壊する祖国カールスラント、黒煙と火花の立ち込める上空で耳障りの声を上げるネウロイ、そしてその中で泣きじゃくる愛しい妹

 

どうしてそんな思い出したくもない記憶が今頃になって夢となって蘇ったのか。悪夢から覚めた直後はわからなかったが今ならわかる。

新しく入ってきた扶桑からの新人、宮藤芳佳。あれのせいだ。

あれを見る度にその容姿を妹クリスと重ねている自分がいる。そして後悔に苛まれる。

どうしてあの時自らを犠牲にしてでも妹を守れなかったのだ。あの時守れていれば今頃クリスは年頃の女の子らしい穏やかな時間を過ごせていたはずなのに

 

(少し風に当たってくるか)

 

何度目かわからない自分への責めを繰り返すバルクホルンは気分を切り替えるために部屋を出ることにした。

 

『エクスチェンジ、プリーズ!』

 

「なんだ?今のは」

 

聞きなれない音声が廊下に反響する。

時刻は日が変わる少し手前、当然こんな時間に部屋の外で出ている者など夜間哨戒を務めるサーニャ(たまにエイラもいるが)以外はいるはずがない。

そんなことを考えながらバルクホルンが気になって音の出どころを探っていると食堂のドアから明かりが漏れていた。

 

「こういう魔法か。いいなこれ。使い勝手が良さそうだ」

 

ドアを開けて中を覗いてみるとソーマが机の前に立っていた。机の上には形の異なるマグカップが二つ置かれていた。

満足気に笑って身に着けていた指輪を外してポケットにしまい入れる彼。そして視線を感じて振り返るとバルクホルンと目が合った。

 

「バルクホルン大尉」

 

目が合うなり即座に体を反転させて去ろうとするバルクホルンにソーマが声をかけた。

 

「せっかくだしお茶でもどうかな。その様子だとたぶん寝付けないんだろ?ちょうどカップ出してあるし、ホットミルクとかもあるけど」

 

「必要ない」

 

キッパリと断ち切るバルクホルン。せっかくの意味がわからないと不満を心で吐いて振り向いた彼女はソーマをキっと鋭い眼差しを突き刺す。

 

「こんな夜更けに何をしているのか知らんがこの際はっきり言っておく。私はお前と必要以上に関わる気はない。お前のように戦場を軽んじているようなふざけた姿勢の奴とはな」

 

「そんなつもりはないんだけどな」

 

「それでその態度なら尚更な話だ。もういいか、貴様のヘラヘラした顔を見ていると無性に腹が立って余計に眠れなくなる」

 

凍てついた視線を反らしてバルクホルンは去っていく。

 

(こりゃ一筋縄じゃいかなそうだな)

 

背を向け夜の暗がりに溶けていく彼女をソーマは黙って見送っていた。

 

 

宮藤とバルクホルン、坂本とリーネがロッテを組んで模擬戦を行う。

青いキャンパスに白い軌跡を描いて飛び回る四人をペリーヌは歯ぎしりしながら眺めていた。

 

「あの豆狸、また坂本少佐と!」

 

「豆狸って…」

 

ペリーヌの宮藤に対してのものと思われる言葉にソーマはそう小さくぼやく。準備待ちをしながら上空で行われている模擬戦を観戦する二人の元にミーナが歩み寄る。

 

「今日も調子が悪いみたいね」

 

「調子が悪いって、誰が?」

 

「トゥルーデ、バルクホルン大尉よ。最近彼女様子が変なの」

 

同じく上空を見上げて口にしたミーナの言葉に二人は意外と言った顔をし、再度模擬戦を見つめ直す。

 

「とてもそのようには見えませんけど」

 

バルクホルンの動きは綺麗で洗練されていてとても不調な状態の人間が引き出せるものではない。だからペリーヌにはミーナの言葉がにわかには信じ難く聞こえた。

ソーマも空を動く彼女を注視していると、基地にネウロイの襲撃を告げる報がなる。

 

「ネウロイ!」

 

「今日は来ないはずじゃなかったのか?」

 

「ええ、そのはずだけど…やっぱり出現のサイクルが乱れてきてるわね。とにかく迎撃しましょう。訓練は一時中止、美緒!」

 

坂本に通信を入れてミーナとペリーヌはストライカーユニットを装着するために格納庫に走る。

ソーマはハリケーンスタイルに変身し、上昇。ウィザーソードガンを手に取り、一足先に訓練組と合流する。

ほどなくしてミーナとペリーヌの到着し、飛行しながら坂本は指示を伝える。

 

「私の二番機には宮藤、バルクホルンの二番機にはペリーヌ、リーネにはソーマお前が付け」

 

「「了解」」

 

「わかりました」

 

坂本の指示通りの布陣を組んで皆は飛行し、ネウロイを視線上に捕捉。各機指示通りの陣形に分かれて戦闘に突入する。

 

「リーネは射撃に集中してくれ。防御は俺が引き受ける!」

 

「はい、お願いします!」

 

『ディフェンド、プリーズ!』

 

撃ちかけられる熱線をソーマが風の障壁で受け止め、その背後から放ったリーネの射撃がネウロイの装甲を削り取る。

 

(安定した射撃だ。前とは違うな)

 

プレッシャーに押し潰されていた頃とは大違いの射撃の精度にソーマは喜びを仮面の奥で見せる。

チラリと余所に目を配れば宮藤もリーネに負けず奮闘ぶりを見せ、坂本の動きに食らいついてネウロイに銃撃をお見舞いしている。彼女も確実に成長を感じさせる動きを魅せている。

そんな中で

 

「やっぱりおかしいわ」

 

ミーナの声にソーマとリーネはある一点に注目する。彼らが目を向ける先えはバルクホルンが勇猛果敢に攻め、弾を打ち込んでいる。

精度は的確で確実な有効打を与えているのは端から見てもよく伝わる。だが二番機のペリーヌがそれに、バルクホルンの機動に追い付けていない。

どうにも嫌な予感がする。それを感じたソーマは腰のホルダーから指輪を取り外す。

 

 

(こいつ、さっさと落ちろ!)

 

ペリーヌのことなど見向きもせずネウロイに接近したまま射撃を続行するバルクホルン。その瞳にはもうネウロイしか見えていない。

そんな彼女とペリーヌにネウロイはビームを撃ちかける。

 

「くっ!」

 

「きゃ!」

 

赤の光をバルクホルンは回避するが後ろのペリーヌは間に合わずシールドで受け止める。幸い無傷で済んだものの衝撃は抑えられず、弾き飛ばされた。そして回避行動をとったバルクホルンと激突、戦闘体勢を崩してしまう

隙ができた敵が二人まとめて固まっている。これを見逃すはずはなく、ネウロイは砲門に光を集中させる。

 

『コピー、プリーズ!』

 

『『エクスチェンジ、プリーズ!』』

 

しまった、と二人が危険を察知した慌てて魔法陣を展開した時そんな音と次いで、爆発音が聞こえた。

 

 

いつまで経っても衝撃が来ない…疑問を感じたバルクホルンが恐る恐る目を開けるといつの間にか目を覆いつくしていた赤い光は消えていて、代わりに黒い煙の塊が上空でできている。その黒い塊の中から尾を引いて魔法使いが落下していく。

 

「どういうことだ…」

 

周りに目を走らせるとリーネとミーナがすぐ近くで焦りの表情を浮かべるのが目に入る。次いで落下する人物に向かって降下する宮藤とそれを不安な眼差しで見つめる坂本も捉えた。

 

「ソーマさん!」

 

「ソーマ!」

 

「なにが…まさか!」

 

「そんな、私たちを庇って!?」

 

宮藤と坂本の悲痛な叫びでバルクホルンとペリーヌは初めて事態を知った。

一人に戻り変身の解けたソーマに追い付いた宮藤は身体をゆっくりと地面に降ろし、バルクホルンとペリーヌも降下する。

頭や腕を始めとする体の至るところからの出血、焼け焦げた衣服…ネウロイの攻撃を受けたのは明白だ。それでバルクホルンとペリーヌは悟った。彼の魔法、おそらく位置を入れ替える魔法で代わりに深手を負ったのだと。

 

「バカな、何故だ…何故私なんぞを!どこにある、お前が身代わりになる理由なんてないだろう!」

 

「…から」

 

「!」

 

「俺が、したかったから…やった。それだけ、だ」

 

宮藤の治療を受けながら弱い掠れた声を出すソーマ。バルクホルンと視線が重なり、痛みに苦しみながらも彼女の問いに言葉を返し、緩やかに目を閉じる。

 

「大尉!」

 

「気を失っただけです!でも安心できません、すぐに治療しないと!」

 

「っ、私が盾になります!貴方は治療に集中してください!」

 

意識を失ったソーマに治癒魔法をかけ続ける宮藤。その彼女を守るためにペリーヌはシールドでネウロイの流れ弾を受け止める。

今できることを懸命にやっている二人を尻目にバルクホルンはソーマを見つめたまま動かない。

ギュッと固く拳を握り締め、何かを決心したバルクホルンは瞬間、両手のMG42を起こして空に舞い戻る。

狙撃を行うリーネとミーナの合間を縫って、赤い光をかわしながらネウロイに銃弾の嵐を叩き付ける。

 

「くそっ!これでもまだ削り切れないのか!」

 

「私のトネールじゃ、あんな高さまで届かない。ここを離れるわけにはいかないし」

 

いくら装甲に浴びせても穴が開かない。コアを狙おうにも間髪入れずにビームを放たれ接近を妨げられる。

どうすればと見上げるペリーヌは何かないかと辺りを見回す。

 

「あれは…」

 

そして目に入った。さっきの攻撃でソーマの手から零れ落ちたであろうウィザーソードガンが

 

「もしかしてこれなら」

 

ペリーヌはそれを拾い上げ、倒れるソーマの近くに走る。

 

「ペリーヌさん何を」

 

「私に使えるかわからないけど今はこれしか…大尉、お借りします」

 

『チョーイイネ!シューティングストライク!』

 

ハリケーンウィザードリングを外して自分の中指に通したペリーヌは見よう見まねでハンドオーサー部分に指輪と付けた手を置き、銃口の先をネウロイに向ける。認証を知らせる音に使えると確信を持ったペリーヌは狙いを定める目付きを更に細める。

 

「届いて、トネール!」

 

祈りを込めて指先に力を込めるペリーヌ。反動で体が後ろに吹っ飛ぶが射出された蒼い雷の塊は真っ直ぐネウロイに向かっていく。その速度はハリケーンスタイルやフレイムスタイルのシューティングストライクの比ではなく、放たれてからほんの一瞬に近い時間で着弾し、装甲をいとも容易く打ち貫く。

直撃した箇所はコアのあるところではなかったが、ペリーヌの魔法の効果でネウロイは麻痺し攻撃が止む。

 

「コアは頭上付近だ!決めろバルクホルン!」

 

「うおおお!」

 

坂本が叫び、それに応えるようにバルクホルンが全力で突っ込む。反撃など来る前に片を付けるそんな思いで突進したバルクホルンは瞬く間にネウロイのコアのある部位へ限界まで接近し、出しえる限りの銃弾をお見舞いする。

そして大量の弾を至近距離で浴びたネウロイは姿を消失し白い破片をまき散らす。

 

「やった!」

 

撃破を確認し、地上のペリーヌは喜ぶ。宮藤もまたその思いを分かち合いながら眠るソーマへ語りかけるように呟いた。

 

「やりましたよ。ソーマさん」

 

 

「おっはよソーマ」

 

「おはよハルトマン」

 

その翌朝、朝食のためいつものように食堂に歩いていたソーマはハルトマンと出くわす。お互いに軽い調子で朝の挨拶を交わすと目的地まで足並みを揃える。

 

「昨日はありがとね。トゥルーデのこと、守ってくれたんでしょ。怪我はもう平気?」

 

「宮藤のおかげでな。この通り」

 

「そっか、よかった。でも無理はしちゃダメだよ。もし痛むようだったら私に相談して、宮藤みたいに治癒魔法は使えないけどこれでも私医者志望なんだ。処置ぐらいはパッパッとできるよ」

 

「へぇ、それは知らなかった。じゃあその時はありがたくお世話になろうかな」

 

「うん、全然おーけーだよ」

 

ハルトマンは頭の後ろで、ソーマは胸の前で腕を組みながら話をして食堂に辿り着く。

もう二人を除いて皆席に着いており、食事も机の上に並べられていた。

 

「ありゃ、もしかして私たち待ち?」

 

「みたいだな」

 

「おはよう二人とも、もう朝食の用意はできてるわよ。席に座って」

 

ミーナに笑顔で迎えられてハルトマンとソーマは同じように椅子に座る。

 

「お、その様子だと怪我はもう大丈夫そうだな」

 

「ああ、心配かけたな。宮藤もありがとな。おかげでこの通りピンピンしてるよ」

 

「いえ、お怪我が治ってなりよりです」

 

シャーリーと宮藤にそれぞれ感謝を伝えたソーマ。そこで自分の手前に他とは違う物が置いてあるのに気づく。

 

「紅茶とケーキ?なんで俺だけ?」

 

見てみると他のメンバーのところにはなく、これから用意される様子もない。その証拠にルッキーニが恨めしそうにジッとソーマを見つめている。そのことを疑問に思っているとミーナが答えてくれた。

 

「貴方へのお礼だそうよ。ペリーヌさんとバルクホルン大尉から」

 

「え?」

 

予想していなかった言葉にソーマは目を丸くしてペリーヌとバルクホルンを交互に見やる。

 

「助けられたのは事実ですし、言葉だけじゃなくきちんと気持ちのこもったお礼がしたいと思いまして。め、迷惑でしたらお飲みにならなくてよろしいですわよ」

 

「ペリーヌさん、さっきソーマさんがどういうお茶が好きなのか皆に聞いてたんですよ」

 

「ちょっとリーネさん!それは言わなくてもよろしいんじゃありません!」

 

「そんな貴重なものなら尚更一口一口大切にじっくり味わなきゃな。ありがたく頂くよ」

 

声を大にして顔を赤くするペリーヌ。苦笑しながらソーマは感謝の言葉を伝えると、紅茶の横に添えられたチーズケーキに視線を注ぐ。

 

「じゃあこのケーキは」

 

「私が作ったものだ」

 

近くで聞こえる声に反応して顔を上げると椅子の横にバルクホルンがいた。目が合ったのを確認してから彼女は言葉を紡いだ。

 

「その、昨日のことはすまなかった。いや昨日だけの話ではない、これまでお前には心無いことを言ってしまった。本当にすまないと思っている。今更こんなことを言うのはおこがましい話だろうが、今からでも私を仲間として受け入れてくれるだろうか」

 

誠意ある言葉と表情。それを確かに感じ取ったソーマは椅子かた立ち上がって手を差し伸べる。

 

「これからもよろしくなバルクホルン」

 

「ああ、私の方こそよろしく頼む」

 

その手をキュッと握ってお互いの手の感触を確かめ合う。

肌触りの良い朝の日差しに照らされた二人の笑顔はこの瞬間、それを見た者にはこの上なく眩しく映っていた。

 

 

 

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