投稿ペースの安定しない作品ですがどうか今後ともよろしくお願いいたします。
海上訓練日当日、基地の敷地内の浜辺でウィッチたちは各々個性あふれた可愛らしい水着を着て訓練に励んでいた。
のんびりと犬かきで泳ぐハルトマン、逆に全力のクロールで水平線を横切るバルクホルン、『いやっほー!』と歓喜の叫びと共に海面に飛び込むシャーリーとルッキーニ、砂浜の上で座り込んでじっと水面を見つめるサーニャとエイラ…真っ当に訓練をしている者と遊んでいるようにしか見えない者まで時間の過ごし方はそれぞれだった。
一方…
「なんでこんなの履くんですか!?」
宮藤とリーネの二人はというと
仲間たちから少し離れた岩場で坂本とミーナの指導の下、水着にストライカーを装備させられていた。
海上訓練とは聞いていたがストライカーを装着するとは予想していなかったのか、まるで話が違うとでも言いたげな口調と目で宮藤が上官らに異を唱える。
「何度も言わすな。万が一海上に落ちた時のためだ」
「他の人たちもちゃんとやったのよ。後は貴方たちだけ」
飛び込むよう促す坂本とミーナ。海上訓練で何故竹刀が必要なのだろうかと坂本の持つ竹刀が気になりつつ、二人の隣でソーマは渋る宮藤とリーネを説得する。
「もし溺れたとしても俺がすぐ助けに潜るからさ、怖がらずに飛び込めよ」
「それでも怖いですよ!」
「いいからさっさと飛び込め!」
「「はっ、はいぃ!」」
頑なに嫌がっていた宮藤とリーネだが坂本の一喝に萎縮して時を同じくして海面に消える。
水柱が二つ上がり、波紋が静まった水面を坂本は懐中時計を手に見る。
「浮いてこないな」
チッ、チッ、と時計が時間を刻む音だけがやたらと大きく気持ちよく聞こえる。三十秒か一分か、二人が海に消えてどれだけ過ぎろうか。なかなか上がってこない二人にソーマは心配になる。
「助けに行った方がいいかもな」
「そうかもしれないわね。そろそろ限界でしょうし」
「やっぱり飛ぶようにはいかんか」
ウォーターの指輪を用意してソーマが救助に向かおうとしたちょうどその時水面に黒い影が生じ、徐々に大きくなる。そこから二つの頭が這い出てきた。
「「ぷはぁ!」」
「いつまで犬かきやっとるか」
無事上がって来たことに胸を撫で下ろすミーナとソーマ。一方で坂本は酸素を求めてあがく二人に手厳しい言葉を送りつけた。
「はぁ…疲れた」
「すぐ慣れるって」
休憩時間となり、すっかりしごかれて疲れ果てた宮藤とリーネは砂浜に身体を預けるように寝そべっていた。
そんな彼女たちの真ん中にシャーリーが座って励ましの言葉をかけ、宮藤やリーネと同じく身体を横にして青空を見上げる。
太陽の温かな日差しを全身に受けてシャーリーは首を真横に動かす、とそこであることが気になった。
「あいつどこ行ったんだ?さっき一緒にいただろ?」
「あいつってソーマさんのことですか?ソーマさんなら」
宮藤が言いかけた時、遥か遠くの海から水柱が天に向かって昇る。とても自然現象とは思えない光景にシャーリーが驚く間にも水柱の数は増え円陣を作るように次々と立ち並んでいく。
「うおっ!なんだぁあれ!」
「たぶんソーマさんだと思います。水の魔法の力を使いこなす練習をしたいからって言ってさっき海の中に」
「すげぇな…しかし休憩の時間だってのによくやるなぁあいつ」
感心したように呟くシャーリー。気を取り直して再度寝そべって天を仰いでいると、宮藤が空に何かを見つけた。
「今太陽を何か通ったような…」
「ん?」
宮藤に釣られて他の二人も太陽の方角を見上げる。燦々とした輝きを放つ白い球体の真ん中を黒い影が一直線に凄まじい速さで横切った。それは
「敵だ!」
真っ先に腰を上げてシャーリーは格納庫を目指す。宮藤とリーネも習おうとするが先の訓練の負担が消えていないせいで、立ち上がった瞬間姿勢を崩して転倒してしまう。
その間にシャーリーはいの一番に格納庫に到着し、水着のままストライカーを履いて出撃する。
「行きます!」
誰よりも先に格納庫を飛び出して青空を飛行する。自身の魔法を発動し、ネウロイを追跡するその最中シャーリーは違和感を覚えた。
(全然加速が止まらない。今日はエンジンの調子がいいのか?)
いつもと違う飛行の感覚。普通なら不安になって慌てるのだろうがこの時の彼女に不安だとか恐怖だとかそういったマイナスな気持ちはなかった。
(この感じ、似てる。あの時と)
「いっけえええ!」
固有魔法の超加速の力を更に開放し、数段階加速する。ついぞ味わったことのない風が肌を通る。
「私、マッハを超えたの!?これが超音速の世界?すごい、すごいぞ!やった!私やったんだ!」
敵を追いかけている時だというのにこの上ない喜びと達成感が胸を打つ。インカムから坂本の警告がその気持ちが頭を支配しているせいか、シャーリーはそちらに気付くことなく飛行を続ける。
そうしているうちに彼女はネウロイを捕捉した。だがその瞬間ネウロイは後方部の砲門から彼女めがけてビームを放った。
「やっば―!」
自身の速度も相まって放たれた攻撃を避けることができずシャーリーは咄嗟にシールドを張る。
「うわああああ!!」
シールドで攻撃は耐えたが、その衝撃と超高速の波に乗っていた状態から急激に停止したことによる負荷がシャーリーを襲い、彼女の体は真っ逆さまに落下していく。
(まずい、これじゃあ海に…なんとかしないと。でも体が、動かない)
衝撃で体が一時的に麻痺したのか思うように動かせない。このまま彼女の体は海面に激突してしまう…高度を考えればいくら魔力があるからといってただではすまない。最悪の結末を予想し、恐怖に思考が染まる。
視界いっぱいに海の青が埋まった時、彼女の体が海面スレスレで浮き上がり空へ引き戻される。
「ギリギリ、どうにかセーフってところだったな」
「ソーマ?」
海によく似ているが違った色合いの緑の宝石の顔、ハリケーンスタイルのソーマがシャーリーの目に映った。
彼女の体を空から落下した姫君を受け止めた騎士のように受け止めたソーマは彼女の安否を確認する。
「無事か?体動かせるか?」
「あ、ああ」
「ネウロイはこの先か…あれだけの速さだと俺じゃあ追い付けない。シャーリー、あのネウロイ頼めるか?」
「でも、これじゃ無理だ。私のストライカーはもう動かないんだ」
シャーリーが空を見上げるとそこに黒点は、ネウロイの姿はなかった。おそらく攻撃するだけしてまたベルリンへと向かったのだろう。
距離を大きく突き放されてストライカーも壊れては追い付きようもない。諦めたシャーリーは沈んだ表情をするが
「追い付けるさ。俺とお前の魔法の力があれば」
「えっ…?」
「手放すからちょっとの間しっかり掴まってろよ」
その質問シャーリーは困惑の表情を浮かべる。だがそれはほんの一瞬、すぐに切り替わって迷いのない目でソーマを見返した。
「何かあるんだな。頼む、やってくれ」
「お前がそう言ってくれる奴でよかったよ。よし、なら指を出してくれ」
そう言うソーマの顔は仮面に遮られてわからないが微笑んでいるようにシャーリーは見えた。
お姫様抱っこを解いてソーマは左腕でシャーリーを抱きしめたまま空いた右腕でシャーリーの人差し指に指輪と通し、自身のベルトに指輪を嵌めた手を持ってこさせる。
『タイム、プリーズ!』
シャーリーの体とストライカーを白銀の光が包む。ソーマはシャーリーから手を放すと彼女の体は落ちることなく、浮いていた。
それが意味するところは一つ
「ストライカーが治った?使えなかったはずなのに」
「ちょっと特別な魔法をかけたからな。もう簡単に壊れる心配はないはずだ」
ストライカーが完全に復元している。それも新品同様の輝きを放っている。
こんなことまでできるのか、とシャーリーは魔法の力に舌を巻く。
「俺にできるのはここまでだ。後はお前に託すしかない。頼めるか?」
「ああ!ここまでやってくれたんだ。応えなきゃ嘘だろ」
ソーマの言葉にガッツポーズで返してシャーリーは再び空に舞い戻る。
超加速の力を使用し、ストライカーを吹かした彼女は一気にその場から飛び去る。
ストライカーが作りだす雲を見つめたソーマは目まいと頭痛に襲われる。
「っ!やっぱりこの魔法使うとこうなるか。わかっていたとはいえきついな」
「ソーマさーん!」
頭を抑えるソーマの耳に宮藤の声が届く。振り向くとそこには宮藤とリーネの姿があった
彼女たちもシャーリーの応援に駆け付けたのだろう。
「ソーマさん、シャーリーさんは?」
「あいつならネウロイと追いかけっこの最中だ。俺たちも追いかけるぞ」
★
「すごい。さっきと同じ、いやもしかしたらそれ以上の速さだ…これならいける!」
シャーリーはスピードの世界に突入していた。タイムの魔法で魔力もストライカーも万全の状態に戻った彼女は今、この上なく最高のコンディションで空を飛んでいる。
素肌を刺激する空気の圧を心地よく感じる彼女は青いキャンパスの中に一つの黒点を目視した。
「あれだ!今度こそ、いっけえええ!!」
直撃を恐れずシールドを前面に張りながらフルスロットルで加速する。
彼女の存在に気付いたネウロイはさっきと同じように発光部からビームを放とうとするも、そこから赤が飛び出るより前にその体を一筋の青い閃光が穿った。
「よしっ!」
大気中に散らばる白い破片。ネウロイの形を成していたものを振り返って確認したシャーリーはやりきった顔で道を引き返す。
「芳佳ちゃんあれ!シャーリーさんだよ」
先を行っているはずの人物が正面からやってくるのに気づいたリーネが声を上げる。
「シャーリーさん!ネウロイ倒したんですね。お怪我はありませんか?」
「大丈夫、どこもやられたりしてないよ。出会い頭の一瞬で決めてやったからね」
心配する宮藤へ誇らしげにウィンクと一緒にそう言ったシャーリーは宮藤とリーネの後ろに控えるソーマへ目を動かす。
「お疲れ、やったな」
「言ったろ?必ず応えるって」
「信じて大正解だった。やったな」
そう言うソーマにシャーリーはニカっと笑って右の親指を立てる。
「あ~一仕事済んだら腹減ったよ。早く帰ってご飯食べるか」
真っ直ぐ両手を挙げてシャーリーが背伸びしたその時
「あ…」
「…へ?」
彼女の水着が形を崩してボロボロと零れ落ちる。度重なる加速の負荷に布地が耐えられなかったのだろう。
「うっええええ!?なんで!?」
(シャーリーさん。やっぱり凄い)
誰かの素っ頓狂な声で自分が霰もない姿を晒していると気付いて赤面するシャーリー。
同じく頬を赤らめながらも目の前で揺れる双丘を食い入るように凝視する宮藤。
その二人を交互に見てリーネは戸惑いながらもあることに気付く。
「ソーマさん!ダメです!見ちゃダメで-す?」
リーネが振り向くとふらぁと体が揺れ力なく落ちるソーマの姿があった。
「お、おい!」
「ソ、ソーマさん!?」
本人の意志に関わらず勝手に出現した魔法陣が変身を解除し、ソーマは生身で落下する。その体を慌ててリーネは受け止めて支える。
「リーネちゃん、ソーマさんはどうしたの?大丈夫そう?」
「大丈夫、だと思う…寝てるだけみたい」
露わになったソーマの寝顔を見てリーネはそう答えた。
★
「…ん」
目が覚めるとまず茜色に染まった見慣れた天井が見えた。
「よかった起きた!」
「…ルッキーニ」
横に座って自分を見下ろしている少女の名を呟いてソーマは身体を起こして、朧気な眼を周りに巡らせる。
家具の種類と配置、窓からの景色。重く痛む頭でもその情報で自分のいる場所がどこかわかる程度には思考力は回復していた。
「心配したんだよ。ずっと起きないから」
「ここ、俺の部屋か」
「うん、バルクホルンがここまで運んでくれたんだよ。ソーマ、寝ちゃってたから」
「そっか、あの後気失ってたのか」
ルッキーニからベッドに寝かされるまでの経緯を聞いたソーマは記憶を失う前後の状況を思い起こす。
(たったあの程度の使い方でこうなるんじゃ、俺には扱いきれそうにないな)
タイムの魔法に気を失った原因があるとソーマは考えた。時間を操る効果を持つだけに魔力消耗が激しい上に今の自分の魔力では故障したストライカーを一つ元の状態に直しただけで体に大きな負担を与える。
使い勝手のいい力だが当分の間使用は避けた方がよさそうだ。ソーマはそこまで思案して、赤面する。
(そういえば俺、見たんだよな…シャーリーの…裸)
幸いと言うべきか、タイムの魔法の影響でモヤがかかったようにはっきりとは思い出せないが確かにあったという確信はあった。女性の、それも仲間の裸を間近で見てしまったという事実が
「後で皆にお礼言わないとな。で、なんでルッキーニがここに?もしかしてずっとここにいたのか?」
「うん、ソーマにどうしても謝らないといけないことがあるから」
もう考えるのはやめたいとかぶりを振ったソーマはルッキーニに問いただす。すると天真爛漫で明るい彼女は柄にもなく沈んだ表情を作る。
「ネウロイを追いかけてる時シャーリーのストライカー調子おかしかったんでしょ?あれワタシのせいなんだ。昨日シャーリーたちが買い物行ってる間にワタシがシャーリーのストライカー倒しちゃって、その拍子に外れた部品を適当に戻してたの。なのに怒られたくなくてそのことを黙ってたからそれで…」
「だからあの時、浮上できてなかったのか」
追い付いた時シャーリーはネウロイの攻撃をシールドで受け止めた様子で外傷は一つとしてなかったのにストライカーは飛行が不可能なほど損傷が酷かった。
無線機で坂本がしきりにシャーリーに引き返すように連絡を送り続けていたのもそのためだろう。
その時はネウロイを撃破するのにいっぱいで気に留めていなかったが、そういう事情があったのなら納得がいく。
「シャーリーからは何か言われたか?ちゃんと言ったのか?」
「言ったよ。言って謝ったけど、何事もなかったんだから結果オーライだから気にすることないって」
「だったらそれでいいよ。シャーリーがそれでもう気にしないって言うなら俺に謝ったりする必要はないよ」
ソーマはそう言って締めくくるがルッキーニとしてはまだ釈然としていないようで更に言葉を続けた。
「でもワタシが壊しちゃったからソーマに迷惑かけちゃったんだよ?なのに」
「そんなの全然かまわないさ。お互い困った時に損得抜きで助け合うのが仲間なんだから、いくらでもかけたっていい。そういうものだろたぶん」
「…そーだね。ありがとうソーマ」
笑顔を取り戻したルッキーニはよいしょっ、と声を出して椅子から降りて椅子を立つ。
「ソーマが起きたって知らせてくるね。皆ずっと心配してたから」
「待った、ルッキーニ」
「なーに?」
早歩きでドアに進み取ってに手をかけるルッキーニ。しかし開ける前に呼び止められて後ろを振り返る。
「謝らなくていいけど今度からはそういう大事な隠し事はなしだぞ。怒られるのが怖いのはわかるけど黙ってるのはよくない」
「そうだね。わかった」
ルッキーニはそう言うと暫し間を置き
「じゃあ約束しよ」
と言葉を続けた。
「約束?」
「そ、もう二度とこんなことしないように『どんなことも隠さないで正直に話す』って約束をソーマとしたいの。だからお願い、小指出して。こんな風に」
「これでいいのか?」
怪訝な顔で聞き返すとベッドまで歩み寄ったルッキーニは拳を親指と小指を突き出した状態にして向ける。
疑問に思いながらもソーマは見よう見まねで同じ形を作ってルッキーニの指に自分の指を絡める。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーますっ!指切った!」
元気よく張りのある声で言葉を発したルッキーニは絡めた指を上下に振ってから離す。
「針千本とか指切るとかすごい物騒な言葉並んでたんだけどこれ約束してるんだよな?」
「芳佳にこないだ教えてもらったんだ。扶桑じゃ約束する時にこれをやるんだって言ってた。破ったら本当に針千本飲まなきゃいけなくなるから約束したことは必ず守らないといけないんだって」
受け売りの知識をルッキーニはさも誇らしげに説明する。こういうところは実に年頃の快活な女の子らしく、可愛らしく思える。
「破ったら千本も、か。それは怖いな」
「でしょ?だからそうならないように私もソーマも気を付けないと」
「俺もか?」
「もちろん!二人の約束なんだから私だけしても意味ないでしょ」
その言い分はなんか少し違うような気もすると、腑に落ちない気持ちはあったがソーマはルッキーニに頷いて言う。
「人に言っておきながら自分ができないなんて恥ずかしいもんな。わかった、忘れずに覚えておくよ」
「絶対だよ。絶対忘れちゃダメだからね。じゃあ私行ってくるね。ゆっくり休んでてね」
無邪気な笑顔とその言葉を残してルッキーニは部屋を出ていく。勢いよく閉ざされたドアに軽く苦笑してソーマは背中をベッドに押し付け、横向きの体勢になる。
「こんなだらしない体たらくじゃダメだな。もっと、今よりももっと強くならないと」
窓から差し込む橙の光を鬱陶しく思いながらソーマはポツリと呟いた。
次回、サーニャ&エイラ(with宮藤)回。
ここまで8話もありながらサーニャのセリフが一つとしてないことに気付き、彼女に対してごめんなさいの気持ちでいっぱいです。
だが私は謝らない。彼女なら次の数話でたっぷり喋ってくれると信じているからな(某所長並感)